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82:生まれ変わりの話

 新学期始まって早々の部活でさ、部長と紅葉先輩が来たんだよ。

 さすがに受験が目の前に迫ってたから部長もあんまり部活に遊びに来ることもなくなってたけど、それでも時々顔出しくらいはしてたから、また来たかって程度にしか思わなかったんだけど、元々怖いのが嫌いな紅葉先輩は引退してからめっきり来なくなってたから、来てビックリした。


 そして紅葉先輩が来るだけの事があって、やっぱりただ顔出し遊びに来たってわけじゃなった。


 部長たちは正月に、田舎のじーさんの家に行ったんだって。

 そこに部長たちのお父さんのいとこが、奥さんと今年で5歳になる娘を連れてきた。

 部長たちから見たらはとこになるのかな、その子は。


 そのはとこを部長たちは生まれた時から知ってるけど、会ったのは3年ぶりだったらしい。

 あんまりその子と住んでるところは離れてないけど、部長たちはもちろんいとこ同士の親の方だって、特別親しいわけじゃないから、毎年の新年の集まりか法事とか結婚式とか、そういう集まりじゃない限り会わないし特に連絡もしない薄い関係で、なおかつはとこちゃんはこの3年間、たまたま年末年始に熱を出して来れないってのが続いた。

 ただそれだけの事情。


 だから本来なら、大きくなったねー、今年は風邪をひかなくて良かったってだけで終わったはずなんだけど、ちょっとややこしいことが起こったらしい。

 そのはとこちゃん、庭の枯れて塞いである井戸を見ていきなりこう言いだしたんだ。

「あそこ嫌い。あそこに落ちて死んだから」って。


 部長や紅葉先輩、ほかの子供世代とその親世代は「は?」って困惑しか出来なかったけど、さらにその親の世代の親戚たちが一気に顔色を変えて、一人のばーちゃんなんか泣き出したってさ。

 そんでその泣き出したばーちゃんとその旦那であるじーちゃんが、はとこちゃんを全然違う名前で呼んで抱き着いたんだ。


 そっからはカオスだったらしい。

 いきなりよく知らんじーちゃんばーちゃんに抱き着かれてはとこちゃんは泣き出すし、じーさんばーさんははとこちゃんを抱きしめて「この子は自分たちの娘だ!」なんて言い出して離さないから、両親が最終的にブチ切れるわ、親戚たちは何とかその場を収めようとするけど大半が事情を分かってないからどうしようもないわの大パニック。


 で、ようやくじーちゃんばーちゃん世代が理由を話したんだよ。

 自分たちが顔色を変えた理由と、「自分たちの娘だ」とか言い張った理由を。


 そのはとこちゃんを抱きしめたじーさんは、はとこちゃんの親の叔父さん、はとこちゃんや部長視点で見たら大叔父に当たる人なんだけど、40年くらい前にちょうどはとこちゃんくらいの歳の末っ子が、井戸に落ちて亡くなったらしい。

 だから、はとこちゃんの発言でそのじーさんばーさんははとこちゃんが、自分たちの娘の生まれ変わりだと思い込んだ。


 で、はとこちゃんの不思議発言がそれだけなら、井戸に落ちて死んだとかは絵本かなんかでそんな話があったかもしれないとかで終わるじゃん? 絵本とか日本昔話ってたまに、信じられないくらい残酷な話があったりするし。


 でもその田舎にいる間、はとこちゃんは「ここにリンゴの木があった」とか、「あそこに女学校があった」とか、「ここの川が氾濫して人がたくさん死んだ」とか、40年前にあった建物とか出来事を次々当ててきて、少なくともテキトーに言ってるとか絵本の影響とかじゃないことだけは確からしい。


 その所為で、大叔父夫婦はやっぱりあの子の生まれ変わりだって騒いで、あの子を返してってはとこちゃんの両親に詰め寄るけど、もちろん本当に生まれ変わりでも今は自分たちの子供なんだから渡すわけないじゃん。

 けどさ、はとこちゃんも初めは怖がっていやがって泣いてたんだけど、死んだ子が帰ってきたと思ってるからもう実の孫よりも可愛がって甘やかすせいか、はとこちゃんも「あっちの家の子になりたい」とか言い出したらしい。


