学園都市の中心で喫茶店を開いた
「ようやく念願のお店がもてたよ」
「とうとうやったわね、アナタ」
感慨深げに店の看板を見上げる夫婦、マスターのジェイソン(38)と看板娘キャリー(22)である。歳の差がかなりあるが、この世界ではよくあることだ。何せ寿命が千年やら五千年やらという種族がゴロゴロいる。だから、年の差婚など、大した問題にならない。
問題は見た目だろうか。
ジェイソンは身長230センチメートルを超えるほどの巨体。眼光鋭く、どこかの世紀末覇王を思い起こさせる。上半身の筋肉だけでも威圧感が半端なく、着ている上着も彼に合わせて作っているにも関わらず、その体格の凄まじさを隠し切れていなかった。
それに対してキャリーはというと、身長が公称152センチメートル。華奢で儚げな雰囲気を纏う、生粋のお嬢様の出で立ちだ。
さて、二人はとある事情でこの世界に乳児転生してきた者達だ。それがたまたま、ジェイソンが冒険の旅の途中でキャリーと出会い、彼女が無理やりついてくる形となって現在に至る。
店については、ジェイソンの前世がもともと喫茶店のマスターであった事と、キャリーの前世がスイーツを作るパティシエであったという事情により、二人でお金を貯めて喫茶店を開こうと意見の一致を見たからだ。冒険者の稼ぎを堅実に貯め、十年がかりでようやく開店にこぎつけたのだ。
「さ、昼前には開店するぞ。準備開始だ」
「了解!」
こうして喫茶店『プチ・キャロル』がオープンする。
入り口の戸を押し開けると、正面にケーキ類が展示されているガラスケースがあり、その右側に支払いのカウンターがある。さらに右方向には店内で飲食できるような四人席のテーブルが三つ。カウンターの左側には梱包待ちのお客用の長椅子があった。
彼ら二人が慎ましく生活できるだけの儲けは出るだろう。ジェイソンは掃除用具を出し、店内の掃除を始める。キャリーは厨房へ入り、今日の分のケーキを含めたスイーツ類の下拵えに取り掛かった。
さてここで、この街の状況について説明せねばなるまい。
ここはトータス王国の第二都市であり、学園都市でもあるヘーゼルという街だ。人口およそ70万人を越える。
文化水準はそれなりで、地球で言うところの中世ヨーロッパを思い浮かべればいいだろう。科学技術水準は低いが、魔術が存在するため、それを活用して発達した魔道具のおかげで生活水準は現代に比べて非常に高い。衛生状態は良く、公害も無いからだ。その辺りは転生物語系のテンプレとほとんど変わらない。
だが、ジェイソン達の下調べが甘かったことが、二人の精神をガリガリ削ることになる。
開店から半年。お客さんはボチボチである。
飲み物は紅茶七銘柄のホットとアイス。
コーヒーは三銘柄のホットとアイス。
ケーキ類が十二種。パイが六種。
軽食にサンドイッチ類が四種。パスタ系が三種。
いずれも味よし、ボリュームも適量、お値段はやや控えめと、評判が広まれば客が途切れることは無いほどだろう。だが現実に、お客の入りは悪い。
「お客さん来ないねー」
「ああ」
閑古鳥という現実。開店して三週頃までは良かった。マスターの姿を見ても少々驚くくらいで、料理やドリンク・スイーツを楽しむお客でだいたい席が埋まっていた。あの連中が来るまでは……
「学園都市というのをナメてたよ。これほど影響があるとはなぁ……」
「それを言っても仕方ないと思うけれど、まさかあれほど絡んで来るなんて、予測不能よねぇ」
学園都市。
東西南北にそれぞれある有名校である。
東に位置するのは【カーヴェル魔法学校】、共学校だが、女子が七割を占める。
西に位置するのは【グランデール騎士学院】、共学だが男子が七割を占める。
