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54:箱の話

この話の元ネタは洒落怖スレの「コ.ト.リ.バ.コ」です。

 昨日さ、小学校の時の同級生に、急にメールで近所の公園に呼び出されたんだよ。

 友達どころか、ぶっちゃけ金持ち自慢ばっかりの嫌な奴で嫌いだった奴。向こうも俺の事、良い子ぶってるとかなんか言って嫌ってたな。

 あいつ、中学は私立に行ったからもう接点はないし、メアドとか教えた覚えはないんだけど、どこからどうやって知ったんだろう? まぁ、もうどうでもいいけど。


 そんな奴だから、行く義理はなかったんだけど「相談したいことがある」ってメールに書かれてて、嫌いな俺に頼るってことは霊関係の何かだろうと思って、つい行っちゃったんだ。さすがに、メール無視して最悪の結末になったことを後から知ったら、後味悪すぎでトラウマになりそうだから。


 それに、「相談」ってあったから、まだそんな切羽詰まった状況じゃないだろうって勝手に思い込んで、羽柴に連絡とかせずとりあえず俺だけ話を聞こうとした。

 ……結果としては、羽柴を呼ばなかったいつもの俺の意地はグッジョブだったけど、それ以外は我ながらにバカすぎる。

 あいつが嘘つきで面倒事は他人に丸投げする奴だってことわかってたくせに、メールに書かれてたことを信用するって、俺って本当にバカだよな。


 あいつ、俺と会った瞬間、俺に「これよろしく!」とか言ってどこが蓋なのか全然わからない、綺麗な組木細工の小箱を押し付けて、そのままダッシュで逃げたんだ。

 あいつは初めから、相談じゃなくて呪いがかかった小箱を俺に押し付けに来てたんだよ。

 いきなり渡されてビックリはしたけど、似たようなことはもう何度も体験してるからさ、いつもならあいつが逃げる前に襟元掴んで、小箱を突き返すくらいできたんだけど……その小箱、マジでヤバかったんだ。


 手にした瞬間、俺、その場に座り込んで小箱を抱く抱えるようにうずくまったよ。

 あいつが即行で逃げたのも気にならないどころか、あいつ、よくこんなもんを今まで持ってられたなって、素で感心したわ。

 それぐらい、悪意とか憎悪とか悪い感情の塊そのものだったんだよ、あの箱は。

 完全完璧に、呪いの産物だった。しかも、無差別型。


 もうこれは触ったらどころか、近くにいるだけでも影響を受けるってのがわかったから、思わずその呪いが公園で遊んでる他の子供とかに向かないように、抱え込んでうずくまるしかできなかったんだ。

 俺じゃ何もできない、この箱の呪いで俺一人が死んでそれで呪いが終わるならまだいい、これは俺の死さえも材料にして強くなっていくタイプだってわかるんだよ。理屈じゃなくて、完全に本能がそう言ってた。


 けど、羽柴を呼ぶことはできなかった。

 いつもの意地じゃない。羽柴の事を好きじゃなくても、俺は人間として生きて死にたいのなら羽柴を呼ぶわけにはいかなかったんだ。

 ……だってその小箱から、聞こえたんだ。あいつに渡されて、触れた瞬間からずっと。

 赤ん坊の泣き声が、つんざくようにずっと聞こえてたんだ。


 わかりたくないのに、わかるんだ。

 あの箱の中には、この呪いの材料には、生まれてすぐか生まれる前の子供が、赤ちゃんが材料になってること。

 ……あの箱の呪い、きっと前に見た犬神と似た作りと理屈だってわかったんだ。


 そのことに気付くと、続けてわかっちゃうんだよ。

 あの呪いは、男の俺よりにも女に対して効果的だって。犬神が犬を飢えさせて人を憎む悪霊にするように、あれは赤ちゃんに母親を憎ませて、その憎しみを材料にしてるんだって気づいちゃったんだ。


