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Primula  作者: 澄葉 照安登
第二章 最初の一歩
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最初の一歩 1

 花火を片付けてから後輩たちを家に送った後、なぜか男三人で誰かの家に泊まろうという話になった。

 当然前々から計画していたわけではないし、みんな自分の着替えをもってきているわけでもないのでこのまま誰かの家に直接向かうことはできない。なので各々着替えや必要なものをもって改めて集合ということで、俺たちが現在本日の宿泊先となった一室で髪の毛を拭いていた。

「なんで俺の家なんだよ」

 俺と同じように風呂上がりの髪の毛をタオルでガシガシ拭いている真琴が不機嫌そうな吐息を漏らす。

「まぁ、俺も興味あったし、真琴も別にいいって言ったしさ」

「いきなり過ぎだって言ってんだよ」

 俺たち三人は今、真琴の家に来ていた。

 なぜ真琴の家になったかと言われても深い理由はない。しいて言えば俺たちが集まったりとまったり泊まるときにはソウの家に集まるのが通例となっているが、今日は都合がつかないらしくソウのうちには行けないということになり、俺の家か真琴の家かの二択になったのだが、ソウが今まで真琴の家には止まったことがないからという理由でリクエストしたのが今回の采配の大きなところだった。

 文句を言っている真琴だが、その言葉は本心ではないのだろう。その証拠に俺たちの荷物を部屋の隅に置いて布団を敷く場所を確保し始めているし、真琴の家に行くという話になったときにもしっかりと家族に連絡を取ってくれていた。

 これがツンデレという奴か、などと思いながら真琴の部屋をぶしつけに見まわす。

 部屋の広さは俺の部屋とほとんど同じだろうが、ものがあまりないせいか俺の部屋よりも一回り大きい印象を受ける。真琴の部屋は入って右側に本棚、左側には一人用のベット、真正面には折り畳み式であろう小さなテーブルと少し古い型のノートパソコンが一台。目につくものはその程度しかなかった。タンスやカラーボックスの類はおろか壁にカレンダーすらかかっていない。

「……なんか、何にもないな」

「男なんてこんなもんだろ」

 そう言われてしまうとそうかもしれないと頷いてしまう。けれど、この部屋には俺の部屋には絶対にないようなものが一つだけあった。

 俺はその異彩を放つものへと視線を向ける。

 この部屋にアンバランスなものの正体は黒色のプラスチックの鉢に植わっていた花だった。

二十センチ程度の高さを持つプラスチックの鉢植えに、濃い緑色の葉っぱ、その先端には白い花がいくつも咲いていた。

「どうかした?」

「いや、真琴って花なんて好きだったっけ?」

 俺がその花に気を取られて見つめているとその姿を不思議に思ったのか真琴がぶっきらぼうに聞いてきた。

「まぁそれなりに。本棚見てみ」

 真琴にそう言われて視線を本棚のほうへ向かわせ、四つん這いになりながらも本棚のほうへとハイハイで進んでいく。

 真琴の本棚を見てみると上の段から下のほうまで、本棚のおおよそ八割程度は漫画の単行本で埋まっていたが、一番下の段だけは漫画の並びに反して植物の図鑑や育てかたなんかの本が並んでいた。

「はー、結構好きなんだ」

「中学の時に少しな」

 俺がその本をなんとなく眺めているとさっきまで布団を敷いていた真琴が俺のすぐ後ろにいて俺の横から一冊の図鑑を取り出した。

「なんか意外だよなー」

「あ、おかえり」

「ただいま、風呂ありがとな」

「おー」

 風呂上がりのソウが真琴に声を投げかけるがかえってくる返事は呻きにも似た相槌だけだ。ソウはそれに何か言うでもなく図鑑を広げて突っ立っている真琴の隣に行って一緒に図鑑をのぞき込む。俺もそれにつられるように立ち上がってソウの反対側から図鑑をのぞき込む。

