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63:ツイッターの話

 俺さ、ほとんど呟かないけどツイッターを一応やってるんだよ。

 ほとんど友達のとか好きな漫画家とかタレントとか、あと面白いbotを見たりするために取った奴で、月一で呟けばいい方。


 だってさ、俺の日常を呟いてどうする?

 心霊現象は日常茶飯事で、それを解決するのが超美少女で、解決方法が物理って、どう見ても頭おかしい奴にしか見えねーよ。


 そんなんだから当たり障りないけどちょっと面白かったこととか呟いたり、運よく心霊写真にならなかった写真を載せたりする程度だから、もちろん俺をフォローしてるのは俺と直接面識のある友達だけだったんだけど、1週間くらい前かな?

 全然知らない人が、フォロワーになったんだ。


 そのフォロワーさんは、「つぶやきと写真から、たぶん地元が同じだと思ってフォローさせてもらいました~! できればお友達になってくれたらうれしいです!」ってメッセージも来てたから、「こちらこそ」って簡単に返して、まぁフォローしてくれたらなら俺もしとこうくらいの気持ちでその人のツイッターもフォローし返した。


 この時は、何も不思議に思ってなかったよ。つーか、思う余地ないだろ!?

 一応、個人特定されたくないからされそうなことは呟かないように書いてけど、写真をいくつか載せてたから、地元民が見たら個人は特定されなくても「あ、これうちの近所だ」ってわかってもおかしくないじゃん。

 それが狙ってじゃなくって、たまたま偶然見つけたんならちょっとフォローしとこうかな? くらい俺だって思うよ。

 そんな風に思って、そのまま変わらずツイッターはほとんど放置してた。


 呟くのも稀なら、ツイートを読むのも稀なんだよ、俺。

 一日一回は基本的に見てるけど三日くらい放置もざらで、しかも特に興味のない話題は読み飛ばすから、さらに気付くのが遅れた。

 俺をフォローした「地元が同じ」って言った人のツイートが、異常だってことに。


 その人もこじんとくていされたくないのか、文章的に女じゃないかなーって思う程度にしかわからない事しか呟いてなかった。

 自分の日常を一日5・6回呟いてる、ごくごく普通の日記みたいなもんだと思ってた。


 だから、さらっと読み飛ばしてたんだけど、まず初めに気付いたのが三日くらい前。その人の晩飯メニューが俺ん家と全く同じだったんだ。

 これがカレーとかハンバーグとかならよくある偶然でしかないから、また俺は読み飛ばしてたんだろうけど、11月だっていうのにソーメンだったんだよ。その日の晩飯。

 オカンが夏の終わりごろに売り尽くしセールで激安だったから買って、そのまま忘れてた奴を今頃思い出して、晩飯に出してきたんだよ。


 でもまぁ、これもカレーとかと比べたらそりゃ珍しいけど、偶然がありえないってほど珍しい現象じゃねぇだろ?

 実際、次の日友達に話したら、皆「あるある!」とか言って笑ってたし。

 だから、俺はそのツイートに「俺ん家もソーメンでした! 偶然っすね!」って返したんだ。


 んで、そんな返しも忘れて次の日も普通に過ごして、その日の夜にまたツイッターを見た時にそういや昨日はすごい偶然だったなってのを思い出して、なんとなくその人のツイートを読み飛ばさずに読んでみたんだ。

 そしたら、その人の晩飯がまた俺ん家と同じだった。


 その日の晩飯は、ブタの生姜焼きとほうれんそうのお浸しと豆腐とねぎの味噌汁。

 まぁ、被ってもおかしくない普通のメニューだと思うけど、二日連続この偶然ってあり得るか? みそ汁の具くらい、違いが出るもんじゃね? って思った。

 思ったけど偶然じゃないって言いきるには微妙すぎて、オカンに今日の晩飯はどうしてあのメニューになったのかを聞いたら、豚肉とほうれん草が安くて豚肉のコーナーに簡単にできる生姜焼きレシピのチラシが置いてあったからそうしたって返されて、安心した。


