それは、誰かの期待
彼は、誰よりも人の心に期待していた。
恋も友情も、人の心が織りなす物語はいつも輝いて見えたから。だからきっとそれを作り出す人の心は美しいもので、決して汚されたりしないものだと信じていた。
きっと世間で恋を成就させられない人は気持ちが足りないんだと、勘違いした気持ちを恋だなんて言葉で当てはめて、さも自分が充実しているように見せているだけなんだと思っていた。
本気の恋は簡単には壊れたりしなくて、成就するならばそれは永遠のものになると信じていたんだ。
それなのに、世界はそんなにうまくできてなんかいなかった。純粋無垢な期待はすぐに裏切られてしまった。思い描いた理想図なんておとぎ話のようなもので、それは決して現実にならないんだと。現実にならないからこそ物語は美しいんだと思い知らされた。
だから今回も、期待なんてするはずもなかった。しなくてよかったのだ。どうせ思い違いの薄汚れた妄想だと吐き捨てて、我関せずを貫き通せばよかったのだ。
結局、いくら期待しても結果は変わらない。そんなこと、彼自身が一番わかっていたはずなのだから。
だから、彼はまた、いつかのようにため息をこぼすのだ。