南に位置するのは【カーデール学院】、平民向けの共学で男女比は同等。
北に位置するのは【グランヴェル貴族院学園】、貴族と執事・メイドを教育する機関のため、貴族が一割、執事が三割、メイドが六割となっている。
ジェイソンとキャリーは、この学校名にとお〜〜〜っても心当たりがあった。それは、前世で売れてた恋愛ゲームの舞台だったからである。
まず、発端となるコンシューマーゲーム、【カーデール学院】が舞台の【胸キュン♡ 学院メモリーズ!】
主人公の男子高校生が、複数の女生徒と日常生活の中で恋愛度を高め、意中の一人に卒業の日に告白されて恋人となるというゲームだ。
次に、18禁のエロゲとして出たのが【カーヴェル魔法学校】を舞台とした、【マジカルウィッチーズ】
【胸キュン♡ 学院メモリーズ!】と似てはいるものの、主人公が卒業の年なので、攻略期間は1年間だ。
比率的に女生徒が多いためにラッキースケベが多発し、複数の女生徒と付き合うことも可能。無論、Hシーンも盛りだくさん。特定の女生徒の組み合わせと好感度によっては、ハーレムENDも有りであった。
三つ目が、【グランデール騎士学院】を舞台とする【マジカルウィッチーズ ガールズside】
女性向けのエロゲというコンセプトから、逆ハー・BL要素が有り、腐女子に絶大な人気を誇った。無論、男性諸氏には地雷。
最後の【グランヴェル貴族院学園】を舞台とする【高貴なる狩人と美しくも愚かな獲物達】は、ダーク系鬼畜エロゲーである。プレイヤーは男性、又は女性の主人公を選択し、悪徳と虜辱の限りを尽くすという、内容を説明しようとすると伏字のオンパレードとなるものだ。
これらが一つの学園都市になっているとは、どういう理由であろうかと考えた時、ジェイソンには一つ、心当たりがあった。それは、これらのゲームは同じキャラデザイナーが関わっていたことだ。
ここでは仮に、A氏と呼ぶ。
【胸キュン♡ 学院メモリーズ!】で人気を博したA氏は、別のソフト会社からの誘いを受け、その内容を予め聞いた上で移籍を決意。【マジカルウィッチーズ】にて渾身の力を注ぎ込み、アダルトゲームに於いて記録的な売り上げを叩き出した。シナリオの出来がとても良く、それを後押しするかのような生き生きとしたキャラクターと瑞々しい背景は、プレイした人々の絶讃を浴びる。
ところが、二匹目のドジョウを狙った制作サイドは、主人公が女性という女性向けのゲームを選択。これにはシナリオ担当がやや難色を示し、女性のシナリオ担当・B嬢を起用。これが結果的に不味かった。
キャラクターのプロフィールとシチュエーションを元に、無難なシーンをキャラデザイナーのA氏に依頼。
その他のアダルトシーンをB嬢の懇意とするC嬢に任せた。C嬢はA氏のファンで、彼の絵柄を真似て同人誌を出していた経緯がある。その際にはキチンと許可申請を出していたため、なにも問題はなかった。
だが、A氏にとってBLは地雷だった。同人誌を出す分には許容はするが、贈られてきた見本すら見たことがない程に嫌っていた。ゆえに、自らが関わっている作品にBL要素があるということに、そして予め知らされて居なかったことに、憤りと嫌悪感を募らせる。それを会社に上申するも、すげなく却下された。
これがA氏と会社側に埋めようの無い溝となり、A氏は別のゲーム会社に移籍してしまう。
その後、A氏の監修の元、これまでの実績を破壊し尽くすような作風でダーク系鬼畜エロゲーの虜辱シュミレーションゲームを創り上げた。それが【高貴なる狩人と美しくも愚かな獲物達】である。
ハッピーエンドもトゥルーエンドも無い、ただ最後には全て破滅して終わるような救いのなさが、これまでの作品否定を揶揄するところから、かえって良作との批評がなされた。