 だから、俺はどうしようもなくその場にうずくまってることしかできなかったんだ。

 あきらかに怪しい奴だけど、心配して話しかける優しい人がいなかったことが、むしろあの場合は良かったよ。

 もしかしたら、普通の人でも少しくらいは何か感じ取れたのかもな。


 うずくまって俺なりに、どうしよう、どうしたらいい? って考えるんだけど、頭の内側から叩き付けるような赤ん坊の泣き声大合唱が永遠と響くし、何か呪いの影響か腹がやたらと痛くなってくるしで、全然いい考え何か浮かばなくって、もうどうしようどうしようって言葉だけが、グルグル頭の中で繰り返してたらいきなり、「少年、何があった?」って声が聞こえてきたんだ。

 赤ん坊の泣き声で、周りの音なんか何も聞こえてなかったのに、何故かその声だけはすんなり耳に入ってきたな。


 気が付いたら、ポケットに入れてたはずのスマホが地面に落ちてて、通話状態になってたんだ。

 そんで、通話相手は羽柴の父親……しきみさんだったんだ。


 スマホが地面に落ちてるだけなら、座り込んだ時にでもポケットから滑り落ちたって思えるけど、尻ポケットに入れてたのが俺の前にあったし、一度も連絡したことのないしきみさんに繋がってるなんて、普段なら怪しさMaxで、電話の相手が本物のしきみさんかどうかを疑うくらいだけど、その時はもう赤ん坊の泣き声と腹の焼けつくような痛みでまともな思考なんか全然できなくて、その謎だらけの状況を何も疑問に思わず、しきみさんに現状の説明もできず、俺は助けてって言う事しかできなかったんだ。


 そしたら、「いいよ」って娘そっくりな言い方で了承して、通話が切れた。

 今俺がどこにいるのかも言ってなかったのに、本当にそれだけで会話が終わって電話が切れたのに、10分もしないうちにしきみさんは公園に現れたんだ。

 で、開口一番に「何で少年がそれの影響、モロに受けてんの?」って言われた。マジで呆れた顔されてたわ。


 なんかあの小箱の呪い、俺が思った通り女子供を殺すのに特化した呪いだったらしい。

 で、俺の歳は昔なら元服、成人扱いの歳だから、本来なら何か気持ち悪くて嫌な箱だなー程度の影響ですむらしい。

 だから俺に押し付けたあいつも、気味悪がっても平気で持ち歩けたんだな。感心して損した。

 でも何故か俺はめちゃくちゃ影響を受けまくってるもんだから、やたらとしきみさんに呆れられたよ。


 でも、羽柴じゃなくて自分に連絡したのは良い判断だったって、そこは褒められた。

 やっぱりあの呪いは、羽柴には一番相性が悪いタイプだったから。

 ……褒められたのは素直にうれしいけど、実際連絡したのは俺じゃねーから複雑。

 誰がどうやって連絡したかは謎だけどさ。


 それはいいとして、しきみさんは一回俺の頭を撫でてから、ひょいと俺が抱え込んでた小箱を取り上げて、顔をしかめて言ったんだ。

「……八つ? どいつもこいつもふざけんな」って。

 ……何が八つなのか、その時は俺、理解できてなかった。


 しきみさんが俺から箱を取り上げて、とりあえず赤ん坊の泣き声が聞こえなくなってちょっと楽になったから、俺は何が八つなんですか? って訊いたんだけど、しきみさんは答えてくれないで、その箱を開けようとしたんだ。

