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41:呪いの小物にまつわる小ネタの話

 俺さ、羽柴と同じように公言する気はないけど隠す気もないから、それなりに霊感あるってこと知られてるじゃん?

 そのせいでたまに、「これをお祓いしてくれ!」とか言って持ってくる奴はいい方、黙って机に置いて行ったり、鞄の中にこっそり入れていく奴がにいるんだよ。


 羽柴の方がよっぽど有名なんだけど、見た目や雰囲気からして近寄りがたくて頼みにくいうえに、フリマとかネトオクで買っちゃったとか、家に元々あったとか、その持ち主に非がない場合なら普通に除霊してくれるけど、幽霊屋敷を肝試ししてそこにあった小物を持って帰ってきたとかだったら、まずそいつのみぞおちに前蹴りを入れる女だからな……。


 そんなわけで、明らかヤバそうなものほど羽柴じゃなくて俺の方に持ってこられて、俺が巻き添えに遭うってことがよくあるんだよ。

 今日も、いつの間にか鞄の中に外国の古いコインでできたキーホルダーが入れられてて、知らん間に呪われてた。


 一、二時間目の授業中は普通だったから、三時間目の体育の授業中か休み時間にこっそり入れられたのかな?

 四時間目の数学の時間が大変だった。


 起こったことは、机の下から血まみれの外国人のおっさんが俺に向かって、ニタニタ笑いながら這い上がろうとしてくるだけで、外国人ってことを除けばイヤはことにそう珍しくはないんだよなぁ。


 だから、外人は珍しいなーとだけ思って、這い上がってこないようにひたすら、ゲシゲシ蹴りまくってた。

 うん、数学の時間が終わってから気づいたけど、俺、もう羽柴の除霊に怖いって文句がつけられなくなってきてるわ。


 そんな地味に凹んだ話は置いといて、そうやって授業中蹴りまくってやったらさすがに俺にちょっかいを掛けるのはやめたんだけど、通りすがりの霊だと思ってたのに何故だか涙目になりながらも俺から離れなくて、不思議に思ったから翻訳サイトを駆使して何か用があんのかって聞いてみたよ。

 ちなみに、あの霊はドイツ人だったみたい。


 ドイツ語で「何か用?」って文章だしたら、向こうも話し出すんだけど、英語も赤点ギリギリの俺にドイツ語が聞き取れる訳もなく、おっさんは諦めて俺のカバンを指さした。


 で、鞄を探ってキーホルダーを発見してようやく俺は、またなんか押し付けられてたことに気付いて、昼休みだったし、隣のクラスの羽柴にキーホルダーを持って行った。


 もう何回もこういう押し付け巻き込まれはしてきて、そのたびに羽柴に迷惑をかけてるんだけど、羽柴は「迷惑なんかじゃない。それより、変な遠慮をして自分で何とかしようとしないで。その方が、厄介」って何度も言われてるからな。


 実際、俺の意地で相談しなくて事態が悪化したことは何度もあったから、迷惑を倍にするよりはマシと思って持って行ったよ。


 そしたら羽柴、俺の話を聞いてそのキーホルダーを渡したら、俺に「これ、いる?」って聞いてきてさ、俺が全然いらんって答えたら、「じゃあ、壊すね。面倒だし」とか言って、ぱきっと割った。


 ……大きさも厚みも材質も、500円玉とそう変わらない外国のコインを、指三本でつまんでそのままクッキーを砕くみたいに、ぱきっと真っ二つにしやがりました。


 もう俺は、霊能力者としてのなんか特別な力だ。決して羽柴の素の筋力とかじゃないと自分に言い聞かせたよ。

 って言うかマジでそうであってくれ。俺、羽柴のことはきっと何があっても大好きだけど、さすがに厭だよ、500円玉を指で割れる女子は!


 ついでに言うと、そのおっさんはコインに憑いて何がしたかったのかは結局のところ謎。

 羽柴もさすがにドイツ語が分からなかったとかじゃなくて、面倒だから話を聞かずにコイン割って終わらせたから。おっさんも、コイン割ったらいなくなったし。


 ただ、羽柴は「元の持ち主のところに帰れ」とか呟いてたから、日本語は全然通じてなかったけど、それでも羽柴の言葉に何らかの力があるのなら、たぶん俺のカバンにコインを入れた奴のところに戻ってるだろうな。


 何処の誰かは知らんけど、そいつがその理由を解明できたらいいな。


 にしても、本当に羽柴の除霊は霊本体であっても、それに取り憑いてる物であっても、とにかく物理だな。

 前に話したダウンジャケットもそうだったし。


 あーでも、壊す方がマシか。

 壊さない場合、あいつの報復は酷くなる。


 羽柴は本当に自分から地雷を踏みに行ったくせに、その爆発の被害を他人に押し付けるやつが大嫌いだから、俺に限らずああいう呪われた何かを他人に押し付けられた奴は絶対に助けてくれるけど、同時に押し付けた奴に何らかの報復をするんだよ。


 で、ダウンジャケットみたいに呪いをそのまんま、まるっとお返しするのは可愛い方なんだよなー。


 一番、容赦ねぇなって思ったのは、去年の三学期の初めの頃に起こったやつかな?


