第二百二十四章 陽子、客船とともに沈む
マリは国際連合から、海坊主が客船を襲った事を聞いて、その客船は陽子が乗っている客船でしたので、垂直離着陸機の新型ハーケン号を紅葉とテストする目的で、丸東組の地下室に着陸させていた為に、至急紅葉に連絡して緊急発進しました。
今回は猪熊パイロットを待っている時間はありませんでしたが、新型ハーケン号には、各種医療機器も搭載している為に、万が一の時の為に、陽子の娘の渚外科医が偶々丸東組にいたので同乗して貰いました。
陽子の出発前に、新型ハーケン号の完成がマリに伝えられた為に、発信機などの最新設備もあり、陽子さんにテストして貰う為に発信機を身に着けて貰っていました。
渚はUFOが操縦可能なので、それで救助に向かう意見もありましたが、今回は部外者が大勢いる為に、亡霊で救助は都合が悪い上、陽子が身に着けている発信機の受信装置が、新型ハーケン号に装備されている為に、新型ハーケン号で救助に向かう事になりました。
秋山先生は、陽子の主人である修の携帯に連絡しましたが、“ただいま、電話に出る事ができません”とメッセージが流れました。
修は警察を定年退職して、今は、兄の博がが社長を努める会社で、佳子と共に、働いていた為に、佳子の携帯に電話すると、繋がった為に、事情を説明して、至急修さんに伝えて頂きたいと伝言しました。
会議中の修は事情を聞いて、慌てて陽子からの伝言をハンズフリーで佳子と聞いて、陽子の携帯に電話しましたが、もう繋がらなかった為に、修は慌てて会社を早退して、丸東組に向かいました。
マリは全速力で現場に向かいながら、「お願い、間に合って!死なないで陽子さん。私が行くまで何とか切り抜けて!」と祈っていました。
渚も、いざという時の為に、医療機器の確認をしていました。
新型ハーケン号は海に潜る事も可能な為に、近くまで飛行した後、海坊主に発見されないように潜水で接近しました。
一方、陽子は船と共に沈み、沈没の渦に巻き込まれて気が遠くなり、やがて気を失いましたが、マリからテスト的に渡されていた発信機は、身に着けていた為に外れませんでした。
陽子が装着している発信機の電波から、海に投げ出された事が判明しました。マリは探査機器を操作しながら、その電波を頼りに紅葉に、「この近くよ、ゆっくりと進んで、三十度、右に旋回して直進、もう少し潜って、ゆっくりと。ここで停止させて。電波の発信源はこの近くよ。何処なの!陽子さん。サーチライトを点灯させて!」とマリが指示しました。
紅葉が、「サーチライトを点灯させれば、海坊主に発見される可能性があります。」と心配していました。
マリは、「今は陽子さんを救う事を最優先に考えて!」と指示し、サーチライトを点灯させました。
暫く捜すと渚が、「あっ!見付けた。あそこ!あそこに母ちゃんが浮いている。」と指差しました。
マリは至急救助して、ハーケン号内部で渚が手当てしました。
渚は、「心肺停止しています。人工呼吸します。」と親子なのでマウスツーマウスで人工呼吸しました。
渚も必死で、「母ちゃん死なないで!」と人工呼吸を続けましたが蘇生しませんでした。
渚は、「AEDを使用します。皆、離れて!」と数回通電しましたが、まだ駄目でした。
マリと紅葉は半分諦めて、泣きながら、「陽子さん死なないで!」と祈っていました。
渚が、「切開して直接心臓マッサージします。揺れない所へ至急移動して!」と指示しました。
マリは、ここは潮の流れが速く揺れる為に、急上昇して上空で静かに飛行しました。渚が脇を切開して、直接手を挿入して、心臓マッサージを行おうとした時に、「何?これ、腫瘍らしき物がある。これが心臓を圧迫しているのが原因です。取り敢えずここでは心臓が動く為の最小限度の腫瘍を取ります。時間がないので引き千切ります。血が噴出すかもしれませんが、驚かないで下さい。大丈夫ですから。」と慌てないように予め伝えました。
その後、渚の適切な処置で、何とか心臓は動き出したので、大日本医療大学付属病院に入院させて、渚が主治医となりました。
マリは、予め連絡して病院で待機させていた猪熊隊員と、渚の代わりに主人の霧島外科医をハーケン号に搭乗させて、すぐに現場に引き返して、海坊主を撃破しました。
その後生存者の救出をして、怪我人や病人の手当てを行いましたが、救助した船舶やハーケン号の医療機器では対応できない患者が一人いました。
