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十三支の物語  作者: 暁 呼人
2/3

~世界の果ての狼~

「グルルルルル!」

「うわぁー!」

「狼だ!逃げろー!!」

子供達がバタバタと逃げていく。後に残ったのは、一匹のハスキー犬と泣いている男の子。犬は男の子の顔を優しく舐める。まるで、もう大丈夫だよ、と言わんばかりに。

やがて、男の子は泣き止む。そして、犬と男の子は歩き出す。

あれは、ラッキーと僕だ。小さな頃の、ある日の記憶。

いじめられていた僕は、いつもラッキーに助けられていた。

僕がいじめられていると、どこからともなく、ラッキーが現れて、いじめっ子達を追い払ってくれた。

首輪を上手いこと外してくるものだから、ラッキーは、いつも母さんに怒られていたけれど。


「気づいた?」

「・・・う、うぇ?」

「大丈夫?」

「あ、トラ。うん、大丈夫だよ。」

「良かった。」

たしか、僕達は世界を渡るために、あの青白い扉の中に入っていったはずだ。

「ここは?」

「どうやら、上手く渡れなかったみたい。」

「えぇー!!」

ちゃんと願った。それは間違いない。だったら、何がいけなかったんだろう。

「でも、ここはたぶん、狭間ではないわ。」

「狭間じゃないんだ。だったら、ここはどこなの?」

「私にも分からないわ。」

僕達は今、白い(もや)というか、霧の中にいる。どっちが前で後ろなのか、さっぱり分からない。

「分からないって。。」

「ごめんなさいね。私も全部を把握しているわけじゃないの。」

「そうなんだ。僕の方こそごめん。」

そもそも、世界を渡ると決めたのは僕だ。トラは付いてきてくれただけ。トラを責めても仕方ない。

「とにかくさ、ここにいてもしょうがないし、ちょっと歩いてみようよ。」

「そうね。航太、足元に気をつけて。」

僕達は、真っ白な空間を進む。足元は、固くもなく柔らかくもなく、不思議な踏み心地だ。

しばらく進むと、何だろう、松明のような灯りが見えてきた。

「灯りが見えたよ、トラ。」

「何かしらね、あれ。」

灯りは二つあって、その間に、またお社のようなものがある。感じとしては、十二支神社のあれを小さくした感じだ。

「神社のと同じだね。小さいけど。」

僕達は、お社に向かって進んだ。

「とりあえず、あの難しい言葉みたいなやつ、唱えてみたら?」

「やってみましょうか。」

トラは、神社でやったように、ゴニョゴニョと言葉を唱えた。

「・・・、何にも起きないね。」

「そうね。」

「起きるはずがなかろう。それは猫の言葉ゆえ。」

「えっ!?誰?」

お社の辺りから、スルリと何かが出てきた。

「どなたかしら?」

トラが、ちょっと強めの口調で訊ねる。

「・・・ラッキー?じゃない。。」

急に出てきたそれは、見た目はラッキーのようだけど、たぶん犬じゃない。図鑑で見たことある、狼だ。

「ワシは、この地の守護者なり。」

「守護者?」

「いかにも。」

「守護者ってことは、ここを守ってるってこと?」

「その通り。」

それまで黙っていたトラが口を開いた。

「守護者さん、ちょっと良いかしら?」

「何だ、猫の導き手よ。」

「そこまで分かってるなら、話は早いわ。ここはどこかしら?」

「導き手のくせに存ぜぬのか?」

「まだ見習いなのよ。」

守護者の狼は、ちょっと困惑したような表情をしたが、すぐに固い表情に戻り、トラの質問に答えた。

「ワシらの住処側から見れば、その末端、狭間の手前だな。」

「ってことは、ギリギリ渡れた?」

「そうなるわね。」

とりあえずは、世界を渡れたらしい。安心、していいのかな。

(ヌシ)らは、あちらから来たのであろう?」

「そうよ。彼の目的を果たしにね。」

トラは、僕の方を見ながら言った。

「その目的とは何だ?」

