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62:水鏡の話

 あー、またバカなことやっちゃった。

 今度も盛大に自業自得なんだけどさー……もし、助かったのが羽柴のおかげだったとしたら俺は嬉しすぎて助かったのに死ぬかもしれない。

 あれが羽柴の保証なんてどこにもないんだけど……。


 昼休みにさ、クラスの女子が話してたのが聞こえたんだ。

 未来の結婚相手が見れるおまじないって奴。

 洗面器に水を入れて、剃刀を口にくわえて、夜中の0時ちょうどに洗面器の水をのぞき込んだら、そこに未来の結婚相手が映るって話。

 自分の席で友達と飯食ってたら、後ろの席の女子がそんな話をしてて、誰々先輩は付き合ってる彼氏が見えたとかなんとか話してるのを聞き流してた。


 本当に、それ聞いた時は何とも思ってなかったんだよ。

 つーか、何で剃刀くわえるんだよ? とか、心の中でツッコミを入れてた。

 ……でも、昨日の夜オカンに早く寝ろって言われて歯を磨いてたら、時間があと10分くらいで0時だってことに気付いてさ、歯磨き粉が切れてたから洗面台の下の戸棚を探ってたら、オカンの安全剃刀のストックを見つけちゃった時、このおまじないを思い出しちゃったんだよ。


 いやいやバカらしい。映るわけねーよ。映ったとしてもあれだ、俺なら未来の結婚相手じゃなくて近くの悪霊を呼び出して、洗面器から飛び出てくるのがオチだって。

 そんなこと考えながら、歯を磨き終わったら寝るつもりだったよ。

 ……寝るつもりだったんだけどさ。


 しょーがないじゃん!

 思い出したら気になるんだよ! やってみたくなるんだよ!

 って言うか、あり得ないってわかってても期待して悪いか!?

 羽柴が映ってくれたらいいのになって、思って悪いか!?


 ……ごめん、ヒートアップしすぎた。

 うん、もう正直に言う。やりました。おまじない。

 歯を磨き終わった時であと3分しかなかったから、慌てつつもオカンやオトンに見つからないように、水を張った洗面器を自分の部屋に持って行って、オカンの安全剃刀を一本パクッて、洗面器の前で0時ちょうどになるまで剃刀を口にくわえて正座待機。


 正直言って恥ずかしいことに、あの時思ってたことは羽柴が映ったらどうしよう? 明日からまともに顔が見れるかな? とか、自意識過剰で恥ずかしい心配してた。

 ありえないありえないって予防線を張ってるくせに、羽柴以外が映る可能性を全く考えてなかったよ、俺。


 で、スマホで時間を確かめて、0時5秒前でスマホを置いて洗面器を覗き込んだんだ。

 初めは普通に俺の顔が映って、そりゃそうですよねーって拍子抜けして恥ずかしくなったんだけど、2秒もしないうちに水面が揺れたんだ。

 室内だし、まだ暖房とかいらない時期だからエアコンの風って可能性はなし。なのに大きく揺れて、水面に映る俺の顔が変化したんだ。

 あきらかに俺より長い髪のシルエットに変化して、え? マジで結婚相手が映るの? 髪が長い! 羽柴くるか!? とか呑気に思いながら、俺は前のめりになって洗面器の中をのぞき込んだら水面の揺れが収まって、水に映る顔がはっきりとし始めたんだ。


 それは、髪の長い女だった。……うん、女だったけど、確実に俺の結婚相手ではないわ。って言うか、結婚相手でたまるか!!

 だって白目向いて土気色の顔をした、どう見ても生きてない人だった!

 俺の予想、大当たり!


 やっぱりこうなると思ってましたー!! と負け惜しみで叫びそうになりながら、体を引こうとしたんだけど、洗面器からザバっとその女の両手が出て来てさ、俺の顔を掴んでそのまま洗面器に突っ込んだんだ。

そしたらさー、ごく普通の洗面器のはずなのに、俺の顔どころか肩まで沈んだんだぜ?

 洗面器が底なしの海みたいになってて、真っ暗な底まであの霊は俺を引きずり込もうとニヤニヤしてたんだ。


 俺はどうにかしようともがくんだけど、情けないことに肩が洗面器のふちにはまってるから、手が動かなくって、ちょうど口に武器をくわえてんのにどうしようもできなくて、ただ必死で息をこらえてたんだ。

 そしたら、真っ黒で底が全く見えないと思ってた女の背後で、キラッと何かが光ったような気がしたんだ。


 あれなんだ? って思った瞬間、その光ったものなんか気にならないものが出てきた。

 ニヤニヤ笑って俺を沈めようとしてた女が、いきなりグイッて首をのけぞらせたんだ。

 女は多分、何も理解できてなかっただろうな。

 自分の後ろから誰かが髪をわし掴んでのけぞらせたことも、そのまま首を一閃で掻き切られたことも。


 俺だって何が何だか理解できなかったよ。

 チラッと髪をわし掴み指が見えたかと思ったら、なんか床屋でしか見ないごつくて大振りでもはや凶器、昔の映画であった床屋の殺人鬼が持ってそうな剃刀でその女の首が、綺麗に真一文字で掻き切られたからな。


