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52:オカ研が本気出した話

 オカ研の先輩たちの事、良い人だし好きだけど正直、バカだなーバカだなーって思ってたけど本当にバカだった。

 ものすげーしょうもないことに本気出しやがったよ、あのバカ集団。


 きっかけは、3日くらい前に雪村先生が部活で羽柴に、「昨日の夜10時ごろ、学校の近くをうろついてないよな?」って尋ねたこと。


 もちろん、羽柴の答えはNo一択。

 塾とか行ってない羽柴が、そんな時間に学校の近くどころか保護者なしで外をうろつくなんて、俺がバカやって呼び出した以外ありえないと言い切ってもいい。

 ……こう言うと、情けないけどよくあることみたいになるな。

 雪村先生もそのことをわかってたから「だよなー」って納得しながら、羽柴や他の部員たちにどうしてそんなことを尋ねたのかを語りだしたんだ。


 先生、前日にその時間の学校前で羽柴を見かけたんだって。

 文化祭が近いから、生徒はもちろん先生も遅くまで学校に残ることが今の時期多くて、その日は雪村先生が最後に学校を出たんだよ。

 で、学校から出て駅に向かって歩いてたら、うちの制服着た女の子を見つけたから、塾帰りか夜遊びか、とにかく家まで送ってやるかと思って近づいたら、羽柴だった。


 それからどうした? ってみんなが思って続きを促したら、先生は声をかけて羽柴だと思った瞬間、ダッシュで逃げたそうだ。

 正確には、「羽柴にそっくりな偽物」だと気付いた瞬間。

 先生は見てすぐに、それは羽柴にそっくりだけど絶対に羽柴じゃない偽物だって確信して、「羽柴じゃないなら、こいつ何!?」と思って、即行で逃げた。


 だから、初めの質問も「うろついてた?」じゃなくて「うろついてないよな?」だったんだ。

 さすがに羽柴と俺に関わってヤバめな霊体験を色々してきたから、明らかな偽物相手に「心霊現象ひゃっほーい!」と喜ばないようになったんだな。危機感を覚えてくれて良かったよ。


 そんで部長が「よく先生、一目で羽柴ちゃんじゃないことに気付いたよね。日生くんなら出来そうだけど」とか言い出したんだ。最後のはどういう意味かを、さすがに人前で訊く勇気はなかった。

 まぁ、それはどうでもいい部分だから置いとくとして、他の人たちや羽柴本人もどうやって見分けがついたのかを訊いたらさ、先生しばらく粘ったんだけど、根負けして羽柴に申し訳なさそうに言ったよ。


「……煌めくような満面の笑顔だったから」だとさ。偽物だと確信した理由。

 あぁ、そりゃ外見そっくりでも誰だって気付くわ。そして逃げるわ。

 部員全員が激しく納得したけど、本人の前でさすがにそういう感想言えるわけもないから、みんな出かかった「ああ!」って納得の声を堪えてたら、本人が言ったよ。

「気持ち悪っ!」って。


 お前が言うな!! と、突っ込み大合唱。

 つーか羽柴、ものすげー嫌そうな顔で「気持ち悪っ!」って言ったけど、自分の煌めくような満面の笑顔ってそんな想像したくないもんなの!?

 気持ち悪くなんかねぇよ!! 前に見たのはお前本人のじゃないけど、このまま死んでもいいって思うくらいに可愛かったよ!! って心の中でツッコミしまくったわ。


 ……うん。っていうか、「笑顔の羽柴」って聞いた時点で、俺はその偽羽柴に心当たりがあった。

 だから、羽柴に先輩たちと同じツッコミをかましてから、話したよ。

 夏祭りで会った化け狐、椚のことを俺にとって恥ずかしくて都合が悪いところは省いて。


 そしたらさー、先輩たちも教えてくれたよ。最近妙な噂が立ってたらしいんだ。

 場所は特定されてないけど、多いのは小・中・高問わず学校の近くで夜、女の子がうろついてて、その子に声をかけると昔話みたいな目にあわされるんだと。

 振り返った女の子の顔はゆで卵みたいなつるんとしたのっぺらぼうだったとか、道に迷ったって言うから一緒に歩いていたら、歩いても歩いても同じ場所に出て、やっと違う道に抜けたかと思ったらその女の子がいなくなってたとか、「これあげる」って言って渡されたお菓子をいざ食べようとしたら泥団子に変わってたとか、まさしくキツネやタヌキが悪戯で化かすパターンが勢ぞろい。


