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64:自業自得の話

この話の元ネタは、洒落怖スレの「赤.口.さ.ま.遊.び」です。

 最近さ、うちの近所で動物虐待が問題になってたじゃん。

 ハトやスズメとかの野鳥、野良猫や庭とかで外飼いの犬に飼育小屋のウサギやニワトリが、死骸で発見されるって話。


 これだけなら動物が可哀相だけど、ペット飼ってる人とか動物愛護の活動をしてる人以外はそこまで警戒しないじゃん?

 冷たい話だけど、死骸を発見してしまう可能性以外は他人事としか思えねーじゃん?


 なのに、最近ものすごく近所が厳重警戒態勢だったんだ。

 小・中学校はもちろん、高校生もなるべく集団で登下校しろって指導されてたらしいし、部活も完全禁止ではなかったけどかなり活動時間が短くなったし、塾とかに送り迎えする親が急増してた。


 友達と最近、学校も親も過保護過ぎね? って話してたら、「動物虐待ってエスカレートすると人間、特に弱い子供に矛先が向かうらしいから、その所為じゃね?」って返されて、一瞬納得したけどやっぱりおかしいって思ったよ。

 エスカレート云々の話は確かに俺も聞いたことあるし、野鳥や野良猫どころか人の家の庭や学校に忍び込んでペットを殺してるんだから、犯人はかなりヤバい、警戒は絶対にした方がいいって町全体で思うのはわかる。でも、小・中学校はともかく、高校生にまで集団登下校するように指導するか? って思ってた。


 ……俺も俺の周りもさ、その殺された動物がどんな殺され方をしたのか知らなかったんだ。

 だから、ここまで異様な警戒の理由がわからなかった。

 思い知らされたのは、今日。


 オカ研はほとんど駄弁る以外何もしない部活だからさ、しばらく活動すんなって言われて、その日も授業が終わってすぐに俺は帰ったんだ。

 で、そんな日に限って何故か俺は学校から帰ってきて真っ先に宿題をやるなんてキャラに合わないことやってたから、スマホを学校に忘れてることに気付くのが遅れた。


 もう11月だから暗くなるのは早いけど時間はまだ6時になってなかったから、別にいいだろと思って取りに行ったんだ。

 しかも、その時オカンがちょっと夕飯の材料で買い忘れた物があるから、それを買いに出かけてたから、メモ書きだけ残して出かけちゃったんだよなー。


 帰ってきてから、オカンにめちゃくちゃ怒られたよ。

 オカンは近所の噂で、動物がどんな殺され方だったのかを知ってたから、ただでさえ色んな意味でトラブル体質な俺が暗くなってから出歩くなんてことしてほしくなかった、心配なのにスマホを忘れてるせいで連絡が取れなくて不安で死にそうだったって、マジで泣きながら言われたからもう土下座で謝りまくるしかなかったわ。

 ……実際、その心配したトラブルにぶち当たったからな。


 もう学校に到着した頃には日が沈んでたし、職員室は普通に明かりがついてたけどいつもならまだまだ活動してるはずの部活もやってなくて、やたら不気味だなーって思いながら校門に向かったら、いきなり懐中電灯の光を顔に当てられてびっくりしたわ。


 んで、光を当てられた方を見てみたら、何故か羽柴がいたんだよね。

 羽柴は災害用の手回しでいくらでも光るごつい懐中電灯を持って、何か少し怒った雰囲気で「ソーキさん、何してるの?」って訊くから、いや俺もお前にそれ訊きたいよとか思いながら、忘れ物取りにきたって答えといた。


 羽柴も忘れ物かなーと思ったら、別に用なんかなかった。

「嫌な予感、具体的に言えばソーキさんがまた連絡取りたいけど取れない状況で、厄介ごとを引き寄せて巻き込まれると思ったから来た」って真顔で言われて、反応に困ったわ。

 心配してもらえるのは嬉しいけど好きな子に守られてばっかなのは情けないし、そして予感が具体的すぎてちょっと怖かった。つーか、その予感大当たりだったし。


 まぁ、どんな状況でも羽柴に会えたり少しでも長く一緒に入れるだけで嬉しいから、その具体的な予感に関しては深く考えないことにして、とりあえず心配してくれたお礼を言いながら、一緒に忘れ物を取りに行った。

