83:妖怪にまつわる小ネタの話
冬休みにさ、雪女に遭遇した話をしただろ?
今日、オカ研でもその話をしたら、風守先輩が「そういえば、羽ちゃんって妖怪に遭遇したり見たり退治したことある?」って言い出したんだ。
その質問に対する羽柴の答えは、即答で「3回くらい」だった。
羽柴さん、どれ!? 遭遇しただけ? 見ただけ? 退治したの!? とオカ研部員全員で突っ込むのもいつもの事。
そして答えもいつも通りで予想通り、退治でした。まぁ、全部退治と言うにはちょっと微妙だけど、とりあえず全部に勝ってました。
ちなみに、遭遇したのはサトリ、河童、ぬらりひょんだってさ。
サトリと遭遇したって聞いた瞬間、オカ研の皆が口をそろえて訊いたのが、「まっすぐ行ってストレート戦法!?」だった。
俺が言うのもなんだけど、昔の作品なのにみんなよく知ってますね。そして大好きですね、幽白。
けど意外なことに違ってた。
なんか10歳くらいの頃にこの辺を歩いてたら、毛むくじゃらのホームレスっぽいおっさんが付きまとって、羽柴の考えることをひたすら言い当ててニヤニヤしてたからウザくて、脳内でひたすらリアルにボコって刻んで抉って潰してをやってたら、いつの間にかどっか行ったんだと。
……どんだけリアルな想像したんすか、羽柴さん。
っていうかその話を聞いて、俺が夏休みの初めに会ったサトリっぽい奴と羽柴が会った奴と同じじゃね? って思った。
そうだとしたらあのサトリは、まったく別の方法とは言え、同じ人間がきっかけで追い払われたというか、精神ダメージを喰らったのか。
同情したらいいのかどうなのか、まったくわかんねーな。
ついでに口が滑って、俺もサトリと遭遇したってことを言っちゃったけど、無視してたら勝手にどっか行ったって言い張った。
ひたすら羽柴のどこが可愛いかとか心の中で言いまくってたら、何か呆れられて帰ったとはさすがに言えねーよ。つーか、本人の前じゃなくても言いたくねーよ。
そんで河童も、同じく10歳くらいの頃に夏休みキャンプに行ったら、川でちょっとちょっかいかけられたんだと。
川で水遊びしてたら、これまた昔話みたいに水の中で足を掴まれて引っ張られそうになったんだと。
引っ張られて転んだり溺れたりする前に、その時たまたま持っていた川の石を思いっきり河童に向って投げつけた挙句、石にひるんで河童が羽柴の足を離した瞬間、掴んでた河童の腕を足で勢い良く踏んで折ったらしいけど。
容赦なさすぎだろ!
確かにちょっと転ばす程度だとしても、川の中なんだから河童のやったことは危ないけど、ぶっちゃけ羽柴の方がはるかにやってることは妖怪相手でも過剰防衛だよ!
オカ研でそんな突込みを一通り入れられるようなことをやったもんだから、もちろん河童だって抗議するさ。しても文句言えねーよ。
羽柴が河童の腕をブチ折ったその日の夜、テントの中で寝てたら腕を折られた河童が仲間を連れてやってきて、羽柴に同じように腕を折られたくなければ相撲で勝負しろ、それでお前が勝ったらもう人間には一切手を出さないって言い出したらしい。
なんか昔話そのものな体験してんな、羽柴。
やってることが昔話じゃなくて、もはやギャグの域だけど。
羽柴はめんどいから嫌だって言ったんだけど、河童がしつこかったから一番強い奴と一回だけって条件付けてやってやったとさ。
ちなみにもちろん同じテントにしきみさんがいたらしいけど、しきみさんは「眠い」と言って代わりに戦ってやるどころか、相撲の見学すらせずテントで寝てたらしい。
おい、父親!
もう娘が娘だから庇えとは言わないけど、止めろ! あんたの娘はマジで手加減を知らないから止めろよ!!