 で、その女の子の共通点は、ものすっごく笑顔が可愛くて無邪気な絶世の美少女なんだとさ。

 ……細かく、髪が黒髪ロングストレートとか、うちの中学の制服だとか、そういう特徴もあったんだけど、噂を知ってるオカ研の先輩たちはまさかそれが羽柴に化けてるとは思わなかったそうだ。

 そりゃそうだ。好きな子のことをこう言いたくはないけど、羽柴に笑顔と無邪気って単語は、ものすげー縁遠いよ。


 噂の内容と俺の話からして、その偽羽柴の正体は十中八九、あのアホ狐、椚の仕業だとオカ研は結論付けた。

 そんで、どうしようかって話になった。

 被害は本当に悪戯ですむ程度だし、俺の話からして椚は悪意でやってる訳でもないだろうとみんな思ったけど、実際の人間に化けてるんだから羽柴がいらんトラブルに巻き込まれる可能性が高いからやめさせなくちゃって口では言ってたけど、……どう見ても昔話みたいな不思議体験したがってるだけだったわ、あの人ら。


 先生も洒落ですむ程度の事しかしない奴だってわかって、昨日逃げたのを後悔してたし。反省しろ、あんたは。

 で、普段ならそういうことは危険度が低くても止める羽柴が、さすがに自分に化けて悪戯はムカついたらしく、止めずにむしろ協力することになり、先輩たちのテンションやる気はさらに上がる。

 つーか俺も、羽柴に化けて何やってんだ、あのバカ狐! とキレて、先輩たちの悪ノリに乗ってしまった。


 で、昨日の夜、その悪ノリでやらかしました。

 塾があるとか門限厳しい家の先輩たち以外で夜に集まって、目撃情報が多い、小・中・高それぞれの学校に3人組になって張って、一人が囮としてうろついて、それらしい奴が現れたら隠れてた他二人がそれぞれの別の組にワンコール入れて、合流するって計画立てて実行。


 一応、椚じゃなくてたちの悪いものだった時、もしくは全く関係のない悪霊とかを呼び寄せちゃった場合に備えて、羽柴が用意したお守りとかをみんな持ってそれぞれ待機してたら、高校前を張ってた部長チームからワンコール入ったんだ。


 で、部長チームの囮役は予想できるだろうけど紅葉先輩でさ……、先輩、後ろからひょっこり回り込んで顔を覗き込んだ偽羽柴に「おにーさん」って話しかけられた瞬間、「ぎゃああああああ!!」って大絶叫上げたそうだ。っていうか、一番離れてる小学校前を張ってた俺らにも聞こえたよ。

 いくら正体化け狐ってのがわかってるとは言え、美少女にそういう対応はどうよ先輩。羽柴も何か複雑そうな顔してた。


 まぁ、紅葉先輩の反応は俺らには予想できたけど、椚にはまだ何もしてないのに絶叫は予想外もいいところだから、普通にビビって引いてたらしい。

 そんな椚を、オカルトマニアな部長が放っておくわけがない。

 ワンコール入れて即行、椚の方にダッシュして後ろから抱き着いたんだとさ。


 突然のセクハラに、今度は椚の方が悲鳴を上げた。それはさすがに聞こえなかったけど、あいつ、2連続で相当ビックリしたせいか、完全に羽柴の姿を維持することが出来なくなって、耳と尻尾が出てきたんだって。


 それ見て、部長のテンションはさらに上がる。

「ケモ耳ぃー! モフモフー!!」とか叫びながら、椚の尻尾をモフるモフる。

 もう一人の先輩も我慢できずに飛び出してモフろうとしたところで、椚が部長を振り払って、泣きながら逃げ出した。

 ……もうなんつーか、何やってんのあの人ら。ある程度は悪戯しまくってた椚の自業自得だけどさ、これはさすがに可哀相だわ。


 しかし、椚の受難はこれで終わらなかった。


 あいつが逃げ出した先は、中学に向かう道、先生チームが張ってて、部長チームからの連絡で丁度向かってるところだったんだ。

 そこで椚は、見てしまったんだ。

 三日前にビビらせたお返しに、大人げなく血のりでゾンビメイクした先生と、先生と一緒になって悪ノリして、ジェイソンマスクやら馬のマスクやらを被った先輩と、椚は鉢合わせてまた絶叫。今度は、俺らにも聞こえた。

