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65:心臓が止まりそうだった話

この話の元ネタは、洒落怖スレの「八.尺.様」です。

 今日、久々に部活だったんだけど、まぁいつものようにグダグダ駄弁ってたら、これまたいつものように未だに入り浸ってる部長にさ、「日生くんって、『八尺様』に狙われそうだよね」って言われた。

 俺は「八尺様」ってのがよくわからなかったから首を傾げてたんだけど、他の先輩はみんな「ああ!」って納得の声を上げるし、羽柴も我関せず宿題やってたはずなのになんか真顔で力強く頷いてた。


 何でだよ!? 確かに俺はホイホイだけど、何でそんな全員から納得されるの!? って抗議したんだけど、……「八尺様」の話を教えてもらったら俺、抗議する資格なかった。


 …………遭遇してた。

 俺、羽柴と出会う前、まだ霊感に目覚めてないはずの小1の夏頃に、少なくとも似たような奴に遭遇してたことを思い出しちゃった。


 話したくなかったんだけどさ、「八尺様」の話が進むにつれて顔色が悪くなって様子がおかしくなる俺の変化に、みんなが気づかない訳がなかった。

 すぐにバレて、全員から「どうやって生還したんだよ!?」って突っ込まれた。

 羽柴からも「はぁ!?」って顔されて、突っ込まれたからな。


 それで、もう薄らぼんやりとしか覚えてない記憶を掘り出して話してみたんだけど、やっぱりあれは八尺様かどうかは微妙。

 俺の体験と先輩たちが教えてくれた話、最初の方は全く同じ、八尺様の特徴も同じだけど、後半が全然違ったんだ。


 田舎のオトンの方のじーちゃんばーちゃんの家に、一週間くらい小1の頃に泊まりに行ったんだ。

 で、縁側でスイカを食べてたらなんか「ぽぽぽぽ」って変な声が聞こえて、周りを見たら白い帽子を被って白い服を着た女が、塀の向こう側を歩いてたのが見えた。

 その頃は小1だからさ、何も変だとは思わないでただぼーっとその女を俺は見てたな。

 今ならさ、生きた人間だと思い込んでても、つか生きた人間だと思ってるからこそ「え!?」って思って二度見してただろうな。

 2メートルはある塀の向こうで、肩の丸みが見えたんだぜ? その女の身長、何センチよ? って思うじゃん?


 けどその頃の俺には大人なんて全員2メートル3メートル越えの巨人に見えてし、間近で見上げたらあまりのでかさにビビって泣いたかもしれないけど、遠目から見てたからその女が異常にでかいってことに気付かないで、意味もなく眺めてた。

 そしたらその女と目が合って、女が手を振ったから俺も手を振り返した。

 そういや、女の顔は覚えてないな。単純に昔だからかな?

 ただ、前に見たアクサラみたいな顔だったりしたら、さすがに手なんか振らずに泣き叫んだと思うから、普通の顔だったんじゃないかと思う。


 で、こっから元の八尺様の話だと、じーちゃんばーちゃんとかに昼間の女のことを話したら「それは気に入った男を取り殺す妖怪だ!」って教えられて、お札を張った部屋に夜の間は籠城して、帰るときは血縁者で周りを固めて目くらましにして逃げる、その後はその田舎には絶対に近寄らない。

 八尺様に対する生還の方法ってこんな感じなんだけど、俺の場合はそもそも誰にも「八尺様」らしき女に会った事を話してないんだよ。


 話すまでもないこととしか思ってなくて、っていうか確実に夜にはその女のことを完全に忘れてたから何も話してなくて、しかもその後俺が自覚なしで一人勝手に片付けちゃったみたいだから、家族も田舎のじーちゃんばーちゃんも知らないんだよな、未だに。


