表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/87

61:心霊写真の話②

 ……今日、部室に入った瞬間、顔を引きつらせて固まったよ。


 羽柴は図書委員で今週は放課後の図書室開放の当番だったから、部活に先に行っといてって言われて俺だけ先に行ったんだけどさ、そういう日に限って羽柴に除霊依頼の客が来てたんだ。

 部室には私服で20歳くらいのねーちゃんが3人いてさ、そのうちの一人が右腕は三角巾で吊るして左足にはギブス、その他いろいろ体中に包帯やら絆創膏だらけの怪我人だったんだけど、もはやそれはどうでも良かったよ。

 ……その人、俺から見たら白い靄にしか見えないものを背中に背負ってたんだ。


 その人たちは大学生で、3人組のうち一人がうちの中学の卒業生だったんだ。

 で、この前の文化祭に遊びに来て、うちの部の展示「心霊写真館」を見たのと、部員の誰かが「うちには除霊できる本物がいますよー」的なことを話したらしくてさ、ちょうど大学の友達が心霊写真で悩んでたから相談に乗ってもらおうと思って来たらしい。


 俺が部室に入った時の反応で、その3人組は俺が除霊できる人だと思ってマシンガントークで何とかしてくれって言われて、大変だったわ。

 何とか、除霊できんのは俺じゃない、俺は見えるだけ、それも見えるやつは限られてるってのと、除霊できる奴はあと30分くらいで来るってのを説明して、それまで相談だけならってことで話を聞いてたんだ。

 他の部員、特に引退したのに入り浸ってる部長が話を聞きたそうだったし。


 で、その心霊写真に悩まされてるっていうのは、体中に怪我して背中になんか背負ってる人。残る一人はただの付き添いというか、冷やかしだな。ぶっちゃけ、卒業生の人もだけど。

 もー友達とはいえ当事者じゃないのに、被害うけてる本人よりその二人がしゃべることしゃべること。

 さっきのマシンガントークもその二人だし、どういう心霊現象が起こってるのかとかの説明も本人じゃなくて友達の方が全部説明して、俺、本人から聞いたのは「うん」とか「そう」っていう相槌だけだったよ。


 ……まぁ、それは横においといて、何かその人、夏休みの少し前から写真を撮ると、その人だけ体のどこか一部が映らないんだってさ。

 初めはスマホで撮った写真が、膝の部分だけスケルトンになったみたいに、背景が映ってたらしい。

 で、その初めの写真は気味が悪かったからすぐにデータを消去しちゃったらしいんだけど、問題はその後。


 その写真を撮ったその日に、その人は転んでひざを怪我したらしい。

 それだけなら不気味ではあるけど偶然だろうって本人も周りも思ったらしいけど、それからその人が映った写真は例外なく、体の一部が透明になって背景が映ってたり、白い靄みたいなものが覆い隠してたり、モザイクがかかったみたいに妙に荒い画像になってたりで、とにかく体の一部がちゃんと映らないんだ。

 そしてその映らなかった体の一部を、必ず3日以内に怪我するってさ。


 その証拠として印刷した写真を机の上に並べられて、俺も先輩達も絶句。

 先輩達は多分、本当に映っていない部分が全部、その人のギブスや包帯してる位置と一致してることにビビって絶句してたんだろうけど、俺は違う意味で言葉が出なかった。

 ……その写真、全部で20枚以上あったんだ。


 んで、付き添いの奴らや先輩たちに、俺でも少しはわかることはないかって尋ねられたタイミングで、羽柴が部室にやってきたよ。

 羽柴は怪我してる人を見て一瞬、俺よりずっとささやかだけど同じ反応してた。

 顔を引きつらせて、固まってた。


 それであぁ、やっぱり羽柴にも同じように見えてるんだなってちょっとだけホッとしてたら、羽柴はやっぱり俺以上に見えてたし、説明なんかなくても一目で全部わかったみたいだし、対応にも慣れてた。

 羽柴は、付き添いがまたマシンガントークをぶちかます前に言ったんだ。

「友達やめた方がいいですよ」って。


 付き添いの方は一瞬ポカンとしてから、「そんな薄情なこと出来るわけないでしょ!」って怒りだしたんだけど、羽柴は白けたような目をしてこう即答したよ。

「あなたたちに言ったんじゃない」だとさ。


 それでまた付き添いはもちろん、俺以外の部員もポカン。

 俺は、怪我してる人をずっと見てた。

 ……その人はやっぱり、何も言わなかったよ。


 羽柴はポカンとしてる奴らを無視して、写真が並べられた机に近づいて淡々と言ってた。

「こんな写真撮る人、そもそも初めから友達じゃないはず。死にたくない程度の意思がまだあるのなら、縁切りを勧めます」って言われて、怒って抗議したのは言われた本人じゃなくて付き添いの二人。


「こんな写真とは何よ!?」とか「私たちはこの子が心配で、ここまで来たのに! あんた何様!?」とか言ってたんだけど、羽柴はそいつらを見もせずにきっぱり、あいつらの「心配」って言葉を切り捨てたよ。


「写真を撮れば、体の一部が映らない。そして映らない部分が怪我をする。

 その法則を理解しつつ、これだけ写真を撮る人を意味する言葉は、私の辞書では『友達』ではなく『人でなし』です」


 羽柴がそう言った瞬間、部員が20枚以上の写真とその二人を交互にドン引いた目で見たよ。

 二人も一瞬「しまった!」みたいな顔したけど、引きつった笑顔を浮かべて、それはさすがに信じられなかったから、つい悪いとは思うけど実験的に撮ったって言い訳を並べたけど、それも羽柴が粉砕。