 そこから泥沼で、子供の奪い合い。

 そこまで話を聞いて、それを羽柴にどうしろって言うんだ? って思っていたら、ぶっちゃけ部長や先輩も具体的にどうしてほしいかは別になくて、とりあえず新年早々起こった泥沼で疲れた愚痴を吐き出したかったのと、もし何とかできるのならアドバイスかなんかが欲しかったんだって。


 もはやオカルトはきっかけにすぎない、ややこしいのかシンプルなのかよくわからない家の事情だからさ、羽柴にもできることはないだろうなーってみんな思ってたら、羽柴が「前世の記憶が残ってるのなら、それを忘れさせることは出来る」って言い出した。

 何とかできたよ。マジでチートですね、羽柴さん。


 それを聞いて、部長と先輩がはとこちゃんの家に伝えるからそっちがやって欲しいって言ったらぜひともやってくれって頼んでた。

 別に先輩たちは大叔父夫婦のことが嫌いってわけじゃないけど、血の繋がった親から引き離したあげく、死なせた罪悪感で甘やかすだけ甘やかして叱らない、ダメ人間に育てそうなじーさんばーさんの元にはとこちゃんを養子に出させたくないってあんまり関係なくても思ってたから、完全にはとこちゃん両親の味方だったよ。


 で、次の日にできればすぐにでも記憶を消してほしいって言われたらしく、羽柴は部長と先輩に連れられて、学校終わってすぐにはとこちゃんの家まで行ったのが3日前だっけ?

 部長が何をどうやるのか見たがってたけど、羽柴ははとこちゃんにいくつか質問をしたら部長はもちろんはとこちゃんの両親も部屋から追い出して、記憶を消したらしい。

 何やったんすか、羽柴さん。


 そんな感じでどうやったかは不明だけど、はとこちゃん以外を部屋から追い出して5分もしないうちに記憶を消すのは終了して、実際に井戸の話をもう一度訪ねても首を傾げて何も答えられなくなってたらしい。

 それで羽柴の役目は終了だけど、前世の記憶を消したからってじーさんばーさんが諦めんかな? って思ってたら、今日も部長と紅葉先輩がやってきて、解決したって聞いた。


 何でも羽柴が記憶を消してから、はとこちゃんがその大叔父夫婦の家の子になりたいって言わなくなって、どんなに甘やかして何をあげても「怖い」「嫌だ」「キライ」って言って泣き出すようになったから、大叔父夫婦が諦めたらしい。

 そのことにはとこちゃん両親は感謝してたって部長は羽柴に伝えたけど、その後「本当に記憶を消しただけ?」って、ちょっとワクワクした顔で尋ねてた。


 その好奇心丸出しの顔はどうかと思うけど、実は俺も紅葉先輩も他の人たちもみんな同じことを思ってた。

 前世の記憶を消しただけじゃ、甘やかし放題な大叔父夫婦を嫌う理由にはならないじゃん。


 だからついでに羽柴がなんかしたのかな? ってみんな思ってたけど、羽柴は「記憶を消したって言うか、生まれ変わる際に落としきれなかった前世の垢を落としただけ」って答えてた。

 その後の発言が、予想外で衝撃的だったけど。


「そもそも、あの子は大叔父夫婦の子供の生まれ変わりじゃない。たぶん、前世は大叔父夫婦の子供を殺した犯人の方」


 いきなりしれっとそんなこと言われて、時が止まったわ。

 思わず部長と紅葉先輩の方を見たけど、二人は同時に首を横に振ってた。自分たちは前に話したこと以外、何も知らないって主張してから、部長がどういうことなのか詳しく! って羽柴の肩を掴んで揺さぶって問い詰めてたわ。


 羽柴はウザそうに肩を掴む部長の手を外しながら、教えてくれたよ。

 そもそも羽柴は前に聞いた部長の話の時点で、前世は井戸に落ちて死んだ大叔父夫婦の子供じゃないって予想は出来てたみたい。

 本当に死んだ子の生まれ変わりなら、今年5歳のはとこちゃんと同い年にしては覚えてることが変だったから。


 確かによくよく思い出してみたらリンゴの木があった場所はいいとして、5歳の子が「女学校」なんて認識できないだろうし、川から水がいっぱい溢れて怖かったとかならともかく、川が氾濫して人がたくさん死んだなんて、5歳児が言えるわけねーよな。

