37:羽柴が負けた話
この話の元ネタは何か笑える霊体験スレの「ツ.ー.リ.ン.グ」です。
羽柴が旅行に行ったお土産くれたよ。
美味いよ、このケーキ。萩の月だって。
何かしきみさんが急に「牛タン食べたい。あと、ずんだ餅」とか言い出して、仙台まで行ってきたんだってさ。
……何つーかしきみさん、行動力があるのはいいと思うけど、その行動力は三十路どころか四十路間際で中学生の娘がいる大人のものじゃないだろ。
で、お土産を持ってきた羽柴がなんか妙に疲れた顔してたから、旅行が楽しくなかったのかなと思ったけど、違った。
羽柴、今までどんなグロイ外見の霊を見ようが、神様が相手だった時だってまったくおびえたりせず、凛として勇ましかったのに、疲れ切った声と若干青ざめた顔で言ったんだ。
「ソーキさん。伊達政宗のゆかりの地とかは行かない方がいいよ。何あそこ怖い。パッションピンクが襲い掛かってきた」
前半聞いたときは、伊達政宗の霊に会ったの!? 何それ怖いけどうらやましい! とか思ってたら、後半で何言ってんの? になった。
パッションピンクが襲い掛かってきたって何?
まったく言ってる意味がわからなかったから、とりあえずお土産にくれた萩の月を食いながら詳しく話を聞いて、俺は頭を抱えた……
羽柴はしきみさんとドライブがてら宮城の仙台まで行って、牛タンがおいしいって評判の焼肉屋でご飯食べた後、ずんだ餅を食べるための腹ごなしを兼ねて、うろうろと散歩してたんだと。
で、近くに伊達政宗を祭ってあるお寺みたいなの……なんだっけ、ず、ず、瑞鳳殿だ! そういう名前の場所があるから、行ってみたらしいんだよ。
しきみさんが止めたけど、せっかく仙台まで来たのに食べ歩きだけで終わらすのは嫌だから、有名どころに行きたがって、ごり押したそうだ。
羽柴さ、何か仙台についてからずっと気分が悪かったらしいんだ。
悪霊にまとわりつかれてるのとは全然違う、自分の方を見ていない気にしていないのになぜかこっちの方が気にして気分が悪くなる、そんな今まで感じたことのない変な感じをずっと感じてたってさ。
しきみさんはそのことに気づいてたみたいで、我慢できなかったらすぐに言いなさいとは言ってたんだけど、羽柴がその変な気配とか気分の悪さの原因は何なのかを聞いても、「知らなくていい。むしろ、頼むから一生知らないでいてくれ」と、真顔で肩掴まれて言われたそうだ。
……しきみさん、あんた全部わかってたんですね。グッジョブです。
……羽柴、瑞鳳殿に行く道のりでどんどん気分が悪くなって、結局入り口で座り込んでダウン。
しきみさんが「だから言っただろ」って言って、羽柴をそのまま車まで担いで、餅は食わずに帰ったそうだ。
その道のりまでの空気を無理やり表現するなら、「パッションピンクの粘り気のある熱気が旋回しながら襲い掛かってくる」らしい。
わけわかんねーよと言いたいところだけど……俺、なんとなくわかるんだよ。
そのパッションピンクの粘り気のある熱気の正体が。つーか羽柴、絶妙な表現するな。
……俺、去年ぐらいに3歳年上の従姉のねーちゃんの家に遊びに行って、ねーちゃんが出かけてて伯母さんがねーちゃんの部屋で漫画でも読んでなさいって言うから、お言葉に甘えて読もうと思って部屋に入ったんだよ。
今までもそうやってよくねーちゃんの部屋に入って漫画を読ませてもらってたから、ねーちゃんも好きに読んでいいよーって言ってくれてたからさ、本棚からどれ読もうかなーって探してたら、ねーちゃんのベットの上に一冊、漫画が乗ってるのに気づいたんだ。
その漫画がさー、表紙がツルツルの紙でサイズが大きい割には10ページちょっとしかなさそうなペラペラの漫画でさ、初めて見るなこんな漫画って思って手に取ったら、俺の好きなゲームの、戦国格ゲーの漫画で、え! あのゲーム漫画化したんだ! とか思って……読んじゃったんだよ。
半分ぐらい読んで、固まった。
俺がどんだけの時間硬直してたのかは知らないけど、ねーちゃんが帰ってくるまで固まってたし、帰ってきたねーちゃんが、その漫画を手にしたまま硬直してる俺を見て、ねーちゃんも硬直。
しばらく二人で硬直してたけど、ねーちゃんが俺からそっとその漫画……同人誌ってやつを取って、俺と向き合って正座して、教えてくれたよ。
……同人誌と腐女子とBLってやつを。
そして、土下座で「このことは誰にも言わないでください!」って頼まれた。
うん、言われなくても言いたくない。っていうか、思い出したくない。
……まぁ、そんな経緯があるから、大体わかったよ。羽柴が感じたパッションピンクの熱気ってやつの正体が。
どう考えても、怨念とかを超えた戦国腐女子の萌えと妄想のパワーです。本当にありがとうございました。
そうか……、羽柴でも腐女子には適わないのかと何か遠い目をしながら俺が思っていたら、「ソーキさんはわかるの? あのパッションピンクの正体が」って訊いてきたから、しきみさんと同じく肩を掴んで、知らんでいいと説得しておいた。
あと何かそのパッションピンクから、「レッツパーリー!」って声が聞こえたんだってさ。
* * *
『それ、伊達政宗だけど、伊達政宗じゃない。中井○哉さんボイスの伊達政宗よ、れんげちゃん』
何かオカ板とかで「腐女子最強説」がもはや真理と化している気がしたので、書いてみた。
羽柴は個人主義なマイペースなので、腐女子やBLを知っても偏見はないけどその素養もないので、むき出しの萌えという欲望フルパワーにはさすがに引いたが、今回の話。
悪意のある何かだったらいつもの物理で何とかするんでしょうが、今回はある意味好意しかなかったのも、負けた要因。
彼女はこのまま、これだけには勝たないように育ってほしいと作者も祈ってます。
次回もなんか笑える霊体験スレが元ネタの緩いコメディです。




