表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Primula  作者: 澄葉 照安登
第四章 溢れた思いが言葉に変わる
45/139

溢れた思いが言葉に変わる 7

今更ですが、Twitterで更新の報告をしていますので、もしよろしかったらそちらにも目を向けていただけるとありがたいです。

 気付けば一日の授業を終える鐘が鳴り響き、静かだった教室に喧騒が舞い戻ってくる。後ろに大きなイベントごとが待っているとなれば一日の感じ方も変わってしまうらしく、あっという間に放課後になっていた。

「んじゃ、今週最後の部活に行きますかね」

 そう言いながら俺の幼馴染は鞄を担いで席を立ちあがる。それに続いて俺も立ち上がり、合図をしたわけでもないのに真琴も俺たちのもとへとやってくる。

 ソウは俺たちの顔を見回してからニカッと笑ってから教室を出ようと歩きだす。

 明日からは待ちに待った修学旅行だ。明日からの三日間、俺たち二年生は沖縄へと修学旅行へ行くことになる。そして修学旅行が終わった翌日の金曜日は修学旅行の振替の休日として休みに設定されているので俺たちが今週部室に顔を出せるのは今日一日だけということになる。

 そのことに若干の寂しさを感じながらも、いかなければ時間が止まってくれるわけでもないので俺たちはいつもの通りに部室へと向かう。

「あっ、ちょっと待って!」

「ん? どしたんユサ」

 廊下へ出た瞬間、大きな声で呼び止められて俺たち三人はその声のほうを向く。つい先日も同じようなことがあったなとデジャブを感じる。

 既視感を感じるということで先日と同じ展開なのかと思ってしまう。今日も間城はバイトが休みになっているのだろうか。そう思ったのはソウも同じだったようで俺が口にするより先にソウが尋ねていた。

「今日もバイト休みか?」

「いや、そういうことじゃないんだけど、ちょっと話したいことがあって」

 どうやら先日の出来事をそのまま再現とはいかなかったらしい。

 話とは何だろうと思いながら間城がその続きを口にするのを待っていると間城が俺のほうを向いてソウを連想させるニカッと擬音が付きそうな笑顔を浮かべた。

「松嶋、ちょっと来てもらっていい?」

「え? 俺?」

 予想外の指名に俺は自身を指さして聞き返していた。

「うん、ちょっと話があるんだよね」

「はぁ……、いいけど……」

 不思議に思いながらも俺はソウと真琴に視線で問う。

「んじゃ、俺らは先行ってるわー」

「…………」

 するとソウはすぐに察してくれたのかそう言っていつも通りに職員室に向かって歩き出す。真琴も何も言いはしなかったが視線を合わせてくれたので了解はしてくれているのだろう。

