8シルク
商館についた。
受付の所で、先に商館に入っていた
アクスに呼ばれた。
【アクス】「彼が、例の者だ。『ショウ』、こちらの方に預かっている『本』を渡すんだ。」
【俺】「はじめまして。」
挨拶をしたが、受付の女性は返事すら寄越さない。
(たんたんと仕事をこなすタイプなんだな。
こんなんで、接客業としとやってけるんだろうか?まあ、関係ないけどね。)
オルガから預かった本を渡す。
彼女は呪文らしきものを唱え、本に手を添えた。
一瞬淡いオレンジの光が灯ると消えた。
「確認しました。」
チャリンチャリン
8シルクがアクスに渡された?
【アクス】「ボウズ、辛いだろうが、頑張るんだぜ。」そう言ってアクスは消えた。
また一人になった。
【俺】(ボウズか。こっちの世界に来てから1年半、実年齢は20歳近いんだけどなあ。見た目年齢より、若く見れるんだろうか。)
気を取り直し、受付の人に
オルガより教えられた、館長の名前を告げることにした。
(えーと『タクル』だっけ?そういや、オルガは会ってから本を見せるって言ってたな。順序が変わってしまったか。)
【俺】「『タクルさん』に話があるんだけど。」
【受付】「分かってます。しばらくそこでお待ちなさい。それに、『タクルさん』では無く、『タクルート様』です。
そろそろ、身分をわきまえなさい。
田舎ものとは言え、許される限度があります。」
【俺】(嫌なやつだ。一応紹介狀を持った客なのに)でも、俺は寛容なので許す事にした。
結局、館長があらわれたのは、それから5時間後のことだった。
【タクルート】「我が『タクルート』である。」
小太りの偉そうなドワーフが出てきた。
(待たすにしても程度があるだろうよ。
口には出さなかったけど、内心毒づいた。)
「確かに『デュパ』だな。」
値踏みされているような嫌な感じがした。
「ついて来い。」
応接室らしきところに通された。
‼︎
真っ赤な髪をしたコスプレ野郎がいた。
少なくともそれが第一印象だった。
(でも、誰かに雰囲気が似てるかな?
誰だろう?)
そいつの前の椅子に腰掛けようとしたところ
『タクルート』から声が飛んだ。
「誰が座って良いと許可した。」
あまりの剣幕にビクッとして
たち上がった。
(どうやら、お偉いさんらしい。。)
壁際に立って様子を伺う事にした。
【タクルート】「どうです?」
【赤髪】「確かに『デュパ』だな。
だが、我は『デュパの少女を探せ』と命じたはず。『薄汚れた男』では無くな。わざわざ出向いたのに無駄足になった。帰る。」
【タクルート】「お代は?」
【赤髪】「お前は何か役に立つ魔法は使えるのか?」
俺に聞いてきた。
使えるわけない。
正直に答えた。
【赤髪】「16シルク」
【タクルート】「30シルクは頂きませんと。」
【赤髪】「18シルクだ。」
「魔法の使えん幼年期を過ぎた男にこれ以上払えんな。仕事を仕込むには歳が立ってる。
金はいつも通り従者より受け取れ。
そうさな。『ガリオネ鉱山』に送っておけ。」
【タクルート】「むたいな。。」
言うだけ言うと赤髪は出て行った。
【タクルート】「しみったれやろう」
そう、ドワーフが毒づいたタイミングで
なぜか赤髪が戻ってきた。
「。。。。」
【赤髪】「気が変わった。『セツの屋敷』へこいつを送れ。あやつの所で下男を探していたからな。」
言うだけ言って奴は消えた。
【俺】「いったいどう言うことだか説明して貰おう」
薄々気がついていたが、『タクルート』に詰め寄る。
【タクルート】「奴隷に売られた分際で、主人に逆らうとは愚かだな。」
『タクルート』は、あの本を手に持ち、呪文を唱えた。
それに呼応するかの様に、本から赤光が出て
頭を締め付ける。
本を奪い、破ろうとしたが。。
出来なかった。
もがく俺を見ながら、『タクルート』は笑った。
俺の人生は18万円(18シルク)で売られたのだ。
その後、身ぐるみを剥がされ木の檻に入れられ俺は火の一族の王都 『パルバダート』へ送られた。
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裸にされ、手と足に枷をされた状態で輸送されるのは地獄だった。
勿論トイレなどないし、食べ物はパンを数きれ。
人間としての最後の自尊心すら奪われ
動物のように檻に入れられたのだから。
「雨の中、少女と遭遇した俺の『運の無さ』を
「この世界へいざなった『コトワリ』を
「コトワリが眠るキッカケとなった『自分の迂闊さ』を
「俺を騙した『オルガ』を
「騙された『自分の愚かさ』を
「俺を苦しめた『タクルートと赤髪』を
そして。。。
「この『不条理な世界すべて』を
『ノロッタ。』
人生で初めて血の涙を流した。
そして暗闇に落ちていった。