87:連鎖する怪談にまつわる小ネタの話
昨日、何年前かも思えてないくらい昔に一回だけ年賀状を出した程度の付き合いだった奴から、手紙が届いたんだ。
中身は今時珍しい、不幸の手紙。
もうこの時点でふざけんなって思ったけど、その手紙はなんかおかしかったんだ。
見るからに紙が古くて、ところどころ破けてるし日に焼けて薄茶色になってて、内容も普通は「この手紙を受けとったら、一週間以内に10人に同じ内容の手紙を書いて送らないと不幸になります」って感じじゃん。
その手紙も大体の内容は一緒だけど、この手紙をそのまんま封筒だけ移し替えて一人に送れって書いてあったんだ。
で、とりあえず今すぐにヤバそうな雰囲気はなかったのと、一週間って期限がはっきりと書かれていたから、羽柴に相談するのは明日でいいだろうって思って寝た。
そしたら、酷い夢をみたわー。
何か気がついたらポストの前にいて、宛名の書いてない封筒とペンを持ってたんだ。
その封筒が、不幸の手紙だってことはもう慣れてるからわかってけど何でこんな夢? って思ってたら、「誰に送るんだ?」って声がして、その声の方を見たら俺の後ろに大きな木があって、そこで首を吊って死んでる男がいたんだ。
土気色の顔に目玉や舌が飛び出した、どう見ても死んでますな見た目で、「お前は誰に送るんだ?」とか聞いてくるんだぜ? 普通に悲鳴を上げたわ。
で、俺は誰にも送る気はなかったけどあえて送るんなら、そもそもこれを送り付けてきた元友達かなーって思った瞬間、首つってる奴が「こいつか?」って言って、その首つりが知らん男から俺に不幸の手紙を送って来た、元友達に変化したんだ。
その後も次々、あいつは自分の姿を俺の友達や知り合いに変化させて、俺に友達や知り合いの首つりを見せつけるんだ。
もう夢の中で泣きながらうずくまっちゃったんだけど、それでもあいつは宛名を書け、誰かに送れ、誰かの死を願えって言い続けるんだ。
その声も俺の友達とか家族の声になるし、マジで最悪。
まぁ、最悪は見ないで済んだのが不幸中の幸いだけど。
もう情けないけど俺にはどうしようもできないから、早く目覚めろ! 朝になれ! 朝になったら羽柴に連絡して……ってつい羽柴の事を考えた瞬間、「私にするの?」って羽柴の声が聞こえて、見たくないのに勝手に目がこじ開けられて、首が上を向いたタイミングで、枕元に置いてあった目覚ましが倒れて俺の頭に直撃で目が醒めた。
……何か前にも、似たようなことあったな。あの目覚まし、バランス悪いのかな?
まぁ、どっちも助かったからいいんだけどさ。
その後はもちろん寝ずに徹夜して、学校に行って即行、羽柴にまた厄介なのを押し付けられましたと頭を下げたよ。
俺がなんか言う前に、「鞄に何を入れてるの?」って訊かれたけどな。
羽柴に手紙を見せて夢の事を話したら、羽柴はその場でノートからページを丁寧に二枚切り取って、そんで糊で器用に封筒を二つ作って、一枚は俺に渡して羽柴の名前を書いて自分に渡せって言うんだ。
なんか、ちゃんと封筒に入れて自分が顔と名前を知っている相手に送らないと、何したって本人の元に返ってくるタイプの呪物になってたんだと、あの手紙。
何とかするってわかってても羽柴に渡すのは嫌だったけど、俺がためらってたら羽柴が「大丈夫。すぐに私も送るから」ってもう一枚の封筒をぴらっと見せてきたから、素直に書いて渡しといた。
そんで羽柴、受け取ったら本当にすぐに開けて中身を見ずに即行、もう一枚の封筒に入れて、サラサラって綺麗な字で名前と住所を書いて、その封筒、紙飛行機にして窓から飛ばしやがった。
……いつもより平和的なやり方だけど、もはやあいつが書いた知らない男の名前が、あの手紙の初めの差出人であることなんて確認しなくてもわかり切ってるし、それをどうして知ってるかなんて「羽柴だから」で十分だけど……
宛先、「地獄」って書いてあったんだよなぁ。あれ。
羽柴、紙飛行機を飛ばしてすぐに「あ、おちた」って呟いてたけど、それは紙飛行機が地面に落ちたのか、それとも別の所に誰かが堕ちたのかはわからんかった。
別に知りたくもないけど。
ちなみに俺に不幸の手紙を送った本人は、紙飛行機で飛ばした後にわざわざそいつの教室まで行って、頭に回し蹴りを入れてた。
ありがたいけどそこまでフォローせんでいいよ、羽柴さんや。
あ、回し蹴りで思い出した。他にも似たような「この話を聞いたら何日以内にその幽霊が現れる」ってやつを打ち止めしてたわ。
もちろん、回し蹴りで。
俺は羽柴が打ち止めした後に羽柴の友達から聞かされたから詳しくは知らないんだけど、羽柴が小2の頃、その友達の習い事の教室での友達に相談されたんだって。
その子の学校で流行ってる怪談があって、喪服の女が学校近くをうろついてるだか、その女には影がないとか、墓場はどこにあるかを訊かれるとか、まぁよくある怪談なんだけど、その女の話をしたら数日以内に絶対にその女を見かけるんだってさ。
喪服の女の人くらい、そりゃ何日かかければ一人ぐらい見かけるだろって今なら思うけど、小2ならそんな偶然も「怪談の女だ!」って思っちゃうよなー。
そんな訳か何か爆発的に流行っちゃったんだけど、どうもただ偶然喪服の女を見かけただけじゃなくて、喪服の女に「私の話をするな!」っていきなり怒鳴られたり、追い掛け回された子もいるらしくって、怖がりなその子が助けを求めたらしい。
で、羽柴は友達の家でその子の話を聞いてたんだけど、話が終わってすぐに羽柴はふらっと立ち上がってそのまま玄関から出た。
もちろんいきなりどうしたんだろうって、友達と相談に来た子が羽柴を追ったんだって。
……羽柴の友達は、「あの頃はまだ、あの子のやることに慣れてなかったわ」とか遠い目してたわ。
うん、もうお前は羽柴がふらってどっかいっても心配しないもんな。したとしても対象は羽柴じゃないもんな。
羽柴を追って玄関に行ったら、羽柴は玄関から出て門を出たところでいきなり回し蹴りをかましたらしい。
なんかすごい勢いで、家の前を走って来た喪服の女に向かって。
ただ、羽柴の蹴りがあまりに流れるような自然体な動きで、かつ高速だったから見てた二人がほぼカウンターで蹴り飛ばされた女が喪服であることに気付かなかったらしく、普通に「あの子は何やっちゃってるの!?」って意味で悲鳴を上げたらしい。
けど、駆け寄ってその女を見たら喪服だし、血走った目で「私の話をするな!!」って怒鳴ってきて、それでようやくあぁ、いつもの物理除霊かと友達は遠い目で納得して、その友達は困惑してた。
ちなみに、喪服の女は尻餅ついた状態で鼻血があふれてるのを手で押さえながらだったから、もはや怖さより同情したって言ってたわ。相談した子も含めて、同情してた。
もちろん、やらかした張本人はしないけどな!
