74:後ろにいる霊にまつわる小ネタの話
今朝、学校に行く途中の交差点でまた、霊を見たんだよ。
交差点の向こう側に、俺や周りの人と同じように信号待ちしてて、死んだ時そのままのグロい姿ってわけでもないから、パッと見は気付かなかったよ。
でもよく見たら、服がもう11月も終わるっていうのに、ノースリワンピ。
なんかものすごくよくありすぎて、よっぽどのビビりじゃなきゃ怖がらない怪談の典型だった。
そんなんを俺が今更ビビるわけもないし、悪霊の気配もしなかったから無視して学校行こうって思って、信号変わったらそのまま普通に歩いたんだけどさ、向こうも歩いて来てそのまますれ違ったんだけど、すれ違いざまにこんなことを言って来たんだよ。
「よくわかったな」って、見かけから想像できないくらい低くて不気味な声で。
声自体は結構不気味だったけど、それも俺からしたら慣れっこなんだよなー。
そのせいで俺、悪気はなかったんだけど素で思ったことをそのまんま言っちゃったんだよ。
ワンパでつまんね、って。
すれ違った女の霊、俺の呟きが聞こえたのか俺の後ろで数秒立ち止まってから、「……どうせ私は独創性もない面白味もない女よー!」とか叫んで走って行った。
……特に意味もなく、ただビビらすためにやってたんかい。
なんかあの叫びを聞いたら悪いことした気に一瞬なったけど、よくよく考えたらそういう事だよなと思って、そのまま放っておいて学校行った。
で、そのことをオカ研で話したら先生から、「お前はもはや、羽柴と完全に同類だ」となんか憐れむような目で見られて言われた。
つーか、先輩たちからも憐れみ目で見られたから、いや、確かにもう俺は一般人とは言えない対応しちゃってるけど、これくらいならあんたらもやりそうだよ! ってキレたわ。
つーか、この程度で羽柴と俺を同列に並べんなよ!
羽柴の場合は、もっと霊を肉体的にも精神的にも容赦ねーんだよ!
だってさ、俺が霊感目覚めたばっかりの頃に似たような霊に遭遇して、その頃は隣に羽柴がいてもビビりまくりで、やっと通り過ぎたかと思ったら「何で無視する?」ってすっげー恨めしそうな声で言われて思わず振り返ったら、なんか首が真後ろに倒れてたんだよ。
のけぞってるとかじゃなくて、首を後ろの皮だけ残して切って後ろに倒して逆さ吊り状態でこっちを見てきたんだけどさー、そんなキモい霊に当時9歳の羽柴が何したと思う?
躊躇なく両耳引っ掴んで、そのまま勢いよくしゃがみこんで、霊の頭を地面に叩き付けてたわ!
何で俺はビビらされた1秒後に、その霊に同情しなきゃいけないんだ?
羽柴は羽柴で、地面に叩き付けたらそれでさっさと立ち上がって、俺の腕を掴んでそのまま霊を放置して行くし。
いやマジで今更だけど、羽柴の度胸がありえないわ。
俺、害がないなら今朝みたいに軽口なら叩けるようになったけど、未だに肝心な害ある奴にはたいてい情けないことにほとんど羽柴だより。
羽柴と一緒なら意地で少しは動けるけど、いなかったり少しでも外見とかが異様ならすぐに身がすくむんだよな。
つーか、害がなくても未だに背後にいる霊ってちょっと怖い。
見えないのに声や音、気配でそこにいるって感じるのが本当に慣れない。
この前、先輩が話してた怪談もめっちゃ怖くて、夜、一人で部屋にいるのが嫌だったし。
前に風守先輩が話してた怪談さ、一人で部屋の中にいたらどこからか「んーーーー」って声が小さく聞こえて、その声がどんどん近づいているように感じるけど声の正体が完全に不明でさ、その声が聞こえる人はいつも声が聞こえたら、イヤホンを耳につけて音楽を聴くようにしてたんだ。そうすると、いつの間にか声がしなくなるから。
で、ある日そういうの関係なく音楽聞いてて、音楽が終わったからイヤホン外したら今までにない近さ、耳のすぐ横にいるぐらいの音量で聞こえたんだ。
「んーーーーーー」って声が。
もうこの怪談を聞いた瞬間から、「んーーー」って声が聞こえそうでいやじゃん?