 俺はそんな二人を見送ってから間城に向き直る。

「どうかしたの? 何の話?」

「あー、時間もないし、ちょっとこっち来てッ」

「えっ!?」

 早速話を始めようと思ったのだが間城は煮え切らない態度で数瞬思案したかと思うと、おもむろに俺の手を掴んで歩き始めた。

「え、何? 間城?」

「……………………」

 間城に引きずられながらも聞いてみるが、間城からの返答はない。

 わけがわからず目を丸くしているうちに間城にどんどん引きずられていき、俺たちはソウたちが向かったほうとは逆の廊下を突き進んでいく。

 何の説明もなく引きずられている。とりあえず何か容量の得ることのできる言葉が欲しい。なので、いったいなんだと思いながら無理やり足を止めようとした。

 けれど、その瞬間気付いた。俺の手を引く間城のそれは、とても力強く握られていることに。

 普段女性の手に触れることなんてないから比較したわけではないが、間城の手は、力がこもっているせいかほのかに汗ばんで、熱を持っていた。

 俺は何も言えなくなり黙ってしまった。異常な事態に、言葉を失った。

どれくらいの時間が経っただろう。おそらく一分にも満たない時間だった。けれど、間城の足が止まるまでの時間は、とても数十秒とは思えなかった。

目的の場所に付いたのか、間城の手の力が急に弱まったかと思うとその手を離した。そして俺が足を止めると、その数歩先で間城も足を止めた。

 俺たちがやってきたのは、昇降口とは逆側の、人気のない渡り廊下だった。

「……間城、いきなり何?」

 俺は困惑しながらも、ようやく間城に解放された手をさすりながら問いかける。

「すぅ……はぁ……」

 何も言葉は帰ってこなかった。聞こえてきたのは間城の深呼吸のような呼吸だけ。

俺はわけがわからず首をかしげていると間城が勢いよく俺のほうに振り返った。

「…………ッ」

 その顔は、俺を引っ張ってきたせいなのか頬が赤く紅潮していた。呼吸も少し乱れていて、息苦しそうに自分の胸の前でこぶしを作っている。

 なぜそんな顔をするのか、そう思ったが声には出さない。出せない。

 潤んだ瞳が、俺顔を射抜くようにとらえた。

 今はもう放課後。昇降口とは真逆にある渡り廊下には人の気配はしない。

そんな場所に困惑する男子生徒と、頬を染める女子生徒がたった二人だけ存在している。そんな異質ともいえる空間のせいで喉が動いてくれなかった。

 それでも、ここに連れてきた張本人は伝えたいことがあるのだろう。頬を染めながらも睨むように鋭いまなざしで俺を見つめて言葉を紡ぐ。

「明日から、修学旅行があるじゃん?」

「う、うん」

 たじろぎながらも小さく頷いた。

「それで、ちょっと松嶋に聞いてほしいことがあって」

「…………」

 真剣なまなざしに、思わず生唾を飲み込む。

正直、間城の言葉はしっかりとは届いていなかった。言葉は聞こえているはずなのに、脳は動いていない。けれど、間城が俺を人気のないこの場所に連れてきた事実が、一つだけ確かなことを教えてくれた。間城は、俺に何か言いたいことがある。

驚き困惑しているからか、まともに間城の言葉の意味を理解することすらできていない。

それでも、相槌を打てば間城の言葉は続く。そして間城が俺に言いたいことが、だんだんとその姿を現していくのだ。

「その、修学旅行って、大きなイベントじゃん? だからさ」

 言いにくそうに、恥ずかしそうに口にする間城。自身のスカートの前で組んだ手が行き場を失ってもじもじと動く。

 ただならぬ雰囲気に、何も答えることができない。だから間城が伝えたい言葉をしっかりと口にするまで待っているしかできない。返答を望む時までは、聞いていることしかできない。

「うち、その、さ……」

 胸の鼓動が早くなる。この先にどんな言葉が待っているかなんてわからないのに。わからないからこそ、胸が高鳴り息苦しい。

「……松嶋に、協力してほしいんだ」

 先日、立花さんが言っていた。修学旅行は大きなイベントだから、カップルが成立することがよくあると。それを期に思いを伝える人たちが少なくはないと。

 間城は協力して欲しいといった。この時点で俺にそう言ったことが起きているわけではないと理解はしている。けれど間城の、普段の間城からは想像できない煮え切らない態度を見て心臓が早鐘を打つ。彼女からもどかしい、それでいてとても熱い何かを感じた。

「協力って……」

 問い返したつもりでも、問いにはなっていない。うわごとのように呟いただけで何も聞けてはいない。

 けれど、間城はそれを聞くと固く目を瞑って、意を決したと言わんばかりに俺に一歩詰め寄って俺の瞳をのぞき込んだ。

「私、告白しようと思ってる」

 それを聞いただけで、俺はどきりとしてしまった。

間城が告白する。そのことだけでも興奮してしまう。立花さんが言ったようなことが、これから起きるのだから。修学旅行を期に告白するという出来事が、現実として目の前に現れたのだから。

そして、それだけではない。間城は言ったのだ。俺に協力してほしいと。

 協力を頼むということは、俺に何かできることがあるということ。告白の協力など何をすればいいのか見当もつかないが、俺に頼んできたということだけで一つだけ確信が持てた。

 間城が告白する相手は、俺の知っている人。それも、俺と仲のいい相手だということ。

 その考えはしっかりと的を射ていたようで、間城は俺から全く目を逸らさずに、真剣な眼差しで、わずかに不安げに揺れる瞳で俺を見つめて、恥ずかしさと想いの大きさに紅潮した顔で声を裏返しながらも真っ直ぐに告げる。

「総に、告白しようと思ってるっ。……だから……」

 間城はそこで呼吸を整えるように息を大きく吸う。

 そして真っ赤な顔を隠すことなく、叫ぶような大きな声でもう一度俺に言った。

「うちに協力して!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