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51:勘違いの話

この話の元ネタは、2ちゃんねるオカルト板の「ヤ.ヴ.ァ.イ.奴.に.遭.遇.し.た.か.も.し.れ.ん」というスレです。

 ……いつもの事って言いたくないけど、また今日も厄介なのをホイホイしちゃったよ。

 しかも、今回は思いっきり自分から関わっちゃった。

 いや、今年の4月みたいにアホな理由で、自分から危ないってわかってるところに首を突っ込んだわけじゃねえよ。

 ……でも、これも羽柴には理由言えない。4月とは別の意味で絶対に言えない。


 分類的に妖怪なのか悪霊なのかよくわかんねーけど、アクロバティックサラサラって呼ばれてる都市伝説があるんだよ。

 ふざけて付けたとしか思えない名前だよな。っていうか、ふざけて付けたんじゃない方が心配になるな。

 まぁやたらと名前のせいで怖さが感じられないけど、名前以外が洒落にならないくらいヤバい奴らしい。


 見た目は背が高くって髪の毛が名前の通りサラサラな赤い帽子とワンピース姿の女で、顔に関しては口裂け女みたいに口が裂けてたとか、白目がない黒目だけの目をしてたとか、逆に目玉が抉られてないとか、あんま特定されてない。

 もう見かけの時点でかなりヤバいけど、こいつ、後姿や顔がよく見えない遠目からだと、背が高くて髪が綺麗なおねーさんじゃん?


 この略称アクサラ、指をさしたり話しかけたり、とにかく自分に気付いて何らかのリアクションした奴をとことん追い掛け回して、危害を加えてくるんだってさ。

 殺されるって話は聞いたことないけど、良くて交通事故に遭う。悪いとアクサラに遭遇した奴の家の風呂場にそいつの血だけが大量に残って本人は行方不明になったって話を先輩たちから聞いた。

 一人の時しか現れないし襲われないから、アクサラが諦めるまでとにかく一人にならなければ何とかなるらしいけど、すっげーしつこいし、何より現れ方が塀の上やら屋根の上からいきなり飛び降りて来たり、車や電車の前に飛び込んで来たりと、名前の由来通りアクロバティック過ぎなんだよ。


 ……どうして俺は、こういうよりにもよってお前かよ! ってくらい厄介なもんばっかり、ホイホイと引き寄せるのかなー。

 当たり前だけど、本人が名乗ったわけじゃないから確証はないけど、今日、遭遇したのはほぼ確実にアクサラ。

 俺が見たのは、寄りにもよって一番グロイ、目が抉られたタイプでした。


 学校から帰ってきてすぐに、オカンにちょっと買い物を頼まれて出かけて遭遇しました。

 その時はアクサラの話なんか全然覚えてなかったんだけど、そいつは屋根の上に座ってて、体を前後左右にユラユラ揺らしててさー、アクサラじゃなくてもヤバい人だって誰だってわかる状況だったのに、話しかけちゃったんだよ、俺。

 ……話しかけちゃった理由は、後で話すわ。


 俺、話しかけるどころかアクサラが登ってる屋根の家まで走って行っちゃって、もう一番やっちゃいけないことをまるごとやっちゃった。

 で、その家の前まで来てアクサラの顔見てようやく、アクサラの話を思い出して、あ、俺詰んだわって、何か一周回って冷静になったわ。


 さすがに自分に話しかけた挙句、駆け寄ってきた奴は珍しかったのか、少しだけアクサラの方も反応に困ったみたいに、目玉ないのに俺と目を合わせたまましばらく固まってから、アクサラはただでさえ普通より大き目の口の端を引き上げてにやりって笑ったよ。


 もう今更過ぎだけど、俺はその笑顔見てすぐに顔を豪快にそらして、俺は何も見てませんし気付いていませんって、白々しすぎる振りをした。

 もちろん誤魔化されるわけがないんだけど、あのまま対応なんかできるか。つーか、どんな対応したらいいんだよ、マジで。

 羽柴見習って、バルス! って目つぶししろってか!?


 ……つーか、オチを先に言っちゃうのもなんだけど、どうせ予想出来てるだろうから言っちゃうと、やりました。羽柴。バルスを。

 しかも今回は、指で目つぶしの方がマシそうな物を使って、バルスしやがった。


 俺さ、もう何回も何回も危ない目に遭ってんのに、そんで今回もヤバすぎる奴だってわかってるのに、羽柴に連絡しなかったんだ。

 いつも通りのバカな意地と、アクサラは狙った奴が一人の時だけ襲って、他人は襲わないって聞いてたから、じゃあ家に帰れば俺セーフだし、オカンやオトンを巻き込む心配もないじゃん! って甘いこと考えてたんだよ。