羽柴はその女が怒鳴った後、髪をわし掴んでそのまま塀に頭を叩き付けて、「して欲しくないならうろつくな」とだけ言って、友達の家の中に帰って行った。
その後、その喪服の女はどうなったの? って訊いたけど、とりあえず動かなくなってたとしか答えてくれなかった。
……羽柴、その女は本当にオカルト的な存在だったんだろうな?
頭以外はおかしくない、普通の人間じゃなかっただろうな。
それからもうひとつ、羽柴が打ち止めしたのがあるわ。
これも詳しいことはわかってないんだけど、小4の頃に担任が雑談で不思議な話をしたんだ。
あ、羽柴を泣かせたあのクソ女じゃねーよ。そいつがやめてから新しく担任になった男の先生が、休みの日にドライブに出かけたら、他のと比べて真新しいガードレールとそこに飾られた花瓶と花を見て、あぁ、事故があったんだ、可哀相になぁって思った。
それだけで、飾られた花瓶を倒したとか手を合わせたわけでもないのに、何故か夢でその女がやってきたんだって。
夢は眠ってる自分を真上から眺めてるアングルで、デコがカチ割れた血まみれの女が寝てる先生の顔を覗き込んで、「……悪くはないけど、もっと若い方がいい」とか言ってすぐに消えた、それだけの夢。
この時点では先生は、ちょっと怖い悪夢としか思ってなかったから俺たちに雑談で話したんだけどさー、これも話したら聞いた人の元に来ちゃう系だった。
しかもその女、道連れを探してた。
なんか先生が話した翌日から、先生と同じ夢を見た奴らが続出したんだ。
初日は4人、次の日は3人、さらに次の日は5人同じ夢を見たって言い出したら、もう偶然なんか言えねーよな。
しかも、その夢を見た奴らの話をよくよく聞いてみて、そんで名前を確認したら、どうも女は出席番号の順番に先生が話した生徒の俺らの元に出て、どいつを道連れにしようか探してたんだと。
そういや、何で羽柴が先生が話をした時点で特に何もしなかったんだろう? って後になって思ったけど、あいつ先生の話を聞いて「好みのうるさい変態で良かった」とか言ってたわ。
そして実際、好みのうるさいショタコンだった。
とりあえず、女子は女子の時点で顔を覗き込んだらすぐに消えてたんだと。
で、男子はというと顔を覗き込んで「……もっと賢そうな子が良い」とか、「可愛くない」とか「んー、他にいなかったらこれで……やっぱないわ」とか、失礼極まりないこと言って消えてたらしい。
頭がカチ割られてる変態に言われたかないわ。
何か好みがうるさくて妥協が出来ないから、悪霊なんだけど幸いながら被害がなかったらしくて、それで羽柴は静観してたんだけど、別にほっとく気は初めからなかったらしい。
羽柴が特に行動に移さないから、ムカつくけどうちのクラスは全員その霊の好みじゃないんだろうなって思って、俺も他のクラスメイトももうその現象は「変な夢」で片付けて、今日は俺のとこまで来たから、次はお前だぞーとか言いあうくらいになってた。
でも、俺の所には来なかったんだ。
俺より後ろの奴も全員。
羽柴、昼間はそいつが死んだ場所にいるし、夜はクラスメイトの家を回ってるしで、除霊の為に遠出するのも夜にクラスメイトの家に張り込むのも面倒だったから、自分の番が来るまで待ってたみたい。
で、羽柴の所に来て、羽柴がその霊の連鎖を打ち止めしたんだけど、詳しいことは聞いてない。つーか、聞きたくない。
羽柴が、「枕元にアイスピック、金づち、のこぎりを用意した」と言った時点で、もういいですと断った俺は悪くない。
* * *
『……たぶん、万が一にもあんたの元に行かないようにしたんでしょうけど、もはや物理除霊じゃなくて猟奇除霊な気がしてきたわ』
よくある怪談の詰め合わせました。
どんなに詰め合わせても、結果は同じ。
羽柴さん、せめて除霊は物理の範囲内で、猟奇にならないで!!
次回は緩いコメディです。




