68:修学旅行にまつわる小ネタの話
ほい。これやるよ。
2年の先輩達から、修学旅行のお土産もらったからおすそ分け。
いいよなー、先輩たちの行き先東京で、最終日は夢の国行ったって。夢の国は東京じゃねーけど。
俺らの年はどこいくのかなー。
……どこでもいいか。小学校の時みたいなことが起こらなきゃ。
小学校の時の修学旅行はすごかったぞ。
初日だけで4回、心霊現象に遭遇した。
霊を見かけるだけならまだしも、何かもう色々と疲れる心霊体験だったことを覚えてるわ。
まず、修学旅行の行き先がそんなに遠くなかったから、バスで行ったんだよ。
そのバスの中に、バスガイドさんの霊がいた。
それだけならスルー出来たんだけど、……その幽霊バスガイド、めちゃくちゃ車酔いしてた。
……もう一度言う。幽霊の、バスガイドが、車酔いしてた。
なんかバスが走り出して5分もしないうちに顔色が蒼くなって、30分後には土気色して、運転席の横で座り込んで口を押えながら、「右手に見えますのは~……うえっぷ」とか言ってた。
無理すんな! いや、それよりも何であんた車酔いしてんの!?
もう幽霊以前に何であんたバスガイドになったの!? って突っ込みたくて仕方がなかった。
ちなみにそのバスガイドは、最初のトイレ休憩から帰って来たらバスからいなくなってた。
羽柴がなんとかしてくれたのかな? って思って訊いたら、「見てたらこっちが気持ち悪くなるから、べりっと剥がしてサービスエリアに置いてきた」って答えられたけどな。
べりっとって何!? つーか成仏させてあげたとかじゃなくて、サービスエリアに放置してきたの!? って、今度は遠慮せずに突っ込んでやった。
どうもバスに憑いた地縛霊だったから、縛られてるのを解いてやったんだからあとは自分で何とかしろと、羽柴は言ってたな。
いや、俺も確かに見ててもらいゲロしそうだったから羽柴がやったことはグッジョブだと思うけど、それでも放置はしてやんなよ。
あのバスガイドさん、羽柴に放り出された後は結局どうしたんだろうな?
そしてやっぱり何で、バスガイドになったんだろう? 生きてる時は車は平気だったのかな?
訊いておけばよかったな。
で、二つ目の心霊体験は風呂場。
大浴場で決められた時間に班ごとに入って、俺は友達と露天風呂で泳いだり息止め勝負したり、クラスのバカが女湯を覗こうとするのを桶で殴って止めたりしてたら、女湯の方でいきなりバキッて何かが壊れるような音がしたんだ。
そんでその直後、女湯できゃーきゃー悲鳴が上がりだして、男湯の俺や他の奴らもえ? 何事? 風呂場にゴキブリでも出た? とか思いながら男湯と女湯を分ける垣根の方を見てみたら、俺だけびっくりさせられた。
垣根から半透明のおっさんが、何かひいひい言いながらすり抜けてきたからな。
俺は別の意味で、え!? 何事!? っていうか誰!? って思ったら、女湯の方から羽柴が俺を呼んだんだ。
「ソーキさん! そっちにおっさん行ったんだけど、見えてる!?」
羽柴はそう言って、俺の答えを待たずに続きを言ったよ。
「そのおっさん、覗き!!」
それを聞いた瞬間、俺は近くにあったシャンプーのボトルを振りかぶっておっさんに投げつけたわ。
羽柴の声を聞いて男湯連中が悪ノリしてさ、俺以外みんな見えてないのに俺がシャンプー投げつけたあたりに桶を投げたり、濡れたタオル振り回して殴ったり蹴りつけたりしてたな。
俺も参加してたし、おっさんが逃げたらその方向に指示を出したりした。
最終的に幽霊なのにタコ殴りされて気を失ったおっさんを、俺は引きずってサウナ室に放り込んでおいた。
もうすでに死んでるんだからサウナ室に放置しても死なないだろうと思ってやったけど、今思うと意味不明だな。そもそも死んでるのに気絶ってなんだ?
