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50:羽柴れんげの話

 こんにちは。

 初めまして、羽柴れんげです。


 まぁ、言わなくても知っているどころかどう考えても初めましてじゃないですけど、ご挨拶するのもお話しするのも初めてですから、一応。

 話といっても、私の一方的な話にしかなりませんけどね。私にはあなたが見えませんし、声も聞こえませんから。


 ソーキさんが眠っているのは少し残念ですが、熱はだいぶ下がっているようですし、それに前々からあなたには言わなければならないことがありましたから、ちょうどいい機会です。

 ソーキさんの前では、言わない方がいい話ですから。


 まず初めに、いつもソーキさんを守り、助けてくれてありがとうございます。


 それと、3年前に私が誘拐された時、ソーキさんはちょっと大丈夫かな? と思うくらいに何も気づいていませんけど、ソーキさんを手伝って、私を助けてくれましたよね?

 それも含めて、お礼を申します。


 本当に、ありがとうございます。


 あなたの助けには心から感謝しています。

 ソーキさんは、自分以外の誰かが被害に遭いそうな場合は素直に私に頼ってくれますけど、自分一人だけがターゲットなら、ギリギリまで自分で何とかしようと頑張ってしまいますから、あなたが私に連絡してくれたり、私に頼るように誘導してくれるのは、本当に助かります。


 責任感があるのはソーキさんの良いところですが、それで取り返しのつかないことになっては元も子もありませんから、素直に頼ってくれればいいんですけど……、しないでしょうね。一生。


 そういう人ですもんね。この人は。


 そういう人ですから、無茶を言うようですがお願いします。


 これからも、ソーキさんを守ってください。

 私をいくらでも頼ってください。

 私をいくらでも利用してください。


 どうかこの、尊い人をこれからも守ってください。


 ……ソーキさんは私のことをよくチートといいますが、在り様の珍しさで言えばソーキさんの方がよっぽどです。

 私やお父さんは、言ってみればただ単に目がいいだけです。

 別に全然、いいことじゃないんですけどね、これ。

 普通の人たちが見えないのは、見る必要がないから。見てはいけないものだから。


 そういう意味では私やお父さんは、普通の人としての進化から置き去りにされたようなものです。


 まぁ見える分、知らないうちに踏み込んではいけない境界の向こう側に踏み込んでしまう可能性が極めて低いのは利点といえば利点ですけど、向こう側に引きずり込もうとする奴らに狙われやすいので、やっぱり見えてて良いことはないに等しいですね。


 ソーキさんの場合、むしろ目はさほど良くないです。

 ……ただ、あの人は元々の立ち位置が私とはもちろん、普通の人たちとは大きく違います。


 あの人は、あまりに彼岸に近い位置に立っている。

 間違いなくこちらの、此岸の住人なのにこの人は彼岸の境界ギリギリのところに立っています。


 そんな所に立っているから、ソーキさんは私と違って向こう側を「別の世界」と認識できないんですよ。

 あまりに近く、境界ギリギリに立っているからこそ、境界が見えていない。

 あの人にとって彼岸は分け隔てられた世界ではなく、すぐ遊びに行けるお隣くらいの感覚でしょうね。


 ……ただでさえこの立ち位置が問題でややこしいのに、この人の一番厄介なところは実際に踏み越えてしまえるんです。

 この人は臨死体験とか幽体離脱とかではなくて、本当に生きたまま、ある程度浅いところまでなら向こう側に、彼岸に行ってしまっても平気でなおかつ、ケロッと戻ってこれるんです。


 ……この人は、生きながらにほんのわずか、一部というにはあまりにかすかな部分ですけど、彼岸の住人であるからこその特性です。


 分かっているのでしょう?


 あなたがいるからこその、ソーキさんの特性です。


 ……責めるような言い方でごめんなさい。

 あなたは何も悪くありません。あなたに、非や責任はありません。

 でも、ソーキさんの在り様、彼岸にあまりに近い立ち位置と、彼岸の入り口までならフリーパスな体質の原因があなたであることだけは間違いありません。


 あなたはソーキさんとは逆に、彼岸の住人でありながら、ほんのわずかな一部分がこちら側でまだ生きているからこそ、あなたと言葉通り一心同体のソーキさんは隣り合っています。


 だからソーキさんは、いずれ必ず霊感に目覚めていました。

 どんなに目が悪くても、あの人にとってすぐお隣の世界の隣人ですから、存在にさえ気づけばすぐにピントが合って、見えるようになってしまいます。


 見えてしまったのなら目をそらせばいい、見えていないふりをすればいいのに、あの人はさほど良くない目を凝らして、まっすぐに見ます。


 そんなことをしたら自分だけが可愛い奴らに、他人を不幸にしても自分だけ得をしたいと思って、自分たちの世界から無理やり抜け出して、こちらに干渉してくる奴らに付け入られてしまうのに、それでもう何度も傷ついて、裏切られ、騙されてきたのに、ソーキさんは変わりません。


