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Gran Turismo  作者: Pista
1/2

1.椎名 疾風

 チャイムと同時に全員がペンを置く。列の一番後ろの人が答案を順番に並べて回収していく。監督の先生に挨拶をすると、生徒たちは解放されたように談笑を始める。

 その中に一人、その喧騒から取り残されたように孤立している少年がいた。それがこの物語の主人公、椎名 疾風である。

 別に疾風がいつもこんな隠キャな訳ではない。今日はある目的で黙り込んでいるのである。



 ここでこのシチュエーションについて説明しよう。

 ここは進学校に属する都立品川高校の1年2組であり、今は一学期の中間考査の3日目の3限(最後のテスト)が終わったところだ。生徒はみんな高校で初めてのテストを終えてスッキリしているようだ。



 帰りのSHRが終わってから僅か15分後、疾風は品川駅の反対側にあるゲームセンターにいた(学校から疾風の家を経由してゲーセンに着くには普通は30分くらいかかる)。

 なんのゲームをしているかというと、ひと昔前の首都高を爆走する、某人気マンガのアーケードゲーム版だ。疾風はこれのガチ勢である。

 疾風がシートに座ると、ゲーム友達が声をかけてきた。

「よう、疾風。久しぶりだな〜」

と、陽気に話しかけてくるのは、佐野 光輝だ。

「おう。悪いなしばらく来れなくて。テストがあったんだ」

「そんなことは知っとるわ。腕は鈍ってねぇのか?」

「ちょっと落ちてるけど2日くらいやれば戻せそうだわ。」

「じゃあ一戦やってみるか?」

「いいぞ、ボコボコにしてやる」

そうしてレースが始まる。

 疾風が乗りこなすのは、「ニッサン スカイライン GT-R BNR34 VspecII」である。対する光輝は、「ニッサン シルビア S15型 スペックR」である。コースは、C1の内回り。基本のコースだ。



 カウントとともに、2速からスタートする。スタートとほぼ同時に両車3速にアップし、そのまま千代田トンネルにほぼノンブレーキで飛び込んでいく。そのままシフトダウンをほぼせずに走り続け、江戸橋JCTのコーナーに飛び込んでいく。ここでGT-Rがシルビアのインを突き、前に出る。そして橋脚の連続するゾーンへつっこむ。1個目は鼻先ギリギリで通過、2個目も難なくクリア。

 しかし3個目の前で疾風は気づいた。前にいるオフィシャルカーのハイエースの挙動を。あの挙動は明らかにアウト側のアンダーパスに入ろうという動きだ。

それを察した疾風はすぐに走行ラインを変えた。速度を落としながら、リアが滑って外に膨らまないようにしようと考えた。ブレーキングしながらコーナーインし、慎重にスロットルを開けていく。

 そこをシルビアが華麗にオーバーテイクしていく。そこでシルビアは疾風の予想どおりにハイエースに突っ込んでしまった。しかしGT-Rはイン側のアンダーパスをギリギリで通過し、GT-Rの勝利は確定的になった。

 それでも疾風はスピードを緩めず、銀座区間のS字コーナーにかなりのスピードで飛び込む。理想ラインの本当に真上を3速で駆け抜ける。

 だが、シルビアも侮ってはいけない。4速で明らかなオーバースピードにもかかわらず、強引にリアを滑らせて側壁にかすらずにクリアした。

 しかし、ハイエースへの衝突が大きすぎた。結果は疾風がアドバンテージ150mで勝利した。




 「や〜、疾風は腕がにぶらんのかよ。よくあのハイエース避けれたな」

「あれは判断がギリギリだったから、ちょっと遅れてたら光輝と同じ羽目になってたよ」

「あれちゃんと判断してやってたのかよ!お前、プロドライバーにでもなった方がいいんじゃねぇか?」

「もっと判断力高くないとダメだよ」

「そのうち絶対倒してやっからな」

と、光輝は笑いながら帰っていった。

 疾風はそのあと1時間ほど走ると、早めに家路についた。家でもやらなければいけないことがたくさんあるのだ。



 家に着くとすぐさま風呂に入る。リラックスできる部屋着に着替えて、夕食を食べ、歯磨きなどをとりあえず済ませる。

 それらを終えると自分の部屋にある、勉強机の2倍以上の大きさのモニターがたくさん並んだ机の前にあるレーシングチェアに腰掛ける。そして3個(+α)あるモニターの電源を入れ、プレ〇テの電源も入れる。そして、某ドライビングシュミレーターを立ち上げる。

 準備は整った。ドライビングポジションを調整して参加するレースを選択する。

 デイリーレース、場所は鈴鹿サーキット、マシンはウラカン GT3である。




 日立オートモーティブシステムズシケインから9位でのスタートである。

 シケインを抜けたところでリアが流れるのを強引に押さえ込みながらアクセルをフルで踏み込む。前のNSX GT3の後ろにピッタリはりついてスリップに入り込む。コントロールラインで横に並んでさらっとオーバーテイクする。そのまま軽くブレーキングしながら5速で1コーナーを抜け、2コーナーへのブレーキングで前の650S GT3のインをさす。そこからS字に向かってダッシュ、最も短い距離を走っていく。