 確かその日の夜、2階の昔オトンの部屋だった部屋で俺は寝かされてたんだ。

 下では親戚が集まって宴会してて、俺は退屈だったからさっさと寝たくて未だにベッドが置いてあったその部屋で一人、寝かせてもらってたんだ。

 そんで、もう宴会も終わった頃くらいかな、何か窓の外でコンコン、コンコンって音がして、その音で目が覚めて窓の外を見たら、いたんだよ。

 二階の窓に白い帽子を被って白いワンピースを着た女が、あの塀の向こうから見えてたのと同じように、肩から上が窓の向こうから俺を窺ってた。


 俺の記憶が確かならその部屋の窓の外、ベランダとか屋根とか木とかも近くになかったから、登って立ってられるような構造じゃなかったんだよな。

 だからあの窓から見えたってことは、外に浮いてるか体を縦に伸ばしたかってことになるし、そもそもそこが一階でも夜中に知らない女が窓の外にいたって時点で普通は悲鳴もんのはずだけどさ……、たぶん俺、あの時寝ぼけてたんだよ。


 夢だとは思ってなかったけど現実だとも思ってなかったというか、とにかくそこに女がいることに何の疑問も持たずに、自分でも恐ろしいことにノコノコと窓に近づいて、さらにありえないことに俺、窓を開けちゃったんだよ。

 もうオカ研の先輩達に、「バカーっ!!」って大合唱で突っ込まれた。

 羽柴にも、「……なんでソーキさん生きてるの?」って訊かれた。うん、何ででしょうね?


 で、その寝ぼけてありえない行動しまくった小1の俺は、相変わらず寝ぼけたままその八尺様らしき女に、ねーちゃん、誰? 何か用? とか訊いた気がする。

 その女は俺の質問には答えず、やっぱり「ぽっぽっぽっぽ」って変な笑い方しながら、俺に手を差し伸べてきたんだよ。

 俺、反射でその手を掴んじゃった。

 また先輩たちに「あほーっ!!」って言われて、羽柴にはまさかの絶句された。いや本当に、あの頃の俺は何してるんだか。


 俺がその手を掴んだら、そのまま八尺様は俺を手を引いて窓から外に連れ出そうとしてた気がする。

 ただ、力込めて無理やりではなかったな。軽く引いて、こっちから歩くのを促す感じだったから、俺は別に力を込めて踏みとどまる必要もなかったから、そのまま寝ぼけ続行。

 確か、どの時点かはもう全然思い出せないけど、起きて八尺様を発見した時は窓の外は普通だったんだけど、八尺様に手を引かれた時には、何か窓の外がおかしかった気がする。


 真夜中のはずなのに真っ赤な夕暮れで、田舎とは言えその辺にコンビニとかアパートとかあるはずが、ほとんど畑、田んぼしかない昔ながら田舎に変わってたような気がする。


 あれもあれで、なんか懐かしい気がしていい所だなーとは思ったんだけど、でも何故かあそこには行きたくないなって思って、俺は八尺様にいくら手を引かれても動かず、歩き出そうとしなかった。

 八尺様は何度か俺の手を引くんだけど、俺がそっちには何か行きたくない。っていうか眠いとか言って、手を離してベッドに戻ろうとしたんだよなー、確か。

 で、手を離そうとしたら八尺様が俺の手を強く握って、離してくれないんだよ。握ったまま、やっぱり俺をあのどこかわからない世界に連れて行こうと、軽く手を引くんだ。


 なんか、部長たちの話では凶悪そうな感じだったけど、こうして思い出すとどちらかというと控えめに見えてくるな。やっぱりあれは、別もんなのかな?

 で、続きだけど、何度も何度も八尺様が俺の手を引いて連れて行こうとするんだけど、俺は全然そっちに行く気になれなくて、でも無理やり手を離すにはなんか可哀相だと思い始めてたんだよな。


 なんか子供を連れてこうとする大人じゃなくて、むしろ八尺様が子供で、俺に「行かないで」で縋り付いてるように見えたんだ。

 そう思ったからかな?

