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85:恋バナの話

 ……今日、地味に怖い目に遭った。

 被害は特に何もないんだけどさ、地味に怖いし何より俺の精神ダメージが酷い。


 今日さ、掃除当番だったから羽柴に先に部活行ってもらって後から部室に行ったら、何か羽柴も先輩たちも先生もいなかったんだ。

 何故か、紅葉先輩だけが部室で単語カードめくってた。


 もう引退して、部長とは違ってほとんど遊びにも来なかったのに珍しいなーって思ってたら、まぁ予想通り逆らえない姉に無理やり連れてこられてたんだって。

 何か今日は、部長があの生まれ変わりの事で羽柴を親戚に紹介しちゃって、別の親戚に骨董好きの人がいて、その人が持ってるいわくつきを祓ってくれって頼まれたから部長はノリノリウキウキ、先輩は死ぬほど嫌がったけど無理やり、そのいわく付きの壺やら絵画やらを持ってきたんだってさ。


 で、ほとんどがいわくなんて嘘、何でもないただの骨董品だったけど、一つだけヤバいのがあったから、それを羽柴がいつものように除霊という名の破壊をするために、今ちょっと外に出てるらしい。

 でかめの壺がそのヤバい奴だったから、室内より外で壊した方がいいだろうって判断したんだと。


 ちなみに、俺は初め壊していいの!? って思ったけど、「その子に除霊を任すのなら、ヤバいのは跡形もなく壊してもいいって意味だよね?」と部長は事前にちゃんと親戚に釘を刺してくれていた。


 その除霊というかただの破壊活動でしかないだろうけど、まぁ部長や先輩たちが面白がって見学に一緒に行って、怖いものが嫌いな紅葉先輩だけがここに残ってたって話。

 それ聞いて納得して、俺はカバンを置いたらテキトーな椅子に座ってそのままスマホを取り出した。


 ヤバいって言っても先輩たちがぞろぞろと全員ついてくるのを羽柴が止めなかったってことは、羽柴的に周りに誰がいても問題ない程度なんだろうって思って、さして問題なかったはずのものも大問題にしてしまう俺は行かない方がいいよなって考えて、そのままみんなが戻ってくるまで、暇つぶしをするつもりだったんだ。


 まぁ、なんかする前に紅葉先輩に「行かないのか?」って訊かれたけど。

 訊かれてさっき言ったみたいなことを答えたら、なんか先輩が呆れたような目で俺を見てさー、こんなことを言い出したんだ。

「お前ってさ、羽柴のどこがそんなにいいの?」って。


 言われて盛大に噴き出したわ。何か飲んでなくて本当に良かった。

 もうその後は盛大にパニくっちゃって何言ったか覚えてねーの。

 とにかくパニクる俺を、先輩が呆れた顔で「隠してたつもりかお前? たぶん張本人以外、みんな気づいてるぞ」って言われて、魂抜けたわ。


 ……うん、うまく隠してる自信なんかなかった。覚悟はしてた。

 でも張本人以外みんなってマジですか?

 つーか何で本人気づいてないの? いや気づかれたら困るけど、ものすごく困るけど、もうそれならいっそ気づかれてる方が諦めつくよ!

 何なんだよ、この羞恥プレイ!!


 そんな感じで頭を抱えて悶絶してたら、さすがに悪いと思ったのか先輩が「あー、絶世の美少女で、変なところだらけだけど、性格は基本的に良いから別に好きになるのはおかしくねーよ」とか言い出した。

 いやもうその話題から離れてくれたほうが、俺的には嬉しかったんですけどね。


 けどさ、俺が羽柴の事好きっていうのを知ってる友達は何人かいるけど、照れくさくってどこが好きかなんて誰かに言ったことがなくて、なんかちょっともやもやが溜まってたんだ。

 何も言わないと、ただ羽柴が美少女だから、霊感があって俺のことを守ってくれるから俺は羽柴が好きだって思われるのは嫌なのに、改めてどこが好きかってのは本当に説明するのは恥ずかしかったんだけど、どうせバレてたんならもう開き直って言ってやろうって、脳が沸いてたしか思えないことを考えちゃってた。


 俺、机に突っ伏したまま、そんなんじゃねーっす。羽柴は確かに可愛いから見てて幸せだし、助けてくれるから羽柴がいないと俺は生きてゆけないけど、好きになったのは、好きなところはそこじゃないっすって言ったよ。


 羽柴を好きになったのは、羽柴が泣いてるのを見てからだったから。

 その前から羽柴の事は好きだったと思うけど、それまではどっちかって言うと憧れとか尊敬とか、そういう感じ。

 羽柴に庇われて、守られて、そんな自分が情けなくて、羽柴の事を男として好きになる資格なんかないって思ってたと思う。


 でも、羽柴が母親に生まれる前に殺されて、それでも母親を慕ってるから、成仏させてやることも出来ないで、何もできないことを悔しがって泣いてる羽柴を見て、俺、羽柴の事が好きだなって思えた。

