初恋
『神城里佳さん、3番診察室にお入りください』
アナウンスが流れる。
そう私、神城里佳は、姉の里紗が医師として働くこの病院に来ている。小さい頃から病弱で、すぐ入院になってしまう。そんな私だから小さい頃から色々な事を諦めていた。学校行事全て、そして人を好きになることも・・・。
『里佳、呼ばれたから行くよ』
姉が声をかけてくる。診察室のドアを開けて入っていった。
(あれ? いつもの先生じゃない・・。)
『里佳ちゃん、初めまして。今日から里佳ちゃんの主治医になった 新藤雪也です。よろしくね』
笑顔で話しかけてくれた。
『はい。 よろしくお願いします』
つぶやく私。
『里佳ちゃん、大丈夫だよ。新藤先生、とっても優しいから』
(里佳ちゃん限定で・・ふふっ)
看護師の五十嵐さんが話してくれた。後でつぶやいた声は聞き取れなかったけど、お姉ちゃんとクスクス笑っていた。
『さぁ、里佳ちゃん診察を始めるよ』
新藤先生は、説明しながらとても丁寧に診察を進めていく先生だった。
入院になってしまった私。病室で独りぼっちで不安で泣きそうになっていたら新藤先生が来てくれた。
『五十嵐さんと神城先生が「里佳は寂しがりやだから今頃、泣いてるかもね」なんて話してたから心配で来ちゃったよ』
笑って話してくれた新藤先生。私が落ち着くまで手を握って
『大丈夫だよ。1人じゃないよ』
と、私に寄り添ってくれました。優しく語りかけくれて、寄り添ってくれて体調が悪くて辛そうにしているとすぐに気付いて医者の顔になる。そんな新藤先生を好きになるのに時間はかからなかった。
病弱を理由に諦めていた事の中のひとつ
『恋愛』というキーワード。
新藤先生の笑顔を見ていると「ずっと一緒にいたい」と想うわたしの心。
新藤先生の治療を受けながら、ゆっくりこの気持を育てていこうと心に決めた。
(雪也先生・・。)私の初恋、あなたへ届け・・・。
身体が怠いなぁ。頭も痛いなぁ。お姉ちゃん家に帰るって言ってたしなぁ。ナースコールして知らない先生だったら嫌だもん。新藤先生の回診まで我慢しよ!!
遠くで扉をノックする音が聞こえた気がした・・。
『里佳ちゃん、おはよう。あれ、お寝坊してるの?・・・・里佳ちゃん!! しっかりして!!』
体温計って!! 点滴準備!! 先生の指示でどんどん進んでいく治療。
『里佳ちゃん、おはよう。大丈夫? お熱計るよ』
新藤先生の声が届いた。
『おはようございます』
私の脇に体温計が挟まれている。終了を知らせる電子音。新藤先生にさっと抜かれチェックされている
『まだ少しお熱あるよ。 今日は安静にしていてね』
『はい』
『ねぇ、里佳ちゃん、どうしてナースコール押さなかったの』
新藤先生が聞いてくる。
『だって、新藤先生じゃない先生きたら嫌だったんだもん』
『そっかぁ。でも具合悪いの我慢してほしくないな心配だから』
『はい ごめんなさい』
『里佳ちゃん、謝ってもらいたいわけじゃないから誤解しないで』
とうとう泣き出してしまった里佳ちゃん。ドアをノックすると共に開いたドア
『あらぁ~~新藤先生、泣かせちゃったんですか?』
看護師の五十嵐さんが入ってきた。
『ナースコールの話ししてたら、こうなっちゃいました』
正直に話す新藤先生。五十嵐さんが私の涙を拭きながら
『お熱出て辛い時、大好きな新藤先生に優しくされなかったら泣けちゃうよねぇ。 里佳ちゃん、外科にもっとイケメンな先生がいるから紹介するわよ』
ちょっと、五十嵐さん何言ってるんですか? 里佳ちゃんに。神城先生に怒られますよ。
『それなら大丈夫ですよ。神城先生に許可貰うから』
ふふっ、楽しみだわぁ。
『ヘタレな誰かさんに任せられないから、外科のイケメン先生にまかせちゃおうかな・・。あの先生、最近フリーになったらしいわよ・・・。ふふっ』
『そんな事しなくて良いですよ』
焦る新藤先生
