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Primula  作者: 澄葉 照安登
第三章 淡くも確かなつながりを
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淡くも確かなつながりを 4

「待て待て待て待て!」

 大急ぎで止めた。どうやら俺の当てたキャラクターは真琴がほしかったものらしかった。

「真琴、大丈夫いつか復刻とか来るから!」

「……今当てなくては……」

 真琴の目からハイライトが消えてしまっている。ダメだ、もう骸になってしまっている。

 そんな中、光がさす代わりにブーっと誰かのスマホが震えた。

 俺の手元のスマホではない。真琴のものでもない。とすれば目の前にいる二人のどちらかなのだが。

「あ、うちだ」

 と、間城が思い出したように自分の鞄からスマホを取り出す。

「もしもし? どうしたの?」

 電話が来たらしく席を立ちあがってフロアの端のほうに行ってしまう。

いじけたように立ち上がった真琴も歩き出すタイミングを見失ってしまったのか間城がフロアの端のほうまで行くのを見送るとそのまま席に着く。

「……誰だろうね」

 無粋なことだと思いながらも、俺の口からはそんな疑問が発せられていた。

「さあ」

 俺の隣にいる真琴は興味なさそうにガムシロップが数個投入されたアイスティーをすする。

 そして正面にいる幼馴染と言えば――。

「ソウ?」

「ん? ああ、誰だろうな。バイト先とかじゃねぇの?」

「あー、そうかもね」

 あたりさわりのない受け答えをして視線を間城のほうへと戻す。

 今ソウは、目を見開いて驚きをあらわにしていた。彼女に電話がかかってきたことがそんなにも驚いたのだろうか。そう思ったがきっとそうではない。それだけではない気がした。

 ソウの視線の先にいた彼女は電話をしている。その電話に何か思うところがあったのだろうか。

 妙な引っ掛かりを覚えたけれど、ソウの顔を見ればいつもと変わらない軽々しい笑顔を浮かべながら残り少なくなったポテトをつまんでいる。たぶん、聞いても何も答えてはくれないだろう、そんな気がした。だから俺は間城を遠くに見ながら呟くように口にする。

「彼氏、とかかな?」

「……さぁな。まぁいてもおかしくはないわな」

 そう言いながらポテトを咥えタバコのようにしながら視線だけを間城のほうへ向ける。

「バイトの先輩とかでいい人いるかもだしね」

「俺たちにそういう話を期待するなら自分に期待すればいいのにな、あいつ」

 そう言ったソウは自身の言葉にむかついたようにポテトを口の中へと放り込む。んー、やっぱり何かおかしい。

 聞いても答えてはくれないだろうとは思いつつも、やはり気になってしまったものは仕方ない。だから俺はついいつもの癖で、口を動かしてしまいそうになった。

「ソウ、まし――」

「ただいまー」

 俺が口を開いたとほぼ同時。間城が戻ってきた。

 たまたまタイミングが重なっただけだろう。ただの偶然、それだけのはずだ。

けれどそんなものに特別な意味を見出してしまう。その偶然がまるで、俺の質問を遮るためだけに起きたかのように感じてしまう。だから、かき消された問いをもう一度口にすることはできなかった。

「ん? どしたん松嶋」

「あ、いや、誰からだったんだろうなって」

 俺は自分の中の疑問をどこかへと捨てて、代わりにどうでもいいことを訊いてみた。

「ん? ああ、そうそう。楓ちゃん、ちょっと遅れるかもしれないって」

「え、永沢さんからだったの?」

「そだよー」

 意外な相手に少し驚いてしまう。別に同じ部活の仲間なのだから連絡が来るくらい不思議なことではないのだろうが、間城と永沢さんはあまり顔を合わせる機会が多くはない。夏休みに入ってから数回しか顔を合わせていないのに遅刻するかもしれないという連絡を真っ先に、しかも電話で受け取ったというのに驚いた。

「総にも連絡入ってるはずだよ」

 間城に言われてソウが自分のスマホを確認すると間城の言った通り連絡が入っていたらしく「あ、マジだ」というつぶやきが聞こえた。

「なるべく間に合うようにはするって言ってたけど、ぎりぎりで分からないから一応連絡したってさ」

 詳しいことがわからない俺たちに間城が説明してくれる。俺がほーと頷きを返しているが、隣の真琴は言葉もなければ頷きもしない。

「なんか、予定がちょっと長引いちゃったんだってさ」

「ん、了解した。一応急がなくていいとは言っといたわ」

 そう言いながらスマホを置いて、茶化すようにソウが言う。まるで自分の中にある何かをしまい込むかのように。

「でも、楓ちゃんだったのか。俺らてっきり彼氏かと思ったわ」

「うちに彼氏なんてできるわけないでしょ。作る気もないんだから」

 そう言いながら二人して同じような笑顔を浮かべる。あー、なんか今の二人すごいお似合いなんであなた方でカップルになればよろしいと思います。いや、ソウには立花さんがいるんだけどね。

