32:しきみさんと初めて出会った時の話
この話の元ネタは、洒落怖スレの「危.険.な.好.奇.心」です。
羽柴の父親に初めて会った時の話、したことないよな?
俺、羽柴とは小3から小6まで同じクラスだったけど、羽柴の父親に会ったのは去年の春頃なんだよなー。
あの人、授業参観とか運動会に来ないから。
あぁ、別にあの人、娘が可愛くないとかで来ない訳ではないよ。むしろ、俺から見たらあの人は羽柴を溺愛してるし、羽柴も結構ファザコンだと思う。
来ないのは逆に、羽柴に気を使ってるんだよ。
まぁ、その話は今は関係ないから置いておこう。
羽柴の父親に会ったきっかけは、俺の霊感が目覚めたことで疎遠になったというか、キモいとか化け物とか言ってきて大ゲンカして縁を切ったつもりの元友達が、俺に助けを求めてきたことだったな。
そいつは春休みの終わり頃、真夜中に家から抜け出してコンビニに行ったらしい。
何で真夜中に一人でコンビニに行った理由は、いくら聞いても答えなかったけど、たぶん年齢確認しない緩いコンビニにエロ本でも買いに行ったんだろう。
まぁそれはどうでもいいんだけど、その帰り道で不気味な女、白い着物を着て頭に何かつけてに火のついたロウソクを立てた女が、フラフラした足取りで歩いていたんだって。
はい、どう考えても呪いの定番、丑の刻参りスタイルです。
その時点では女の方はあいつに気づいてなかったから、そのまま見なかったことにして逃げて帰れば良かったのに、あのバカは自分をビビらせた仕返しにその女もビビらせてやろうと思って、後を追いかけたらしい。
で、神社なくて寺の方の雑木林にその女は言って、その奥の方の木になんかを釘で打ちつけながら、死ねー! 殺すー! 呪われろー!とか叫んでたそうだ。
もちろんあいつは、とっくの昔にビビらし返す気は失せてたんだけど、相手に気付かれるのが怖くて引き返して逃げるタイミングも完全に失って、とにかく膝を抱えて茂みに隠れてたんだけど、デカイ蛾が顔に止まったのにビビって声を上げて、見つかってしまったんだって。
女は「見たな!」って金切り声を上げて、そいつの方に向かってきたらしいけど、あいつ、足はめっちゃ早いから泣きながらも全速力で逃げて家に帰ったって。
なら良かったじゃんって俺は思ったけど、そいつは丑の刻参りなんて知らないから、女が何をやってたかがわからなくて気になって、次の日の昼間にその雑木林に行ったらしい。
懲りろよ、あのバカ。
で、あの女が打ち付けてたものを見たんだ。
顔がわからなくなるほど釘を打ち付けられた、10歳くらいの女の子の写真を。
それを見てから、あの女はヤバイ。あの写真の女の子を呪ってるんだって思って、その写真の女の子が心配で仕方がなくなってきて、昔俺をバカにしたことを謝るから、あの女をなんとかしてくれってのが、そいつの頼みだった。
んで、俺もその話を聞いても女の子が心配になったから、俺じゃ何にもわからないし出来ないから、この時は速攻で羽柴に頼ったよ。
春休みが終わってすでに10日はたってたから、そもそもその写真の女の子か無事かどうか、かなり怪しいところだったから、無意味な意地を張る余裕はなかったよ。
それで羽柴に同じことを説明して、その女をどうにかするよりも、その女の呪いを無効化する方法はないかとかを尋ねたんだけど、羽柴は俺の問いには答えてくれず、あいつに尋ね返したんだ。
「全部を話せ」って。
羽柴がそう言った瞬間は、俺は?状態だったけど、あいつが明らかにキョドって「か、隠してることなんかねーよ!!」と盛大に自爆してた。
そのキョドり具合から、エロ本買いに行った程度の隠し事じゃないことも自白してたから、俺が胸倉つかんで隠してることを全部言えって問い詰めたら、吐いたよ。
あのクソ、あいつは写真の女の子なんてどうでも良かったんだ。心配なんかしてなかった。