なのに羽柴、それを聞いて「似たようなことがこの前起こった」とか言い出したんだよ。
しかも羽柴が聞いたのは、「んーーー」って声じゃなくて、カチカチって歯を鳴らす音とクチャグチャって何かをすすって噛んで食べてるみたいな音。
おい、そっちの方が明らかにヤバいんですけど!?
もはやいつものことだけど部員総勢で羽柴にツッコミを入れてから、その音の正体は何だったのか、どうやって撃退したのかを訊いたらさ、音の正体は振り返ってないからわからないってさ。
どうやって撃退したかは、ちょうどコンパスを使っていたから、自分の耳元でその音がした瞬間、コンパスを耳の近くのテキトーな空間をぶっ刺したんだと。
羽柴さん、せめて正体の確認はしてから物理除霊して! もしかしたら何の害もなければ、良い奴かもしれないから! たぶんないけど!
ちなみに羽柴はぶっ刺したと言った後、少し不愉快そうに「肩が汚れたからやらなきゃよかった」とか言ってた。
何で汚れたかは、誰も聞きたくなかったから聞かなかった。
あー、あとこんなこともあったな。
これも確か、霊感が目覚めてすぐぐらいの頃だったと思う。
学校の西校舎と東校舎を繋ぐ渡り廊下を歩いてたら、後ろから「だーるーまーさーんーがーこーろーんーだっ!」って声がしたんだ。
その時は廊下で低学年が何人かで普通にだるまさんが転んだをやってんのかなって、何気なく反射で振り返ったら、予想と違って子供は一人しかいなかったんだ。
その頃の俺より少し下かなーって思える男の子が、廊下の端でニヤニヤ笑いながらこっちを見てて、遊んでたんじゃなくて俺をからかったのか? って思ってムッとしてそのまま無視して、教室に戻った。
初めはこんな感じで、そいつが霊だってことすら気付いてなかった。
それから2,3日後、また渡り廊下を歩いてたら同じように「だるんさんが転んだ!」って声がして、やっぱり振り返ったら、前に見た時と同じ子供がいた。
ただ、前に見た時は廊下の端だったのが、2メートルくらい俺の方に近づいて、やっぱりニヤニヤ笑ってた。
今ならこの時点でさすがに気付けるけど、当時は気持ち悪くて何か嫌なガキだなーとしか思えなくて、やっぱり無視して教室に戻った。
やっとあれが生きてない、そしてヤバい奴だって気づいたのは次の日。
友達と音楽かなんかの授業で移動教室だったから、一緒に教室移動してたらやっぱりその渡り廊下でまた、「だるまさんが転んだ!」って声がしたんだ。
もういい加減にしろよ! って軽くキレながら振り返ったら、昨日よりまた俺に近づいて、あと3メートルくらいの位置までそいつは来て、やっぱりニヤニヤ笑ってた。
で、俺は何なんだよ、お前は!? 遊ぶんなら友達と遊べよ! と怒鳴るつもりが、横の友達に言われたセリフで固まった。
「何いきなり、振り返ってんだよ? また何か聞こえたのか?」って友達に気味悪そうに言われて、あの「だるまさんが転んだ」が友達に聞こえてなかったこと、そしてすぐそばで笑って立つあの子供の服が、そういえば初めて見た時から変わっていないことに、ようやく気付いたんだ。
気付いてから危機感にも気づいて真っ青になった俺を見て子供は、さらに気持ち悪く笑ってから初めて、「だるまさんが転んだ」以外の言葉を発したよ。
「タッチしたら、次はお前が鬼」
そう言って、俺が瞬きをしたらその子供の姿は綺麗に消えてた。
それで今思うとバカなことだけど、俺、このことを羽柴に相談も何もしないで、この渡り廊下にだけ出る霊みたいだからもう二度と渡り廊下を使わなければいいやって勝手に思って、それで解決した気になってたんだ。
その頃羽柴に相談しなかったのは意地じゃなくて、ただ単純にまだ心霊芸賞に慣れてなくて危機感がなかったのと、羽柴とは親しいなんて全然言えない関係だったから。