 ともあれ、さっきのソウの驚き顔はどうやらそういうことらしかった。電話が来たことに驚いたのではなく、彼氏から電話が来たのかもしれないと思って驚いたということなのだろう。いささか反応が過敏ではあったが。

 しかし彼氏がどうということは関係ないにしろ、驚いたという点では俺も同じだった。電話が来た時もそうだし、電話の相手を聞いた今もだ。

「間城あんまり部活に来ないのに永沢さんと連絡先交換してたんだね」

「そりゃ連絡先くらい聞くよ。ってか、最近はなるべく顔出すようにしてんだから仲間外れみたいな言い方すんのやめてよー」

「いや、そういうつもりじゃなくてさ」

 素直に連絡先を知っていることに驚いただけだ、と口にしそうになってから思う。もしこの中で俺だけが永沢さんの連絡先を知っていないんだとしたら。そう思うと墓穴を掘るようなことを口にできなくなってしまう。

「いつの間に交換してたのかな、って思って」

 だからなるべく自分に矛先が向かないようにと心がける。しかしその質問ではまるで、自分はまだ交換できてないのに、と続く言葉が見えてしまっている気がする。

「初めて会った日の帰りに訊いたんだよ。聞くタイミングなんていくらでもあるしね」

「……そうだよね」

 そう言いながらいまだに彼女の連絡先を知らない自分に焦りを感じ始めてしまう。

「松嶋どうかしたの?」

「あー、何でもないよ」

そんな俺の挙動を不思議に思ったのか間城が俺に訊いてくる。俺は反射的にごまかすように隣の真琴へと視線を向けてしまう。

「……? あー、なるほど。原君はまだ交換してないってこと?」

「へ? あ、いや、そうじゃなくて、どうなのかなと思って」

 勝手に話を作ってくれた間城に便乗するようにして華麗にスルー。こんな風に利用してしまってごめんよと心の中で真琴に謝っておく。

 しかし、なんとなく逃げられそうな方向へ話を合わせたとはいえ、真琴が永沢さんと連絡先を交換したのかどうかは気になるところだ。もしも真琴が永沢さんの連絡先を知っていたのならば、この部で唯一永沢さんと電波でのやり取りができないのは俺ということになってしまう。

 しかし、真琴の普段の不愛想な態度や口数の少なさを思い出して俺の中の焦りが薄まっていく。

 真琴はいつも一人で教卓でパソコンをいじっているので、俺たちと雑談している時間のほうが少ない。俺たちの輪の中に加わったところで口を開くことは珍しいくらいだし、後輩二人の連絡先は知らなくても何の不思議もなかった。

「……別に、どうでもいいだろ」

 不愛想に言う真琴に少し安堵してしまう。ああ、俺だけじゃなかった、よかったと。

「同じ部活の仲間なんだから連絡先くらいちゃんと交換しときなよ原君」

 笑顔で言う間城の言葉が俺にも突き刺さるが気にしないふりをする。変に反応してしまっては俺も同類ですと言っていることになってしまう。自分と同じ人がいるという事実は自分の心に余裕を作ってくれる。悪いことをしているわけではないのに共犯者がいるように感じて安堵してしまうのだろう。

 しかし、真琴の次の一言で俺の安堵は掻き消えてしまう。

「別に、連絡先は知ってる」

「えっ、知ってるの!?」

 あまりの驚きで大きな声を上げてしまう。幸い店内のBGMや話し声に調理の雑音が折り重なり俺の声だけが浮いてしまうことはなかったが、同じ席に座る3人に驚かれる程度の声は出てしまっていた。

「そんな驚くことかよ」

 真琴が迷惑そうに顔をしかめながら言う。

「あ、ごめん。ちょっと意外過ぎて……」

 俺の口から出たのはごまかしでも何でもない俺の素直な感想だった。

「まぁ、うちもちょっと驚きだけど、松嶋ほどじゃないよ」

「そうか? 別に俺は驚くことじゃねぇと思うけど」

 同意を示してくれる間城とは違い、ソウは気にすることでもないと言いたげだった。

「いや、原君って不愛想だから、あんまり人と関わらないじゃん。だからちょっと意外っていうかさ」

 俺は間城の意見に同調して深くうなずく。

「それに原君が後輩たちとしゃべってるところ見たことないし」

 またもうなずく。間城の言う通り真琴は後輩たちと親密な関係にあるとは言えない距離感をキープし続けていた。だから、真琴がしっかりと連絡先を交換していたことに驚いてしまったのだ。

