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目は口ほどに物を言う  作者: m.gru
目は口ほどに物を言う
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全てを見透かし多くを語らん、されどその目は多くを伝えることであろう。

その口、そこに凛とある。

全てを受け入れ多くを語る、されどその口は決して善だけを伝えるわけではない。



‐ 目は口ほどにものを言う ‐



 今年で十六歳になる、高校生になったばかりの私は孤独だった。

 両親の都合で転校した私、吉田夏帆子よしだかほこは見知らぬ土地の見知らぬ高校に入学した。見知らぬ土地と言ってもド田舎だとか海外だとか言うわけじゃない都会っ子が別の都会にやって来ただけだ。不便はない。

 不便はないが馴染めない。

 私は所謂、不良に分類される人間だった。

 校則を破るのなんて当然、教師に怒られても笑って返していたし親が呼び出されることもしばしば……。でも周りの子たちも大概がそうだったから気にしたことなんてなかった。

転校先の高校に入学した時に私と同じ様な子は少なくなかった。化粧だったしてたしピアスもしてた髪も染めてた。

 ただ入学した時、ああしろこうしろと指示を出す教師が鬱陶しくて中学の時の様に舌打ちで返した。『うざい』なんて口癖の様なものだった。


「マジうぜぇし、近寄んじゃねぇよハゲ」


 入学式でこのセリフを教師に言い放ってしまった私は周りにドン引きされた。関わってはいけない人間と思われてしまったのかもしれない、教師には目を付けられるしクラスメイトには逃げられる始末。

 転校して来た私にはつるむ友人も居らず当然孤立。

 ハッキリ言おう、馬鹿にされたって仕方がない。私は一人じゃ何も出来ない小心者だ。

 みんなでやれば怖くない。まさにそれ。みんなが居なかったら学校をサボって遊びに行ったり出来ないし、テストで0点取っても笑えない。

 しかし今更、真面目な良い子に戻るなんて真似は出来ない。

 こうなっては一匹狼を気取って生きるしかない。

 予想外過ぎた。まさか孤立するとは思いもしなかった。だって派手な子いっぱい居たんだもん。大人しく入学式に参加していればと後悔したところで戻るわけもない。

 ビビリの馬鹿がカッコイイと思って取った行動だった。


 一匹狼を気取る小心者の私、挨拶を交わす相手なんて当然居ない。

 でも学校には行く、親に怒られるしサボって一人で遊びに行くなんて事も出来ない今の私には学校しか行く場所が無いのだ。

 でも行ったところで教室では孤立しているので居場所は無いも同然。教師にも目を付けられているために居心地は最悪。

 全て自分が起こした事なので自業自得なのだけど……、一人は寂しい……。

 中学の友人とのメールではつい『教師マジうざい』とか『周りビビってて超ウケるよ』なんて送って。  私、凄い奴アピールをしてしまっている。

 全然平気、転校先でも私ってば絶好調!

 メールの中の私は随分と楽しそうだと思う。実際はかなり無理、転校先で絶賛孤立中ってのが正しいのだけど友人には見栄を張ってしまった。素直じゃない自分が嫌になる。

 小さく溜息を吐いたのは授業中、携帯を開いてついさっき届いたメールを開いた。


『マニキュア三本、万引き成功!』


 悪いことなのは分かってる。それでも私の指は『やるじゃん、今度私もパクって来る!』とノリノリな返事を返した。

 こう返事をすると友人は喜ぶのだと思う、誰だって仲間が居る方が心強いから……。


「吉田!」

「……なんすか?」


 教師の怒鳴り声に携帯を閉じて顔を上げた。

 内心は心臓バクバクなのを必死に顔に出さないようにする私ってなんなんだろう。


「授業を受ける気が無いなら出て行って良いんだぞ!」

「……」


 クラス中の視線が集まった。

 嫌悪感たっぷりの教師の顔、そりゃ私が悪いけどそんな風に見ることないでしょ。

 この学校に不良を更生させる熱意ある教師の一人でも居ればな、と思ったところでそれはそれで凄くウザイ。携帯をポケットに入れてカバンを持って立ち上がれば弾みで椅子が倒れてしまった。

――ガシャン!