 羽柴の弱いところを見て、俺には手が届かない高嶺の花かと思ったら、俺でも守ってやれるところがあるって、手が届くかもしれないって思ったから、好きになったようなもんだよな。


 俺、ダメな奴だよなー。

 高嶺の花なら諦めるくせに、手が届きそうならあっさり好きになるって。


 ……でもさ、思っちゃったんだ。

 関係ないはずの、赤の他人の赤ちゃんの事であんなに泣く羽柴を、守ってやらなくっちゃって。

 俺なんかの力なんか必要ないことも知ってるし、俺が何もできてないことだってわかってる。


 でもさ、皆が羽柴の事を羽柴一人で何でもできる、誰の助けもいらない強い奴って思ってるからさ、……そう思われてることに羽柴が責任を感じて、ああやって泣けなくなったら嫌だなって思った。

 羽柴の泣き顔なんて見たくないけど、悲しいときに涙も流せず我慢して強くあり続けるより、泣きたいときは泣いてほしかったんだ。


 ……その手助けをしたいなーって、思ったんだ。


 もう何か、羽柴を好きになった理由なんだか、俺が羽柴にしてやりたいことなのかもわからねーけど、とにかくそんな話を思わずしちゃって、紅葉先輩に半眼で「恥ずかしい奴」って言われたわ。

 わかってるわ、そんなこと!!


 でもさ、この話をしたのは紅葉先輩だからなんだよなー。

 あの人、ビビりだけどなんだかんだで人が良くて面倒見も良くて、話しやすいというか信用できるというか、とにかくこういう恥ずかしい話をしても、からかったり他人に広めたりしないでくれるって思ったから、話したんだよ。


 ……それが、まさかの展開だよ。


 紅葉先輩に「恥ずかしい奴」って言われてすぐくらいに部室近くから話し声が聞こえて、あーみんな帰って来たんだなーって思った。

 その時には俺の話は終わって数分は経ってたから、聞かれた!? って焦りもなく、俺は振り返って教室のドア辺りを見て、皆が戻ってくるのを待ってたんだ。


 で、一番乗りで教室に帰って来たのが、羽柴と部長。

 俺が二人におかえりーって手を上げたら、二人が目を見開いてフリーズ。


 え? 何その反応? 俺、どっか変? って思っていたら、いきなり羽柴が弾丸みたいな勢いで跳んで来て、何事!? また霊!? 紅葉先輩大丈夫か!? って思って、今度は紅葉先輩の方を振り向こうとしたら……


 羽柴が俺を追い越して、紅葉先輩がいた席にハイキック。

 俺が振り返った時には、紅葉先輩の姿がなく、優雅に振り上げた足を下ろす羽柴。

 ……え? 先輩はいずこ? って思っていたら、ドア近くから「何だよ!? また霊かよ!? もう引退したんだから勘弁してくれよ!!」って叫ぶ声が聞こえたんだ。


 ……その時、振り返る俺の首の動きは、油の切れたからくり人形みたいだっただろうな。

 いましたよ、先輩。部室の外に、部長や他の先輩達と一緒に。

 初めから、部長に連れられて一緒に羽柴の除霊を見学に出て行ってて、部室には誰も残していなかったってさ。


 偽物だったのかよ! あの紅葉先輩!!

 羽柴に何だったのかを訊いても、いつも通り「さぁ? よくわかんない。けど、良いものじゃないのは確かだから追っ払っておいた」としか答えてくれなかったよ!


 俺が聞きたいのはそこじゃないけど、正確には訊けない!

 羽柴以外の皆が気付いてるとかは本当? とか、何で俺に羽柴のどこが好きかを訊いたの? とか、その霊はちゃんと成仏して、俺が話したことは誰にも知られないで済むかとか訊きたかったけど訊けるか!!


 あぁもう! もう何で紅葉先輩に化けてたかなんて、どうでもいいよ!!

 紅葉先輩だから、口が堅い人だからと思って話したのに!!


 なんか先輩たちが、自分とついさっきまで話していた相手が実は偽物だったって話は怖いって言ってたけど、確かに怖いけど、今俺が怖いのはそこじゃねえ!!


 あぁホントマジで、羽柴のハイキックで強制成仏されててくれよ、紅葉先輩に化けてた何かひたすら俺の惚気を聞かせちゃった正体不明の霊!

 お前の口から羽柴はもちろん、他に人にあれが聞かれたら、俺は恥ずかしさで死ねる!!




 * * *




『……残念ながら、少なくとも「本人以外の皆にバレてる」は、事実よ。

 っていうか、バレてないつもりだったのあんた?』

ついさっきまで会話をしていた人が、ドアの向こう側にいる。後ろにいるはずの人と、ドアの向こう側にいる人、本物はどちら?系の怪談ってめっちゃ怖いけど、そんなんもふっとぶ恥ずかしい話。

本当にどんだけ羽柴が好きなんだ、こいつは。


次回は小ネタ集です。

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