ぶっきらぼうで口数の少ない真琴だけど俺たち二人にとってはそれがかえって気を遣わなくていいので気が楽だった。さすがに後輩たちの前ではどうしたものかと思うこともあるが男三人だけの空間だ、そんな風に思うこともない。

「ん、これ」

 そう言って真琴が図鑑のとあるページを開いて指をさす。俺は真琴の指さすページの一番上にでかでかとタイトルのように書かれていた名前を口にする。

「にちにちそう?」

イントネーションがよくわからずなんとなくそれっぽく口にしてみる。真琴から特に訂正もなかったのでおおよそ間違っていないようでほっとする。

「そこにある花の名前」

「花? ……あー、花なんてあったのか」

 真琴が視線で促すとソウが窓際に飾ってあった白い花を見つけて呟いた。

「ニチニチソウっていうのか」

「大まかなくくりだけどな、もっと細かいこと言うとあれはサマーミントっていう種類」

 なんとなく呟いてみたら思いのほか真琴の食いつきがよくて少しびっくりする。

「……なんだよ」

「いや、真琴が積極的に話してるなって思って」

 そんな俺の反応に怪訝そうな視線を返してくる真琴に思ったことを素直に伝える。

 いつもの真琴ならば一言二言の短い会話や相槌が主体で自分からこんな風に解説したり楽しそうに微笑んだりなんて言うことはなかったので意外だった。

「……別に、いつも通りだろ」

 そう言いながら真琴は少し顔を俯かせてしまう。ほんのり頬が上気しているのは風呂上がりのせいだけではなさそうだ。それをすぐに察した俺とソウが二人してニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべてアイコンタクトをとる。

「恥ずかしがんなってマコ! 顔赤いけど!」

「そうそう、ちょっと意外だったけどそう言うのもありだとおもうよ。顔赤いけど!」

 二人でニヤニヤしながらそんな風に真琴のことをからかう。真琴は目のハイライトを消して無感情をあらわにしながら俺たちのことを見つめていた。

 真琴にこう言ったからかいをすると十中八九こんな顔をされてしまう。ついさっきまでは女子にキャーキャー言われんばかりな表情だったのにもったいない。

 真琴は決して顔が悪いわけではない。俺たちの中で一番身長は小さく男前といった顔立ちではないが、男にしては小さな身長と幼さが残った顔立ちから女子からすればかわいいといった印象を受ける容姿をしている。高校入学当初はそれなりに女子に注目されたりもしていたのだ。真琴本人はそんなこと知りもしないだろうが。

 まぁ、それも入学当初のころの話だ。今は真琴のぶっきらぼうで無関心な態度が知れ渡っているのでそう言ったことは一切ない。そう言ったところがいいという女子がいるのではと一時妄想を展開していた俺だったが、それが現実にはならなかったことをしっかりと記憶している。

 まぁ、俺たちからしたら真琴のこの態度がもう普通のことになってしまっているが、見知らの相手からしたらいい印象は抱かないのだろう。言葉数は少なく、表情もなかなか変えない、他人のことに無関心なところは冷たいと取られてしまっても致し方ないところがある。少し人当たりをよくすればそれなりに面白い恋模様を見ることもできそうなのだが、真琴はそう言ったことから距離を置いてるしなぁ、残念。