あいつが呪いをかけてる女や呪いそのものをどうにかして欲しかったのは、あいつ、その女の後を追って見つかった日は、弟の帽子を被って出掛けてたんだけど、逃げる時にそれを落としてたんだ。
それで、次の日に雑木林に行って見つけたのは、女の子の写真だけじゃない。
自分か落とした帽子もその木に打ち付けられて、しかも木には帽子に書いてあった弟の名前と、「呪殺祈願」って釘で彫られてたんだ。
しかも、話はそれだけでは終わらなかった。
その日から、あいつの弟が体調を崩して、3日ほど前に入院して、今朝から意識不明の昏睡に陥った。
……あのクズは、自分と勘違いして弟が呪われているとに気づいていたのに、こんなギリギリになるまで誰にも何も言わず、言っても自分の都合が悪いことは言わないでおこうとしてたんだ。
もちろん俺はブチ切れて、少しは残ってた友情も消え失せて、ブン殴ろうとしたよ。
俺がする前に、羽柴が綺麗な右フックを決めたけど。
吹っ飛んで歯が折れたそいつを、ゴミを見るような目で見て初めては、「お前を地獄に落とすのは後」って言って、電話をかけだした。
羽柴は電話で、寺の方の雑木林に行ってくれって誰かに頼んでから、すぐに通話を終わらせて、自分も雑木林に向かうから、俺は帰っていいって言うんだけど、俺は何もやってないし、何もできないけど、ここで無関係ですって帰るのはさすがに出来なくて、何より今すぐに逃げ出そうとしてるどクズを、せめて自分のやらかしたことの後始末を見届けされたかったら、そいつを引っつかんで、俺もついて行ったよ。
今思うと、ホイホイの俺が行くっていうのに、よく反対しなかったな、羽柴。
まぁたぶん、あのアホを逃げたさないように連れて行く係がいた方が楽だからぐらいの理由だろうな。
で、俺たちが雑木林の奥、呪いをかけたであろう木の元までやってきたら、先客がいたよ。
それが、羽柴の父親。
弟が昏睡までいってるのなら、もう時間は本当にないから、羽柴は自宅にいる父親の方が先に到着出来るからってことで連絡して、呪いの状況を見てもらっていたそうだ。
これが、初めての俺と羽柴しきみさんとの出会いなんだけど、不謹慎だが俺はあの人を見た瞬間、呪いのことが頭から吹っ飛んだ。
その時、俺が思ったことはただ一つ。
……羽柴って、父親似だったんだ。
マジでビビるくらい、あの親子そっくりだぞ。
背が高いし、細いけど全然モヤシとかじゃないから、一目で男だってわかる人なんだけど、カッコいいとかイケメンとかじゃなくて、美人って言葉がピッタリな人。
で、これはさらに後で知ったことだけど、しきみさんが参観日や運動会にも来ない理由は、小1の頃に参観日でクラスメイトの母親に惚れられて、ストーカーされて大騒ぎになったことがあるそうだ。
羽柴の家は父子家庭だから、羽柴本人にもそのストーカーが「お母さんになってあげる」ってアホなこと言い出して、誘拐されそうになった被害もあって、それが以降の学校行事参加放棄の理由。
しきみさんは何も悪くないけど、既婚者がトチ狂うのも確かに納得の美人でした。
話を戻すが、雑木林に着いたらそんな超美人のおにーさん……って歳じゃないけどおにーさんにしか見えないしきみさんが、「呪殺祈願」って彫られた木を撫でながら、羽柴の方を見ずにこんなことを言ってた。
「自分の墓穴を掘る気がないのなら、他人を落とすために掘った穴に落ちろ」
そう言って木の下に落ちてた釘を木に刺した後、その釘に向かって蹴りを入れて、木の中に釘を全部埋め込んだ。
あんたもそういうやり方かい!って俺は心の中で突っ込み、アホは呆気を取られてたら、しきみさんはアホの方に向き直って、「弟君の呪いはとりあえず跳ね返しておいたけど、君のことは私もれんげも何もする気は無いよ。
君が蒔いた種から育ったものは、刈り取ってやったんだから、因果応報の実は自分で喰らえ」って、顔は笑ってるけど目は全く笑ってない笑顔で言ってたわ。