 初めに言ったけど、どこか蓋なのか全然わからん作りの箱だから、もうほとんど壊しにかかってたな。


 やっぱりあんたも、そういうやり方か! って、さすがに今回はおなじみのツッコミを入れられなかったよ。

 しきみさんが箱に手をかけて力を込めた瞬間、しきみさんに渡してから聞こえなくなってた赤ん坊の泣き声がまた聞こえ始めたから。

 しかも、俺が抱え込んでた時よりも大きく、はっきりと聞こえて来て、耳を抑えても甲高い泣き声が絶え間ないから、頭を金づちで連打されてるみたいに痛くなったわ。


 もう泣き声だけで頭がくらくらするわ、視界もグラグラに揺れるわで、これだけでも気分は最悪なのに、しきみさんの方を見て、吐きそうになったわ。

 ……しきみさんが持って、無理やりこじ開けようとしてる箱からな、白い膿みたいなものが湧き出てたんだ。


 で、その湧き出たものが生白くてぶよぶよした赤ん坊の姿になっていくんだよ。

 箱からどんどんどんどん赤ん坊は染み出して、湧き出て来て、しきみさんの腕にしがみついたりしながら、顔の方へ這い上がっていくんだ。

 ……真っ赤な血の涙を流しながら、苦痛と憎しみが込められた泣き声をあげて。


 その赤ん坊を見て、気付いたんだ。

 ……赤ん坊は、8人だった。

 しきみさんが言ったのは、犠牲になった赤ちゃんの数だったんだ。


 しきみさんが、8人目が完全に赤ん坊の姿になったあたりで、口を開いたんだ。

「いい加減にしろよ」って、まずは吐き捨てるように言ったよ。

 それから確か、こう続けてたな。


「胎児は、誰も、何も憎まないし憎めない。

 誰かに憎悪を向けるという発想がないんだよ。生に対する幸福はもちろん、辛苦も体験してないのだから。体験する前に、お前らがその命を奪ったのだから。

 この子たちはお前らの望みを母親恋しさ故に何もわからないまま、鏡映しで実行させられているだけ。

 憎悪も、怨念も、呪いも、それから生まれる因果も、全ては子供ではなくお前らから生まれ、そして背負うものだ。


 ――お前らの蒔いた種から芽吹いたものなら、刈り取ってやる。

 だけど、因果応報の実は自分で喰らえ!!」


 しきみさんの言葉の途中から、赤ん坊の泣き声が変わってきたんだ。

 甲高いのは同じだけど、赤ん坊の泣き声じゃなくて女の泣き声になっていったんだ。

 同時に、しきみさんに群がってた赤ん坊の肉が溶けて、ベロンって剥がれていった。

 ものすごく気持ち悪くてグロイ光景だったけど、あまりのグロさで逆に目が離せなくなって凝視しちゃったんだけど、……赤ん坊じゃなかったんだ。


 しきみさんに群がっていたのは、呪っていたのは、呪いの材料として殺された赤ちゃんじゃなかったんだ。

 肉が剥がれてむき出しになったものは、綺麗にネイルアートが施された手、水仕事が多いのか酷く荒れた手、薬指に銀色の指輪をはめた手。

 そんな感じで一つ一つ違いはあるけど、共通するのはどの手もしきみさんはもちろん、俺よりも細くて小さな女の手が、しきみさんに群がってたんだ。


 ……多分あれは、母親の手だ。

 子供に痛みも呪いも責任も押し付けた母親の手が露わになった時、箱がベキッて音を立てたんだ。

 むりやりこじ開けて蓋が壊れた箱の中を見せてもらったけど、その中にはカラカラに乾いたゴミにしか見えないものが八つ、入ってたよ。

 ……それ、へその緒だった。


「君は本当に、厄介極まりないものばっかり引き寄せるし引き当てるな。『コトリバコ』のまがい物なんて珍しくもないけど、本物レベルまで昇華したものなんて、本物よりも珍しいんじゃない?」って、しきみさんは箱を開けた後、呆れを通り越して関心したみたいに俺に言ったよ。

 そんでついでに、『コトリバコ』ってものについて、少しだけ教えてもらった。


 まぁ、大体は箱に触った時点で分かった通りの呪いの産物だよ。ただ、あの小箱は本物じゃないってさ。

 詳しくは教えてもらえなかったし、俺も別に知りたくなかったから聞かなかったけど、とりあえず本物だったらもっと時間をかけて作られるものだけど、あれは作られてそんなに時間が立ってるものじゃないから、『コトリバコ』の作り方をまた聞きした誰かが、似たような手順で作った偽物だって断言してた。

ただ、前に見た犬神とまたしても同じパターンだったんだよ。

 ……何であの人、箱とその中身を見ただけで、材料になった子供がいつごろ死んだかとかわかるんだよ。霊能力者というより、エスパーか。


 あの箱は、本来なら呪いなんか成立しない、しても子供を殺した本人に呪いがかかるような間違いだらけのやり方だったんだろうけど、偶然が重なって本物に近いものになってたらしい。

 しきみさんは、誰からあの小箱を押し付けられたかを訊かれたから、庇ってやる義理は何もないから俺は正直に答えたよ。


 そしたらしきみさんは独り言で、「一番古い子で2年前だったから、父親はその子はありえないか。その子の親か、祖父あたりかな? 親の因果が子に報い、カエルの子はカエル。嫌な連鎖だな」とか言ってたな。