「でも、マコ花なんて興味あったの? 全然知らなかったけど」

 無感情を瞳に表した真琴に気を取り直せというように話を振るソウ。その問いかけに真琴の目にハイライトが戻った。

「中学の時からずっと育ててる」

「ハル知ってた?」

「いや、俺もさっき初めて聞いたとこ」

 ソウの問いかけに反射で答えて二人して真琴に視線を送る。その視線がくすぐったかったのか真琴が嫌そうな顔をして早口に言う。

「前の中学での話だよ」

「あー、なるほど」

 真琴のその一言で納得する。それはソウも同じだったようで「あー」と納得したような声を出していた。

 俺と真琴は中学二年のころから付き合うようになった。それはクラス替えといった理由ではなく、真琴が俺のいた中学に転校してきたからだった。

 ソウと中学が離れ離れになってしまった俺は別段友達がいないというわけではなかったが、ソウのような本心から接することのできる相手というものがいなかった。そんなときにふと無口な転校生がやってきたというわけだ。当然妄想癖最盛期だった俺は何かイベントが起きるんじゃないかと思って話しかけた。最初は冷たくあしらわれたが、根気よく話しかけ、そばにいて、ストーカーのまがいの行為をして今に至るというわけだ。

 それに真琴は普段から自分の話を積極的にするタイプじゃないし、真琴の家に遊びに来たのも今日が初めてだ。真琴の趣味については詳しいとは言えないのだから真琴にこんな一面があることを知らなくても不思議ではない。

「花、かぁ」

 親しいと思っていた友人の新たな一面を見つけぼやくように口にした。

「興味あるならなんか貸そうか?」

 俺のつぶやきを興味と撮ったらしい真琴は本棚の前にしゃがみ込んで一番下の棚を物色し始めた。あー、これ同じ趣味を分かち合えるかもって思ってうれしいんだな。真琴の声のトーンがわずかながらに上がっているのに気づいてまたニヤニヤしてしまう。

 男に対してかわいいなんて思う自分が気持ち悪くて苦笑が混じって余計に気持ち悪い顔になってしまう。これ誤解されかねないな。

 そう思って少し不安になりながらソウのほうを向くがソウは真琴が図鑑やラナンやらを物色しているうえで漫画に手を伸ばしていた。

 とりあえず自分の気持ち悪い顔を見られなくて一安心。

「陽人。ん」

「ん? なに?」

 そう言って真琴がしゃがんだまま後ろ手で俺に一冊の本を向けていたので相槌を打ちながらそれを受け取る。手渡された本は小学校の時に別冊で付いてきた理科の植物図鑑のような本だった。

 その本を裏返しタイトルを読んでみる。

 花言葉365日。その本はそんなタイトルだった。

「それなら読みやすいと思うし、小説のネタにもなると思う」

「花言葉か、いいんじゃねぇの? ハル今まで一本も小説書いてねぇんだし資料としてさ」

 真琴が付け足して言うとそれを聞いていたらしいソウが漫画に視線を落とした状態のままそれに声を投げてきていた。

「あー、そう言えば文化祭に部誌出すのか」

「まだ先だけどなー」

 俺がマイナスの感情をこめて声に出すとソウが補足してくれる。

「俺も書かなくちゃダメ? 去年描かなくても大丈夫だったからよくない?」

「いや、あれは単純にハルが完成させられなかったから仕方なく無しになっただけだし。文芸部なんだから読むだけじゃなくて書いてみろって」

「んー」

 そういわれてもなぁ、と宙を仰ぐ。

 今まで書いたこともない奴がいかなり小説を書けと言われても簡単に書けるものじゃない。文芸部を作ろうと言い出したソウは昔から物語や話が好きだったし、真琴もアニメやゲームなんかが好きでそう言ったこととは決して無縁ではなかった。俺も小説を読んだりするのは好きだが、自分で書くというのはまた違う。普段文芸部にいるときも既存の小説を読むか、真琴やソウの小説を読んだりするだけで自分で書こうとは思わない。

 去年の文化祭の時に何となくで書き始めてみたものの、俺の書いているのは小説というよりも作文だった。結局どうやって書くかわからなくて完成までもっていくことができなかったし。

