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目は口ほどに物を言う  作者: m.gru
目は口ほどに物を言う
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 朝、携帯のアラームで目が覚めた。アラームを止めて大きな欠伸をする。ベッドから降りてそのまま洗面所へと向かった。洗面所で自分の歯ブラシを手に取って歯磨き粉を乗せる。そのまま口に入れて鏡を見た。

 私のおでこにメメが居た。


「ごふぉっ!!」

《おはよう、夏帆子》

「…ッ!!」


 慌てて口に水をふくみ歯磨き粉を流す。その後に盛大に咳き込んだ。

 ――朝から死ぬかと思った!


「はぁー…、おでこマジ駄目。ホントやめて心臓止まるから」

《視線の位置が高くなって良い場所なんだがな》


 私のおでこからメメが居なくなる、何処に行ったのかと思えば喉のところに出て来た。メメはどうやら私と同じ視点で物を見たいらしい。でも、この位置は他の人間からもよく見える位置だから本当に気を付けてもらわないと……。

 気を取り直して歯磨きを再開。私が歯を磨いてる姿をメメは黙ったまま観察している。普段なら私には見えないところだが鏡によぉーく映っているので視線を感じながらの歯磨きだ。やり難い。

 歯を磨いて顔を洗ってから部屋に戻る。すぐに制服に着替えて髪の毛を簡単にセットして化粧をする。自前のまつ毛にビューラーを使ってカールを付ける。そのまま上からつけまつ毛を付けるんだけど…。

 鏡に映るメメが喉のところから私をガン見している。つけまつ毛が要らないくらい綺麗で長いまつ毛は少し腹立たしい。


「やったげようか?」

《嫌だ》

「まつ毛、くりんってなるよ」

《いい》


 メメは逃げるように喉のところから消えた。ビューラーが怖かったのだろうか、でも人の化粧をまじまじと観察していた罰だ。ざまぁみろ。

 身支度を済ませてリビングへと行けば母が居た。


「おはよう夏帆子、朝ご飯食べちゃいなさい」

「うん」


 朝ご飯が並べられたテーブルの自分の席に座る。父はもう朝ご飯を食べて仕事に行ったらしい母がお皿を片付けていた。


《おはよう、夏帆子》


 ――それさっき聞いたけど…。


《挨拶は返す方が良い》


 そういうことか、と思いながら牛乳を飲んでから小さな声で返事を返した。


「おはよう……」

「ええ、おはよう」

「!」


 メメに返したのだが母に聞かれていた。恥ずかしくなって慌てて朝ご飯を食べる。母はそんな私が面白いのかクスクスと笑っていた。畜生、メメのせいで恥かいた!


《牛乳は噛みながら飲むと良い》


 ――うるさいっての!


 朝ご飯を食べ終わってカバンを持ち玄関へと向かう。また憂鬱で孤独な学校だ。でも、今日からはメメが居るから孤独ではないと思うとちょっと嬉しくなった。最初はあんなに嫌だったけど、今もどっちかって言うと嫌だけど。一人じゃないのは嬉しい。


「いってらっしゃい、夏帆子」

《いってらっしゃい、夏帆子》


 ――お前も一緒に行くんだろうが…。


「……いってきます」

《いってきます、お母さん》


 ――返事もするんかい!

 心の中でメメにツッコミを入れて外に出た。そういえば、お母さんにいってきますって返事したの凄い久しぶりだな。おはよう、って挨拶したのも…。

 全部、メメのせいだけど。全部、メメのおかげでもあるのかな。

 学校が近付いて来ると同じ学校に行く生徒が周りを歩いている。おはよう、なんて挨拶をしているみんなの中で一人避けられてる私……。明らかに遠いよね、私の周りとか隣なんて誰も歩かないもん。

 孤独のまま学校に着いて教室へと行く。自分の席に座ってカバンを机に置いた時、隣の席の子の肩がびくりと揺れた。昨日のことでまだ怯えてるらしい……。

 ――椅子、倒しちゃただけなのにな……。

 はあ、と溜息を吐けば更にびくっと隣で肩が揺れた。

 朝のホームルームが終わって、授業が始まる。相変わらず教師は私を見る度に眉を寄せたり怯えたり……。私だって教科書開いて授業受けてるぐらい良いじゃんか。

 一時間目の授業が終わった。相変わらず授業はちんぷんかんぷん、馬鹿には辛い時間だ……。でも、大人しく授業を見てたらしいメメは「授業は興味深い」と言葉を漏らした。もういっそメメに勉強してもらってテストの時に助けてくれないかな。

 メメが居れば私は勉強しなくてすむ、素晴らしい! と思ったけどいちいち細かいし、確実に生真面目であろうメメがそんな私の考えに賛同してくれるわけないんだろうな。勉強は自分でするからこそ意味がある。とか言いそう! 自分で考えたのだけど超言いそう!