 その通り、嫌な連鎖だ。


 あぁ、ちなみに呪いはどうなったのかって訊いたら、「さぁ?」だってさ。

 テキトーかよ! って突っ込み入れたら、「因果応報がどんな形になって表れるかまでは、私にはわからんよ。母親の元に現れるかもしれないし、父親の元に戻ってくかもしれない。そこまでは関係ないし、興味もない。少年はあるのかい?」って逆に訊かれた。

 ぶっちゃけ俺も、関係ない他人さえ巻き込まなければ別にどうでもいいかと納得しちゃったから、もうそれ以上は突っ込めなかったよ。


 そんなことよりも、しきみさんが話しながらためらいなく公園のゴミ箱に箱の中身、へその緒を捨てだしたことにびっくりして、他の事がどうでも良くなったからな。

 何やってんすか!? って叫んだわ。

 そしたら羽柴そっくりの無表情で教えられたよ。


「親と子を繋いだへその緒を媒体に呪いの使い魔として利用されてるのなら、へその緒は処分してしまった方がいい。

 子供が哀れで供養してやりたいのなら、重要なのは子を呪いの材料にした母と繋ぐへその緒じゃなくて、彼らが眠るかりそめの子宮であるこの小箱だよ」


 そう言って、しきみさんはそのまま小箱を持って帰って行ったんだ。

 俺が礼を言っても振り返りもしてくれなかった。


 それから俺も帰ったんだけどさー、色々後味が悪くてモヤモヤして、眠れなかったんだ。

 母親に、呪いの為に殺されたお子供の為にできることがないのか、考えてた。

 自分が無関係なのはわかってるけど、あの泣き声は母親が子供のフリした偽物だってことは、もうわかってたけど、それでも……母親の為に呪いそのものになろうとしてた子供がいたことに変わりはないから、……何とかしたかったなぁとか思ってたんだ。


 そんなこと、昨日の夜からずっと考えてたんだけど、今日、学校に行って羽柴に会って吹っ切れたよ。

 羽柴、俺に会って言ったんだ。

「綺麗な小箱をありがとう」って。


 俺は言われては? 何の事? になったんだけど、俺の反応に羽柴は不思議そうな顔してさらに言ったんだ。

「昨日、お父さんが『少年がくれるって』って言って、私に小箱をくれたんだけど、ソーキさんじゃないの? お父さんが『少年』って呼ぶの、ソーキさんだけのはずだけど」だってさ。


 娘に何をあげてんのしきみさん!? ってまず初めに思ったけど、あの箱の呪いとかがまだ残ってんなら羽柴が気づかないわけないから、ああいうこと言うってことは呪い自体はもうないはずだって気づいた。

 それから、蓋は壊れてたけど細工が綺麗で気に入ったとか、お気に入りの髪飾りを入れるのにちょうどよかったとか、無表情なんだけど嬉しそうに話す羽柴見て、思ったんだ。


 これが、あの呪いの材料になった子供に対する、供養なんだって。

 あの箱を母親のお腹の中に見立てて、それを母親のように大事に大事にしてくれる女の子、羽柴に任せることが、一番あの赤ん坊たちに対する供養だって初めからしきみさんはわかってたから、持って帰ったんだろうな。


 心配してたこと、後悔してたこと、モヤモヤしてたことが全部解決して、ホッとしたけど……ちょっとだけ悔しかったんだ。

 全部余裕で解決できるしきみさんに、正直嫉妬した。

 羽柴の足元にも及ばないで、助けてもらいっぱなしのくせにさ、思っちゃったんだ。


 あの人みたいになりたいな、って。




 * * *




『……なれるよ。あんたなら。

 しきみさんほど、余裕もかっこよさもないだろうけど、……でも絶対にあんたならなれるよ』

羽柴も普通に物理で破壊できそうだけど「女子供に対して最強最悪の呪い」で有名なものを余裕でぶっ壊しちゃったら、さすがにオリジナル作品でもメアリー・スーっぽくなるので、ここはしきみさんにお願いしました。


そもそも、ソーキが関わって呪いがどういうものかを知ったら、羽柴を呼ぶわけないですしね。


次回は小ネタ集。またしても瞬殺はしませんでした。

どちらかというと放置集?

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