 逆バンクを抜けて、シフトアップしながらダンロップに飛び込む。顕著なオーバーステアを押さえ込みながら駆け抜ける。

 ダンロップを抜け、デグナーに入るところで前のNSX GT3とサイドバイサイドに持ち込み、出口でオーバーテイクする。これで、6位。

そのまま上り坂を駆け上がり、ヘアピンでインをさしてGT-R GT3をぶちぬく。

 軽くリアを流しながら、早めに立ち上がる。

 前のR8 LMSのスリップに入り込み250Rでインから抜こうとする、が、ブロックされて入れず、そのままスプーンへ入ってしまう。そこでクロスラインをとって、コーナー脱出前に抜き去り、前のNSX GT3のスリップに入りつつ、R8 LMSにスリップに入られないようにかわしていく。

 そこで、疾風の実力が炸裂する。西ストレートエンドにある、130Rにノンブレーキ、スロットルもオフしないで飛び込む。無論そこで 軽いブレーキングをしたNSX GT3を軽々と抜き去る。

 その時点で疾風の視線はすでに、2位のRC Fにあった。しかしRC Fはすでにシケインに入りかけている。疾風はそのまま速度を緩めることなくシケインに向かう。そしてギリギリのところでブレーキロック。シケインにオーバースピードで飛び込み、一気にRC Fとの距離を詰め、ホームストレートでスリップに入る。コントロールラインで抜き去る。

残すは一周、残る先行車両も一台、そう考えると、疾風はギアを上げる。

 かなり離れているが、疾風得意のレイトブレーキでどんどん差を詰め、逆バンクを通過したところで、前のGT-R GT3に追いつく。ダンロップでスリップに入り、デグナーでインからオーバーテイク。そのまま5速全開で、ヘアピンに飛び込む。猛烈なシフトダウンでなんとか2速でコーナーを立ち上がる。そのまま順当にシフトアップ、そしてスプーンを4→3速でクリア、西ストレートに向けて立ち上がるが、ワンラップ目とは違い、6→5速にしっかり落としてから130Rをクリア。シケインのかなり手前から緩やかにブレーキしつつ、エンジンブレーキをあまり使わず、エンジンをいたわりながらシケインへ。そうして最終コーナーへ向けて立ち上がる。




 そうして後半は車両をいたわるような緩やかな走りを続けたにもかかわらず、2位との差を20秒近くつけ、大勝した。

 なぜこんなに圧倒的に勝ったのか、それは疾風が世界ランキングでトップテンに入っていることも関係しているのだろう。




 そのあと一週間近く疾風は車ゲーをやりまくった。



 テストが終わってから一週間、いつものように某アーケードゲームをしていると、なにやら疾風の4つほど隣のシートに人だかりができていた。

「光輝、あれなに?」

と、いっしょに走っていた光輝に聞く。

「なんかSSSS3級の激はやの女性ドライバーがいるらしいよ。しかも対戦してる相手を次々とボコしてるらしいよ」

「え、乱入対戦してんの?」

「みたいだな」

「じゃあやるしかないでしょ」

そうして疾風は端末を操作する、ちょうど、ぽい車があったので乱入を仕掛ける。

 その瞬間、そのドライバーの周りに集まっていた群衆がキョロキョロし、疾風を捉えた。どうやら当たっていたらしい。

 疾風はちらっとそちらを見て、精神を軽くレースモードにしていた。コースは八重洲内回り、こちらのマシンはもちろんGT-R、向こうはランボルギーニ アヴェンタドールであった。

 スタートの合図でいつも通り3速にぶち込んでから引っ張る。流石にこの段階では、アヴェンタドールには抜かさせない。

 オフィシャルカーの回避の際に、少しアヴェンタドールと差をつける。そのまま八重洲方面に向かう。

 短いストレートを抜け、神田橋ジャンクションに飛び込む。アクセル全開でジャンプポイントを越え、そのまま5速で爆走。対するアヴェンタドールはトップギアである、7速で激走、徐々に疾風との距離を詰めてくる。

 さすがにちょっと危機感を持った疾風は、6速にシフトアップ、そのまま難なく京橋JCTのジャンプポイントを越え、6速で京橋料金所に突っ込む。そうして、料金所を出たところで、一気に4速にスキップシフト、さらに3速へ。そのまま3速で立ち上がる。抜ける際に、どうやらアヴェンタドールは疾風を深追いしすぎて料金所に突っ込んだらしい、見る見るうちに距離が離れていく。

 そのまま、ストレートで6速までぶち込む。そうして土橋入口付近の直角コーナーへ2速で、突っ込んだ。ここをきれいにクリアしたことで疾風の勝利は確定的になった。




 結果は、疾風がアドバンテージ25メートルで勝利した。



 そのあともしばらく疾風はゲームをやり続け、1時間ほどして出口へと向かった。

 その時、疾風はとても驚くこととなった。

 ゲーセンの出口のところに見覚えのある美少女がいたからである。彼女の名前は、葵梨 葵。学年一の秀才で、父は超大財閥のトップ(=超金持ち)、そんでもって超美人という、完璧なヒロインである。

