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81:双眼鏡にまつわる小ネタの話

この話の元ネタは、「双.眼.鏡.か.ら.見.え.た.も.の」と「く.ね.く.ね」です。

 今さっき、すごいものを見た。


 オトンが大掃除で仕舞いこんでて存在を忘れてた双眼鏡を発掘したんだ。

 発掘したけどこれからも使う予定はないから、今週末にオカンが町内会のバザーに出すからってことで、他に大掃除で見つけたまだ使えるけどいらないものと一緒に出してたんだ。


 そんで今日、っていうか今さっき、今日は天気が良くて肉眼でもいつもより星が見えたから、双眼鏡を使ったらもっとよく見えるんじゃないかなーと思って、俺がその双眼鏡を引っ張り出して、星を二階のベランダから見てたんだ。

 まぁ、俺は星座なんて全然わからないからすぐに飽きて、空じゃなくてなんとなく住宅街を見てみたよ。


 あの家、まだクリスマスツリー出してる。あのマンションの部屋、カーテン閉めてないけどいいのか? とか、よく考えりゃ悪趣味なことやってたな、俺。

 何にも考えずにやってました。今は反省してる。


 そんな無自覚悪気なしとはいえ覗き同然なことをやってたから、ある意味あれは俺に対するバチだったのかもしれない。

 そうだとしたら、むしろ申し訳ない。


 俺が寒いし別に面白いもんもないからそろそろやめようと思ったタイミングで、何かかなり遠くの方だけど勢いよく走ってるものを見つけたんだ。

 何だろあれ? って思ってそのまま双眼鏡でそれをよく見てみたら、四足で走ってしかも結構でかかったから、初めはイノシシかと思った。

 この辺、イノシシなんか出たっけ!? って思いながらも興味本位でさらによく見ようとしたのが間違いだった。

 街燈の下を通った時、それの正体がはっきりわかった。


 それ、子供だったんだ。10歳くらいの。

 でもただの子供じゃない。普通の子供はこんな夜の10時に住宅街を四足歩行でイノシシかと思う勢いとスピードで爆走しない。

 何より、何百メートルも離れた場所から双眼鏡で見てる俺の方を見て、白目のない黒目だけの目を歪ませて笑わない。

 双眼鏡越しなのに、目が合ったよ。


 もうそれを見た瞬間、ひぃ!? って情けない悲鳴あげそうになったけど、悲鳴が出る前にその子供に向かってなんかが飛んできて脇腹にぶっ刺さる瞬間も双眼鏡で目撃しちゃって、出かかった悲鳴がええぇぇぇっ!? って驚愕の叫びに変わった。

 そんでオカンに、うるさくて近所迷惑って怒られた。


 その怒られた時に双眼鏡から目を離しちゃって、俺はもう一回双眼鏡であの飛んできた何かがぶっ刺さった子供を探したんだ。

 もう生きた人間じゃないことはわかってたけど、普通に心配してたわ、俺。

 で、やっとその子供をもう一回発見した後、俺は速やかにベランダから家の中に戻って今に至る。


 ……あの子供が通ったの、よく見たら羽柴の家の前だったわ。

 羽柴の家のベランダを見てみたらハンパに洗濯物が干されてたから、たぶん取り込み忘れた洗濯ものを取り込んでる最中に爆走するあれを発見して、性質が悪いなんかだったからとりあえず手近にあったものを投げて足止めしたんだろうな。


 そんで布団たたきでなんかあの子供の尻をひたすら、べちーん! べちーん! ってぶっ叩いて物理除霊の真っ最中なのを俺が発見しました。

 もちろん音なんか聞こえないけど、すっげ痛そうな音が聞こえそうな勢いで叩いてたわ。

 っていうか、たぶんあの子供が爆走してる時に横からブン投げられて刺さったの、あの尻をぶっ叩いてる布団たたきだ。


 布団たたきが脇腹ぶっ刺さるって、どんな肩してんだよあいつは。

 いや、前にも礼に向かって傘やモップやらをブン投げて、昆虫標本みたいにしたこともあったけど。

 っていうか、こんなこともあったわ。

 そういやこれも、双眼鏡が関係してるわ。

 関係してるだけで意味はないけど。


 小4の秋ごろだったかな?