たぶんあいつは言われた意味をほとんど理解してないだろうけど、笑わない羽柴以上の迫力を感じて、ガクガク首を振って頷いてたな。俺も、意味もなく頷きそうになったし。
それでアホのその反応を見てからようやくしきみさんは俺の存在に気づいたのか、俺をキョトンとした顔で見て、俺の名前を確認して俺が肯定した瞬間、なぜかその場に蹲って笑い出した。
何か爆笑しながら、「……王子……さま……理想の……王子……ダメだ、腹痛い……」とかわけわからんこと呟いてて、羽柴が無言ながらにマジギレの蹴りを入れるまで笑ってたな。何だったんだ、あれは。
ちなみに、この件の元凶であるアホはこの隙に逃げやがった。まぁ、もうほとんどが終わってたから別いいにけど。
そんで、呪いは本当にもう大丈夫なのかを笑いが治ったしきみさんに聞いたら、しきみさんはにっこり笑って教えてくれたよ。
「少年、私の好きな言葉は因果応報なんだ」
まったく俺の質問の答えになってなかったけど、その完璧すぎて激烈に嘘くさい笑顔が全てを語ってたなぁ。
あの人、間違いなく言葉通り呪いをかけてた女に呪いをそのまんま跳ね返したんだろう。相手がかけた呪いの分そのまま、少しも減らさず増やさず打ち返したんだと思う。
まさしく、その女がどんな目にあおうが自分が相手にしようとした自業自得、しきみさんの好きな言葉、因果応報になるように。
顔はそっくりだけど表情が羽柴とは違って豊かで口数も多いから、性格は違うのかなと思ったら、性格もそっくりだったよ、あの親子。
俺がそんなこと思ってちょっと引いてたら、呪いかけた女になんか同情でもしてるって勘違いされたのか、しきみさんに頭を一回撫でられて教えられたよ。
「少年が気にすることじゃないよ。
自分の気に入らない相手が不幸になっていく様に快楽を覚えて、逆恨みはもちろん、ただ不幸にしたいという理由で、何の接点もない幸せそうな家庭の娘を呪ってた女のことなんか」
教えられて、さらに引いた。
……なんで知ってんの?
羽柴は電話で、雑木林に行ってとしか言ってなかったのを俺は聞いてるのに、呪いを誰かがかけてたのは木を見れば一目瞭然だったけど、なんでその呪いをかけてた奴が女で、呪いの理由まで知ってんの?
そのドン引きには勘違いせず正確に理解したのか、しきみさんはいたずらっぽく笑って答えた。
「見ればわかる」って。
聞いてすぐ羽柴のほうを見たら、「そのレベルでわかるの、お父さんだけだから」と即答してた。
マジであの人、羽柴の上位互換だわ。
しきみさんがさっさと呪いを跳ね返したおかげで、あのバカの弟はその後は意識を取り戻して順調に回復したよ。
バカもいろんなショックが重なったからか、学校をしばらく休んだけど、来るようになってからは今までとは違ってルールを破らない真面目な奴になった。
良くも悪くも明るくて行動的な性格が、暗くて臆病な消極的な性格に変わってしまったけど、そのあたりは自業自得の因果応報というやつだろう。
呪いをかけてた女がどうなったのかは、知らない。正直、知りたくもない。
まぁ、こんな感じで羽柴の父親に俺が出会った話は終わるんだけど……、なんで今日この話をしたかというと、さっき羽柴の電話からしきみさんが俺に電話をかけてきて、明日暇なら自分の仕事を手伝ってくれって頼まれたんだよ。
ほとんどなんも考えずに、いいですよって言っちゃったけど、俺、何させられんの?
しきみさん、副業だけどガチで除霊を仕事にしてる人なんだけど、その人の手伝いって何?
あー、いまさらだけど後悔だらけだ。
羽柴にいいところ見せられるかもと思った、能天気で思い上がりなついさっきの自分を殴りたい。
* * *
『覚悟を決めて未来のお義父さんにいいところを見せてきなさい。
頑張りなさい。王子さま』
話の元ネタは「危.険.な.好.奇.心」だけど、元ネタがやたらと長いので、削りに削ったらだいぶ原型がなくなってしまった。
次回も、洒落怖が元ネタで、娘じゃなくて父親回。
そして次回も、洒落怖をクラッシュします。