 俺、八尺様に向かってこんなこと言い出したんだ。


 ねーちゃんが、こっちに来ればいいじゃん、って。


 マジでなーんも考えずに、確かこういう感じの事を言った。

 俺的にはなんとなくだけどあの窓の外の夕暮れの中に行きたくないだけであって、別に八尺様に関しては怖いとか思ってなかったから、俺を連れて行くのを諦めてくれたら八尺様が部屋に入ってくることも別に何とも思わなかったからさ、ああいうこと言ったんだと思う。


 んで、本来こっから肝心なところなんだろうけど、実はここからは何も覚えてない。

 起きたら普通に朝だった。夜の出来事は覚えてたけど、素で夢だと思ってたはず。

 けど、今思うとたぶん八尺様、マジで俺の言葉を真に受けて部屋に入ったんじゃないかな?

 窓は開けっぱだったし、今でも寝相が悪くてしかも季節が夏なら布団がどっかいってるのが当たり前なのに、その日はタオルケットを蹴飛ばさずちゃんとかぶって寝てたみたいだし。


 あと何故か部屋の中に花があったんだよ。

 草花じゃなくて桜みたいに木に咲く系枝付きのやたらといい匂いの花が、部屋の真ん中にポツンと置いてあった。


 それで俺の話は終わりでさ、なんだかんだでビビりつつもリアル八尺様遭遇話に期待してた先輩たちは、不完全燃焼なオチにがっかりしてた。

 がっかりすんなよ。俺に死ねってかって、軽くキレたわ。


 でもさ、その後も何度か俺、その田舎の家に言ったし泊まったことあるんだけど、八尺様を見たのはあれっきりなんだよな。

 霊感に目覚めた後も、見たことないんだぜ?

 本当にマジで、あれは何だったんだろう? 本当にあれが八尺様だったなら、何で俺は浚われも取り憑かれもしなかったんだろう? って今更ながら首を傾げてたら、羽柴が「嬉しかったんじゃない?」って言い出した。


 羽柴自身も「八尺様」がどういう存在なのか、何が目的で気に入った男を浚ったり取り殺したりするかはわからないけど、気に入った相手に拒絶されるんじゃなくて「こっちにおいで」って受け入れてもらえたことが嬉しかったから、浚いも取り殺しもしなかったんじゃないかって言ってた。

 二度と姿を見せなかったのは、成仏したのかもしれないし、怖がらせたくないから姿を見せないのかもしれない。


 そんなことを言いながら、羽柴はスマホで俺が寝てた部屋にあった花はこれじゃないかって、花の画像を見せてくれた。

 そこに映ってた白い花は間違いなくあの日、部屋の真ん中に置かれてた花だったよ。

 クチナシって花だった。


「全部私の想像でしかないけど、この花はソーキさんに対してのお礼と、『答え』かもね」って言いながら羽柴はその画面をスクロールして、クチナシの花についての説明を見せてくれた。

 それ見て、羽柴の言う通りあの八尺様っぽいのが嬉しかったとか、成仏したとかは想像でしかないけど、本当だったらいいなって思えた。


 ……クチナシの花言葉って、「私は幸せです」なんだってさ。


 初めは思い出した時、顔を青ざめて最悪! とか思ったけど、今は思い出して良かったよ。

 これもきっと、数少ないオカルト関連のいい思い出だから。




 * * *




『あんたは良いでしょうけど、後ろで見てた私の気持ちにもなりなさいよ。

 あんたが相手の手を掴んじゃった時、心臓が止まりそうだったんだから! いや、初めから動いてないけどさ!!』

実は書く予定はなかった洒落怖一番の有名所。

予定がなかった理由は、ソーキと羽柴が二人きりはもちろん、家族込みでも一緒に旅行するほど親密な仲ではないので、ソーキが遭遇しても羽柴が助けに来られないから。


ソーキと羽柴の旅行先がたまたま一緒っていうのもご都合主義すぎて嫌だなと思い見送っていたネタだったけど、リクエストされてもう一回考えてみた結果、「羽柴が助けに来られないんなら、ソーキが自力無自覚で解決させたらいいじゃん」と発想が逆転した。


実際にやる勇気はないけど、こういう連れ去り系の怪談に「お前がこっちに来い」と言ってやったらどうなるのかが、少し気になります。


次回は、かなり後味の悪い話です。

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