 学校に残ってた先生に保護者なしで出歩くなって怒られたけど、あれは羽柴がいたから説教があの程度で済んだんだろうな。もう先生たちも、羽柴は色んな意味で心配いらんと基本的に思ってるわ。


 で、スマホを見つけて佐々帰ろうって段階で、俺が羽柴を送るか羽柴が俺を送るかを校門前で軽くもめたんだ。

 俺らの家の位置は途中から真逆だから送るんならどっちかが結構な遠回りになるから、俺が男で羽柴は女の子なんだから俺が送るって言っても、「ソーキさんを一人で帰らせたら、私が来た意味ないでしょう」って情けないけどその通りな正論を返されて、でも俺だって好きな子を危ない奴がいるかもしれないってのに一人で帰らせるわけにいかないから引く気もなくて、どっちも意地を張り合ってた時、動物の鳴き声がしたんだ。


 鳴き声というか、絶叫だった。猫だったんだけど、猫らしいのは最初のフシャァーッ! って声ぐらいで、その後すぐに上がった声は人の悲鳴に近くて、しかも聞いただけで鳥肌が立つくらい、苦痛とか激痛が感じられるような絶叫。

 その絶叫を、俺は即座に動物虐待に結び付けた。


 俺は情けないことに結び付けたからって何をしたらいいか全然わからなくって、せっかく手にスマホを持ってるのに警察に通報とかも考えつかなかったんだけど、羽柴が懐中電灯を俺に渡して「警察に連絡!」って指示飛ばして、そのまま猫の絶叫がした方に走って行ったんだ。


 羽柴が走って行ってやっと思考が少しは働いたんだけど、俺、羽柴の指示を無視してそのまま羽柴の後を追ったんだ。

 羽柴が危ない! とか思って、何もできないくせに、足しか引っ張らないくせにそのまま追って行ったら学校近くの公園の中、植え込みの中に大の大人が一人、座り込んで何かぶつぶつ言ってた。

 そいつの前には猫の死骸があったんだけど、その死骸とそいつの顔を見て、あの厳重警戒の意味をようやく理解した。


 ……猫の死骸に、頭がなかった。

 切り落とされたのならまだそれは人として最低だけど、人がやった動物虐待だ。


 …………猫の死骸の前に座っていた奴の両手と口が、真っ赤だったんだよ。

 猫の首は、刃物で切り落とされたような傷口じゃなかった。食いちぎられたような、グチャグチャの傷口だった。


 ……食ったんだ。食ってたんだ。

 あんなにも警戒されてたのは、発見された動物の死体は皆、頭を生きたまま食われてたから。

 その歯型や痕跡から、食ったのは野犬とか他の動物じゃなくて人間だってわかってたから、混乱を避けるためにそのことは伏せつつ、未成年全体に厳重警戒態勢を強いていたんだ。

 あー、思い出しただけで気持ち悪い。しばらく俺、肉が食えないし猫が見れないわ。


 で、そいつも俺や羽柴に気付いて顔を上げるんだけど、誰がどう見てもまともな思考回路してないわってわかるうつろな目で、ぶつぶつなんか言ってた。

「たべたりない、たりない、たりない、でもいや、たべたくない、いやだ、いやだ、たべたりない、まだたりない」とか言いながら、フラフラした足取りで立ち上がってこっちに向かって来たんだ。

 まぁ、そんな酔っ払いみたいな足取りの男なんかが、羽柴の行動の速さについて行けるわけないけどな。


 俺に渡してた懐中電灯を羽柴はひょいっと取って、それを振りかぶって思いっきり男の顔面に殴りつけた。

 これだけでも正当防衛になるか怪しいところなのに、羽柴はその一撃で鼻が変な方向に曲がって気を失った男の顔に懐中電灯で、ひたすら殴打。

 ちょっ!? 羽柴さん何してんの!? それはもう過剰防衛も通り過ぎて、殺人未遂ですよ!? と俺は突っ込んで止めたけど、羽柴はその男の顎を砕くまで辞めなかった。

 ……俺、羽柴の指示守って通報しなくて良かったよ。


 羽柴がようやくやめたあたりで、俺は羽柴の腕を掴んでその場から逃げた。どう見ても、返り血を浴びた羽柴が加害者にしか見えなかったからな。

 実際にそうだし!


