それは、いつかの後悔
好きな人なんていなかった。
誰かを好きになれるような出来事はなかったし、こんな人がタイプだなんていう幻想じみた立ち姿すら見えていなかった。
だから、自分には無縁だと思っていた。もうこれから先、恋なんてできないのだろうと。憧れ羨望しても叶わないのだろうと思っていた。
でも、そんなことはなかった。特別な日々を過ごした相手は確かにいた。
一緒に入った傘も、見上げた花火も、交し合った連絡先も。決して幻想なんかではなかったのだから。
ありえなくなんてない、むしろそれは当然のこと。なのにそれに気付けなかった。
言ってしまった、そんなんじゃないと。好きではないと。
時間を戻すことも、過去の言葉を取り消すこともできないのに、思い出すたびに胸の中で誰かが言う。どうして言ってしまったんだと、自分を責めるように問いかけてくる。
責めても過去は変わりはしないのに。
もう自覚してしまったから。気付いてしまったから。知らないふりはもうできないから。
ならもうこの気持ちを、隠すしかない。
あの時の言葉を真実にするためには、そうするしかないから。
だから、私はあの人のぬくもりをそっとしまい込んだ。