つーか思い返すと、これがきっかけで羽柴は俺に「面倒になる前に私に頼って」って言うようになって、親しくなっていった気がする。
実際に渡り廊下を使わなければあの声も聞こえなかったし子供も見かけなかったから、俺の考えは別に間違いじゃなかったんだけど、渡り廊下を使わないってことはいちいち一階まで降りて、中庭を突っ切らないと、校舎の移動ができないってことだから、そんな面倒なことをバカな俺がきっちり覚えて行動できる訳なかったんだよなー。
5時間目が家庭科で家庭科室に移動だっていうのにギリギリまで外で遊んでて、予鈴で教室戻って教科書と裁縫セットを持って家庭科室行くのに、完全にあの子供のことを忘れて友達と渡り廊下を通っちゃったんだ。
渡り廊下を渡り終えて、西校舎から東校舎に入る直前、声が聞こえてやっと思い出した。
今までの中で一番、間延びしててゆっくりでいたぶるような「だるまさんが転んだ」だった。
思い出した瞬間、俺はそいつの影響かただ単に俺がビビっただけなのか、金縛り状態で動けなくなって、黙って立ち止まったから友達も俺の様子がおかしいことに気付かず先に行っちゃって、俺はその場に取り残されちゃったんだよ。
それが面白いのかますますゆっくりと言いながら、わざとらしく足音を立てながら、そいつは近づいてきた。
「だぁ~るぅ~まぁ~さぁ~ん~がぁぁ~こぉぉ~ろぉぉ~ん~~……」みたいな感じで、最後の一文字をもったいぶって溜めたのが、あの霊にとっての運の尽きだな。
もったいぶってる間に、裁縫セットが箱ごとぶっ飛んできたから。
その裁縫箱が顔面に直撃して、ガキは「ごふっ!」とか言ってぶっ倒れて、俺の金縛りも解消。いや、別の意味で金縛りになったけど。
その頃はまだ羽柴の物理除霊になれていなかったんで、裁縫箱をぶん投げる程度でフリーズしてました。
今やバッドや定規をぶん回しても、あぁ、羽柴は今日も元気だなーと思えるようになりました。嬉しくないです。
何か忘れもんしたらしい羽柴がちょうど戻って来てくれて、明らかヤバい奴が背後に迫ってるのに逃げられずに固まってる俺を見て、とりあえずぶん投げてくれたそうです。
その後、羽柴が駆け寄って「大丈夫?」って心配してくれたけど、俺が答える前に裁縫箱を顔面で受けたガキが鼻を押さえながら、「ルール違反だ!」とか羽柴に文句をつけだしてたなー。
その文句を羽柴は、あの頃から異様にあった迫力を発揮して睨み付けて、「鬼側が近づいて来てる時点で、そっちがルール違反でしょ?」って切り捨ててた。
言葉で切り捨てるだけなら良かったんだけど、羽柴の言葉なんか聞かず「うるさいバーカバーカ!!」って泣きわめいて悪態をつき始めたガキの霊に、羽柴もうざすぎてキレた。
ぶん投げて中身が錯乱した裁縫セットから羽柴は裁ちばさみを取り出して、それをシャキシャキ鳴らしながら、棒読みで言いだしたんだよ。
「だーるーまーさーんーがーこーろーんーだー」
……すっげー美少女が鋏を持って抑揚なく言うと、怖いどころじゃないな。
ガキ、泣いて逃亡。羽柴はそのガキを鋏持ったまま追いかけようとしたのを俺は止めておいた。
傍から見たら羽柴の方が妖怪だったからな、あれは。
本当に昔から敵認定したものには容赦しないな、羽柴。
……あれ? そういえば羽柴、あの後教室に戻ったっけ?
忘れ物したとか言ってたのに、裁縫セット回収したらそのまま俺と家庭科室に行ったような気がする……。
* * *
『いや、気付け。それただのあんた助けに来た口実だから』
そういえばホラーの基本的な「後ろにいる霊」を扱ってなかったなーと思って、小ネタ集に。
「んーーー」の話はマジで後ろが気になるし、ヘッドホンやイヤホンで音楽を訊いた後それを外すのが怖くなるから、羽柴さんに粉砕していました。
次回はHiroYanさんリクエストの「リョウメンスクナ」です。
元ネタの原型がほとんど残ってないけど。