『それじゃあ、里佳ちゃん寝ちゃってますから後、宜しく。里佳ちゃん元気になったらイケメン先生紹介楽しみだわぁ』
言いたいこと言って病室を出て行く五十嵐さん
『里佳ちゃん、泣かせてごめんな。熱下がったら・・・するからな聞いてくれよ』
眠っている里佳のおでこにキスを落とす 新藤先生
『里佳ちゃん、良かったね。お熱落ち着いたね』
五十嵐さんが教えてくれた
『はい。ありがとうございます』
『頑張った里佳ちゃんにプレゼントしようかなぁ・・』
『えぇ? 何を?』
驚く私に五十嵐さんが話を続ける
『外科にね、イケメンな・・』
五十嵐さんの話に被せるように誰かが入ってきた。
『里佳ちゃん、お散歩行こうか? 中庭に噴水があるんだよ』
新藤先生が声を掛けてくれた
『ちょっと新藤先生、邪魔しないでくださいよ』
五十嵐さんが言う
『そんなプレゼント要らないんですよ』
五十嵐さんだけに聞こえるように話す新藤先生
『やっとか。長かったわ。新藤先生がこんなにヘタレなんて思わなかったわ。もう少しで外科の・・』
と言った五十嵐さんを睨む新藤先生
『あら、いやだわ。 他にも行ないといけなかったわ。いやぁねぇ』
と独り言を言いながら病室を出て行った五十嵐さん
『五十嵐さん、何をプレゼントしてくれるんだったんだろう?』
笑顔な里佳ちゃん
(まさか、外科のイケメン医師なんて言えねぇ)
『里佳ちゃん、少しだけ外の風にあたりに行こうか?』
里佳ちゃんを誘ってみる。
『うん。行く』
笑顔をみせてくれる里佳ちゃん
『まだ体力戻ってないから、これ乗って』
と車椅子を里佳ちゃんに向ける。驚いてはいるようだが素直に座る里佳ちゃん。里佳ちゃんに膝掛けをかけてあげて、車椅子を押して中庭に・・。
『わぁ 新藤先生、綺麗だね 噴水のお水がキラキラ光ってる』
とはしゃぐ里佳ちゃん
(里佳ちゃんの方が綺麗だけどな)心のなかでつぶやく俺
『里佳ちゃん、聞いて欲しい話があるんだけど良いかな?』
と切り出す俺
『えっ、病気のこと?』
と急に不安そうな顔になった里佳ちゃん
『えっ、ちが、違うよ病気の話じゃないから、そんな悲しそうな顔しないで』
焦る俺 まぁ仕方ないか入院ばっかりしてるもんな
『里佳ちゃんが神城先生と初めて俺の診察受けに来たこと覚えてる?』
『うん』
『俺、里佳ちゃん見て、傍についていてあげたいなぁって思ったんだ。入院になって、痛いことや辛いこと頑張っている里佳ちゃんをみてて傍で守ってやりたいって』
そこまで伝えて一度里佳ちゃんを見ると、瞳をうるうるさせて涙が溢れそうだった
『里佳ちゃん、俺と付き合って欲しい』
素直な気持ちを伝えた。 里佳ちゃんは泣きながら
『はい。お願いします。私も新藤先生のこと想っていました』
里佳ちゃんが言ってくれた
『里佳 新藤先生じゃないよ』
意地悪を言ってやると
『雪也先生』言い直す里佳
『ん。50点』
『雪也』
『うん。どうしたの? 里佳』
(やっと里佳って呼べるんだな)
『あ、あの、あのね・・・大好き』
真っ赤な顔して小さな小さな声で好きと言ってくれた里佳
『俺は愛してる』
瞳を見つめてつぶやいたら、里佳の瞳から涙の粒が溢れた
『嬉しい。幸せ』
泣きながらつぶやく里佳が可愛くて仕方ない
『早く良くなろうな。退院したらデート行こうな』
そんな二人を、五十嵐さんと神城先生が見ていることも知らずに・・・里佳を溺愛している新藤先生に呆れる2人。しかし今まで里佳に無かった心からの笑顔を微笑ましく思っている。
『里紗、今夜は寂しい女ふたり飲んじゃう?』
五十嵐さんが言う
『良いねぇ、飲んじゃう?』
『決定。飲もう飲もう』
『ところでさぁ、外科のイケメンて誰?』
『知らなぁい』
笑ってこの場を離れていく五十嵐さん
『ちょっとぉ、気になるんですけど・・』
飲んでいる時に聞き出してやろうと思っている里紗だった。