狼は、訝しげな顔で僕に訊ねてきた。

「会いたい犬がいるんです。」

「名は?」

「ラッキー。」

「・・ワシは知らぬ名だな。里まで行けば、あるいは。」

「会えるんですか!?」

「いちいち焦らないの。行けば、もしかしたらよ。」

「ごめんなさい。。」

「まあ、とにかく渡れたことは渡れたわけだし。」

「焦らず、だね。」


とりあえず、状況を整理しよう。

まず、世界を渡って、あちら側に来れたことまでは大丈夫。

でも、此処はあちら側の世界の端っこで、ラッキーはどうやら、狼達(犬も含む)の住む里に居るらしい(もしかしたら、だけど)。

つまり、此処からどうにかして、その里まで行かなきゃならない。

「トラ、里の事は知ってるの?」

「ええ、さずかにそれは知ってるわ。」

「行ったことはあるの?」

「あるわよ。こういうのは、一応、二度目だし。」

「さっきの、導き手が何とかっていうやつ?」

「そうよ。」

「行き方も分かるの?」

「此処からは、さすがに分からないけど、(ねずみ)の里からだったらね。」

どうやら、子の里なんていうのもあるらしい。入り口の神社が十二支だから、もしかしたら、(うし)(うま)とかもあるのだろうか。

「主らよ。」

「なんですか?」

「本来、主らのいる世界から此方へ渡ってきたのであれば。」

「はい。」

「まず子の里に着くのが、古来よりの慣わしである。」

「そうなんですか?」

「だが、主らは此処にたどり着いた。これには何か意味があろう。」

「その意味ってなんですか?」

「さあな。ワシには分かりかねる。」

「そうですか・・・。」

どうやら、僕らは、何か意味があって、通常より手前のこの場所にたどり着いた。これはちょっと謎だ。

「守護者さん、そもそも此処はどういう場所なの?」

「此処は、世界の果て。深い霧ゆえ誰も寄りつかぬ。好奇心旺盛な(わっぱ)ども以外はな。」

「つまり、あなたはそういう子達の保護をしてるわけね。」

「左様。」

「どうして、そんなことを?」

「・・まあ、単なる暇潰しだな。」

「ずいぶん物好きなのね。」

「前任が引退してな、手の空いているワシが請け負った。」

「そういうことね。」

そういえば、守護者さん(年長だろうし一応さん付け)の名前を聞いていないことに気づいた。

「ところで守護者さん。あなたの名前は?」

「ワシはジロウザ。」

「何か、侍みたいな名前ですね。」

「侍・・。あの鎧兜を着た連中か?」

「知っているんですか?」

「ああ。会ったこともある。」

「ジロウザさんは、長生きなんですね。」

「まあ、・・そうだな。ところで、お主らの名前を聞いていなかったな。」

「あぁっ!すいません。僕は航太です。こっちはトラ。」

「トラよ、よろしくね。ジロウザさん。」

「ああ、よろしく。」


「元々ワシは、侍達の村で暮らしておった。」

ジロウザさんは、若かった頃の話をしてくれた。

「けっして栄えてはいなかったが、皆が協力して村を支え、有事の際には、団結して事にあたる、本当の意味で強き集団であった。」

(いくさ)とかもあったんですか?」

「ああ。戦など日常茶飯事であったよ。」

「へえ、かっこいいなぁ。」

「かっこいい、か。」

「違うんですか?」

「たしかに、戦は晴れの舞台かもしれぬ。だが、人が死ぬ。さきほどまで、元気に笑っていた若人がな。酷い話よ。」

ジロウザさんは、俯き、低い声で言った。

「そう・・ですよね。ごめんなさい。」

「気にするな。今を生きる航太には分からなくて当然なのだ。」

ジロウザさんは、そう言ってくれたけど、戦って、現代で言えば戦争だ。それくらい、子供の僕でも分かるし、それはゲームじゃない。撃たれたり斬られたらそれまでだし。スマホゲームばっかりやってると、そういうことにすら、鈍感になるのかな。何か嫌だな。そういうの。