学園の雰囲気もそれぞれの作品の影響を受けている。
学園の傾向はともかく、それぞれの学院・学園にハーレム、又は逆ハーレムを築く主人公とも呼べるような人物がいる。そんな連中が、それぞれの学園からちょうど中心の位置にあるこの喫茶店で、それぞれのドラマを繰り広げて行くのだ。
それがただのイチャ付きならば問題はない。問題は、主人公を巡ってその攻略対象らしき連中が暴れることである。口喧嘩程度はまだ可愛いもの。殴り合いや取っ組み合い、果ては魔術や武器を使った決闘騒ぎまでがこの店内で繰り広げられる。割れて使い物にならなくなった食器は数知れず。かなり丈夫なはずのテーブルや椅子までが破壊されることすでに五回となるに至り、温厚なジェイソンですら流石に切れた。
「てめぇら! 表へ出ろ!」
殴りかかる者もいたが、デコピン一発でダウンさせ、男女関係無く、二十名を越える学生を正座させて説教。壊した物をそれぞれ原産地に行き、各自で手に入れてくるようにと、巨体を生かした筋肉による威圧と凶状持ちと思われるような眼光で有無を言わさず約束させて解放した。その間約三時間。
ちなみに椅子やテーブルは、魔の森の奥に生息するエルダートレントという、歩く木の魔物を素材に使っている。
食器類は陶磁器だが、釉薬にレッドドラゴンの卵の殻を砕いた物が混ぜてあるので、それがないと、独特の薄っすらピンクの色合いが出せないうえに、丈夫にならないのだ。だから今回それらを壊した連中の喧嘩がどれほどの規模であったのかが想像できるだろう。因みに、食器類は象が踏んでも壊れない。
いずれにせよ、準備する段階から難易度の高い素材集めをしなくてはならない。しかも他者に代わってもらうこともできない。
そうした縛りを課す事で、物を大事に扱うことを体感させようという意図がある。故に、彼らの保護者からの抗議は一切突っぱねた。痴話喧嘩で物を壊すなど、恥以外の何物でもないからだ。
そして材料が揃い、店舗の修繕が終わるまで三ヶ月。以来、来る客は学園の一部の生徒ばかりになった。
そう、店を壊し、説教された連中とその友人達だ。おかげで客足は遠のき、毎日騒動に巻き込まれている。
orz
「どうしてこうなった……」
「どうしてもなにも、あんだけやればねぇ……」
主人公体質高レベル能力補正のかかったイケメン達を完膚無きまでに叩きのめし、歪んだ人間性を真人間に矯正したのだから、皆が尊敬の念を抱くのにさしたる時間はかからなかった。
更には、修理の原材料を採取してくる過程で、その過酷さと採取対象の強さを実感した上で、マスターの強さを相対的に認識したというのもある。
ジェイソンとキャリーは二人でそれらを集めたと言っていた。自分達なら楽勝だと思っていたら全く歯が立たず、結局あの場にいた全員が協力してようやくギリギリで採取できた。それも数人が重傷を負うという犠牲の上でだ。治癒魔法があるとはいえ、彼等は今もリハビリ中である。
そうした経緯から二人の強さが知れ渡り、兄貴・姐さん・師匠・先生・御主人様・お姉様・親分・隊長・軍曹殿などと好きに呼ばれるようになったのは、頭痛が痛いことであった。
……うん、表現方法としては間違っているが、心境としては間違ってない。そのうち腹痛も痛くなるだろう。
何せ、キラキラしい少女漫画のイケメン・美少女達が、○塾、又は世紀末覇王伝説、又は流派・○方不敗、又は重いコンダラと化したのだから、暑苦しい事この上ない。
「マジでどうしてこうなった!?」
「大事な事じゃないから、二度も言わなくていいよ」
プチ・キャロルは今日も平常営業中!