「別に連絡先知ってるだけ。やり取りしたことはない」

 それは真琴らしいと言えば真琴らしいが、それでも真琴は連絡先を知っているのだ。連絡先の交換すらできていない俺とは違って。

「……いつ交換したの?」

 素直に疑問に思ったのと、自身の焦りを隠そうとしたのとでそんな言葉を発していた。

「先週。花火行った次の部活の時」

 なんでそんなことを訊くんだと言いたげな真琴。若干不機嫌そうに見える。

 花火大会に行った日の後の部活。つまりは永沢さんが文芸部を自分の居場所として選んでくれたあの日ということだ。みんなで永沢さんの帰りを喜んだあの日。

 でも、あの日も真琴は俺の隣で呟くようにおかえりと言っただけで永沢さんとは一言も会話を交わしていない。いったいいつ交換したのだろう。

 そう思いながら首をかしげていると俺の思っていることを感じ取ったのか真琴がため息を一つ吐いてから説明してくれる。

「帰りに永沢から聞かれたんだよ」

「あー、そういう」

 確かにそれならば俺がその現場に居合わせなかったのも不思議はない。

 真琴は俺とソウとは家が逆方向なので一緒に帰る習慣はない。それに俺はいつもソウと職員室へカギを返してから下駄箱に行くので、その間にどこかでそんなやり取りが交わされていてもしるよしもないわけだ。真琴から話しかけたと考えると想像しにくいが、永沢さんからというのであれば想像できないことはない。彼女もあまり口数は多くはないが、それでも真琴よりかは人当たりがいいし、自分から話しかけることもあるだろう。

 一人で勝手に納得していると真琴がなんでそんなことを聞きたがるんだ、と消えそうなほどに小さな声で言ってからため息を吐いた。

 そのため息に続くように俺の向かいの席からクシャッと紙を丸める音が聞こえた。

「そろそろ時間だから駅前に行こうぜ」

 その音と声はソウから発せられた。店内に設置されている壁掛け時計を見る。

 時刻は12時52分。約束の時間まであと10分を切っていた。

 俺はまだ残っていたウーロン茶を一息に飲み干すと立ち上がる。隣の真琴はと言えば空になったシェイクとアップルパイの箱だけのトレイをそのままに、まだスマホのゲームをしていた。

「真琴、先行ってくれないとでられないんだけど」

「待て、1回だけ回せる」

 終始ガチャのことで頭がいっぱいな俺の悪友に呆れてため息を吐く。俺たちの向かいに座っていた間城とソウはさっさと片付けをすまして出口へと向かっている。

 ふとガラス越しに視線を狭い道路の向かいに向けてみると、よく見知った明るく無邪気な後輩の姿が見えた。

「ハル先行くぞ」

「あ、わかったー」

 隣でガチャを回している真琴を待つ。真琴が何回ガチャを回したのかは知らないが、これで出なかったらまた落ち込むんだろうなという想像が容易についてしまう。

 期間限定。これを逃したらいつチャンスが訪れるかはわからない。だからついついムキになってしまうのはなんとなくわかってしまう。ここで手に入れなくては二度と手に入らないかもという焦りもあるのだろう。

 間城も真琴も、永沢さんの連絡先を知っていた。

 ソウと立花さんに関しては前に永沢さんとメッセージのやり取りをしていたから知らないということはあり得ない。

 この部活でただ一人、俺だけが彼女と連絡を取り合う手段を持たないことに焦りを覚えながら俺はため息にも似た吐息を吐き出す。

 今日のうちに連絡先を交換しないと。

 昨日も思ったが、俺だけが電波でのやり取りをできないと聞いて今日交換しなくてはいけないという焦りがさらに膨れ上がる。

 もう時刻は一時を迎える寸前だ。今日はもう半分が終わってしまっている。文芸部で一緒にいる時間はそう長くはないだろう。

 その短い時間の間に何とかチャンスが訪れてくれますようにと心の中で祈る。

「悪い、待たせた」

「あ、じゃあ行こうか。真琴、シェイクとかで足りたの?」

「江之島でいろいろ食う」

「あー、なるほど」

 そんな他愛もない会話をしながら最後のガチャをすませたらしい真琴と一緒に食べ終わった紙やらストローやらをゴミ箱へしっかりと分別して放り込む。そしてガラスでできた自動ドアをくぐって潮の香り漂う屋外へと飛び出る。

 ギラギラと日差しが照り付ける海辺の町は、さっきまでクーラーで冷やされていた俺たちの体を一瞬で熱していった。


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