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6:心霊写真の話①

 懐かしいというほど昔じゃない写真、はっけーん。

 見てくれよ、これ。

 なんの写真だと思う?


 ……羽柴が幽霊をボコってる写真。


 一応言っておくけど、羽柴が幽霊をボコってるところを俺は呑気に激写してたわけじゃねーから。


 これさ、元はと言えば俺に憑いてた霊なんだよ。いつものことだけど。


 小学校を卒業して、もう中学生になるんだから友達だけでちょっと遠出してもいいだろうってことで、春休みに近所の遊園地に行ってさ、そこでオトンから借りたデジカメで友達と一緒に色々写真を撮ったんだよ。


 その中の一枚、友達が撮った俺一人が写った写真に、貞子リスペクト的なベッタベタな幽霊が写ってたんだ。


 んで、嫌なことに俺はとっくの昔に心霊写真には慣れてたから、あーまたかと思って家に帰ってから写真をプリントアウトして、その写真をお焚き上げしたんだ。


 羽柴から教わった、家でも出来るお焚き上げ。鉄製のフライパンで、天然塩を振りかけて焼くってやつ。

 それやって俺一人の写真なんて誰もいらねーよって思ったから、すぐにデータは消去したんだ。

 羽柴も、そういうのは焚き上げとか供養したからって安心ってわけじゃないから、取っておかない方が良いって言ってたしな。


 それで次の日、友達にやる分をプリントアウトするかーと思ってデータを見返してたら、消去したはずの写真が復活してしてたんだよ。

 それだけなら、俺が操作間違えて消去出来てなかったのかなですむんだけど……。

 その写真、お焚き上げしたはずなのにバッチリまだ幽霊も写ってるどころか……、近づいてたんだ。


 初めの写真は、俺から2、3メートルは離れた位置で、俯いて立ってるだけ。

 季節外れのノースリ白ワンピに、土気色の肌、爪が全部剥がれた手じゃなかったら、たまたま写り込んでしまった人ってくらいの距離感だった。

 つーか俺は相手が幽霊ってだけで、写ったこと自体はたまたまだと思ってたから、焚き上げで終わると思ってたんだよ。


 でも、違ったんだ。

 そいつは明確に俺を狙って、俺に取り憑いたんだってわかった。

 復活してたデータの写真に写るその霊の距離は、1メートルくらいに近づいてた。

 一緒に写ろうとした割には遠い、たまたま写り込んでしまった人にしては近いってくらいの距離まで近づいてたんだ。


 しかも、俯いてた顔はわずかに上がって口元が見えてたんだけど、その口はニタニタ笑ってた。


 あ、これはあかんやつだって思って、もう一回プリントアウトして焚き上げたよ。

 今度は塩山盛りにして焼いてみた。


 うん、もちろん無意味だったけどな。

 塩山盛りで灰になるまで焼いてからまたデータを消去してみたけど、やっぱり確認してみるとデータはしっかり残ってるし、霊はさらに近づいてたわ。


 今度は写真の俺の真後ろ。

 友達同士でも近すぎるってくらいの位置に立って、そいつは焦点が合ってない目で、ニタニタ笑ってた。


 あ、これは次に消去したら写真の俺もリアルの俺もアウトだって思って、流石に意地を張るのはやめて羽柴に電話したよ。


 初めからしろとか言うなよ。

 俺だってたまには羽柴に頼らず、自分で解決したいんだよ。


 電話したのだって、羽柴になんとかして欲しかったんじゃなくて、なんとかする方法を教えて欲しかったんだよ。

 その時点じゃ写真だけで現実では被害も気配もなかったから、そこまで切羽詰まった状況だと思ってなかったし。


 でも、羽柴は電話で話を聞いたら今から俺ん家に行くとか言い出して、15分後くらいに本当に来たんだよ。


 ……金属バット片手に。


 子供用の小さめのやつだけど、何故か金属バット持参で俺ん家に来て玄関でいきなり言い出したのが、そのデシカメで自分を撮ってだ。


 わけわからなかったけど、とりあえず俺は言われるがままに羽柴の写真を撮ったよ。

 写真を撮って、羽柴とデータを確認したら、羽柴の写真にも俺の写真に写ってた霊がしっかり写ってたよ。

 玄関から扉を少し開けて、隙間から羽柴を睨みつけてた。


 羽柴に対しての明らかな敵意に俺はゾッとして、なんでお前も写真撮っちゃったんだよ!? って、羽柴を怒鳴っちゃったよ。

 でも羽柴は、不気味な霊にも俺の逆ギレにも無反応で、そのデータをあっさり消去し出した。


 消去したら霊が近づくのに、しなかったらとりあえずは現状維持ができるのに、即座に消去した羽柴の行動に茫然としてたら、羽柴は淡々とまたデータを確認し始めてさー。

 で、案の定データは復活してて、復活してるデータを見てみたら……


 ………………写真の羽柴が玄関の扉を全開にしてて、霊をビビらせてた。


 ……もう一回、言う。

 写真の、羽柴が、玄関の扉を全開にしてたんだ。

 扉を閉めた状態で、バットを持ったまま直立不動の姿勢で立って写真に写ったはずの羽柴がだ。


 それを確認した羽柴は、俺にデジカメを返して、俺の写真に写る霊が消えるまで羽柴の写真消去を繰り返せって言って、帰っていったよ。

 バット持って。


 もう俺、逆ギレしちゃったのを謝り忘れそうなくらいポッカーンとした顔で見送ってたわ。

 もうこの頃は出会って5年近かったから、羽柴の天然にもチートっぷりにも慣れてたつもりだったけど、羽柴は俺が思う以上にチートだった。


 で、言われた通り、消去しまくったよ。羽柴の写真を。

 羽柴さん、これは動画じゃありませんよ? って言いたくなるくらい、写真の羽柴は羽柴無双でした。


 玄関先で霊をとっ捕まえて、踏みつけて、バットでフルボッコ。

 お前、初めからこのつもりでバット持参かよってくらいの有効活用。

 もうそんな感じの、幽霊に同情したくなるような光景がコマ送りみたいにデータ上で展開して、最終的に仁王立ちする羽柴に幽霊が土下座した時点で、俺の写真から幽霊は消えたよ。


 で、俺は好きな子の唯一手に入った写真なので、プリントアウトしてこの怖さよりも真剣にかわいそうになってくる心霊写真を未だに持ってるんだけど……、正直いらん。

 どうしたらいいんだよ、これ。



 * * *



『……お、お守りとしてはほら、なんかご利益ありそうだから、持っておいた方がいいんじゃない?』


 この話が一番、コンセプトにあった話だと思っています。

 羽柴さんはとにかくチートなのに、やってることはひたすら物理です。


 ちなみに、作中で出てきた簡易お焚き上げはテキトーに創作したので、本物の心霊写真をお持ちの方、絶対に真似をしないでください。


 次回は、怖くないけど精神的に痛いかもしれない話です。

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