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57:七不思議の話④

 今日、文化祭でオカ研が心霊写真と一緒に展示する心霊体験の原稿が、部員全員分提出されたんだ。

 ちなみに俺は結局、結構前に見た夢の話を書いておいた。

 抉りだし~とか、ひき肉~とかアナウンス流れたら、気持ち悪い小人にそのアナウンス通りの殺され方する電車の夢を、次の日羽柴がチェーンソー持って俺の夢の中まで遠征しに来た部分は省いて書いた。

 前半はともかく、解決編まで書くとあれはホラーが一気にギャグになるからな。


 で、さっそく冊子作るために部長がコピー室に行ったらさ、5分もしないうちに戻ってきて羽柴を呼んだんだ。

 すっげー嬉しそうにハイテンションで、「羽柴ちゃん来て来て!! 『コピー室の死に顔』が起こってる!」とか言いながら。

 部長、不謹慎すぎるわ。


 コピー室の死に顔ってのは、うちの中学校の七不思議で、他の学校にはそもそもコピー室ってあるのかどうか知らないけど、とりあえずうちの中学にはあるんだよ。

 俺は今日初めて入ったけど、あんま広くない部屋にコピー機が2台と、……名前何だっけ?

 かなり大きなサイズの印刷物が出来るコピーとはちょっと違う機械……プロッターだったかな?

 そんなんとあとはコピー用紙のストックと製本ができるように机、分厚い冊子用にかなりでかいホッチキスがあるだけの部屋。


 その部屋のコピー機で、自分の顔をふざけてコピーして印刷したら、コピーの印刷するための台に顔を押し付けて潰れた不細工な顔じゃなくて、血まみれで顔の半分が潰れた顔とか、真っ青になって白目向いてる顔が印刷されることがあるらしい。

 で、そんな風に印刷された人は、10日以内にその死に顔とまったく同じ顔になって死ぬ。

 それがうちの中学の七不思議、コピー室の死に顔。


 そんな何つーか、前提からして正直言ってアホくさい七不思議でさ、部長に呼ばれた羽柴は面倒くさそうに「文化祭が生徒死亡で中止にならなかったらいいですね」とか言って、「心霊写真館」の作業を続行してた。

 うん、気持ちはわかるけど羽柴さん。助けてやって。

 確かに、七不思議を知っててやったならもちろん、知らなかったにしても中学生がやる行動じゃねぇけど、自分の顔ふざけてコピーしたから死ねってのは、さすがにむごい。


 俺や他の先輩たちがそんな感じで説得して、まぁ羽柴も本気で見捨てるつもりはさすがになかったんだろうな。作業を切りのいいところまでやってから、コピー室に向かったよ。

 他の先輩達も野次馬でついて行って、嫌がったけど紅葉先輩も部長に引きずられて連れていかれたから、俺も一緒になって意味もなく行った。

 そのことに文句を付けなかったから、羽柴はやっぱり初めからわかってたんだろうな。コピー室の霊が、無差別型の悪霊じゃないってこと。


 コピー室に行ったらさ、2年の先輩が4・5人いて、全員女だったんだけど、どいつもこいつもギャーギャー甲高い声で叫んで、一人なんかものすごい泣いてたんだよ。

 その阿鼻叫喚にオカ研部員は引いてたんだけど、羽柴はその修羅場を無視して、印刷されたであろう紙を奪って見た。

 確かにその紙には画質の荒いコピーだけど、はっきりと映ってた。

 顔面がズタズタに切り裂かれている顔、ボコボコに腫れて変形してる顔、土気色になって青紫の舌を口からはみ出させてる顔と、バリエーション豊かな死に顔が何枚か印刷されてた。


 羽柴はそれを見て、死に顔が印刷されちゃってパニくってるその女子たちに「あんた誰!?」「いきなり勝手に何見てんのよ!?」って怒鳴られんのも、羽柴が学校で有名な霊感少女だって気づいて、「お願い助けて!」「死にたくない!」って懇願されるのも無視して、俺にこんなことを言い出したんだ。


