44:鏡にまつわる小ネタの話
鏡って、何か不思議な話が多いよな。
異界に繋がるとか、未来の自分が見えるとか、合わせ鏡で悪魔が通るとか。
オカ研でさ昨日はそういう話をしてて、「午前零時に合わせ鏡をすると、鏡と鏡の間に悪魔が通る」って話は本当かなーみたいなことを言ってたら、羽柴が宿題しながらさらっと、「本当ですよ」って言い出した。
……正直言って、俺もオカ研メンバーもこの時点で嫌な予感がしてた。
予感はしててもオカルト大好き集団だからこんな話題に飛びつかないわけがなくて、羽柴に詳しく話を聞いてみたんだ。
意外と最近の話で、夏休み前の夏祭り数日前に浴衣を着るんなら髪はお団子にしてまとめよう、でもお団子なんて髪型は久しぶりだから練習しておこうと思って、羽柴は夜に三面鏡を使って髪形をいじってたらしい。
で、できたお団子が変じゃないかをチェックしようと、合わせ鏡にした時がちょうど午前零時になっちゃったみたいで、鏡と鏡の間に何か黒いものが走ったんだと。
……それで……まぁ……あとは、うん……予想通りいつも通りだよ。
羽柴、反射でその走った黒いものを叩き潰したんだと。
羽柴曰く「虫かと思った」らしいけど、その悪魔の大きさを聞いてみたら15センチくらいはあったらしい。
おい、虫でもと言うより虫こそやだよ、その大きさ。よくあいつ、叩き潰せたな。
で、叩き潰したものをよく見てみたら、子供向けの手洗いとか虫歯予防とかに描かれてるばい菌擬人化みたいな生き物がぐったりしてたから、そのまんましっぽつまんで鏡にぽいっと捨てて、髪形チェックを続行したんだと。
……よりにもよって、ばい菌って。確かにイメージしやすかったけど。
あいつ、本当に何にでも容赦がないな。
自分と仲の良い友達そっくりの何かも、似たような感じで鏡の中に返還してたし。
これは小4の頃だったかな?
学校に行ったら、羽柴と仲の良い女子が普通に「おはよう」って声をかけてきたんだけど、声も様子も何もかもいつも通りで普通だったんだけど、何故か俺はその子に違和感があったんだ。
けどその違和感の正体が全然わからなくって、注意深くその子の様子を観察してみたけど、どう見てもいつも通り。悪霊に感じる肌の痛みも空気の重さもない。
だからやっぱ気のせいかなーって俺は思ったんだけど、羽柴は教室に入ってきた瞬間、その子の顔を見た瞬間に違和感の正体と、その子が友達本人じゃないことに気付いてたな。
その友達に化けてた奴が羽柴に「おはよう」って言う前に、羽柴はランドセルも下ろさずにその子の髪をわし掴んで、そのまま教室から出て行った。
もちろんその子は泣き叫んで抵抗するんだけど、そんなのものともせずに階段の方に進んでいく羽柴。どう見ても、相当ひどいイジメだったなあれは。
まぁ羽柴がイジメなんかするわけないし、その子に違和感があった俺はやっぱり偽物か何かか! と思ってそのまま羽柴を追いかけたら、羽柴は階段の踊り場に掛けてある卒業生寄贈品のでっかい鏡に向かって、その子を思いっきりぶん投げた。
鏡の前に羽柴とその子が立った時、俺はあの子に感じた違和感の正体に気が付いたよ。
あの子の顔にあったほくろの位置が、反対だったんだ。
羽柴しか映ってない鏡を見たら、あの友達に化けてた奴の正体と違和感は、一目瞭然だったな。
で、鏡に向かってぶん投げられたそいつは、鏡が水みたいに波紋を描いてそいつを飲み込んだんだ。
鏡の向こうの踊り場に倒れこんだのか、しばらく鏡には羽柴とついてきた俺しか映らなかったけど、起き上がって鏡の中から羽柴を睨み付けたそれは、もう友達の姿をしてなかった。
血走った眼だけがリアルな、人型の黒い影でしかなかった。
……まぁ、その影は羽柴から躊躇のない目つぶしを食らって、そのまま消えたけど。
そういや、羽柴の手も鏡の中を水みたいにずぷっと沈んでたな。
もうすごいんだけど、マジでそのすごさを物理除霊以外に生かしてくださいよ、羽柴さん。反応に困るんだよ。
ちなみに羽柴の友達はというと、羽柴が鏡の中にあれを放り込んだと同時ぐらいに、その子の自宅の洗面台の前にパジャマ姿で現れて母親を驚かせたらしい。
親は普通に朝ごはん食べて学校に行ったのを見たのに、その子本人は今さっき起きて顔洗って歯を磨いてこれから着替えるところだったらしく、自分が起きてからもう2時間近くたってることにものすごくびっくりしたって言ってたな。
……正体不明の何かに成り替わられたってめちゃくちゃホラーなはずなのに、どうして羽柴が絡むとあの影の方に少しとはいえ同情しちゃうのかなぁ?
あと、夜中の4時だか3時だか忘れたけど、それぐらいの時間に鏡を見たら自分の死に顔が映るって怪談とかあるじゃん?
あれに関してはどうなのかを先輩たちが羽柴に訊いてたんだけど、それに関しては体験したことないからわからないって答えてた。
ただ、その死に顔が映るってパターンで考えられるのは、鏡そのものに不思議な力が宿ってて本当に未来予知してるか、たちの悪い霊に憑かれてて、その霊がこれから殺そうとしている未来予想図を見せつけてるかの二通りが主らしい。
だからよっぽど古い鏡以外は十中八九、悪霊のしわざだろうから、とりあえず血まみれの自分が鏡に映ったら自分の肩の後ろあたりに裏拳かましとけと言い出した。
だいたい、取り憑いた霊がいるあたりはそのへんだから。
……自分の死に顔見て、冷静に裏拳かませるのはお前だけだよ。
あ、もうこんな時間か。
んじゃ、俺、学校に行くわ。
いってきまーす。
……何で今日は朝から、鏡の話なんかしたくなったんだっけ?
まぁ、いいか。
* * *
『……ダメだ、こいつ。夜中に水のみに起きて、廊下に掛けてある鏡に映った自分が血まみれだったこと、すっかり忘れてる。
また事故に遭う前にれんげちゃんに会うように誘導しなくっちゃ』
次回は、緩いコメディ……なのかな?
起こってること自体はかなりの大事件だけど、まぁノリはいつも通りです。




