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苦手な方はご注意ください。

人形狩り

作者: フジ99


 雨音が耳に痛いほど響く夜だった。


裕介は冷たい雨の中 塀の陰から通りをうかがった。

手の中で握り締めたナイフだけが熱を帯びていた。

もうじき 奴がここを通りかかる筈だ。

あの娘を奪い去った 殺しても飽き足らぬあいつが、、、。


 裕介は表からカーテン越しに見たのだ、

彼女の部屋に入り込んだあいつが 一糸纏わぬ彼女の首筋に鋭い何かを突き立てて

彼女がまるで糸の切れた操り人形のように崩れ落ちたのを。


雨音を透かして硬い靴音が聞こえてきた。

裕介は再び塀の陰から通りをうかがい、奴の姿を確認した。

それはいっそ異様な光景だった。

黒い帽子に黒いコート、黒いスーツを纏い、抱え込んでいるのが

これまたひどく大きな黒い鞄だったのだから。


そう、あの鞄はまるで まるで刑事ドラマに出てくる死体袋のようではないか。

そのイメージは裕介の網膜の中で白い火花を伴って燃え上がり、

彼の中に僅かばかり残っていた理性の糸を一瞬にして焼き切った。


裕介は堂々とした態度で塀の向こうへと角を曲がって姿を現し

黒の男と対峙した。

男は一瞬警戒した表情を浮かべたが 腕を組み思案顔で現れた裕介が

晴れやかな笑顔を見せて「こんばんは」と挨拶したので 束の間警戒を解いた。


そのまま通り過ぎるかに見えた裕介は つまずいたように体勢を崩し

男のほうへ倒れかかる。

組んだ腕の陰には刃先を上に向けたナイフが巧妙に隠されており

男に体ごとぶつかった瞬間、その刃先が相手の体の中心へと吸い込まれた。

皮膚を裂き肉にめり込むナイフの感触に裕介は 彼の狂気が

喜びの声を上げるのを聴いた。


その時、男の鞄の口がいくらか開き アスファルトの舗道に

中身のひとつが水しぶきを上げて落ちた。


ナイフから手を離して裕介は うずくまってあえいでいる黒の男を見下ろして

満足感を味わった。

しかし、次の瞬間彼は全身が氷結するほどの衝撃を味わった。

舗道に落ちた「それ」が じっと裕介を見つめていたのだ。

そして「それ」はほんの数時間前まで彼女であった「モノ」なのだ。

危うく悲鳴を上げそうになったが更なる衝撃が彼を捉え 沈黙の中に釘付けにした。

「彼女」の首の切断面から露出していたのは骨や血管ではなく

ワイヤー、サーボモーターそして原色の配線コードだけだったからである。


「彼女」がこの社会で「セクサロイド」と呼ばれる 性的奉仕を目的に作られた

アンドロイドであった事を裕介は理解した。

更に 数日前のニュース速報では市内の某地域で生じた原因不明の異常電磁波が

彼らの電子的制御システムを狂わせた事による殺人事件が発生したと報じていた。

これもその件に関係しているのだろうか?


そしてこの事態を重く見た国は 対アンドロイドのスペシャリストを該当する

各地に送り込む構えであるとも言っていた。

では、目の前で痛みにうずくまるこの男こそ人の姿をした国家機密であると

いうのだろうか、、、裕介は呆然とした。


と、その時 首に鋭い痛みのようなものを感じて振り向くと、うずくまる男と

そっくりな黒ずくめの男が巨大な銃を構えて立っていた。

裕介が何か言おうとした瞬間、銃口が火を噴いて衝撃が胸を貫き

何も見えなくなった。

男の声だけが事務的に響いた。

「男性型殺人ロボットを一体 破壊完了した。」

裕介は、こんな馬鹿な間違いがあるか!と 苦情を言おうとしたが

胸の傷からショートした配線が立てるパチパチという音が聞こえたきり

一切何も感じられなくなった。


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