 わざとやったわけではないが椅子が倒れたことに教師が眉を寄せて、隣の席の女子が「ひっ」と声を漏らした。

 隣に視線をやれば声を漏らした子はしまった! と言わんばかりに顔を蒼くさせて片手で口を押さえながら黒板に視線を戻した。

 そんなあからさまに……。

 はぁ、と溜息を吐けば教師がまた怒鳴る。


「うっざ……」


 カバンを持って教室を出た。

 思わず出た言葉は本当に私の口癖だ。何もかもウザイ。

 私が全面的に悪いけど、友好的かつ親身に接してくれれば私だって態度を変えるつもりはいつだって万全なのだ。

 自分が一番ウザイ。


 学校を出て制服のまま近くのコンビニへと向かう。

 このまま家に帰れば母親にこっ酷く叱られる、「またアンタは!」なんて怒鳴られるに違いない。

コンビニで紙パックのジュースとお菓子を買ったあと、そのまま近くの公園に入ってボロボロのベンチに座る。スカートが汚れるとかそんな小さな事を気にする女ではない私は地べたにだって座れる。

紙パックのジュースにストローを差して飲んだ。

 ぼんやりと空を見上げながらジュースを飲む私は他人の目からどう映っているのだろうか……、なんて考えるまでも無かった。

 寂しさが込み上げて来る。

 転校さえしなかったら私は今頃、友人たちと学校をサボってゲーセンにでも行っている頃だっただろう。それはそれでどうかとは思うけど。

 ベンチにごろりと横になる。流れる白い雲を見てから目を閉じた。


――私だって……。


 このままで良いとは思ってない、将来だって考えたことはある。

 でも、どう変われば良いのか。

 今更どう性格を修正していけば良い?

 自分が悪いのは分かってる、根は良い子なんだと自分で思っていても言葉に出なけりゃ態度にも出ない。

親に叱られる度に口からは「うざっ」なんて言葉が出て来る。

 そりゃウザイとは思うよ、でも感謝はしてるし言い過ぎた時なんて後から「言わなきゃ良かったな……」って思うことがある。

 変わらないとって思っても中学の時を思い出すと私の居場所ってやっぱりここなんじゃないかとも思う。 いや、もうその居場所無いんだけどさ……。

 人間ってそう簡単に変われない。

 簡単に変われたらこの世の中、善人だらけだよ。

 なんでこんな人間に生まれちゃったんだろうな……。もっと謙虚でさ、他人に優しく出来る人間になりたい。

 思うには思うんだけど行動に移せないもんなんだよこれが……。

 臆病なのチキンなの、それに最終的には私がやんなくても誰かやるだろと思っちゃったらもう終わりだよ。

 はあ、と大きく溜息を吐いた。

 溜息を吐いたところでガシャン! と大きな音。なんか倒れたのかな、と思いながら体を起こして見れば喧嘩。それも一方的。

 同じ高校の制服、携帯を見ればもうお昼。昼休みだった。


「一言もさぁー……くれって言ってないじゃん、貸してって言ってるだけだよオレたち」

「で、でも……、前も貸したよ……」

「今日も貸してよ」


 背の低い男の子がガラの悪そうな男子三人に苛められている……!