「まぁ、新しい自分探しだと思ってやってみろって」

「新しい自分探し、ね」

 そう思うながら真琴に手渡された本を見つめる。

「案外いい発見だったりするぞ」

 ソウがどんどん俺の背中を押す。これは引き下がってくれなそうだな。

「まぁ、とりあえず借りてみるよ」

 俺は真琴のほうを向いて本を胸の高さまで上げて了承を取る。俺のその姿を見た真琴は何か言うでもなく俺の横を通り過ぎてベットに腰かける。

 新しい発見か。まぁ、今日真琴の家に来たおかげで真琴の知らない一面を知れたし、そのことはよかったと思える。だからというわけではないが、自分の新しい一面を見つけるのもきっと楽しいことなのだろうと思う。

 どんなことでも、新しいことというのは魅力的に映るものだから。

 河原でみんなでやった花火のように。

 ふと脳裏に永沢さんの姿が映った。それに続いて永沢さんとの会話を思い出す。

「そう言えばハル、永沢さんと何の話してたんだ?」

 そんな俺の思考を読んだかのようなタイミングでソウが問いかけてくる。

「あ、いや、別に大したことじゃないよ」

 一瞬心臓がはねそうになるが、一日の疲れと風呂上がりのちょうどいい倦怠感のおかげで大げさな反応をしないで済む。

 そんな俺の反応が面白くなかったのかソウは「んー」と生返事をしてベットから起き上がる。

「別にただいちゃついてただけだろ」

 真琴は興味なさそうに言うとトイレ行ってくると部屋を出て行った。

 まぁ、真琴はこういった話に興味がないしソウだっておそらくは俺が焦る姿を見たくてからかうつもりで言ったに違いないだろう。

 そう思いながら真琴に手渡された花言葉の図鑑を開こうとする。

「いや、ハルは楓ちゃんが文芸部に来た理由聞いたのかと思ったんだけど」

「……え?」

 突然、ソウがそんなことを口にするものだから本を開こうとしていた俺の手が固まってしまう。

 そんな俺の反応など気にも留めずに「いやさ」とソウは話の続きを口にする。

「結構仲良さそうに話してたから聞いたのかなって思っただけだよ」

 漫画を閉じてベットの上に胡坐をかいているソウがさして気にすることでもないといったニュアンスを込めながらつぶやく。

 しかし、ソウからその話題が出たことが以外で俺は半ば反射的に聞き返してしまっていた。

「ソウも聞いたのか……」

「さっきの花火の時にな」

 ちょっとした雑音にもかき消されてしまいそうなつぶやきにも似た声のトーンだったが、ソウはそれをしっかりと聞き取ったらしく相槌を打ってくる。

「ま、前の部活で人間関係のごたごたがあったってことくらいしか聞いてないけどな。ハルならなんか知ってんのかなって思っただけ」

「そっか…………」

 俺は花火をしながら永沢さんと話したことを思い出す。

 七月に入るまでは漫研にいたこと、その漫研で告白され理不尽なことを言われたこと。

 それを俺なんかが簡単に口に出してしまっていいのか、永沢さんの知らないところでその話を勝手にしてしまっていいのか。そんな疑問が頭をよぎる。

 しかし、ソウの顔を見るとなんとなくそのことを知っている気がした。

「漫研にいたんだってね」

 今この場に真琴がいなかったから、永沢さんの事情を知っている人しかいないと思ったから俺はソウに向かって言葉を投げかけていた。

 ソウはああ、と相槌を打って俺にほど近い位置まで寄ってくる。

「漫研で起きたことも聞いた?」

「まぁな」

「そっか」

 やっぱりソウは全部聞いたのだ。俺たちの中で最も永沢さんと会話をしていたソウのことだ、何かの拍子に永沢さんから聞いていても不思議はない。ましてやソウは部長だ。年上の先輩のなかで最もフレンドリーに接してくれていたのだから当然だともいえる。

