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5:俺が霊ホイホイな理由の話

 この話の元ネタは、2ちゃんねるの洒落怖スレ、「ド.ラ.イ.ブ.イ.ン」です。

 ……霊感で嫌な思いはもう山ほどしてきたけど、自分が霊ホイホイだとはもうとっくの昔からわかってることだけど、さすがに今回のはきっついわ。


 昨日さ、疲れてたから話さなかったんだけど、まーた厄介な目にあってたんだよ。


 昨日は、課外授業で博物館に行ってたんだ。

 この町の郷土資料館みたいな、しょぼくて古臭くて説明聞いてたら眠くなりそうなとこ。


 そこで俺は、テキトーに話を聞いて、テキトーに展示物をみて、テキトーに感想文を書くつもりだったんだけど、自由時間にトイレ行って戻ってきたら誰もいなかったんだ。

 一緒に見回ってた友達はもちろん、先生もクラスメイトも、他のクラスの奴もいない。


 この時は、あーもう集合時間かーと思って、時計で時間を確かめもせずに集合場所のロビーに向かったんだ。

 あの時、気付くべきだったんだよな。

 他の、一般客や館員さんだと思っていた人達の異常さに。


 ロビーに向かってる途中、俺と同い年くらいの、ワンピース型のセーラー服っていうこの辺りでは見たことのない制服を着た女の子が走ってきて、俺とぶつかったんだよ。


 俺はちょっとよろけただけで済んだけど、女の子の方は尻餅をついちゃったから、俺は謝りながら手を貸そうとしたら、女の子は真っ青な顔で俺を見上げて、俺の手を両手で握りしめて言ったんだ。

「助けて、ここ変なの!」って。


 当然、俺は言ってる意味がわからなくて、は? としか言えなかった。

 俺のそんな間抜けな反応なんか女の子は気にしてる余裕もなくて、立ち上がって俺にしがみついて歯をガチガチ鳴らしながら言うんだ。

 どこが変なのかを。


まず最初は、「あの人を見て! あんなに頭の小さい人、います?」だったな。


 言われて気づいたよ。

 うちの町出身の武士の鎧兜を見てるおっさんの頭はリンゴより一回り大きいくらいで、異様にバランスが悪い頭身であることに。


次は、「あの人の足は、針金みたい」で、町の歴史年表を眺めているおばさんの手足はその子の言う通り、枯れ木の方が太いくらいに細かった。


「あの人は、あの人は、上半身が……」って真っ青な顔で指さしたのは、俺たちに向かってくる館員の制服を着た人で、そいつは後ろ向きで真っ直ぐ俺たちに向かって歩いてきてた。

 ……上半身が180度回転していて、下半身はこちらを向いてるのに、上半身は背を向けた状態で、俺たちに迫ってきていたんだ。


 久々に俺は悲鳴を上げたよ。

 大絶叫して、女の子の腕を掴んで逃げた。


 俺の悲鳴で他の連中も俺たちの存在に気づいたのか、一斉に俺たちの方を見てまた絶叫。

 女の子にはいい迷惑だな、俺。

 助けを求めた意味がねぇよ。


 でも、その時の俺にはそういうことを思う余裕なんかなくて、とにかく逃げよう、ロビーは大丈夫か? クラスメイトは? 羽柴は? とかあんま意味がないことばっか考えて、心配してたな。

 よくよく考えたら俺がトイレ行ってた時間なんて数分だし、俺の友達が5分前集合とかやるわけねーんだよな。

 いくら集合時間が来たからって、すぐに展示室から学校のみんなが消えるわけないことに、俺は気づいてなかった。


 あそこはきっと、異界だったんだな。


 もう本当に久しぶりに、超怖かったわ。

 頭がザクロみたいに縦に割れた男が追ってくるわ、人間の顔した赤ん坊位ある芋虫が、アルマジロみたいに丸まって転がってくるわ、ホラーゲームか! とか思う余裕もねぇよ。


 女の子はもうめちゃくちゃ泣いて、怖い、嫌だ、逃げよう、捕まる、あそこに、トイレに逃げよう、鍵をかけて籠城しようって叫んでるんだけど、それを聞いて答えることなんてできなかった。


 ……話を聞く余裕があっても、気づかなかったんだろうな。

 俺、バカだから。

 女の子が言ってることが、変だってことに気づかなかっただろうな。


 まぁ、そこはいいんだよ。

 とにかく、俺は女の子と逃げて、集合場所の一階ロビーまできたけど、当然誰もいない。

 もうこの頃には、誰かに助けを求める余裕すらなかったな。


 誰もいねぇ! でも化け物もいねぇ!

