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45:誰かさんの大ファインプレーの話

 テレビで日本の活き人形特集ってやつやってて、やなこと思い出した。


 その特集で紹介されてた人形、日本人形なんだけど市松人形とかそういう子供の姿をしたリアルなんだかデフォルメしたのか微妙な感じの人形と違って、手の甲の静脈までもリアルに再現した、まさしく人形になった羽柴って感じでさー。


 生きてないのが不思議なくらいのリアルさが不気味なんだけど、それでもどこか引き寄せる何かを持ってるなーって思ったら、嫌なことに少しだけ理解できそうなんだよな。


 羽柴を誘拐して、その死体を人形にしようとか考えた奴の気持ちが。


 小5の頃だったかな?

 スーパーでお菓子買って帰ろうとした時に羽柴を見かけて、話しかけようと思ったら羽柴は何か知らない女の人と話してたんだよ。


 そんで俺は邪魔をするのはなんだけど、その頃すでに羽柴が大好きだったから、ちょっとでも話せる機会は逃したくないから、少し離れたところで羽柴とその女の人の話が終わるのを待ってた。


 けど、羽柴はその女の人とスーパーの駐車場の方に向かって行ってさ、俺はそのままストーカーのようについて行った。

 小学生とはいえストーキングはどうかと自分で思うが、この時の俺マジでグッジョブ。


 なんかその時の俺は変なノリで一人探偵ごっこしながらコソコソ隠れて追ったんだけど、それも実は良かった。

 他の車の陰から羽柴とその女の様子を見てたら羽柴がある車の下をのぞき込んだ時、その女が羽柴の体にたぶんスタンガンでも押し付けて、そのままぐったりした羽柴をその車に乗せた時は、驚きすぎて悲鳴さえも出なかったわ。


 本当に俺、運が良かったな。

 堂々と羽柴の後を追ったり声をかけて出て行ってたら、良くて俺も同じように気絶させられてその辺に放置、最悪は殺されてただろうからな。


 あ、ちなみに羽柴はあの女に「自分の車の下から子猫の鳴き声が聞こえる。発車させると轢きそうだけど猫アレルギーで触れないから、下から出してほしい」と言われたらしい。


 見た目が極上だから、それこそ幼稚園の頃から男に対しての警戒心は強かったみたいだけど、さすがに女に関しては油断したみたいだな。まぁ、当たり前か。


 で、誘拐の現行犯なんてもんを見た俺はパニクって通報とか、車のナンバーを覚える何か考え浮かびもせず、さっさと羽柴を車に乗せてそのまま発進した車を追いかけたんだ。


 もちろん、普通なら追いつけないか追いかけてる時に気付かれて、下手したら轢き殺されてもおかしくなかったんだけど、向こうも焦ってたせいか何かいきなり急ブレーキかけるわ、後ろのトランクがちゃんとしまってなかったわで、俺はその車に追いつけてとっさにそのトランクの中に潜り込めたんだ。


 距離からして10分もかかってなかったはずだけど、トランクの中なんか初めて入ったし、気付かれたらやばいし、羽柴が心配で心配で堪らなかったから、あの時の体感時間はめちゃくちゃ長く感じた。


 もう息を殺すどころかほとんど息を止めてトランクの中に潜んでたら、誘拐犯の家のマンションについて、そこの地下駐車場に車を止めて、しばらくゴソゴソと何かした後に女は車から降りて行って、よし俺も出ようとした時、俺はどうやって出ようという疑問にぶち当たった。

 アホだな、俺。知ってるけど。


 まぁ、足でガンガンと内側から蹴りまくってたら自然に開いたから良かったよ。

 つーか今思うと、トランクの中でも出た後でも、とりあえず通報しとけよ、俺。


 アホでまだまだパニック中の俺は、やっぱり通報のつの字も浮かばないでそのまま駐車場を出てマンションのエレベーターホールまで行くんだけど、今度はあの女の部屋どころか何階かもわからないことに気付いて途方に暮れた。