 クラスメイトの女子がさ、冬休み中に旅行で泊まった部屋に飾ってあった絵の裏に、お札が貼ってあるのに気づいて、馬鹿すぎることにそれを面白がって剥がして持って帰っちゃったんだよ。

 早い厨二病にかかってたのか、なんかかっこいいと思ったんだと。


 あと、お札なんだから剥がしても呪われるのはその部屋に次に泊まる人で、持ってる自分はむしろお札に守られるとも思ってたらしく、たぶんその発言が羽柴の大地雷を踏み抜いたんだろうな。


 で、結果としてそのお札、霊を鎮めるものでも、霊を弾くものでもなく、霊をその札に封じ込めるものだったみたい。


 元はその部屋か飾ってあった絵に取り憑いてたんだろうけど、その札に封じ込められて悪さができなくなってたところ、アホが無理やり剥がしたから少し破けて、そのせいで札から離れられないけどある程度自由になったから、札の周囲でポルターガイストだのの悪さをやらかすようになった。


 で、ポルターガイストにラップ音、金縛りで目が覚めたら首があり得ない方向に折れ曲がった女がニヤニヤ笑いながら、首を絞めてくるようになって、自分がとんでもないものを持ち帰ってしまったことにやっと気づいて、でも親に怒られるのは嫌、羽柴は何か怖いから嫌という理由で、俺のカバンにこっそり入れやがったよ、あのクソ女。


 初めからその札を持ってたり、羽柴がいるうちに俺の鞄に入れたら、羽柴はすぐに気付いてその犯人をボコるのを見てきたからか、妙に用意周到だったのがまたムカつく。


 朝一に登校して、まず札はうちのクラスから一番遠いところの掃除ロッカーにでも隠して、放課後、友達に頼んで羽柴を教室から遠ざけて俺が教室の掃除をしてる間に、回収してきた札を俺の鞄に入れて、自分はとっとと帰る。


 で、その日は運悪くそいつが俺の鞄に札入れた後に羽柴と会うことがなかったせいで、そのまま俺は気づかずに帰っちゃったんだよ。

 運が悪かったのは、羽柴に会わなかったことだけじゃなくてその札に封じられた霊、活動時間が夜中って決まってたみたいで、帰るときは俺じゃ悪霊の気配とかを感じ取れなかったこともだな。


 で、夜中にポルターガイストとラップ音が起こりまくって、夢の中で首が曲がった女に追い掛け回されて、捕まる直前に鞄がポルターガイストで派手に俺の頭にぶつかったおかげで起きて、ついでに鞄から嫌な感じがしまくることに気付いて探したらお札発見。


 夜中だったけど、家族にも迷惑だったから羽柴に連絡したらさすがに羽柴は来ないで、しきみさんが代わりに回収してくれた。


 で、羽柴は即座にたいして仲が良くないのに、わざわざ教室から遠ざけて自分と雑談した女子とその札が関連してることに気付いたから夜中にその女子に連絡して、正直に話さなければ回収した札の霊をお前に取り憑かせると脅したら、その子はあっさり友達に頼まれたことを吐いてそうだ。

 ついでに、その札はどこから手に入れたものか、何で羽柴に頼まず俺に黙って押し付けた理由もゲロって、羽柴は同情の余地なしと判断して報復を決意。


 次の日、学校にその犯人が登校してきた瞬間、羽柴は何やったと思う?


 極限まで折りたたんで小さくした札を、いきなりそいつの口に押し込んで、口と鼻を押さえつけて無理やり飲み込ませたんだよ。


 泣きながら「何すんのよ!?」って怒鳴って吐こうとするそいつを見下ろしながら、無表情で冷たく「性悪同士、波長がよく合って器にぴったり。あなたの中、すごく居心地良いみたいだから、もう吐き出しても無駄」って言い捨てたのを見て、俺は絶対に羽柴を敵に回さないって誓ったな。


 その後、そいつは夜中限定で人格が変わって、気が狂ったように笑いながら暴れて手が付けられなくなって、さすがに親に隠し切れなくなったから全部話して、親子で羽柴に助けを求めたんだ。


 でも羽柴は「謝ったら、許さないけど祓いはする」って言いつつも、何度親が謝っても本人が泣いて土下座で謝っても、「だから言ってるでしょ? 謝ったら祓うって」と言って、絶対に除霊をしようとしなかった。


 何度も何度も謝罪して、お詫びにと言って高級なお菓子はもちろん、大金も用意したらしいけど、羽柴の答えは「謝れ」だけ。

 しかも日が経つにつれて態度は軟化どころ硬化していって、親も子も疲れ切って泣きながらただひたすら謝ってたなぁ……。


 で、羽柴がそいつに霊を取り憑かせて10日ぐらいたって、さすがにそろそろ除霊しないとヤバいと思ったのか、しきみさんがその親子に言ったらしい。


「謝る相手は、れんげかい?」って。


 この言葉で、すぐにではなかったけどようやく羽柴が言ってた「謝れ」の意味に気付いたらしい。


 羽柴は、自分じゃなくて迷惑を黙って押し付け擦り付けた俺に謝れって、その親子に言ってたんだよ。

 だから何度羽柴に謝っても無駄、むしろ迷惑かけた相手の存在に全く気付かないことにムカついて、態度がどんどん硬化していってたみたいだな。


 気付いた親子は即行で俺ん家に来て、俺が玄関を開けた瞬間、父母娘の三人で土下座。俺は超引いた。

 で、事情を聞いてさすがにこのまま死んだり、精神崩壊されたら後味悪すぎるんで、羽柴に謝ったから祓ってやってって電話して、ようやくそいつは霊から解放されたな。


 まぁ、羽柴恐怖症になって、卒業まで不登校になってたけど。



 * * *



『っていうか、しきみさんも自分が祓ったり、あんたに謝れってことは言わずにヒントしか与えなかったのね。

 本当、容赦なく因果応報が大好きね、あの親子』

 次回は、後味が悪い系です。

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