 よっしゃ、このまま外まで突っ切る!! とか、何か怖さとパニックで変なテンションになってたよ。

 で、そのまま女の子を引っ張って、ロビー正面の玄関、ガラス戸に体当たりして出ようとしたんだ。

 確か、押しても引いても開く扉だったから。


 体当たりして、吹っ飛んだのは俺の方だった。

 扉、びくともしなかったんだよ。

 これも、今思ったら当たり前だな。あそこが異界なら、俺らがそう簡単に出れるようにしてないのは当然だ。


 吹っ飛ばされて、ぶっ倒れた俺が起き上がった時には、目の前には青白い顔に、白眼のない黒目だけの目で笑う男がいたよ。

 その後ろには、他の化け物達が勢揃い。


 俺はとっさに女の子を背中にやって、俺が前に出るしかできなかった。

 それしか、してやれなかった。

 あの子を、助けてやれなかった。


 それなのに、あの子は言ったんだ。


「どうして?」って。


 俺は、その質問に答えられなかったよ。

 答える前に、黒目だけの男の手が俺に届く前に、引っ張られた。

 襟ぐりを掴まれて、後ろにぐいっと。

 ずるっと引っ張られて、俺は後ろに倒れたんだ。


「ソーキさん、大丈夫?」


 気がついたら、淡々とそんなこと言いながら倒れた俺を羽柴が、いつもの無表情で見下ろしてた。


 慌てて俺は起き上がったけど、化け物達はいなかった。

 そこは俺が開けられずに、自分の体当たりの勢いで吹っ飛ばされた玄関の外。

 出られないはずの外にいないはずの羽柴で、俺は異界から現実に戻ってきたことに気づいて、喜んだよ。


 喜んで、羽柴に礼を言おうとして、気がついた。

 ずっと掴んで、引っ張って、連れてきていたはずの女の子がいないことに。

 俺が掴んでいたものは、女の子の腕じゃなくてその子のカバンになってることに、その時になってやっと気がついた。


 俺はまたパニックになって、羽柴に問い詰めたよ。

 女の子はどこ? あの化け物達は何? って。


 羽柴はやっぱりクールに、「化け物の正体はわかんない。あの世界のこともわかんない。私には、この博物館は二重の世界に見えてた。女の子は……向こうに残ってると思う」って答えてくれた。


 女の子が向こうに残ってるって聞いて、俺はバカなことに戻らなくっちゃって思った。

 何にも出来ることなんてなかったのに、結局また羽柴に助けてもらったくせに、俺はあの子を助けようとした。


 で、当然俺のバカな暴走は羽柴に止められたよ。

 俺が走って博物館にまた入ろうとして、襟ぐりを掴まれて止められたんだけど、それでも俺はリードを引っ張るバカ犬みたいに自分で自分の首を締めながら博物館に戻ろうとしたけど、羽柴は俺を離さないで教えてくれた。