「まあ、とにかくだ。侍達の村は、戦もあったが、豊作の祭りなどもあったからな。日々、充実はしておったよ。」

「お祭り、楽しそうですね。」

「ああ、年寄りから童どもまで、それは楽しんでおった。」

いつの時代も、お祭りといえば、皆盛り上がるんだなぁと思った。出店(でみせ)に打ち上げ花火、思い出すだけでも、ワクワクするなぁ。

ラッキーは、花火の音が苦手みたいで、小屋の中で震えていたっけ。犬は耳が良いから、かなり大きく聞こえたのかも。

ラッキーの事を考えたら、途端に目頭が熱くなった。やばい。

「どうしたの?」

トラが心配そうに見てきた。

「何でもない。大丈夫。」

「それなら良いけど。」

「さて、話はこの辺にして、子の里まで案内してやろうかの。」

「ありがとうございます。」

「こちらこそ、ありがとうな。久々に若いもんと話せて楽しかったぞ。」


「ジロウザさんは、その、ずっと一人というか、ここで守護を?」

こんな場所で、たった一人(この場合、一頭?)、子供達の見守りをしていたら、僕なら寂しくなってしまう。

「そうじゃ。まあ、たまに元気な童が迷い込んでくることもあるが。ほとんどはな。」

「そうですか・・。」

「そんな顔をするでない。今日は珍しい客人のおかげで、良き退屈しのぎになったわ。」

「ありがとうございます。・・あの、もし来れたら、また来ても良いですか?」

「また来るとな?ああ、楽しみにしておる。」

ジロウザさんは、何だか嬉しそうだ。

「・・・航太よ。」

「何ですか?」

「いや、何でもない。さあ、案内しよう。」

ジロウザさんは、何か言いたかったみたいだけど、案内してくれるというなら、そうしてもらおう。


僕達は、ジロウザさんの案内で、お社から移動(ゲーム的な言葉で言うなら、転移?)した。霧の中を歩いても行けるようだけど、ジロウザさん曰く、早くラッキーとやらに会いたかろう、だってさ。そりゃ、もちろん。会えるなら、1秒でも早く。

戌の里まで行けば、同族がたくさんいるらしいから、そこで聞いてみたら良いって。自分の名前を出せば、多少は力を貸してくれるとも言っていた。ありがたい話だ。

ジロウザさんの話では、こちら側の世界では、お社は、世界の要所要所を繋ぐもので、お社を管理する者の許可さえあれば、移動にも使えるとのこと。覚えておこう。


転移した僕達は、本来のスタート地点である、子の里に着いた。

「広い空洞、だね。」

「そうね。子の里は、鼠達の住処よ。見てごらんなさい。」

「何か、小さい穴がいくつも空いてるね。」

「あそこから、里に入ることができるわ。」

「里に行ったら、どうしたら良いの?」

「まずは、里の(おさ)にお目通りを願うわ。」

「それから?」

「長から与えられた試練に挑むのよ。」

「試練?テストみたいな感じ?」

「そうね。先へ進む資格があるかを問われるわ。」

「難しいの?勉強はあんまり得意じゃないんだよね。」

「勉強といえば勉強だけど、もっと大きな意味での、よ。」

大きな意味での勉強、まるで予想がつかないけど、先へ進むためならやるしかない。

「よし、行こう!!」

「ちょっと待って。」

「どうしたの?トラ?」

「この姿だといろいろあるのよ。」

そう言ったトラは、何やらゴニョゴニョと呟いた。

そして、マンガみたいな煙が出た。

「っよし。行きましょうか。」

そこには、どう見ても猫耳の女の子がいた。

「誰?」

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