 水の中だからか、喉を掻き切られたからか、その女の悲鳴は聞こえなかった。

 女の首が切られて、俺の頭を掴んでた力が抜けて、そのおかげで俺は洗面器で溺れるという恥ずかしすぎる死に方は回避できたよ。

 顔を上げたら、そこは普通に俺の部屋で、もう一回洗面器をのぞき込んでもその中には悪霊も、それ以外の人間も映ってない、ポカンとした俺のマヌケ面だけだったよ。


 ただ、いきなり出てきた手と剃刀で悪霊とはいえ躊躇なく喉をぶった切るなんて光景にビックリして、俺、水の中で口を開けて剃刀を落としちゃったんだよな。

 で、その剃刀は女の首を切った手、でかい剃刀を握ってる指に当たっっちゃったんだ。


 洗面器の中には、俺が落とした剃刀と、俺は何処も怪我してない、あの女だって首を斬られても血は一滴も噴き出してなかったのに、洗面器の水はうっすらと赤くて、錆の匂いがしたんだ。


 これが、昨日の夜に起こった出来事。

 俺は今日、学校に行って昨日のことを羽柴に話そうかどうか悩んだよ。

 また自分からバカなことをやって、そのせいでターゲット認定されたことに説教されるのは、自業自得だからいいとして、やっぱあのおまじないをしたことは知られたくなかったからな。


 たぶんあれはもう大丈夫だと思うけど、でもまた狙われたらあの正体不明の手が助けてくれる保証なんかないしなー、そもそもあれは助けてくれたのかどうかもわかんねーしとか考えてたんだけど、羽柴見て言葉を失ったよ。


 性格には、羽柴の右手。

 羽柴、間違いなく昨日まで手に怪我なんかしてなかったのに、今日になって人差し指から薬指まで、3本指を怪我して絆創膏を張ってたんだ。

 しかも、その絆創膏の位置は指の根元。張り方からして怪我は手のひら側じゃなくて、手の甲の方。


 ……その位置はちょうどさ、昨日、俺がくわえてた剃刀を落としちゃったせいで、助けてくれた手に当てちゃった位置なんだよ。

 そーいや、びっくりしたし一瞬だったからちゃんと見てないし、さすがに手だけで誰か識別できるスキルなんかねーけど、白くてほっそりした指とか、桜貝みたいに綺麗な薄ピンクの爪とか、確かに羽柴っぽい手だったような気がするんだよ。

 昨日、助けてくれたあの手は。


 いやいやまさか、そんなわけないと思いつつ、羽柴にその怪我どうしたのかを尋ねたら、羽柴は「知らない」って言って、そっぽむいちゃったんだよ。

 でもさ、そっぽむきつつも俺、見ちゃったんだ。

 表情はいつもと何一つ変わらないアイスフェイスポーカーフェイスな無表情だったけどさ、確かに羽柴の頬がいつもより明らかに赤かったんだ!


 とりあえず、俺が言えたのはごめんと謝ることだけだったけど、だったけど!

 訊けないけど訊きたい! 昨日のあの手はやっぱり羽柴なのか、訊きたい!

 そして、何で俺が襲われてたのかを知って、助けてくれたのかも訊きたい!!

 なんかしきみさん譲りの超能力的なもんで俺のピンチを知っただけで、直接行く暇なかったからいつものチートな気合いで、洗面器の水を俺のところまで繋いだだけかもしれないけど!


 武器が剃刀って!

 ないと思うけど、わかってるけどさ、羽柴も同じおまじないやってたのかな? って思っちゃうじゃん!

 間にあの悪霊が入って邪魔されたけど、もしも羽柴が普通におまじないやってたんだとしたら、俺のところに繋がっていたのがわざとじゃないのなら、それってそういう事だよな!?

 あの悪霊が来なければ、映っていたのは……羽柴ってことだよな?

 で、羽柴の方に俺も映るってことだよな!?


 あーもーヤバい。ニヤニヤが止まらなくて自分でも気持ち悪い。

 わかってるよ。これが自分の都合のいいこじつけの妄想だってことぐらい。

 でもちょっとくらいは浸らせてくれ。

 しばらくまともに、羽柴の顔が見れる自信がねーんだから。




 * * *




『本当に昨日の手がれんげちゃんなら、たぶん今までで一番、容赦なくてえげつないことやったけど、それでもその反応って、あんたの愛は本物だわ。

 ……引くくらいに』 

おまじないのやり方だけ、「地.獄.先.生.ぬ.~.べ.~」が元ネタ。

けどたぶんあっちもオリジナルではないだろうから、本物の元ネタは何だろう?

そしていつもの事ですが、自己責任が取れない方はマネしないでくださいね。


次回も、いつも通りの羽柴さん無双です。

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