 もう泣きそうになりながらあの女がまだ近くにいないかとか考えて周りを見渡したら、マンションとかってエレベーターホール前に郵便ポストが並んでるじゃん。

 あのポストのうち一つが空きっぱなしで、さらにその下に何か見覚えのあるものが落ちてることに気付いたんだ。


 落ちてたものは、羽柴に誕生日プレゼントであげたトンボ玉っていうガラスの飾りがついたヘアゴム。

 羽柴はそれをすごく気に入ってくれて、その日も学校でつけてたことを覚えてたから、それでこの閉め忘れのポストが誘拐犯の部屋だ! って決めつけて、その部屋まで行ったよ。


 その日の俺は最高に運が良かったらしく、マジでその部屋だった。

 しかも、鍵も開けっぱだった。

 今思うと俺と羽柴からしたらいいことだったけど、どんだけ色々と開けっぱなんだよ。よく誘拐を成功させたなあの女。


 俺がその部屋にこっそり入った時も、誘拐してとりあえず自分の家まで帰ってきたことで緊張が解けたのか花瓶かグラスでも割った音がして、その音と後片付けに気を取られたのか、おかげでドアを開ける音や俺がすぐ近くの部屋に潜り込むことに全く気付かれなかった。


 で、玄関から一番近い部屋に入って、俺は悲鳴を上げかけた。結果としてはあんまり意味はなかったけど、何とか悲鳴を飲み込んだ俺を褒めたい。


 その部屋、誘拐犯の趣味部屋というかコレクションルームだったんだよ。

 部屋中に、人形がずらり。

 テレビで紹介された活き人形がずらりと並んでて、何も憑いてないことはわかるくせに、下手に何かが憑いてる人形よりも怖かったな、あれは。


 そんな人形だらけの部屋にビビってたけど、かすかに聞こえた羽柴の「……うう」ってくぐもった声にこんな所までやってきた理由を思い出して、羽柴を探したよ。


 羽柴は、日本人形だらけの部屋の片隅に置かれた大きめのボストンバッグの中にいた。

 バッグを開けて、まだ気を失ったままの羽柴を揺さぶって、羽柴起きろ! 逃げるぞ! って小声で言ってたら、「何よこれ!」って叫ぶ女の声がして、次の瞬間、誘拐犯が部屋に入ってきたんだ。


 ……俺さ、靴を脱いでそのまま玄関に靴を置いたまま、女の趣味部屋に入ってたんだよね。

 そりゃ、一人暮らしの自分の家の玄関に汚い子供用のスニーカーがあれば、やましいことしてなくてもビビるわ。

 むしろ、やましいことしてない方が怖いか。


 まぁ、俺のポカミスは大目に見てくれ。ガキだったし、ある意味オカルトな出来事よりも非日常な出来事だったから、靴も持って上がるなんて発想出てこなかったんだよ。


 とにかく、誘拐犯に俺の存在が気づかれて、見つかっちゃったんだよ。

 その誘拐犯、遠目で見た時は普通のOLさんって感じの人だったけど、もう目が完璧にいっちゃってた。


 日本語話してるのに会話が成立しないタイプの悪霊と同じ目をしてるのに、悪いものはなーんも憑いてないのがまた怖い。

 羽柴も、自分と話してる時は普通だったって言ってたのがさらに怖い。

 霊に限らず悪意に敏感な羽柴さえも気づかせないレベルで隠せる異常者って、恐ろしすぎる。


 そんな完全にいっちゃってる誘拐犯は、「誰!? 何なのあんた!?」とか「私の人形に、やっと手に入れたのに、汚い手で触るな!!」とか叫んでて、もう俺は情けないけどボロボロ泣きながら、まだ起きない羽柴を抱え込むことしかできなかった。


 羽柴を人形扱いするあの女に、少なくとも俺が生きてる間は絶対に羽柴を触らせたくなくって、俺が死んでもいいから羽柴を守らなくっちゃって思って、その女が俺を蹴りまくるんだけどとにかくずっと羽柴を抱きしめ続けてたな。


 頭を胸に抱え込んでるみたいな形で抱きしめてたから、羽柴は苦しかっただろうな。ごめん、羽柴。


 そんでこっから不思議な話なんだけど、女は「離しなさいよ!」って喚いて、俺はゲスゲス蹴りまくられてたんだけど、何かいつからか俺を蹴るのとは違う音も聞こえてくることに気付いたんだ。