「実験なら、5,6枚も撮れば十分でしょう?」って言いながら、写真を1枚手に取って、二人に見せつけたよ。

 たぶん一番最近撮った写真。

 今と同じくらい包帯だらけで、左足が白い靄で塗りつぶされてる人を真ん中に、付き添い二人がすっげ―楽しそうな笑顔でピースしてた。


 ……どう見てもそれは、写真を撮ったら怪我をするという心霊現象に悩まされている友達を、心配しつつも信憑性を高めるために、心を鬼にして撮った写真なんかじゃなかった。

 完全に、面白がってた。


 部員全員が心霊写真って部分だけに注目して気付かなかった、写真の数の多さや被害をわかった上で笑って一緒に映る、はっきりとした悪意があるよりも性質が悪くて身勝手で無責任な好奇心に、マジ引いて誰も何も言えなくなってる中、部長が羽柴に訊いたよ。


「羽柴ちゃん。つまりはこの写真と怪我の原因は、この二人ってこと?」って。

 勇気あんな、部長。本人前にして、よく言えたよ。


 部長の質問に一番びっくりしてたのは原因って言われた二人で、どっちも「違う! 私は何もやってない! 写真は撮ったけど、それ以外何もやってない!」って必死で弁解して、もう部員全員から白い目で見られてた。

 皆、どうやってかはわからなくても、とにかくこの二人が友達と言う名の見下し要員を、「心霊現象」と称してこんな大怪我させるほどにイジメてたって思ったんだけど、それは違った。


 羽柴は「違います」って即答して、それから続けたよ。

 羽柴が来てから、相槌さえ打たなくなった被害者本人に。


「初めは写真も怪我も、ただの偶然か通りすがりの霊による悪戯程度の霊障だと思います。けど、もしかしたら写真はともかく怪我は、最初からかもしれません」って前置きしてから、淡々と話してたな。

 顔はいつもとどこも変わらない無表情だったけど、羽柴はその人を憐れんでいたのはわかったよ。


「『面白いことが起こればいいのに』と期待されたから、その期待に応えた。それだけでしょう?」


 ……羽柴のその言葉をどんな気持ちでその人が聞いてたのか、俺にはわからない。

 ただ、羽柴の言葉がきっかけなのか、俺には白い靄にしか見えなかった、その人が背中に背負ってたものがはっきりと人の形になっていったんだ。


 ……時々、男とか女とか限らずいるんだよ。

 友達とか言いつつ見下して、「こいつはいじられキャラだか」とか「こいつが好きでやってるんだからいいんだよ」とか言って、その人に暴言吐いたりパシリに使う奴ら。

 で、誰が見ても相手の都合のいいように利用されてるってわかるのに、利用されてる本人はいくらそいつらと縁を切るように説得しても、そいつ自身も「友達だから」「好きでやってる」って言い張るんだ。


 あの人は、そうやって嫌なものを嫌だって言えないで、自分を押し殺して、相手の悪意だらけの期待に全部応えることで、上っ面駄だけの「友達」って関係に縋りついた結末だったんだ。


 あの、体の一部が映らない写真。

 あれを見て、あの二人はテレビや漫画みたいな心霊現象が起こることを期待したんだ。

 で、本当に映らなかったところを怪我した。

 それは、あの二人にとって「おもしろいこと」だった。


 ……だから、その期待に応えたんだ。

 その期待に応えて、自分が映る写真全て体の一部が映らないようにして、その部分が怪我するようにしたんだ。

 自分の、生霊で。


 ……あの人が背負ってたのは、自分の生霊だったんだ。

 羽柴の言葉で人の形になったものは、写真に写ってたあの人と同じ顔をしてたよ。

 張り付けて固まった仮面のような愛想笑いをしてる自分自身を、あの人はずっと背負ってたんだ。


 羽柴の言葉にも、あの人は「そう」としか返さなかったよ。

 そのまま、羽柴を「頭おかしい!」とかわめき散らす二人に引っ張られて、帰って行った。


 ……たぶん、あの人は自分から縁切ることはできないんだろうな。

 もはや、自分が何をしたいのか、何が嫌なのかもわからなくなってるんだと思う。

 自分の思考を殺して、奴隷になることであの人の人間関係は保たれてるんだ。


 羽柴は自分が罵られたことすら無視してあの人を見てたけど、何も言わないで自称友達に流されるまま帰るその人に、呆れて諦めたような溜息ついて呟いてたな。

「これも一種の幸せかもね」って、本当にそうだとは絶対に思ってないことを。



 それで今日の部活は、後味が超悪いまま終わったんだけどさ……。


 ……実は俺、「見えてたもの」は背中の白い靄だけだったんだけど、……初めから最後までずっと、「見えないもの」があったんだ。

 あとで羽柴に確かめてみたら、羽柴もやっぱり初めからずっと見えなかったってさ。


 ……俺、ずっと怪我したあの人の顔がまるで曇りガラス越しで見てるみたいになってて、写真で見るまで顔がわからなかったんだ。




 * * *




『……その人は自分の意思や痛みどころか、自分の顔すら、忘れたのね』

元ネタというかアイディアのきっかけは、「X.X.X.H.O.L.i.C」の初期の方にあったこっくりさんの話と、「モ.ノ.ノ.怪」というアニメののっぺらぼうの話。

心霊写真①も気に入ってるけど、②の方も実は気に入ってる。

後味悪い話は本当に、生きた人間ばかりがネタになってるなー。


次回は、ソーキが若干うざいコメディです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