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47:金を吐く娘

 その枝は純金で出来、根は銀で作られ、真珠と赤白の珊瑚、翡翠に琥珀、紫と透明の水晶の実がなっている。

 お値段は……驚きのうん千万! お買い得! 技術と素材を考えれば、お値打ち価格なのは確かだが、テレビショッピングで衝動買いするには躊躇する。

 もしも、これ一つを扱えと言われたら、苦労するのは目に見えていたので、他の商品も加えて一時間番組を持たせることにした。

 この様々な技術と素材で作られた金枝は、よい見本だ。


「ここに使われている技法を使って作られたのが、この二十四金のイヤリングなんです。

銀製もありますよ。また、ピアスタイプに変更も出来ますので、オペレーターにお問い合せください。

石は、同じく七色から選べます。

私は金に翡翠を合わせたのを付けています」


 ブレスレットもペンダントトップもある。指輪やブローチも紹介しよう。金枝に比べて、お手頃価格な上に、身近で普段遣いが出来る。

 その合間に、金枝についても説明をする。


「とても贅沢で、縁起の良い品となっています。

見るだけで幸せになれそう。

ほら、こんな細かいところまで細工してあって、すごく綺麗ですね。

うっとりしちゃいます」


 ややもすると、その美しさに言葉を忘れてしまいそうになる。うーん、実家の庭に原油が湧いていたらいいのに。いや、家自体もそれなりの豪邸でなければ、これを置いても浮くだけか。でも、想像するだけでも楽しくなるようにしたい。


「こんな近くで見られるなんて、役得です。

テレビの前のお客さまには、アップでご覧いただけるように、カメラを動かしますね。

近くで見ても、遠くで見ても、やっぱりいいですね〜」


 メーカーさんも同意する。


「これは我々の持つ技術をたっぷり詰め込んだものです。どうぞ、ごゆっくりご覧ください」


「そうなんですね。

あらゆるところに職人の技が光っています。大変、貴重な逸品をお持ちいただきました。

本日は、この金枝に代表される、しっかりとした技術を活かして作られた、和・ジュエリー・シリーズのご紹介となっています。

それでは次の商品のご紹介を始めましょう。次は――」


 ゴリ推ししても売れるとは思えないので、それとなく、興味を惹くように入れ込む。見る人、全ての人の心にひっかかりますように。今でも、いつかでも、お手元に迎えて下さいね。”憧れ”だけなら無料サービスだ。

 とは言え、そう簡単には売れない。

 もっとも、金枝以外はほぼ売れた。


「金枝も売れましたよ!」


 控室に下がると、今日も更紗ちゃんが迎えてくれた。征吾さんは竹取物産本社に行っているので、ここにはいない。何かコソコソしているのが気になるが、その前に、「金枝が売れた!?」

 そりゃあ、あわよくば売るつもりだったけど!


「……誰が買ったの?」


「え――っとぉ」


 私が問い詰めると、更紗ちゃんは両手の人差し指を合わせた。ポニーテールがしゅんとしている。


「もう! 松子さまね!

あれだけ言ったのに!」


「でも、あっちも売れたんですよ!

輝夜さん、負けちゃいます!」


 竹取家の嫁取り課題の最後が、この『七色の宝玉の実がなる金枝』だったのだ。

 香穂さんも、自身のネット動画ショッピング会社で配信を行っているが、そう簡単に売れるものではない。

 と、なると――。


 翌日、また竹取物産本社に呼ばれた。

 会議室、全ての座席が埋まっている。見れば、ショッピング・シャワー・チャンネルの社長もいるではないか。どうしてこんなに人がいるの!?

 私は臆してしまったが、征吾さんに誘われるまま、前回と同じ位置に誘われる。当社、社長より上座だ。それはまずい。


「輝夜さんは私の婚約者になる人なので、おかしくありません」


 最上位の松子さんがさっと手を振った。大勢の人がいる前では威厳たっぷりを崩さないらしいが、その瞬間、かなりの親密さが醸し出された。

 ショッピング・シャワー・チャンネルの社長と、それからカスタマー担当部長、アテンド統括部長、ネット事業部長が信じられないというような目で私を見た。

 報告も連絡も相談もしていなくて、すみませんー。

 うちの会社、社内恋愛は禁止じゃなかったはずだけど、相手が親会社の御曹司の場合はどうなるんだろう。


 向かい側には車持香穂さんとその祖父・二三人氏だ。


「今回の課題はノー・ゲームよ!

あなた、松子さまに買わせたわね」


 そういう香穂さんは、二三人氏に買ってもらったのだろう。

 自力で売ったのならば、そう主張するはずだもの。

 それからネット動画ショッピング会社の業績が良いことを滔々と語り出し、竹取物産、及び、グループ企業に自身を売り込み始めた。販売能力に関して言及しない。うすうす気が付いていたけど、香穂さんは直接、物を売るのが得手ではないようだ。エコファーを売った時の動画を見たが、ほとんど将司が話していた。その代わり、デザイン企画能力は抜群だったし、モデルとしても完璧な着こなしだった。香穂さんは自分の得意な面を知っているし、それをアピールする術に長けている。ただ……。