 地元が一緒って理由でフォローしたんだから生活圏が被ってるだろうし、それなら同じように特売で豚肉ほうれん草買って、レシピが置いてあったから生姜焼き作った家庭なんて、近所だからこそいっぱいある、昨日のソーメンだってその人とうちのオカンがやたらと似た思考回路と行動原理を持ってるだけだ。

 そんな風に解釈して、やっぱり気にしないで綺麗に忘れて今日もまたツイートを見て、……今度は固まった。


 また、晩飯が同じだった。

 今日だってそんな変なメニューじゃなくて、唐揚げとサラダとかありきたりなメニューだからやっぱり偶然って片付けられないこともなかったんだけど、今日はオトンが出張から帰って来てお土産があったから、それがデザートだったじゃん。

 オトンが一日だけだけど出張してたのは愛媛でお土産はタルトだったんだけど、愛媛のタルト、晩飯前に見せたけどすげーじゃん?

 タルトじゃなくてロールケーキで、しかも中身あんこ!

 あんなのケーキ屋で見たことないし、この辺じゃ絶対に売ってないじゃん!


 同じだった。

 全く同じ、ゆず風味のあんこを巻いたロールケーキの「タルト」がデザートだった。


 これはもう偶然じゃねぇ!! って思って、そいつの呟きを読み返してみたんだ。

 そしたら血の気が音を立てて引いていったわ。

 読み飛ばしてたし、一日のうちで一番インパクトの強い心霊関係の事が書かれてなかったから気付かなかった。


 ……そいつの呟き、俺をフォローする前からずっと全部、俺の行動そのままなんだ。

 俺と全く同じ時間に起きて、学校行って、同じ授業を受けて、同じ時間に帰って、同じことをやったり思ったりしてた。


 もう明らかに偶然どころか本当にそいつがやった行動じゃなくて、俺の観察記録だろ、これ!? 状態。

 もちろん今までの経験上、生きた人間のストーカーだとは思えなかった。

 ていうかその証拠にさー、あらかた読み返してそいつの異常さを確信した瞬間、ツイッターに呟きが更新されたし。

 たった一文、「気付かれた」って。


 しかもその後はスマホが全然、操作できなくなったしさー。

 いくらタップしてもスライドしても、電源ボタンを押してもうんともすんとも言わないで、ひたすらそいつの呟きだけが更新されていったんだ。


「気付かれちゃった」「でも嬉しい」「やっと気づいてくれた」「私たちはやっぱり、赤い糸で結ばれてるのね」とか、どんどん気持ち悪い妄想癖持ちストーカーの言い分そのままになっていってさ、何か最終的に「愛してる」「大好き」をひたすらに連呼してた。

 もう俺は引く以外できなくて、これどうしたらいの!? 気持ち悪いけど、直接的な害はあるの!? 羽柴に助けを求めるべき状態なのか、まだ大丈夫なのか判別つかないし、そもそもまた連絡手段が暴走して、羽柴に連絡できねー!! とかパニくってたわ。


 そしたらツイートが「愛してる」の連呼から、何か不穏なものに変化したんだよ。

「どうして返事を返してくれないの?」「どうして私を見てくれないの?」「あの女の所為?」「あの女が邪魔をしてるのね」「ゆるさない」「私たちの仲を引き裂くあの女が、ゆるせない」「邪魔するあの女は消してあげる」って、質問しといて自己完結し始めた時、写真も載せてきはじめたんだ。


 その写真は、家具も物も少なくてシンプルだけど、骨董なんか全然わかんない俺でもアンティークの良いものなんだろうなってわかるくらい、センスのいいもので統一された部屋が映ってた。