それで羽柴、条件通り一番強い奴と相撲してやった、勝ちやがった。
なんか羽柴曰く、全身緑に塗ったボディビルターみたいで気持ち悪い奴が相手だったらしい。
何その河童。見たくないけど超気になる。
そんなんと相撲でどうやって勝ったのかと思ったら、はっけよーい、のこった! って言われた瞬間、構えてた相手の膝に飛び乗って、こめかみに膝蹴り、所謂シャイニングウィザートかましたらしい。
羽柴さん、それ、相撲じゃなくてプロレス技。
ガチプロレスでもそうお目にかかれない、パフォーマンス的な側面が強い技をなんで相撲でかましてるんだよ。
そして相撲のルール上、シャイニングウィザードはありらしい。
ありというか、普通はやらないし出来ないだろうから誰もわざわざルールに明記してない、裏ワザつーよりもルールの隙間を突いた邪道的なものらしいけど。
それでとりあえず羽柴が河童の腕を折ったことは不問にされたし、これから人間にちょっかいをかけないと約束したのはいいけど、その後は戦ったボディビル河童が「弟子にしてください!」って土下座して大変だったらしい。
「キモイ」で一蹴して、寝たらしいけど。
今はその河童さん、どうしてるんだろうなー。できれば、羽柴を目指すのはやめろ。あいつは妖怪以上に妖怪じみてることは、もうお前が実体験しただろうが。
最後に、ぬらりひょん。
これはどうやって出会ったのかを聞いたら、「お父さんの茶飲み友達」って言いやがった。
マジでか。
なんか昔から月一ぐらいの割合で気がついたら家の中にいて、勝手に茶を飲んでたり本を読んでたり晩飯のおかずをつまみ食いしたり、しきみさんと碁やら将棋やらを打ってるらしい。
しきみさんが出かける際に「ちょっとれんげ見といて」って頼んで、絵本を読んでもらったこともあるらしい。
しきみさん、ぬらりひょんをベビーシッター代わりにすんなよ。
ぬらりひょんは妖怪の総大将だって聞くけど、本当? って訊いてみたら、「たまに相撲で負かした河童の近況とか話すから、横のつながりが多いのは確かなんじゃない?」って言ってた。
……河童。もしかしてまだ羽柴に弟子入りするのを諦めてないのか?
で、羽柴の話からすると害は全くなさそうだし、もし会えるのなら会ってみたいって先輩たちが言い出したんだけど、羽柴に「いつもいつ来るかは気まぐれだからわからない」って言われて凹んでた。
っていうか、自分で言ってからちょっと考えて、「もしかしたら、2,3か月は来ないかも」とも言ってた。
来ない心当たりはあるのかと思って聞いたら、ぬらりひょんは先月、去年の12月に羽柴が作ったクッキーをほとんど一人で食べちゃって、それを見つけた羽柴がキレて、ぬらりひょんに跳び腕十字をかましたらしい。
おい、羽柴さん! 何で妖怪にそんなプロレス技がやたらと炸裂してんの!?
っていうか、ぬらりひょんって神様って説もあるよね!?
神様相手にプロレス技をかましたんか、あいつは!
いや、夏休みにも龍神相手に定規と金属バットの二刀流で戦い挑んでたけどさ!
もうどっちがマシか、俺にはわかんねーよ!!
で、それを聞いた風守先輩が「それ、ぬらりひょんはもう羽ちゃんの家に来ないんじゃない?」って、オカ研全員が思ったことを口にいたら、羽柴がケロッとした顔で手を振って否定した。
「昔、お父さんが大事に寝かせて育ててた梅酒を飲まれた時、庭に向かって投げっぱなしジャーマン決めて追い出したけど、3か月目にはケロッとまた来てたから、たぶん懲りない」
……懲りろよ、ぬらりひょん。
っていうか、何で親子そろって妖怪にプロレス技を決めてるんだよ。
そういう家訓でもあんのか、羽柴家には。
* * *
『その家訓がないとは言い切れないのが怖いわ、羽柴家』
ホタルさんからのリクエスト、妖怪ネタを書いてみました。
あまり妖怪が関係ないネタでごめんなさい。っていうか、羽柴相手だと本当に、妖怪も幽霊も生きた人間も関係なかったです。無敵すぎます、この女。
ちなみに、相撲でシャイニングウィザードが有りは、私がかなり大雑把に調べたルール内で判断したので、正確には反則かもしれません。
まぁ、河童も公式ルールの相撲をやるつもりはなかったでしょうから、あの相撲では有りだったということで。
次回は、緩いコメディです。