壁を水に濡れたタオルを叩き付けるような、びしゃっ! て音がしてるって俺が気づくと同時に誘拐犯も気づいて、俺を踏みつけながら「何の音よ!?」って周りを見渡して、一瞬の間をおいて悲鳴を上げた。


 俺も、壁を見て息を飲んだ。

 壁には赤い液体で俺や羽柴ぐらいの大きさの手形がいくつもあったんだ。


 女が俺を蹴るのをやめたら、そのビシャッ! て音が、手形がつく音がさらに大きくなって、壁やら窓はもちろん、床、天井、人形にも手当り次第にビシャビシャ音を鳴らして、手形がどんどん増えていったよ。


 オカルトに慣れた俺でもさすがに何これ!? ってびっくりするような光景だから、もちろん誘拐犯はビックリどころじゃねーよ。

 初めの悲鳴以上の大絶叫をして、尻餅ついて倒れてそのまま腰が抜けたのか這いずって部屋から逃げ出そうとするんだけど、このタイミングでようやく羽柴が目覚めたんだよな。


 初めの数秒間は事態を把握できず寝ぼけた目で周りを見て、「……ソーキさん、おはよう」とか言ってたけど、誘拐犯を見た瞬間、自分が何をされたのかを思い出したみたい。


 うん、そしてここからはもう予想してるだろうけど、はい、いつも通りの羽柴無双でした。


 這いずって逃げようとしてる誘拐犯に、近くの人形を掴んで投げつけて、そのままダッシュの勢いをつけて延髄に回し蹴りを決めて、誘拐犯は泡吹いて気絶。


 泡吹いて失神してる誘拐犯の胸ぐらを掴んで、「寝るな! ソーキさんにした分の半分もまだすんでないし、私にした分は丸ごと全部まだ残ってる!」って言いながら、がくがくと激しく揺さぶる羽柴を見て俺はようやく通報しようという考えに至り、こうして事件は解決した。


 で、誘拐犯の動機は最初の方に話した通り重度の日本人形マニアだったその女は、まさしく生きた人形である羽柴に一目惚れして、あんな人形が欲しいという思いからあの子を人形にしちゃえばいいじゃんというかっ飛んだ結論に至り、エンバーミングっていう死体の防腐処理方法をネットや本で調べて、必要な材料を集めて、誘拐計画を練って実行したらしい。


 ちなみに、あの手形の赤い液体はそのエンバーミングに使う液体だったみたい。血かと思ってたわ。


 そういや、あの手形がいまだに色々謎なんだよな。

 俺、あの女が羽柴より前に犠牲にした女の子の霊か何かかなーとか思ってたんだけど、あの女、人形関係で色々トラブルは起こしてたけど、さすがにここまで猟奇的な前科はなかった。


 警察もかなり力を入れて調べたし、しきみさんも愛娘が殺された挙句に死体を人形扱いされるところだったからもうありとあらゆる手段を使って、少しでも罪を重くしようとしたらしいけど、間違いなくあの女は誘拐も人殺しをしようと思ったのは羽柴が初めてだと。


 まぁ、よくよく考えたらそれも納得だけど。

 あの手形、全然嫌な感じがしなかったし。


 あの女に殺された子の霊なら悪霊と言うのはかわいそうだけど、確実にあの女を強く恨んでるはずだから絶対に嫌な感じが少しはするはずなんだけど、そういうのは全くなーんにもなかったんだよ。


 だから今は、あの手形は通りすがりの子供の霊が俺と羽柴を助けてくれたんだと思ってる。

 言える機会はないと思うけど、せめてお礼を言いたいな、その霊に。



 * * *



『……別にお礼はいらないし気付いてほしいとは思ってなかったけど、……でももう少しは他のも不思議に思ってよ。

 開けっぱが多すぎなところとか、ボストンバッグに入れられて運ばれたれんげちゃんのヘアゴムがどうして落ちてたとか……』


 ソーキはそろそろ彼女に土下座した方がいいという話。


 この話でたぶん、今まで「羽柴の登場、タイミングとか都合よすぎだろ!」とか思えた話の疑問を解消できたと思います。

 完結したら彼女視点で色々やってきてた裏話集も書きたいなーと思ってる今日この頃。


 次回はなんか笑える霊体験スレが元ネタの、緩いコメディです。

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