「征吾の相手は、私こそ、相応しいと思います。

みなさんもそう思うでしょう?」


 その訴えに、会議室はざわめいた。多くは香穂さんに賛同のようだ。

 けれども、征吾さんに相応しいとは、「私は思わない」。


「あなたには聞いてないんだけど」


「じゃあ、誰に聞いているの?」


「ここにいる全員にでしょう!」


「――征吾さんにじゃないの?」


 香穂さんのプレゼンを受けて、ざわついていた会議室内が静まった。


「あなたは征吾さんと結婚したいの? それとも、自分を松子さまや他に人間に認めさせたいの?」


 彼女は征吾さんが好きで、頑張っているのではない。自分が否定されたのを認められず、依怙地になっているだけだ。


「押し売りは迷惑よ」


 欲しくもない人に、いつまでも粘ってはいけない。肝に銘じよう。


「何を……」


 怒りのあまり言葉が出ない様子の香穂さんは、恐ろしくもある。会議室の空気がピリピリしているのが分かる。が、私も大分、修羅場慣れしたものだ。静かに問いかけた。


「征吾さんに相応しいのは、征吾さんを好きな人間で、征吾さんも好きな人間だと思うの」


「つまり自分だって言いたいの? それで私に勝ったとでも?」


「これって勝ち負けの問題なの?」


 需要と供給が合ったのだ。

 この会議室は縦にも長いが、横幅もある。テーブルと空間、そしてテーブルを挟んで、私たちは向かい合った。

 周囲が固唾をのんで見守る中、次に発言したのは二三人氏だった。


「香穂、お前はこのお嬢さんには勝てないし、このお嬢さんはお前には負けない」


「お祖父さま!?」


 香穂さんも驚いたけど、私も驚いた。

 今日も瞑想状態だった征吾さんの父・竹取社長も目を開けたようだ。


「私がこの女に勝てないと?」


「そうだ。

なぜならば、このお嬢さんはお前と勝負をしていないからだ」


 二三人氏と視線が合う。「その通りです」という思いを込めて頷いた。


「勝負していない?

だって課題を受けたのに?」


「課題は『物を売れ』というものであって、お前と勝負しろというものではない。

このお嬢さんは、ただ、物を売っていただけで、お前と勝負などする気はなかったようだぞ。

勝負がなされていない以上、お前はこのお嬢さんには決して勝てないし、このお嬢さんはお前には負けない。

そういうことだ」


「そんなの詭弁だわ。

お祖父さまは私の味方じゃなかったの?」


 突然の内輪揉めに、竹取側は展開を見つめるだけだ。


「私はお前のために、随分、援助をしてきた」


「ええ、そうよ。ありがたいと思っているわ」


 なにしろ、あの高い金枝まで買ったのだ。普通なら孫を闇雲に溺愛する祖父だと思うだろうが、そうではなかった。孫をしっかりと愛する祖父だったのだ。 

 

「だが、もうそれは打ち切ることにしよう。

この件に投資しても、見返りはないどころか、負債が貯まるだけだ。

幸いにも、竹取物産とは、縁組がなくても、これからも提携していくことで話はついている。何も、お前と征吾くんを結婚させる必要は無い」


「お祖父さま!」


「征吾くんに聞いた……。

お前が婚約者候補のお嬢さんたちにやったことは本当だったようだな。証拠を見せてもらった。

香穂、私にお前を失望させないでくれ。そして、これ以上、車持家に泥を塗ることは許さない」


 私は征吾さんの顔を伺った。やっぱりこの人、陰でコソコソ動いていたんだ。二三人氏がやんわりと言及した香穂さんの行為を、この満座の中で明らかにして、糾弾するつもりだったのか。

 それは……ちょっと、いただけない。大勢の前で、恥をかかせれば改心するというものではない。征吾さんがもし、そんな辱めを受けたら、それで反省したのだろうか? 自分自身が、自らの過ちを認めなければ意味がないのだ。

 テレビの生放送で、椿さんと沙紀さんがニイナを一方的に責めなかったのも、その配慮があったからだと思う。

 同意出来ない旨を視線で知らせると、征吾さんは俯いた。耳が赤くなっている。


「あの金枝の購入はキャンセルする。

香穂は第五の課題に失格ということで――まぁ、もともと、完売にはこだわってはいないようだが」


「征吾……!」


 ようやく、香穂さんは征吾さんに助けを求めた。征吾さんは小さく首を振る。


「君とはもうやり直せない。

互いに、益にはならない関係だったんだ。

でも、輝夜さんは違う。彼女は私に、よい影響を与えてくれる。私もそうなるように努力したいと思わせる人だ。

君に対し、自分がそうでなかったこと、申し訳なく思うよ――」


「納得出来ないわ! 私が負けるなんて――!」


 さらに香穂さんが食い下がろうとした時、一人の社員が非常に申し訳なさそうに、しかし、確固たる意志を持って、竹取社長に話しかけた。


「社長……お電話です」


「今か?」


 この修羅場に余所事とは空気が読めない秘書だな、という感じの言い方だった。

 だが、秘書から電話の主を聞くと、すぐに会議室に繋ぐように命じる。

 聞き慣れない言語で竹取社長が話を始めると、隣の征吾さんには理解出来るのだろう、茫然と呟いた。「輝夜さんの……」


「征吾さん?」

 

 ごく小さな声で呼びかけてみる。私に関する、何か一大事なのだろうか。竹取社長の寝ぼけたような顔が、驚愕に満ち、それから真剣になっていく。

 松子さまは何が起きているのか身を乗り出し、多くの重役たちも同じように互いを見やる。ごく一部の、ある地域の言語能力を有している社員が、私を興味津々で見ている気がする。

 征吾さんの喉仏が大きく動いた。それから口元が歪む。笑い出すのを我慢しているみたいだ。そうして、私の顔を見た。


「あなたはやはり素晴らしい人です。輝夜さん」


「へ?」


 向こう側で香穂さんが「私、負けたの?」と崩れ落ちた。


「な……何?」


 どうやら”あなたの金枝”が売れたようですよ――。

 竹取社長は電話を切ると、私に告げた。

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