家族って大事
少しステータスの表記を変更しました
まだ出会って(?)数時間程度だけど、父さんが「裏切り者」なんて呼ばれるような人には見えない。……だけど父さんの様子を見るに心当たりはあるみたいだ。
………まあ十中八九俺絡みの事だろうけど。
ここからは俺の推測だけど、父さんってこの世界でめちゃくちゃ強い部類に入るんと思う。それこそ人類最強レベルってぐらいの。
……もしあんなめちゃくちゃな動きができる父さんクラスで普通程度なら、俺はこの世界でやって行ける自信がない。まあそれは置いといてだ。
この世界に来る前にアウラから異種族間での戦争が激しいというのは聞いている。人族としては父さんは大きな戦力だったはずだ。それが今はこんな人里離れた場所でひっそり暮らしている。
何がきっかけかは分からないけど、おそらく父さんは戦うことをやめたのだろう。その結果こうして裏切り者と呼ばれている……ざっとこんなところだろうか。
もし俺のこの推測が正しいのであれば………うん、父さんは何も悪くないな。
そう思うと何だか腹が立ってきたな。何も知らないくせに好き勝手言われると。
本当の親子じゃないけど……父さんには悲しい顔をして欲しくない。
思えば俺は……怖かったんだと思う。何も知らない、一度行けばおそらく帰ってこれない場所へ一人で行くのが。そこで初めて会った二人は……すごく優しかった。その笑顔は俺に向けられたものじゃないかもしれないけど、俺はその笑顔に救われたんだ。だから父さんには笑っていてほしい。
………好き勝手言ってるあいつに一泡吹かせてやりたいな。
ここは俺の赤ちゃんパンチが火を噴くか?……1ダメージも与えられなさそうだ。となると他に手は…………あっ。
俺の脳裏にさっきの火球がよぎった。
そうだ魔法……魔法ならいけるかも。俺にも魔力があるから使えるはずだ。だけど一つ問題がある。魔法をどうやって発動させるのかが分からない。そもそも魔力って何だ?俺の身体のどこかにあるのか?
そう考え、俺は身体の内側に意識を向けてみた。すると先程まで分からなかったのが嘘のように、魔力が身体中を巡っているのが直感的に知覚できた。
これが魔力……案外あっさり把握できたな。よし、後はこれを使うだけだ。
俺は小さな掌を父さんに罵声を浴びせている少年に向ける。体内を巡る魔力を掌に集中させ、先程見た火球をイメージ。掌から魔力が抜け出るのを感じる。その魔力をコントロールし、球体を形作る。
「シウくんっ!?」
「魔力と賢さに補正(大)」
母さんの驚いた声の他に人間の声の様でありながら抑揚がなく機械的な声が聞こえた。声が聞こえると同時にかっと身体中が燃えるように熱くなった。まだ魔力を込められそうだ。
気がつけば先程の数倍もの大きさの火球が目の前に顕現していた。口にドロリとした液体が入る。鉄の味がしたが集中を解かない様に無視した。
よし、後はこれを飛ばす…だ……け……。
不意にぎゅっと抱きしめられる。もうやめてっ!と悲鳴のような声が耳元からした。急に意識がスーッと遠くなる。それに伴い目の前の球体の形が崩れ始めた。
パシュンッ!と大きな音を立てて火球が弾ける。
火球が弾けた衝撃で俺を抱きしめた母さんごと吹き飛ばされる。そこで俺の意識は闇に落ちた。
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サラside
アッくんと謎の少年のやり取りを私は唇を噛みながら見ていた。
アッくんは何も悪くないのに。どうしてあんなに責められなければならないのか。もし後少し時間が経っていたら我慢できずに手を出していただろう。
不意に大きな魔力の流れを感じた。自分の腕の中から溢れ出しているが私じゃない。となると答えは一つしかない。
「シウくんっ!?」
この強大な魔力はシウくんから放たれているようだった。とてもだが信じられない。そもそも1歳にも満たない赤ん坊が魔力なんて扱えるわけがないのだ。ましてや無詠唱でなんて。知覚すら出来ないだろう。そもそも世の中の天才と呼ばれる人でも知覚するだけで1ヶ月ぐらいかかるものなのだ。これは天才なんて代物じゃない。こんなのまるで………
化け物。その言葉を私はぐっと飲み込んだ。私は何を言ってるの。間違っても自分の子供に使う言葉じゃない。それに………、
私はシウくんの顔を横から覗き込んだ。その目は化け物などではなく、自分の父を悪く言われて怒っているだけなんだと、自分と同じ気持ちなんだと自然と理解でき、心が少し温かくなった。
普通0歳児がそんな事を思うはずがないのだが、サラには確信があった。
しかしシウくんの鼻からドクドクと血が流れているの見て今度は背筋にゾッと寒気が走った。
この子は確かに強大な力を持っているかもしれない。だけど化け物なんかじゃない、人の為に怒れる優しい子なんだ。私達が守ってあげないといけないことに変わりはない!