 さして話もしていな俺がそのことを知っていることのほうが意外だろう。

「まっ、あの漫研ならいろいろ想像つくからな。こっちに来て正解だと思うし」

 確かに、俺も漫研にいるくらいなら大して活動もしていない文芸部のほうを選ぶだろう。漫研の環境は、見ていて気持ちのいいものではないし。

「……永沢さん、そのせいで男の人嫌いみたいだよね」

 正確には自分に妙なアプローチをしてくる男性だが、こういってしまっても大きな差はないと思う。文芸部にやってきた当初彼女は俺たち三人に敵意を持った視線を向けてきていたし。

「別に気にするようなことでもないだろ。それとも何? お前ほんとに狙ってんの?」

「そう言うことじゃないって」

 ニヤニヤしながら言うソウに苦笑気味に言う。

「ただ、そんなことがあって傷ついたってていうのが可哀そうっていうか……」

 可哀そうというのは少し違う。同情ともまた違う。

 けれど、永沢さんがあんな理不尽なことで傷つけられたことに少なからず憤りを感じる。

 そう、漫研にいるそういった生徒が俺は、俺たちは気に入らないのだ。

「別に、陽人が気にすることじゃないだろ」

 その冷たい声の下方向を向くとトイレから戻ってきたらしい真琴が扉のところにいた。

「あ、聞いてた?」

「別に全員知ってるだろ。全員で花火してる時に話してたんだから」

 確かに、言われてみればそうかもしれない。

 俺は一対一で話を聞いていたけれど、ソウも知っているということは他のところでも話しているということだろうし、ソウも花火の時に聞いたと言っていた。みんないろんなところに散らばって距離を取って遊んでいたわけでもないので他人の話が偶然耳に入ってくることだって十分あり得るだろう。

「……気にすることじゃないって言っても、気にするというか……」

「別に、あいつの自意識過剰だろ」

「自意識過剰?」

 真琴から予想外の言葉が出てきてクエスチョンマークが浮かぶ。それを見た真琴が補足とばかりに言葉を続ける。

「アプローチする男が苦手とか、自分がモテるって思ってるのが原因なだけなんだから気にすることねぇってこと」

「それは……」

 見方を変えれば、そうとることもできるのかもしれない。

 俺の時に話だって俺が駅まで送って行ったことをそう言った気持から来ることだという誤解があったからの出来事だった。けれど、それを素直に認めてしまうのはなぜか嫌だった。

「それに起きたことをどうこう言っても仕方ないだろ」

 確かに、過去のことを思い出してもその出来事を書き換えたりできるわけではない。永沢さんが負った傷はなかったことには決してならない。ならば真琴が言うように永沢さんの気持ちの問題だ。これから永沢さんがどうしていくか、それだけの問題。

 真琴の言うことはわからなくはない。むしろ理解できる。

 けれどやっぱりそれだけで片付けてしまうのは嫌だった。

「俺そろそろ寝るから」

 そう言って真琴はベットに座っていたソウを追い払ってベットに潜り込んでしまう。

「……俺らも寝るか」

 それを見たソウも床に敷かれた布団にもぐってしまう。

 二人が布団にもぐってしまったのでのどに引っかかっていた言葉を飲み下して俺は部屋の電気を消して布団に入る。

 二人ともまだ寝てはいないだろう。口にすればまだ俺の言いたいことが届く。

 しかし、一度飲み込んでしまった言葉は簡単には出てきてくれそうにない。

 俺は寝返りを打ってソウと真琴に背中を向けながら口だけ動かして、自分にだけ言い聞かせる。

 自意識過剰だったとしても、それで一人の女の子が傷付いてしまったことには変わりない。

 彼女にとってそれが恐ろしいものに変わってしまったのは覆らない。

 はたから見たら簡単に切り捨ててしまえそうなことでも、当の本人からしたらトラウマに等しいものかもしれないのだから。

 だから簡単にそれだけのことだと口にしたくなかった。

 俺は漠然と彼女の味方になってあげたいなどと考えながら目を閉じた。

 瞼の裏には線香花火と永沢さんの顔が浮かんでいた。


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