 そんで、とりあえず人通りの少ないところで、何でいきなりあんなことをやったのかを訊いたんだ。

 まぁ、予想はしてたけど、あれはいつもの除霊でした。いつもより過激だったけど、あれは速攻で片付けるならあれぐらいしなくちゃいけないものだったらしい。


 確証はないけど、たぶんあの男は「赤口さま遊び」って呪いをやった奴だろうだってさ。

 なんかそれ、こっくりさんと犬神を組み合わせたような呪いで、強力だから呪いをかけられたのが素人なら確実に死ぬものらしいけど、その分呪いをかけた側が背負う代償もめちゃくちゃ重いものなんだ。


 ……人を食いたくなるらしい。

 人の頭を、どうしてもどうしようもなく食いたくなる。それが呪った側が背負う代償。


 人じゃなくて動物食ってたじゃんって俺は思ったけど、あの男の呟きからして「人を食いたい」って欲求にかろうじて残ってる正気が拒絶して、その妥協が動物だったんじゃないかってのが、羽柴の予想。

 で、その正気もほとんど失われてたから、これはすぐに片付けないと最悪の事態が起こるって思った結果があれ。

 あの呪い、「赤口」って名前の通り口に呪いが憑くから、歯とか舌とか顎とかを破壊するのが一番手っ取り早いんだとさ。

 ……する暇がなかったのはわかってるけど、それを先に言ってくれ。言われてたって心臓に悪いわ!


 まー、そんな感じであの男はちょっとかわいそうだけど、呪いの副作用が働いてるってことは呪いは成立して誰かを殺したってことだから、自業自得、むしろ最悪の事態を起こす前に羽柴に出会って運が良かったという事にして、俺は一応救急車だけ呼んで、そのまま羽柴を送って帰った。

 さすがに返り血を浴びてたから、羽柴が俺を送るとは今度は言い出さなかったよ。

 でもやっぱり一人で帰らせるわけにはいかないって、羽柴を送ったら代わりに今度はしきみさんに送られて帰ってきたんだ。


 送りながら、しきみさんに羽柴が何をやったのかを訊かれたから答えたよ。

 つーかあの人、娘が血まみれで帰ってきたのに怪我の心配を全くしてなかったな。返り血だと確信してた。そして、その血の主の心配もしてなかった。

 娘が非のない相手に暴力を振るう訳ないと信頼してるんだろうけど、さすがに少しは疑うかなんかしてくれ。マジであれは、人助けなのに殺人未遂だったんだから。


 全部話しても、好きな言葉が因果応報なしきみさんがやっぱり相手の心配をするわけなくて、「人のまま死ねて運がいい」とか言い出したんだよ。

 いや、死んでねぇよ! あなたの娘、殺してませんから! って突っ込んだら、しきみさんは涼しい顔で「時間の問題だよ」って言い出すんだ。


 何であんたは娘を人殺しにしたがってんの!? って思ったら、どうも俺と会話が微妙にかみ合ってないことに気付いて、ちょっと不思議そうな顔でしきみさんが俺に尋ねたんだ。

「少年はもしかして、『赤口さま遊び』の方法をれんげから聞いてないのかい?」って。


 そういや呪いの方法なんて興味ないから、こっくりさんと犬神を組み合わせたようなものってだけ聞いて詳しいことは聞いてないって答えたら、しきみさんは補足してくれた。

 ……あの呪いの副作用、無差別に人間を食べたくなるものじゃなくて、「お互い」を食い殺したくなるものなんだとさ。


 しきみさんは初めて出会った時に見せた、顔は笑ってるのに目は深く冷たいままに言ったよ。


「『赤口さま遊び』は、3人で行う呪法だよ」って。




 * * *




『……残り二人が勝手に共食いしてくれたらいいわね、それ』

HiroYanさんからのリクエスト、「赤.口.さ.ま.遊.び」でした。

いつものように真似する人がいたら困るので詳しいやり方は書きませんでしたが、元ネタはホラーとしてはものすごく上手い部類だったけど上手すぎて創作だと一目でわかるものだったので、多分やっても効果ないと思います。

どちらにせよ、やるなら自分で責任を取ってくださいね。


次回も、リクエストに応えて洒落怖ネタです。

次のは、いい話になるのかな?

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