「女の子、言ってたよ。

 一緒に逃げてくれたのは、最後まで手を離さなかったのは、庇ってくれたのは、ソーキさんだけだったって」


 羽柴の言葉で、俺は気付いちゃったんだ。

 バカなくせに、羽柴の唐突でわかりにくい言葉で、俺は気付いちゃったんだ。

 あの女の子の、変だった言葉。


 ……トイレに逃げようなんて、おかしいんだ。

 あんな、化け物だらけの館内なら、外に逃げようと思うのが自然だろう。

 現に、パニクりまくっていた俺が無意識に向かったのは、ひたすらに目指したのは外だった。

 俺はわざわざ狭い個室に、密室に行こうなんて思いつきもしなかった。


 あれはパニック起こして出た、間違った考えかもしれない。

 でも、羽柴の言葉は俺の感じた違和感を、その違和感から導き出された答えを肯定してた。


 ……あの子は、化け物とグルだったんだ。

 あの子は囮で、間違った方向に誘導する役なんだ。


 あの子は、俺だけだと言った。

 一緒に逃げたのは。

 最後まで、手を離さなかったのは。


 ……一緒じゃなくても、逃げた奴がいたってことだ。

 途中で離しても、手を掴んでくれた人もいたんだ。

 あの子は、きっと何度も同じことを繰り返したんだ。


 羽柴の言葉で何にもできなくなった俺に羽柴は何も言わないで、俺からあの子のカバンを受け取って、博物館の受付に渡してた。

 俺は、黙ってそれを見てたよ。


 臆病で、ヘタレで、役立たずな自分であることを、あの子に謝りながら。

 助けにいけない、助けられる自信のない俺でごめんなさいって謝りながら。

 ……あの子の「どうして?」に、助けてって言ったからって答えられなかったことを後悔しながら、俺は博物館の外で待ってた。


 もう、俺はあそこに入っちゃいけなかったんだ。

 だってあの時、後ろから引っ張られる感覚は一つじゃなかった。

 羽柴が引っ張ったであろう襟ぐりと、もう一つ。


 ずっとあの子の腕を掴んでいた右腕。

 その右腕に触れる、両手の感覚が残ってる。

 俺の腕を引っ張って、引きずって、俺を異界から現実に引っ張り出してくれた感覚が まだ、残ってたから。


 あの子は俺を助けてくれたから。

 だから、それを無駄にしちゃためだと思ったんだ。


 ……それで今日さ、学校に連絡があったんだ。

 警察から、羽柴が受付に渡してたあのカバンのことで。


 羽柴はあのカバンを落し物として届けてたんだけど、中から生徒手帳が出てきたから、博物館の人は、普通にそこに書かれてる電話番号に連絡したらしいんだ。

 で、家の人に言われたらしいんだよ。

 そのカバンと生徒手帳の主である娘は、10年前から行方不明だって。


 羽柴は俺の名前を出さなかったから、羽柴だけ、警察から話を聞かれてたよ。

 羽柴には本当、迷惑かけてばっかだよなぁ。

 まぁ、羽柴でも俺でも10年前なら幼稚園にも通ってないから、疑いなんか何もなかったから良かったけど。


 ……けど、凹むなぁ。

 あの子は、本当に化け物じゃなくて人間だったんだ。

 少なくとも10年はあそこに囚われて、自分みたいに、俺みたいなのを捕まえろって言われてるんだろうなぁ。

 そして、何度も何度も裏切られて、逃げられて、置き去りにされてきたんだろうなぁ。


 ……羽柴はさ、いつもなら俺に、霊には同情するなって言うんだけど、今回は言わなかったよ。

 今回も迷惑かけたのに、あいつは俺を責めないで、叱らないで、言ったんだ。


「ソーキさんは、優しいね」って。


 ……なぁ、俺はこのままでいいのかな?

 誰も助けられないで、自分の事すら羽柴には頼りっきりで、羽柴の言う俺の優しさなんて霊に付け入られる一番の隙なのに。


 それなのに、羽柴は俺に言うんだ。

 変わらないで、って。



 * * *



『変わらないで。そのままでいて。

 あなたの優しさに付け入って、利用して、踏みにじる奴らからは、私とれんげちゃんが守るから。

 守らせて。あなただけは』


 洒落怖ネタ改変ものが、マイナーですみません。

 ソーキや羽柴の歳だと、元ネタ通りにドライブ中に迷って奇妙なドライブインにたどり着くというのは無理があるので、色々変えた結果がこんな話に。


 今回は後味がわるかったので、次はホラークラッシュ話の予定です。


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