私は安心させるようにシウくんを抱きしめる。
「もうやめてっ!」
祈りが届いたのかシウくんの身体から強張りがとけ力が抜けていく。でもそのせいで魔法のコントロールが出来なくなり、今にも暴発しそうだ。こんな至近距離で受けたら悲惨なことになる。
シウくんを守らなきゃ!
その一心で私は魔法を組み上げる。完成すると同時に目の前の火球が弾けた。少ない時間の中で出来るだけ全力で防御したにも関わらず防ぎきれなかったため、シウくんを抱きかかえたまま私は数メートル吹き飛ばされ地面を転がる。
「シウくん!」
腕の中のシウくんを見る。身を呈して守ったため、目立った外傷はないが念のためヒールをかけておく。シウくんは意識不明のままだ。
「サラ!」
「アッくん!シウくんがっ!」
アッくんがこっちに走ってくるのが目に入った。少年はどこかへ行ったみたいで、その姿はない。いや今はそんなことどうでもいい。
そもそも普通に魔法を使うだけで鼻血などといった身体に傷を負うことなど無いのだ。そうなるのは魔力が底をつき、それでも魔法を行使した場合。魔力の代わりに生命力を削って魔法を行使するのだ。つまり先程のシウは生命力を削っていたということになる。
まだ赤ん坊のシウにとって生命力を削るというのはとても危険な行為だった。今すぐ治療を始めなければならない。
絶対シウくんを助けるんだっ!!
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アレックスside
僕の名前はアレックス。シウの父だ。妻のサラにはアッくんと呼ばれている。
裏切り者。それが人族から僕に付けられた蔑称。実にわかりやすいだろう?僕は裏切ったつもりなんて微塵もないけど、あちら側にとっては裏切り行為みたいだ。実際目の前の少年も数年前は僕を慕ってくれていた。だが今はご覧の通りだ。自分が間違っているとはこれっぽっちも思っていないけど、仲の良かった人に悪し様に言われると……少し心にくるものがある。
どうしてこうなってしまったんだろう。そんな事を考えていると、急に謎の魔力が膨れ上がったのを感じた。身の危険を感じた僕は少年の拘束を解き、何が来ても防御なり回避なりできるよう構えてから魔力の発生源に目を向けた。
そこにいたのはサラだった。だがこの魔力はサラのものじゃない。サラの魔力はよく知ってる。となると……これはまさか……シウ?
シウがこちらに手を向けている。いや、僕にっていうよりは少年を狙ってるように見える。そうか……僕のために怒ってくれてるのか……こんな時なのに少し嬉しくなった。ただあの火球の大きさ的に確実に僕も巻き込むけどね。まああれぐらいならそれ程ダメージを負わず切り抜けられる。まあ逆に言えば少しはダメージを負うって事なんだけど。
少年はシウの火球を見てギョッとした表情をしていたが、僕の拘束が解けたのをチャンスと捉えたのか、逃走の態勢に入る。
僕は一瞬追いかけるかどうか迷ったが、もうやめて、というサラの悲鳴にも似た声が聞こえたため即座に追跡を断念し、サラとシウの元へ急ぐ。
途中でサラとシウが火球の暴発で吹き飛ばされる。僕は二人の元へ行くスピードをより一層速めた。
「サラ!」
「アッくん!シウくんがっ!」
ざっと見たところあまり外傷は見当たらないが、シウの顔はひどく青ざめており全然無事ではないことはよく分かる。サラの焦り具合からしてもかなりマズイ状況なのだろう。
よし、今度は僕がシウのために行動を起こす番だね。