「ソーキさん、ちょっとこのコピー機で顔撮ってみて」って。


 羽柴の発言で、俺や先輩たちはもちろん、ついさっきまで好き勝手に騒いでた元凶の女子たちも言葉を失ってた。

 え? 何、羽柴さん。俺に死ねってか? ついに愛想尽きた? って一瞬本気で不安になったけど、ふと気づいたんだ。


 コピー室に入っても俺は、生きた人間以外何も見えてないし、同時に肌の痛みも空気の重さも感じてなかったことに。

 あの部屋、無差別に被害を出すような悪霊がいる部屋じゃなかったんだ。


 だから、羽柴の頼み事にはちゃんと何か意味があるって思って、俺は言われた通り自分の顔を、印刷するためのあの台に押し付けて、印刷してみたんだ。

 ……別にするのは良かったんだけど、台に顔を押し当ててる時は、好きな子と先輩達の前で何してるんだろ、俺? とか思ってかなり微妙な気持ちになった。


 でも、印刷するために光がスーって流れた時、同時に俺の瞼の裏でその光と一緒にある光景が流れたんだ。

 それで、わかった。

 羽柴が何で俺に頼んだのか。


 ……死に顔が映った2年の先輩たちが、何してたかも。

 このコピー室にいるのが、どんな霊かも。


 印刷されたのは、ふつーに台に顔を押し当てて潰れた、不細工な俺の顔だった。

 それが印刷されて、死に顔が映った人たちは「何であんたも映らないの!?」って騒いでた。

 その言葉が、俺が予想したものが当たってる答えだったよ。


 羽柴は印刷されたのが死に顔じゃないことだけ確認したら、俺に「何が見えた?」って訊いたから、正直に答えたよ。

 嫌がる女の子を無理やり印刷の台に顔を押し付けて、変顔させて印刷してそれを笑う女達の姿って。


 俺の言葉を聞いて、また騒いでた女子たちが一瞬黙ったよ。

 たぶん、その反応で先輩たちも気づいた。

 死に顔は、全員分印刷されてないこと。騒がず、ヒステリックに喚かず、ただ泣きじゃくってた女の子の分だけないことに。


 誰か一人が、「見てたの!?」って盛大に自爆したよ。

 そう。あいつらは自分たちの顔をふざけて印刷したら死に顔が映ったんじゃない。

 確実にあいつらは、七不思議を知ったうえで、イジメてる女の子を無理やり台に押し付けて印刷したんだ。

 もちろん、七不思議を本気にしてたわけじゃないだろうけど、本当じゃなかったとしても台に押し付けられて潰れた不細工な顔を笑いものにできる、本当だったとしても別に死んでももいいやと思ってたんだろう。

 まさか、自分たちの顔が印刷されるなんて、想像もしてなかったんだろうな。


 いじめっ子たちは、「何!? あんたたち、もしかしてグル!?」とか叫びながら、イジメてた子を突き飛ばして逃げ出そうとしたけど、真っ先に逃げ出そうとした奴の鳩尾には羽柴の拳がめり込んで、他の奴らも俺やオカ研部員で確保。