 片手で足りるくらいの数しか入ったことないけど、一目でわかったよ。

 それが羽柴の部屋だって。

 写真の中央に、机に向かって宿題でもしてんのか背を向けて映ってる子が羽柴だってこともな。


 その写真は十数秒ごとに更新されていって、どんどん羽柴に近づいていくんだよ。

 写真と一緒に「待ってて」「すぐに消すから」「終わったら直ぐに、会いに行くから」っていう、完璧にいかれきったメッセージも一緒になって更新されて、俺はそれがツイッターの画面で何の意味もないってわかっててもつい、羽柴!! って叫んだよ。

 叫んだ直度だったから、聞こえたのかと思ったわ。

 次の更新された写真の羽柴が、振り返ってたのは。


 その写真と一緒に書き込まれた呟きは、「え?」だった。完璧にストーカー霊も予想外だったんだろうな。

 そして、その次に更新された写真は……なんか、思いっきり無表情でいつもの定規を握りしめて振りかぶってる羽柴。

 次の写真は思いっきりブレてたわ。カメラか撮影者がぶん殴られたみたいに。

 みたいじゃなくて、確実にぶん殴ったんだろうけど。

 その後は、いつもの通り羽柴無双。


 あれは意図的に更新してんじゃなくて、自分の視界と思考を自動送信的なもんだったんだろうな。

 ツイッターが、羽柴にフルボッコ実況中継状態になってたわ。

 ほとんどの写真がブレブレで良く見えないんだけど、まともに映ってる写真のツイートで「待って! 話を聞いて!」とか言ってんのに、数秒後には殴ったか蹴ったのかで、ブレブレの写真が更新。

 羽柴は、あれが俺のストーカーだってことすら知らずに応戦してたよ。


 最終的な写真は、床のフローリングの木目ドアップだったな。たぶん羽柴が、ストーカーの頭を踏みつけてたんだと思う。

 んで、その写真で呟かれてたツイートは「ごめんなさい。もうしません。もうあなたにも彼にも近づきませんから、どうか許して」で、そのツイートが更新されてやっとスマホが普通に操作できるようになったんだよ。


 指を画面で滑らせたら普通にスライドするようになったんだけど、少しスライドさせたらあんだけ連続更新されてたツイートが、全部なくなってた。

 最新の方に画面を戻してもやっぱり呟きは全部消えてるし、俺も相手もフォローしてないことになってて、どこにもツイートが残ってねーの。

 そんで俺自身も、あのストーカーがどんな名前で登録してたのかが思い出せなくなってた。


 あー、また羽柴に助けられたのかって思って、その後すぐに俺はラインで羽柴にまた迷惑かけてごめん。そんで、ありがとうって言っておいたんだ。

 そしたら数分後、羽柴が電話をかけてきたんだよ。

「さっきの霊ソーキさん関連だったの?」って言われるんだろうなと思って普通に電話に出たんだけど、予想の斜め上なことを訊かれたわ。


 ……羽柴、めっや不思議そうな声で「ソーキさん、さっきのライン何? 何の謝罪とお礼?」って言いだしたんだ。

 思わず数秒固まって、尋ね返すしか出来なかったよ。


 羽柴、今さっきまでなんかしてた? って。

 その質問に対して、羽柴の答えは「別に何も」だった。

 5年の付き合いだ。顔を見なくてもわかる。あれは俺に気遣ってとか、俺に話したくないから隠してるんざじゃなくて、完全に素。

 あいつにとって、さっきまで実況中継されてたフルボッコは、語るまでもない日常茶飯事だってことだった。

 つか、きょとんとした顔で言ってるのが、めっちゃ鮮明に頭の中で浮かんだわ!!


 もう俺には、何でもないって言う以外何も出来なかったつーの……




 * * *




『私、れんげちゃんの日常を知るのがものすごく怖い!!』

そういえば現代的な怖い話をやってないなと思い、ツイッターの話にしてみたけど、現代的とかそういうの羽柴さんには何の関係もなかった。


次回は、読者さんからのリクエストで洒落怖が元ネタです。

羽柴さんは夢想したけど、後味悪い系かな?

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