ちなみに風呂上がりにそのことを羽柴に話したら、無表情無言で親指を立ててた。
ついで羽柴から聞いたけど、あのおっさんは女湯で水死体のふりして覗いていたらしい。
もう幽霊なんだからいっそ堂々と覗けよ。何のカモフラージュなんだよ。
その後は飯食ってからオリエンテーションまでちょっと自由時間で旅館を何気なく探検してたら、なんか卓球台が置いてあって、そこで浴衣きた人が一人で素振りしてた。
修学旅行で貸し切り、旅館の浴衣じゃなくて学校のジャージを着ろって言われてたから、他の客でもうちの学校の奴でもないことは一目で分かったからさ、そのまま俺は無視して部屋に戻ろうと思ったら、見えてることに向こうが気付いて話しかけてきたんだよ。
別にそいつ、悪霊ではなかったよ。ウザかったけど。ひたすらに、ウザいやつだったけど。
そいつが言うには大学の卒業旅行で友達とこの旅館に泊まって、風呂上がりに卓球やる予定だったんだけど急な心臓発作でそのまま死んで、別に誰かを恨んでるという訳ではないんだけど卓球が得意だったからそれが楽しみすぎて、出来なかったのが未練で成仏できないとか、訊いてもいないのに説明してきた。
そんなん未練にすんなよって思ったけど、さすがに言わなかった。
そんなわけだから、卓球勝負しようってしつこかったんだよなー。
俺、卓球やったことないしルールもほとんど知らないから無理! って断ってんのに、教えてやるから、簡単だからって全然引いてくれなくて困ってたら、羽柴がやってきてくれたよ。
で、その卓球バカの幽霊は羽柴にも同じことを頼んで、羽柴はすっげー面倒くさそうだったけど、1回だけを条件に了承したんだ。
で、卓球勝負はというと1秒ほどで決着が着きました。
羽柴が台にバウンドさせずに一直線にピンポン玉をラケットで打って、幽霊の眉間に直撃させてた。
羽柴さん、それはピンポン玉と卓球のラケットであって、野球のボールとバットじゃないんですけど。いや、バッドでもあんなまっすぐにボールを打ち返せないから。
ピンポン玉をマジで頭打ち抜く勢いでぶつけて、羽柴はラケット置いて「はい、終わり」とか言って、そのまま俺を引っ張って卓球台から離れたんだけどさ、俺は羽柴はさっさとあの霊から離れたくてわざとぶつけたんだと思ってた。
……後で訊いてみたら、違ってた。
ピンポン玉をぶつけたのはわざとだったよ。事故じゃなくて狙い通りだったらしい。
ただな……羽柴は卓球のルールを俺以上に理解してなくて、「球を当てた方が勝ち」だと思い込んでた。
あれじゃ羽柴の負けだよって教えたら、心底びっくりしてた。
なんだその無意味なルールが付け加えられたドッジボールは。ラケットはもちろん、台がいるか? そのルールで。
あいつ、もしかしたらルール知らない球技はみんな、ドッジボールみたいに「当てた方が勝ち」だと思ってるんじゃないかと不安になったわ。
この予感が当たっていたらどんな反応をしたらいいかがわからないから、俺はこの疑問を無視することにした。
……で、最後が結構前にだけど話したよな、渦人形って人形っぽいやつと遭遇したって話。
あれが起こったよ。羽柴が定規で無双したあれが。
心霊現象起こりすぎだろ! 初日なのに!
この所為で俺、修学旅行は間違いなく楽しかったのに、この4つの出来事ばっかり思い出して、他の出来事をあんまり覚えてないんだよ!
つーか、何処に行ったかさえも実は思い出せないんだよ!
車酔い幽霊バスガイドのインパクトが強すぎて!
* * *
『……来年の修学旅行は出来ることなら、一日一回で済むといいわね。心霊現象』
HiroYanさんから修学旅行ネタをリクエストされたので、「こんな感じの話はどうかな?」と提供されたネタを使って書いてみました。
年齢的に中学の修学旅行は来年だし、小学校の時の修学旅行は18話でネタにしてしまったので書くつもりはなかったんですが、提供されたネタが面白かったので、書いてしまいました。
次回は、いい話の部類かな?
ソーキのお守り役が増えます。