 部長たちが子供の分かりにくい話を分かりやすいように言い換えてくれてたのかもと思ってたけど、本人に会って確信したってさ。


 確認のために少し会話したらそのはとこちゃん、子供らしい舌足らずなしゃべり方なのに、やけに話に矛盾がなくて会話がちゃんと成立したらしい。

 あー確かに、あんまり小さい子と話す機会なんて俺にもないけど、それくらいの歳の子って自分の興味のある話を好き勝手しゃべり倒して、ポンポン内容が飛ぶし変わるしで、会話ってあんまり成立するもんじゃないよな。

 両親は子供が大叔父夫婦に取られないように精一杯で、娘が明らかに「子供のフリをした大人」になってることに気付いてなかったっぽい。


 でもそれは、前世が大叔父夫婦の娘じゃないことしか証明してないじゃん。

 大叔父夫婦やそいつらと同世代の親類が話さなかっただけか、それとも本人たちも知らないのか、何で羽柴ははとこちゃんの前世が、大叔父夫婦の娘を殺した犯人だと思ったのかがわからなくて訊いたら、井戸を「怖い」じゃなくて「嫌い」って言ったからだって。

 そういやそうだな。自分が死んだ場所を、「怖い」じゃなくて「嫌い」程度で終わらせてるって、よく考えたら変だ。


 悪意で殺したのか事故か何かだったのかはさすがにわからないけど、罪悪感か何か、とにかく自分が犯人だとわかったら殺されてもおかしくないくらいに恨まれてる自覚が死ぬまで、そして死んでからもあったんだろうな。

 だから、生まれ変わっても「前世の記憶」としてこびりついてしまったんだ。


 死んだ後たまたま自分が殺した子の親戚に生まれ変わって、そいつにとって自分の罪の象徴である井戸と、あとたぶん大叔父夫婦を見て羽柴が言う「生まれ変わっても落としきれなかった前世の垢」である記憶がよみがえったんだ。

 それだけなら良かったんだけど、こびりついていた前世の垢が多かったのか、精神年齢まで前世に引きずられて上がって打算が働いたんだろうって羽柴は言ってた。


 その打算は、わがままを全部許されるっていうまだ子供らしいものなのか、それとも自分の前世の罪が露見しないように、実は口封じを狙っていたのかまではわからない。

 そこまでは、羽柴は教えてくれなかった。


 はとこちゃんが急に大叔父夫婦を嫌った理由は、羽柴は何かしたんじゃなくて、逆に完全に前世の垢を落としきるんじゃなくて「罪悪感」って部分だけ落とさないでおいただけだって。

 もうはとこちゃんは、理由は何もわからないけどあの大叔父夫婦が怖くて仕方がないんだ。

 自分の生まれてくる前の罪を象徴する二人だからな。そりゃ、一緒にいたくないだろうな。


 そこまで聞いて、部長と紅葉先輩は少しやるせなさそうだった。

 親しくないとはいえ普通に可愛がってる何の罪もない小さな親戚の女の子が、前世でそんな女の子を事故かもしれないけど殺した犯人であるって知っちゃったんだから、当然だよな。


 羽柴はさ、「前世と現世は全くの別物。多少は影響が出ても、前世が犯罪者だからって現世で同じ間違いを犯す可能性の方が低いし、前世の罪を現世に持ち出すのは親が犯罪者だから子供も同類って思うこと以上に馬鹿らしい」って言ってたけど、ちょっと羽柴程は割り切れないよな。


 だって、そう考えたら自分だって前世は最低な犯罪者かもしれない。

 そしてその記憶は、いつかちょっとした拍子に目覚めて、その記憶に引きずられて同じ間違いを犯すかもしれないってことを思い知らされたから。




 * * *




『前世なんて持ち出す方が馬鹿なのよ。そんなの、今を生きるのに関係ない。

 ……そう。関係なんてないの。…………ないの』

前世がわかったら、今現在とは関係ないってわかってても引きずりそうですね。

特に、犯罪者や何かだったら。


今回はちょっとした伏線回。伏線って言うほど大したものじゃないですけど。


次回は、小ネタ集です。

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