 学校でなんか班ごとになって自由にテーマを決めて壁新聞を作って、発表するって授業があったんだ。

 それでうちの班は何をテーマにするかが決まらなくって、放課後も残って話し合って、やっと決まった時には日が暮れ始めたな。

 決まったなら皆さっさと帰ろうとした時、友達が「あそこになんか変なのがいる」って言い出したんだ。

 そいつが指さす方を見てみると、グラウンドの真ん中で誰かがくねくね踊ってるみたいな動きをしてたんだ。


 夕日の逆光でそいつは真っ黒の人影にしか見えなくて、大きさからして大人っぽいことしかわからなかった。

 今なら真っ先にオカルト関係を疑うんだけど、その頃の俺は自分だけ変なものが見えるってことに慣れてても、自分以外にも見えるのならオカルト関係じゃないって思い込んでた。


 しかも本当にあれは結構珍しいことに、その場にいた全員が見えてたから俺も班の奴らも全員、変質者がグラウンドに入り込んでるって思い込んだ。

 校舎の構造上、グラウンドから見えないように帰ることは出来なくて、ただ踊ってるだけの変な人ならいいけど、そうじゃなかったらヤバいからどうしようかって思った所で、とりあえずあの踊ってるのが誰なのかを見てみようって、一人が言い出した。


 ちょうど俺らがもめてた班のテーマがここらにいる野鳥についてにしようって女子がいて、その子が野鳥観察のための双眼鏡を持ってきてたんだ。

 だからそれであのくねくね踊ってる奴を見てみようってことになったんだけど、生きた人間であっても明らかに変な奴だから、少しは怖いもの見たさがあっても本当に見たいと思える奴はほとんどいなくて全員が押し付け合いし始めたから、面倒くさくなって、あーもー、俺がやるよ! って言おうとしたところでガラッと教室のドア開けて、羽柴登場。

 図書室で本を読んでたら、夢中になりすぎてあんな時間まで残ってたらしい。


 で、なんか騒いでる俺らを見て羽柴が首を傾げてたから訳を話すと、羽柴は「私がするよ」って言い出した。って言った時にはもう双眼鏡を手に取ってた。

 俺は危ないからやめろ、俺がやるって言ったんだけど、「これだけ距離があれば平気」って言われてまぁそりゃそうだよな、双眼鏡で見るだけだしだと納得したんだけど……今思い返したら、羽柴は「私が見る」じゃなくて、「私がやる」って言ってたな。

 初めから、あいつはグラウンドでくねくねしてる奴が生きた人間じゃないことはわかってたみたい。


 羽柴、双眼鏡で見なかった。

 窓を開けたかと思ったら、そのまま腰を落として腕を振りかぶってオーバースローで双眼鏡を思いっきり投げやがったよ。グラウンドのくねくねしたものに向かって。


 俺ら全員、双眼鏡の予想外すぎる使い方に「ええええぇぇぇぇっ!?」と大絶叫。

 そして双眼鏡はあのくねくねと動き回っていたものまさかのど真ん中命中。くねくねした奴、腹に風穴が開いたよ。

 もうそのコントロールの良さと破壊力に、また俺ら全員驚愕の大絶叫、その絶叫の直後に「変質者が死んだ!!」って思って焦ったら、今度はくねくねしてた奴が倒れる前にドロッと溶けて、3度目の絶叫。


 ちなみに羽柴は俺らが絶叫してる間、終始きょとんとしてた。

 後で話を聞いたら、羽柴は俺がいたからもう班の奴ら全員、あれが変質者じゃなくて霊関係だとわかってるはずだと思い込んでたらしい。

 つまり初めから羽柴は、俺らが押し付け合ってたのは「誰があれを双眼鏡で見るか」じゃなくて、「誰があれに双眼鏡を投げて攻撃するか」だと思い込んでた。

 ……そんな発想、お前しか出てこないし実行もお前しか出来ねぇよ。


 だから双眼鏡の持ち主から、双眼鏡を思いっきり投げてぶっ壊したのを少し怒られたけど、最終的にはその子も許して……というか普通に感謝してたわ。

 だって俺らはみんな生きた変質者だと思って双眼鏡であれを見ようとしてたって話したら、羽柴はいつもの無表情ローテンションで淡々と、「あぁ、ならなおさら私で良かった。あれ、姿をちゃんと見て『何であるか』を理解したら、同じものに変貌する類よ」って言い出したからな。

 俺、危ねぇぇっ!!


 ついでにこれはどうでもいいことなんだけど、羽柴はその2週間後に控えてた球技大会の女子ソフトボールでピッチャーをする予定だったけど、急遽キャッチャーに変更された。

 理由は「死ぬから」だと言われて、羽柴は拗ねてたけどちょっとさすがに俺もフォロー出来なかったわ、あれは。


 うん、確かに羽柴がピッチャーだとキャッチャーが確実に死ぬ。




 * * *




『もはや双眼鏡が本当に関係ないわよね、これ。

 むしろれんげちゃんの強肩の話になってない?』

便座の次郎さんからリクエストされたものを、まとめてしまいました。

どちらも正体不明だったのであまり弄る要素がなく瞬殺だったのと、偶然ですが「双眼鏡」という共通点があったので、まとめちゃいました。


でもこれ最後で言ってるように羽柴の強肩の話って言った方がいい内容ですね。どんな肩してんだこの女。


今回で冬休み編は終了して、次からは3学期編。

そして次回は後味悪い系です。


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