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60:小さいおっさんの話

「小さいおっさん」っていう都市伝説があるんだ。

 もうそのまんま、人形サイズの小さいおっさんを見たっていう目撃証言だけで、別にそのおっさんがなんかするとか、おっさんを見たら幸せになれる、逆に不幸になるとかもない、ただそれだけの話。


 オカルトかどうかも怪しい話だよなー。

 初めてその話を聞いた時、まず初めに思ったことが、羽柴は見たことあるのかな? で、実際に羽柴に訊いたことがあるんだよ。

 そしたら羽柴さ、ちょうど持ってたノートをくるっと丸めて、「見つけた瞬間、叩き潰してる」といつもの真顔で答えられたわ……。

 ゴキブリと同系列の扱いかよ。


 マジで潰してるのか、グロくないのか、そもそもそれは生き物なのか霊の一種なのか、それとも妖精かなんかなのか色々気になったけど、どうも叩き潰したかと思ったら何も残さず消えてるみたいなので、とりあえずグロテスクなもんは存在しないことにホッとした。


 ……何で急にこんな話を始めたか、もう想像がつくと思うけど、見たよ。

 マジでおっさんだった。

 今時こんなオヤジいねーよ! ってくらい、見本のようなオヤジ。


 バーコードの禿げ頭に、腹巻と股引の親父が学校にいたよ。

 見つけた瞬間、二度見したわ。

 人形サイズのおっさんがいることよりも、あんな漫画みたいなおっさんいるのか!? って思って見たわ。


 で、見たのは羽柴の教室で、羽柴の席の近く。

 いつものように一緒に部活に行こうって誘いに言ったら、羽柴はクラスの女子と何か話してて、それがまた霊関係の相談なのか別の事なのかは知らないけどとりあえず深刻そうな雰囲気だったから、話しかけずスマホで「部活、先に行っとく」って連絡だけ入れておこうかなって思ってたら、なんかチラッと動くものがいた気がしたんだよ。


 虫かなんかかな? って初めは思ったけど、それにしてはでかい気がしたからよく見てみたら、机の脚を電柱のように、その影に隠れながらチラチラと前の席で立って話をしている羽柴の様子を窺うおっさんを発見。

 俺はおっさんのあまりにもなおっさんっぷりにまず噴き出して、それからもう一回見た。


 何度見ても間違いなく小さなおっさんで、羽柴が言ってたからには実在するんだろうとは思ってたけど、まさかこんなにもおっさん、もしくはオヤジとしか言い表せないくらい典型的なオヤジスタイルとは……って、我ながら意味不明なところに感心してた。

 で、俺は別に見たくなかったけどせっかく見たんだからと思って、そのまま少し観察してた。

 相談に乗ってる最中とはいえ性質の悪いものなら羽柴が気づかないわけがないから、見た目はキモいけど、まぁ害はないだろうって思ったんだよ。


 馬鹿だな、俺。

 羽柴がさ、いくら典型的なおっさんルックがキモいからって、本当にそれだけの理由で見つけ次第問答無用で叩き潰すなんてするわけないのに。

 あれ、ゴキブリより性質が悪かったわ。


 おっさんは机の脚に隠れながら羽柴の様子を窺ってて、何がしたいんだろうなーって思いながら俺が眺めてたら、いきなり羽柴の足元近くまでダッシュして立ち止まったんだ。

 ……そんであいつ、何したと思う?


 …………見上げやがったんだよ。

 スカート履いてる羽柴の足元で、鼻の下伸ばして、覗きやがったんだ。

 遠いしおっさんは小さいから、マジで鼻の下伸ばしてたかなんて知らないけど、絶対にそうだ。


 何してるか理解する前に、俺はカバンから一番重い教科書、国語の便覧を選んで取り出して、こっちもダッシュで羽柴の席まで行って、羽柴の足元のおっさんを便覧で叩き潰したよ。

 羽柴の言う通り、叩き潰す感触もなく消えてたよ。

 ダメージ与えられてなかったのなら、死ぬほどムカつく。


 もちろん俺の奇行は、羽柴に相談してた名前も知らない女子や教室に残ってた奴らから、ドン引きも飛び越して理解不能って目で見られたよ。

 でも、羽柴は俺の行動で自分の足元に何がいたかを正しく理解してくれたようで、「ありがとう」って言ってくれたよ。

 うん。もうそれだけで俺は十分に救われるよ。


 ところで、おっさんの正体は結局わからないままなんだけど、俺はあのおっさんが妖精どころか神様の一種であったとしても、俺がしたことと、羽柴のやってることは正しいと思うんだけど、どう思う?




 * * *




『うん。間違いなく正しい。っていうか、よくやった』

小さいおっさんの正体ってマジで何でしょうね?


次回は後味の悪い話です。

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