それはショックで気絶したチビッコ柔道の女児が先程吐血して、霧島外科医の判断で、そのチビッコと母親を、ハーケン号で大日本医療大学付属病院へ緊急搬送しました。
新型ハーケン号は垂直離着陸機ですので病院のヘリポートに直接着陸しました。
女児を検査した結果、気絶して倒れた時に胸を強打して、肋骨が折れて内臓(食道)に突き刺さっていました。突き刺さっていたのが気管ではなく、食道でしたので呼吸はできていました。
痛いのを我慢していたようでした。飲み物や食べ物を受け付けなかったのは、恐怖の為だと思い、誰もこんな状態になっているとは、吐血するまで気付かなかったようでした。
陽子もチビッコ柔道の女児も、渚の緊急手術で一命を取留めました。チビッコ柔道の女児は心配なく、数週間で退院可能との事でした。
しかし、陽子の体の中には、テレジア星人の血が流れている為に、菊枝がテレジア星に連絡して、医者のライセンスを持っているフジコにテレジア星から来て頂きました。
治療にはフジコも参加していましたが、もう大丈夫だと渚に伝えて、テレジア星に帰って行きました。
フジコはこの時に、陽子のテレジア星人の組織が、腫瘍に対抗する為に、増殖している事を確認しましたが、何故か誰にも伝えませんでした。
今回の事件で、悪の組織の本部は無傷で、大ボスの正体も不明だと判明した為に、ハーケン特別隊を再編成して対抗する事になりました。
ただ、国際連合が不思議に思っている事は、全世界の最新鋭の科学技術力を結集して作成したハーケン号で、超一流パイロットが数名対応しても苦戦する程の科学技術力を、悪の組織である海坊主が何故持っているのか、不明でした。
この点はいくら調査しても解らずマリに、「あなた方が死んでいる事になっていた時に、地球の裏側まで数秒で移動していたようですが、何か知っているのではないですか?」と確認しました。
マリはテレジア星人や陽子達の説明をしました。
国際連合は、「あのハーケン号のパイロットは陽子さんでしたか。今後、ハーケン号では、対応できなくなる可能性もある為に、陽子さん達に正式に協力依頼して頂けませんか?勿論彼女達には仕事があり、それも世界的名医ですので、時間の空いている時だけの非常勤隊員としてですが。それと、可能であれば、テレジア星人のコスモスさんとアヤメさんにもお願いしたい。」と依頼されました。
マリは、「地球の事は地球人で守るべきなので、最悪ハーケン特別隊で対応不可能の時のみという条件で依頼してみます。」とマリの考えを伝えました。
陽子は入院中ですので、菊枝やコスモス達に説明しました。
菊枝は、「今までも、協力していたじゃないの。亡霊としてね。」と協力する事になりました。
マリは悪までも、地球人でなんとかしようとして、ハーケン特別隊航空部隊の体制を整えようとしました。しかし、マリの長男の富士夫は死亡していて、提督も歳で乗務できませんでした。
マリは、「私も猪熊パイロットも、もう六十歳過ぎたお年寄りです。私達よりも、優秀なパイロットがいれば採用します。」と依頼しましたが、マリ以上のパイロットは紅葉しかいませんでした。
マリと紅葉と猪熊パイロットの三名で対応しようと、猪熊パイロットに依頼した所、「私も、もう歳で無理です。それを先日の海坊主との戦闘で思い知らされました。」と断って来ました。
新型ハーケン号は医療設備も搭載されている為に、世界出張医師団から霧島外科医を正式に指名しました。
当面親子三人で飛行訓練していましたが、マリは猪熊パイロットと交渉する以前からある人物と交渉を続けていました。
紅葉も主人の霧島外科医も何故そんなに拘るのか解らずに、「それほど凄い腕のパイロットなのですか?」と紅葉がマリに聞いても、「うん。そうね・・・」とはっきりしませんでした。
提督は、「マリがそれだけ拘るのは、マリの愛弟子の彼奴しかいないな。」と意味ありげな言い方をしていました。どうやら提督は、マリが誰と交渉しているのか解っている様子でした。
訓練飛行中、マリは主人の霧島外科医に、「このような状況で、医療行為できる?」と確認しました。
霧島外科医は、「一度地上でゆっくり検討させて欲しい。」と色々と考えていました。
着陸して、霧島外科医を降ろしてから紅葉と再度上空へ舞い上がりました。
次回投稿予定日は、11月1日です。