 ……それも、あなたは何も悪くない、あなたの責任なんかじゃないけれど、原因はあなたになってしまうのでしょうね。


 ソーキさん本人は自覚ないようですけど、あの人には他者を喪うのを極端に恐れて、自分の責任ではないのに自分のせいだと思いつめてしまう癖があります。

 あの人にとって、原始のトラウマなんでしょう。


 あなたを、喪ったことが。


 ……ごめんなさい。

 知っていると思いますが、私、人と話すのが苦手で口も良くないのでどうしても、責めたいわけじゃないのに責めるような言い方にばかりなってしまって、本当にごめんなさい。


 そして、とても図々しいですけど、そんなの私に言われるまでもないことかもしれませんが、それでも、お願いします。


 ソーキさんを、守ってください。


 あの人は私を、チートだとか最強だとか言いながら、いつだって「普通の女の子」として見てくれます。


 霊を言葉通り叩き潰しても、自分を付け狙う霊が目の前にいても、自分が見えない、未知の事態が起こっていると思っているときでも、私がチートで最強ならば私に全部任せて放っておけばいいのに、あの人はいつだって私の心配をしてくれます。


 私を、痛い子だと馬鹿にする人はたくさんいます。

 私の霊感を信じても、面白がるだけで私を知ろうとしない人たちは、むしろ付き合いが楽な部類です。

 私と同じように霊感を持っていても、私を便利な除霊グッズとしか思わない人たち何て、数えきれないくらい見てきました。


 ソーキさんだけなんです。

 私の心配をしてくれた人は。


 例えそれが、あなたを喪ったことを繰り返したくないという、無自覚なトラウマからくる想いであっても、あの日の病室で、真っ先に私を案じてくれたあの人の尊さは、きっと何があっても変わりません。


 だから、私は守ります。

 あの人の為なら私は、便利な除霊グッズでいいと思えました。

 例え、気が狂いそうな深淵がこちら側をのぞき込んでいても、あの人の為なら私はその深淵の底を見透かすことだって苦ではありません。


 怪物にだって、なります。


 ……けれど、尊いあの人自身がそのことを望まないから、私は後手に回ることが多くなります。


 だから、お願いします。

 私は必ずあの人を守りますから、どうかこれからも、私に知らせ、そして私が来るまでソーキさんを守ってください。


 あなたの気分を悪くさせるようなことばかり言っておきながら、結局求めることは今まで通りというのは逆効果かもしれませんが、すみません、一度は口にしてお願いしておきたかったんです。


 あなたもソーキさんと同じように、しなくてもいい遠慮をして、私に連絡しないかもしれないということを想像すると、私自身はいくら嫌われてもいいから、はっきり口にして迷惑ではないこと、むしろ絶対にしてほしいってことをわかってほしくて、そしてソーキさんを守るということに関してだけは信用してほしかったのです。


 ……あぁ、おばさんが戻ってきましたね。

 一方的な私のお願いばかりでしたけど、話せてよかったです。


 ソーキさんが結局、全然起きなかったのは少し残念ですけど。

 こんなに寝て、夜はちゃんと眠れるのでしょうか?


 まぁ、眠れなければテストも近いですからこちらをどうぞと勧めておいてください。

 ソーキさんのクラスのお友達から預かった、今日の分のノートと宿題です。


 それでは、私はそろそろお暇させてもらいます。

 また明日、ソーキさんとご一緒にお会いできることを楽しみにしております。



 * * *



『うん、また明日ね。

 それとれんげちゃん。私は言われるまでもなく、あなたを信頼してるし、あのお願いは私が逆にお願いしたいくらいよ……』



 * * *



『っていうか、れんげちゃん、私が見えてないって嘘じゃない?

 そうじゃないのなら仏壇じゃなくて、ずっとまっすぐこっち見て話してのは何?』


 折り返しの50話は、視点と毛色を変えて羽柴れんげのお話。

 ラストはしんみり行くか、いつものオチで行くか悩んだ結果、両方にしてみた。


 さて、ようやく半分の50話まで書き上げてきましたが、ここでお知らせです。

「羽柴さんの除霊は物理」はこれからしばらく更新を休ませていただき、代わりに本編よりシリアス成分過多の番外長編を書きます。


 番外長編のタイトルは「バッドエンドはいらない」で、本編34話と35話の間に当たる夏休みの話を予定しております。


 詳しいことは活動報告に書いてますので、そちらをご覧ください。


 もちろん、こちらはタイトル通り100話まで続けるつもりなので、本編を楽しみにしていられる皆様、なるべく早く番外編を完結させて本編を再開しますので、気長に待っていただけたら幸いです。


 それでは、ここまでお付き合いありがとうございました!

 そして、まだまだ続きますので、これからもお付き合いよろしくお願いします!


※追記

番外編「バッドエンドはいらない」は9/30に完結しました。

予想外の事態で長引いてしまいましたが、無事完結しましたので、良かったらこちらもお付き合いお願いします。

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