 先生と先輩達、「今はハロウィン近いから、『ハロウィンの仮装です!』って言えば大丈夫!」とか言ってたけど、大丈夫なわけねーだろ。職質されなくて本当に良かったな。


 もう完璧に自分の立場を忘れて、ビビって泣いて椚は逃げて、さらに向かった先が小学校で、先生らと同じく高校に向かってた俺らと椚が、これまた同じく鉢合わせ。

 俺らのチームは俺、羽柴、風守先輩だったから、先輩はちょっとウズウズしてたけど、部長たちみたいに暴走するほどテンション上がりすぎもせず、仮装もせず、ビビりもしなかったことと、何より椚と面識のある俺がいたからか、椚の奴、安心して大泣きしながら俺に飛びついて抱き着いてきたんだよ。

 ……耳と尻尾が生えた、羽柴の姿のままで。


 椚がさぁ、「怖かったー!! 何なんだよ、あいつらー! 意味わかんねーよー!!」とか言いながら俺にしがみついて泣きじゃくったんだけど、もうその時の俺の気持ちはなんて言い表せばいいのやら。

 偽物とはいえ、そっくりで見たことがない新鮮な表情かつ狐耳と尻尾のついた羽柴なんていう、妄想でもお目にかかった事ない姿の羽柴に抱き着かれて嬉しいやら、でも中身は男だってことが悲しいやら、マジでなんて言えばいいかわからねー複雑さだな。


 そんな感じで、もう色んな意味でどうしたらいいのやら、っていうかその時は何で椚がこんなに大泣きしてんのかがわかってないのもあって、引き離した方がいいのかも迷ってたんだけど、羽柴がいきなり「……いい加減、離れて!」って言いながら、自分そっくりの椚の脳天に綺麗なかかと落としを決めた。


 カッコーンと、何か日本庭園にあるあの竹の奴みたいないい音が鳴ったなぁ。

 自分の顔で情けなく泣き叫ぶ椚がよっぽど気に入らんかったのかな。あの後もずっと羽柴は機嫌悪かったんだよな。


 ……そういえば謎なのが、羽柴がかかと落としを決めた後、悶絶する椚と不機嫌そうな羽柴を困ったように見比べて、風守先輩が「羽ちゃんも女の子だからねぇ……」とか言ってたんだよな。

 ……先輩、あれどういうつもりで言ってたんだろう。どう考えてたらかかと落としを、「女の子だから」に結び付けられんのかがわからないんですが、俺は。


 まぁ、なんだかんだで羽柴のかかと落としのおかげで椚が冷静になったから、話を聞いてみたんだ。何で最近、このあたりで悪戯しまくってたのかを。

 ……途中で椚をパニくらせた元凶どももやってきて、またパニくって泣きわめいて大変だったけど、羽柴が無言で片足を軽く上げたら、真っ青に顔色変えて、無理やり泣き止んでた。

 同じ顔でも、マジで容赦しねぇな羽柴。


 とにかく、何とか話を訊いてみたらあいつ、相変わらず羽柴の姿のまま、唇とがらせて拗ねたように言うんだよ。

「……またお前と遊びたかったから、探してた。なかなか見つからなくて、その腹いせでつい、悪戯してた」って。

 不覚かつめちゃくちゃ不本意だけど、ときめいた。できれば、中身男の化け狐じゃなくて本人からあんな顔で言ってほしかった。


 そんでそんな理由ならまぁこれから悪戯しないって言うのなら許してやるし、たまにでいいのならお前の仕えてる神様が祀られてる神社に遊びに行ってやるって、約束したよ。

 ……羽柴の姿をしてたからじゃねぇよ! 普通に、どんな姿でもそう言ってやったからな!

 そんで合流したオカ研のみんなが、自分も遊びに行ってやる! って挙手してたけど、椚は俺の後ろに隠れて涙目で首を横に振って拒否してた。

 オカ研メンバーが完全完璧にトラウマになってたわ。


 ……神様に仕える、そこそこ高位な化け狐にトラウマ刻むって、うちの先輩や先生ってマジで何なんだよ。




 * * *




『あんたが初めに言った通り、ただのバカ集団。

 ついでに、あんたも十分そのお仲間だから。この鈍感!』

元々まるわかりだっただろうけど、50話で羽柴の気持ちを明言したので、これから彼女の言動はどんどんあからさまになっていきます。

はよ気付け、ソーキ。そして爆発しろ。


次回は、小ネタ集です。羽柴は無双はせずにおとなしめ。チートは健在だけど。

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