 二時間目、もう授業を真面目に聞くのも億劫で開いたノートにメメの絵を描いた。まつ毛がぶわさーってなってる片目だけの絵だ。完成してからキモイと思った。二時間目の授業が終わってから机に突っ伏して寝る。頭の中でメメがなにか言っていたが聞き流した。

 

 ガタガタ、がやがや、と席から立つ音に話し声が聞こえて起きる。


「授業終わった……?」

《今から昼休みだ》


 三時間目と四時間目は完全に寝てたらしい。カバンを持って席から立ち上がる。そのままお昼ご飯を買おうと購買に向かった。

 購買はすでに人でいっぱい。途中で見た食堂の混み具合もハンパなかった。でも、食堂で一人寂しくご飯を食べたくないのでパンでも買おうと思う。まあ、人がいっぱいのあの人混みに入っていくのも勇気いるけど……。

 はあ、と溜息を吐けば隣に居た男子生徒が「うわ!」と大きな声を出した。何事だと、視線をやれば男子生徒は私を見て顔を蒼くしている。そのまま踵を返して走って行ってしまった。

 ――私かよっ!

 チッと思わず舌打ちが出る。すると私の周りに居た生徒が慌てて逃げて行ってしまった。私どんだけ恐れられてんの!?

 かなりショックだったが結果的にお昼ご飯を楽に買えたので良いことにした。もの凄いショックだったけどね。コロッケパンとクリームパン、それと紙パックのコーヒー牛乳を買った私は外に出てグラウンドの傍の階段に座った。コンクリートの階段はひんやりしていてお尻が冷える。

 紙パックのコーヒー牛乳にストローを差したところで昨日のガラの悪い三人組が私の前を通った。ガラの悪いとか私が言うことじゃないな、って今更ながら思うけど。

 三人組は私を見て顔を蒼くしてから「吉田さん、こんちはっす!」と挨拶をしてきた。その顔が必死過ぎて苦笑いしか出ない。


「昨日はマジすんませんっした!」

「いいよ、もう良いからどっか行ってよ……」

「マジすんませんっした!」

「失礼しますっ!」


 三人組が慌てて走って行く。そのガラの悪い三人組でも、友達が居て良いなぁと思ってしまったのは言うまでもない。三人組とかマジ羨ましいわ。

 コーヒー牛乳を飲んでからコロッケパンを食べる。黙々と一人寂しくコロッケパンを頬張る女一人……、寂しい……。寂しさのあまりメメちゃんお喋りしない? と私がメメに声を掛ける前に「吉田さん」と声を掛けられた。


「あ、安藤くん」

「こ、こんにちは、すみません……あの」


 可愛らしい安藤くんに声を掛けられてしまった。もじもじする安藤くんの次の言葉を待つがなかなか次の言葉が来ない。可愛いけど、もっと用件をスパッと言ってくれ。コロッケパン食べてる途中だから!


「昨日のお礼がしたくて…っ」

「いや、別に良いよ」

「え!? でも、あの……」

「良いってホント、それより早くどっか行った方が良いよ。私と居るとこ見られるの嫌でしょ?」

「そ、そんなこと……」


 いや、本音を言わせて貰うと安藤くんと一緒に居るとこを見られて困るのは私だ! 吉田のやつ学校で堂々とカツアゲしてた! とかまた噂になるんだからな!


「安藤くんもお昼ご飯食べるでしょ? 時間無くなるよ?」

「お昼……? あ、買うの忘れ……」


 安藤くんドジっ子だな、オイ。そんなんだからガラの悪い連中に絡まれるんだよ……。

 はあ、と私が溜息を吐けば安藤くんはびくっと体を揺らした。あれ、なんかそれ今朝も見たような気がする……。っていうか、そんな怖いなら無理してお礼とか言いに来なくても良いのに律儀な子だ……。

食べてる途中のコロッケパンを包み直して袋に入れる、紙パックのコーヒー牛乳を片手に持ってからクリームパンを安藤くんに押し付けるように渡した。当然、安藤くんはびっくりしてた。


「お昼ご飯にどうぞ」

「ぇ、あ……」


 安藤くんがクリームパンを受け取ったのを確認してから校門の方へと歩いて行く。公園のベンチでお昼を食べよう、そんでそのまま残りの授業はサボっちゃおう……。


《何処に行く》

「公園」

《授業は?》

「サボり」


 メメは何も言わなかった。チラリと手の甲に視線をやればメメがこちらを見ていて慌てて視線を前に戻す。なんか、サボるな! とか言われない方が逆に悪いことしてる気になるのはなんでだ……。

 メメの視線をちくちくと感じながらも私は公園へと向かった。

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