 でも、あの男子の背が低いだけで全員同級生だったりするんだろうな。下手すりゃ私も同級生なんじゃないだろうか……、同級生把握してないから知らないけど。


「昼飯買えねぇんだって」

「オレたち友達だろ、安藤?」

「……でも、」

「今日もお金持ってんでしょ? 貸してよ安藤くん!」

 

 背の低い男子、安藤くんとやらはもう半泣きだった。

 手を震わせながらカバンから財布を取り出した安藤くん。なかなか良い財布なところを見ると裕福なご家庭のお坊ちゃんなのかな……。良いカモだねぇ……。

 紙パックのジュースを飲み干して、紙パックがべこべこになるまで吸った。そのまま空の紙パックを三人組の一人の頭に向かって投げる。


 スコーン! と良い音がした。


「痛っ!」

「誰だ!」

 

 三人組が私の方を振り返った。

 一人が顔を歪めて「吉田夏帆子だ……」と呟いたのを確かに聞いた。

 悲しいことだけど、悪い意味で噂が広まっている為に私を知らない奴など居ない。

 私、喧嘩したら男より強いらしいよ。しかも容赦無くて男の急所とか余裕で潰すんだって、転校して来る前に何人か病院送りにしてるってのも聞いたなぁ。

 勿論、覚えなんて無い。根も葉もない噂。

 入学式以降から噂がどんどんと膨らんで広まっていっただけ……、喧嘩なんて女子同士の言い争いくらいで殴りあいの喧嘩なんてやった事ないよ。

 チキンだからね。

 普段は絶対に関わらないけど、今日の私はちょっと違う。他人に優しく出来る人間になりたい、って思ったところだったから尚更だ。

 根も葉もない噂を使ってビビらせてやろうと思う。


「安藤くーん、私以外に何勝手にカモになっちゃってんの? っていうか、何アンタたち?私のカモに手ェ出そうっての?」


 三人組が顔を蒼くして慌てだした。

 カモも何も初対面ですけどね。


「あ、じゃあ、安藤くんを賭けて私と勝負する?」

「そ、それはちょっと……!」

「吉田さんが安藤に目を付けてたなんて知らなくて! マジすんません!」

「失礼しましたァ!」


 顔面蒼白の三人組は股間を押さえて走って行った。

 潰されると思ったらしい。男子って大変だ……。

 三人組を見送ってから安藤くんに視線をやる、半泣きの安藤くん。目がくりっと大きくて可愛い感じ。

 その辺の女子より可愛い。当然、私より可愛い。

 背も小さいし細いし顔可愛いし、なんで女子に生まれて来なかったの安藤くん。


「ぁ、あの……」

「ああ、うん、別に何にもしないよ」

「助けて、くれたんですか……?」

「カモにしても良いけど?」

「え!?」

「冗談」


 顔を蒼くした安藤くんに苦笑いを返す。

 そしてさっき投げた紙パックを拾ってからベンチへと戻る。

 ポイ捨て出来ない小心者ですけど、何か?

 ベンチに座りなおせば安藤くんがカバンを抱えながら駆け寄って来た。てててっ、なんていう効果音が付きそうな走り方だね。


「あ、あの」

「……」

「ありがとうございました……っ」

「……どぉいたしまして」


 頭を下げた安藤くんに素っ気無く返事を返す私。

 この染み付いた自分の性格が嫌だ! ここで笑顔で「どういたしまして、今度から気を付けてね」みたいなことを言えたらどんなに良かったか!

 少しおどおどと辺りを見渡した安藤くんはもう一度ぺこりと頭を下げてから走って行ってしまった。小動物みたいだねぇ。

 ふふふ、と小さく笑みを零したところで携帯が鳴った。メールだ。


『パクったら報告してよね~』


 さっきのメールの返事だった。

 万引きをしたことがないわけではない。でもついさっき変わろうと思って人助け染みたことをした手前あまり乗り気にはなれなかった。

 でも、やらないと。

 やるって言ったのは私だし……。やらないと友人だけが悪いみたいじゃないか……。

 『りょうか~い』とのんきな文章を打って返信ボタンを押した。パクって来ないといけなくなった、でも仕方がない。

 やっぱり、人間なんてそう変われるもんじゃない……。

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