 だから、白々しくてもとにかくアクサラに気付いていない振りをして、ダッシュで家に帰ろうとしたんだけど、アクサラ、マジですげーよ。


 瞬間移動じゃなくて、マジでアクロバテックに高速移動してきやがる。

 俺が走る先、走る先を塀の上やら自販機の上やらを飛び回って、俺の進行方向を先回りしてきやがった。

 今、冷静に思い返すと怖いというよりシュールな光景かもしれんが、どんなに逃げても先回りで目のない女が立ちふさがるのは、久々に泣きたくなるくらい怖かったし。


 さすがにまっすぐ俺の真ん前に立たれて、そのまま突き進む勇気はなかったから、無理やり進行方向変えて逃げまくったわ。

 そのせいで足が痛い。明日確実に筋肉痛になってるわ、これ。


 で、走り回って逃げ回って、家から全然違う方向に走って行っちゃったんだけど、もうほとんどその時パニックだったからただの偶然だけど、俺、羽柴の家の近所まで行っちゃってたんだ。

 つーか、羽柴の家の前を通ったらしい。覚えてないけど。

 そのおかげで、羽柴がアクサラの気配に気付いて家の外に出てみたら、アクサラに追いかけまわされてる俺が見えたんだと。

 ……何かもう本当、ごめんなさい羽柴さん。


 ちなみにしきみさんは普通に在宅してて、あの人も気づいてたみたいだけど、普通に娘を見送ったらしい。

 いや、止めろよ。止められたら俺が困るんだけど、親として止めろよ。

 って言うか、わがままだけどあんたが助けに来てくれよ。


 話がそれたから戻すけど、アクサラに追い掛け回されてる俺を追って、羽柴は晩飯作りの途中だったっていうのにそのまま俺を追ってきてくれたんだ。

 そして、またアクサラに先回りされて、体力的に限界でその場に座り込んじゃって絶体絶命の大ピンチな俺を、これまたいつものように救ってくれたよ。


「ソーキさんに近づくな!!」って叫んで、アクサラの顔めがけて、レーザービームかって勢いでぶん投げたんだ。

 ……豆板醤(とうばんじゃん)を。

 ……羽柴家の今日の晩御飯は、麻婆豆腐だったそうです。

 その途中だったからとっさに持ってきたまま、俺を助けてくれたそうです。


 わざとじゃねえかって疑いそうになるくらい、寄りにもよってなもんを持ってたな。

 で、羽柴の強肩によって放たれた豆板醤はアクサラの顔に命中して、顔面が見事に唐辛子で真っ赤な味噌まみれになって、アクサラ大絶叫。

 そりゃ、あの抉られた痛々しい目に唐辛子とか、想像しただけで発狂しそうだわ。


 もう元ネタの大佐みたいに目を抑えて、その場でのたうち回るアクサラが追い掛け回されたことも忘れて哀れに俺は思えてるのに、羽柴は狙われた俺本人よりもマジギレして七転八倒するアクサラの腹にサッカーボールキックをかましてた。


「ソーキさんに危害を加えたら、これだけじゃ済まさない。お前をどこまでも追って、絶対に地獄に落とす!」って、悶絶してアクサラに羽柴は宣言してた。

 アクサラを追い掛け回すなんて発言できるのは、世界中探しても羽柴かその父親くらいしかいないだろうな。実行できるのも。


 あらゆる意味で嫌なバルスをかまされるわ、追い打ちで容赦ない蹴りもかまされた挙句にあの宣言で、さすがにアクサラも俺にっていうか、羽柴と関わりたくなかったんだろうな。

 ヒイヒイ言いながら、俺を追い掛け回したあのアクロバテックさは何処に行ったのかって、ヨタヨタした動きで路地裏に逃げて、そこを覗いてみたらもう誰もいなかったよ。


 そんでその後、俺は羽柴に説教された。いつもよりキツめに。

 アクサラの話も、無視したらいいってことも知ってたのに追い掛け回されたってことは、俺から話しかけたかなんかしたことがしっかりバレてたからな。

「ソーキさんが誰も放っておけない人だってことは知ってるけど、危ないことに自分から首を突っ込まないで!」って少し涙目で怒られて、本当に申し訳なくて土下座で謝ったよ。


 ……そこまで心配されたら、なおさらアクサラに話しかけた本当の理由が言えなかったよ。

 羽柴にはさ、怪我してる様子だったからつい心配になって話しかけたって嘘ついちゃったけど、マジで言えない。いろんな意味で羽柴を傷つけて、恩を仇で返すことになるから。


 ……あのアクサラ、屋根の上に座っててさ、アクサラは背が高いから座ってても小柄な女の子が立ってるように見えたんだよ。

 で、名前の由来になるくらい髪が真っ黒でサラッサラなロングストレートだったんだ。


 ……俺、アクサラ見て、羽柴が何かやってる!? 屋根の上に悪霊でも居たの!? って思って、アクサラに思いっきり羽柴! 何やってんだよ!? とか言いながら駆け寄っちゃったんだ。


 言えねえよ!!

 アクサラを羽柴と勘違いしてたなんて! 屋根の上で奇行する髪の毛綺麗な女の子、イコール羽柴だと思ってたなんて、絶対一生言えねえ!!




 * * *




『……うん。それも一生涯、隠し通してあげなさい。そして、今回はあんたあんまり悪くないわ』

連載再開なので、1話目と似た話にしようと思ったけどあんまり似なかった。

それにしても、誰だ「アクロバティックサラサラ」なんて名前を付けた奴。

そのまますぎてわかりやすいけど、怖さが半減どころか9割がた消し飛んでるわ。


次回は、緩いコメディです。

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