 この時ばかりは、オカ研の野次馬根性が旺盛で良かったと思ったよ。


 羽柴はボディーブロー決めて、悶絶してる先輩をゴミを見るような目で見下ろしながら説明したよ。

「グルでも仕込みでもない。この死に顔は、本物の未来予告。

 そして、ソーキさんが見たのはあなたたちのいじめの現場じゃなくて、この七不思議が生まれたきっかけ。このコピー機に憑く霊の生前の記憶よ」ってね。


 あの七不思議は、自分の顔を印刷したら誰でもとか、取り憑いてる霊が気まぐれでランダムとかじゃなくて、明確な条件があったんだ。

 無理やり誰かの顔を押し付けて印刷した、いじめっ子の死に顔が映るんだ。顔を印刷台に押し付けられた本人は、何の関係もない。

 あれはそういういじめを受けて、自殺か事故か病気かは知らないけど死んでしまった子の霊が行ってる復讐だったんだ。


 そのことを説明したら、いじめっ子たちは顔を真っ青にして、全員で羽柴に縋りついて拝み倒してきたよ。

「死にたくない! いや! こんな死に方いや!! お願い、何でもするから助けて! お願いします! ごめんなさいごめんなさい!!」とか泣き叫ぶんだけど、羽柴はそれをすっげーうざそうに見てから、一番手近な一人をコピー機の前に無理やり立たせて、そのまま後頭部わし掴んで台にゴン! って突っ伏させて、そのまま印刷スイッチオン。


 何やってんの、羽柴さん!? って俺や先輩たちが思ってたら、羽柴は面倒くさそうに「私に謝っても意味ないでしょ。本気で反省して謝ってるんなら、謝罪しながら印刷してみなさい。許してくれるんなら、普通の顔が映るんじゃない?」って言ってた。

 で、コピー機から出てきた顔は、相変わらずグロい死に顔。

 反省も謝罪も口だけって証拠ってのが吐き出さて、さらに羽柴は面倒くさそうな溜息をついて、部屋の隅に置いてあったコピー用紙のストックを開けながら言ったよ。


「何枚目で、許してもらえるのかな? 面倒くさ」

 もう完全に、面倒だってことを隠してなかったな。

 でも、さすがにイジメやってたクズでもあの印刷通りの死に方を本当にされたら後味悪いから、俺たちも付き合って、いじめっ子たちを逃がさないように包囲しつつ、本気で反省してるのかを問い詰めたりしながら、何度もいじめっ子の顔を台に押し当てて、印刷したよ。


 一人平均30枚くらいで本心から反省したのか、コピー機に憑いてる霊が根負けしたのかは知らないけど、死に顔から普通の顔が印刷されるようになって、いじめっ子は解散させた。

 もう最後の方は、死にたくない恐怖と自分たちがやってきたことを四方八方から攻め立てられたことで、ぐちゃぐちゃの涙も鼻水もよだれも垂れ流された泣き顔だったから、ただでさえ潰れて不細工になる顔がものすごい顔になって印刷されてた。


 んで、いじめっ子を帰してもうだいぶ遅くなってたから冊子の印刷と製本は明日にするかーってみんなで話してたら、正直言って存在を忘れてたいじめられっ子の先輩が、羽柴に礼を言ったんだ。

 その先輩はまだちょっと涙目のまま、「助けてくれてありがとう。これから、イジメられずにすむ」って言ったんだけど、羽柴はそれを聞いて不愉快そうに眉毛が跳ね上がったのを、俺は確かに見た。

 あ、なんかこの人、ナチュラルに羽柴の地雷踏んだって思ってたら、俺の予想大当たり。


 いきなり羽柴はその人の頭をわし掴んで、いじめっ子にしてたみたいにガンっ! って台に顔を押し付けて、もう一回印刷スイッチオン。

 印刷しながら羽柴は、イジメられてた人と、コピー機に憑いてる霊、両方に不愉快・不機嫌むき出しにして言ってた。


「私も他の人たちも、後味悪い思いがしたくなかったからやっただけ。泣くだけで何も言わないしない奴も、死んでからいじめっ子本人じゃなくて似たことをやってる他人に八つ当たりしてる奴なんか、どうでもいい。

 どいつもこいつも、他人を巻き込むな!」


 そう怒鳴ったと同時に出てきたのは、イジメられてた人の顔じゃなくて、文字だった。

 女の子らしい丸っこい文字で、「迷惑かけてごめんなさい」って、書かれてたよ。



 * * *




『人間だろうが霊だろうが、れんげちゃんが本当に最強すぎる……』

そろそろ作者は羽柴が、「普段は見た目通り大人しい大和撫子」という設定を忘れてきてます。


次回は後味悪い系です。

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