 「ど、どうしたんだ?こ、こんな物騒なとこで」

「あんた、さっき私のアヴェンタドールに勝ったでしょ」

 どうやらさっきのアヴェンタドールは、葵だったらしい。

 「うん、勝ったけど」

「そしたら、明日からの三連休は暇?」

「まぁ、暇だけど」

「だったらあんたの家の近くのファミマに朝5時に二泊三日の旅行ができるような準備をしてきて」

「へ?な、なにをおっしゃって…」

「これで話は終わり。じゃあね」

そう言って、疾風が口を開く前にスタスタと歩き去っていった。




 そうして翌日の朝、疾風は4時50分くらいにファミマに着いた。

 そのファミマは首都高の入り口につながる幹線道路沿いにあるので、三連休の初日である今日は家族連れのミニバンで駐車場はいっぱいだった。

 どこに葵はいるのだろう、と探しているといかにも場違いな雰囲気のアウディ RS7 スポーツバックが止まっているのが見えた。そしてその横に、葵ともう一人、女の人がいた。

 「あ、葵梨」

「ご飯は?」

「いや、ここで買うつもりだけど」

「じゃあ早く」

そう言われるがままに手早くサンドイッチなどを買い、葵梨のところに戻る。

「じゃあ、これに乗って」

と、指さされた先には、先ほどのアウディ RS7が。

再び、言われるがままにトランクに荷物を載せ、後部座席に乗り込む。

助手席には葵、そして運転席には先ほどの女の人がいた。

「あ、そうそう。この人はうちの家政婦兼ドライバーの佐藤 心さんね」

「佐藤 心と申します。椎名さま、よろしくお願いいたします」

「あ、はい。よろしくお願いします」

一通り、挨拶を終えると、RS7は静かに駐車場を出発した。

RSでもこんなに静かなんだ〜、と感心していると、葵が言った。

「なんでこうなったか知りたい?」

「そりゃあ知りたいよ」

そのあと葵の口から衝撃の言葉が飛び出した。

「うちのレーシングチームに入って欲しいのよ」

「あぁ、そんなことなら…へ?」


 ここで葵梨家について、説明しよう。

 葵梨家は江戸時代初期から続く名家である。

 江戸時代に「葵梨商店」として商売がはじまり、明治初期には海外との貿易で重要な役目を担い、発展した。

 その葵梨商店の後継が、今の「G.Pears(green pears=あおい梨、の略)」で、その中にはたくさんの部門がある。

 そのうちの1つが、レーシングチームの「G.Pears Racing(以降「GPR」略)」であり、葵は今、疾風をそこに引き込もうとしているのである。


 「いや、まぁいいけど、おれはそんな運転うまくないと思うよ」

「だからそれを今日見極めたいのよ」

「まさか、おれに運転しろ、とでも?」

「まぁ、そういうことね」

と、同時に「やれよ、やんなきゃどうなるかわかるな」という、強烈なオーラ、というかもはや殺気を出してくる。

「ま、まぁ、や、やります」

「はい、決定ね」

というわけでおれに否定権はなく、一路、某名門サーキット(この時点で、疾風はどこに行くか知らされていない)へ向かうことになった。


 数分後、車内の静粛を破ったのは、心さんだった。

「お嬢、こちらのメッセージがGSPから」

「あー、お願いしといたやつね。これに従ってフルスロットルで」

「はい、了解しました」

ん、RS7のフルスロットルって…と、思った時にはもう遅かった。

 心さんは素早くシフトレンジをMモードにすると同時に左パドルを数回引いて、2速までシフトダウン、そうしてアクセルを全開にする。

 先ほどのコンビニから発進するときとは打って変わって、RS用のV8が唸り、それと同時におそろしい加速Gが、おれの体をシートバックに押し付ける。

 ふと、スピードメーターが目に入ると、そこには3桁目に「2」と書いてある気がした(よい子の皆さんはマネしないでください)。

 そうして、3人を乗せたRS7は超高速で東名高速道路を駆けていった。



 およそ2時間半後、RS7は渋滞にはまった一度以外は速度を150キロ以下に落とすことなく、目的地に最寄りの鈴鹿ICに到着した。ちなみに一般道に降りたあとは信号待ちのたびにローンチコントロールを作動させたり、3桁近い速度(というか3桁になっていた)で走ったり、パワーオーバーステアに持ち込んだりして、かなり飛ばした(よい子の皆さんはマネしないでください)。

 そうして目的地、鈴鹿サーキットにたどり着いた。

「お待ちしておりました、御三方」

 そこで待っていたのは、またもや美人だった。

「紹介するわ、彼女は池田 千佳、うちの家政婦兼ドライバーよ」

「椎名 疾風様ですね。私、池田 千佳と申します。以後、お見知り置きを」

 おれはその時、口をあんぐりと開けていた。

 千佳さんがあまりに美人だったから、というのも1つの理由で、否定はしない。

 しかしもっと大きな理由があった。それは…






初投稿ですが、よろしくお願いします。

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