30:夏祭りの話
オカ研メンバーで夏祭りに行ってきたよ。
今回はオカルト関係なく、ただ単にみんなで遊びに。
もう俺、みんなで夏祭り行くってのが決定した時点で、祭が楽しみで楽しみで仕方なかったんだ。
だって、羽柴と夏祭りだぜ!
羽柴の浴衣が見れるんだぜ!
ずっとずっと前から羽柴を祭りに誘いたかったけど、誘って断られたら立ち直れねーし、OKもらっても友達に見られたらからかわれるから、「部活のみんなと」ってくくりでなら一緒にいても不自然じゃないよな? と思って浮かれてた。
楽しみで楽しみで昨日は3時間くらいしか眠れなくなるくらい楽しみにしてた甲斐があったよ、マジで。
……羽柴の浴衣姿は、最高でした。
和風黒髪美人だから、浴衣がもう神がかって似合うこと。
普段はしないお団子にして上げた髪型も上品で綺麗で、あー、かぐや姫ってこんな感じだったんだろうなー、こんなんならそりゃ無理難題言われても叶えようとするよとか、今思うとわけわからんこと考えてたよ。
で、そんな感じで俺は浮かれに浮かれまくってたくせに、二人っきりじゃないとはいえ、羽柴と祭りに行けたっていうのに、……俺一人、はぐれました。
まずは屋台を一巡して見て回ろうかーと言って、回ってた始めの方で。
俺のマジ馬鹿野郎。
なんでクロワッサンたい焼きなんかに気をとられたんだ。
たい焼きがクロワッサンだろうがモンブランだろうがペスカトーレだろうがどうでもいいだろ、そんなの。
なんでそんなもんを気にして、一人置いてかれてはぐれてるんだ。
もう気がついたらみんないなくて、慌てて探したんだけど見つからなくて、電話しようにも浮かれすぎててスマホを忘れて来ててさー、マジで俺アホすぎ。
自分の馬鹿さ加減にマジ凹みしながら、とにかくみんなを探そうと、ウロウロ進んでたら、後ろから「ソーキさーん!」って羽柴の声が聞こえて来たんだ。
で、振り返った先にいたのは……、満面の笑顔で俺に手を振って駆け寄る羽柴。
…………誰だ!?
リアルに叫んだわ。
見た目は完全に羽柴なんだけど、どう考えても別人が俺に駆け寄って来て、「ソーキさん、酷い! アタシはれんげだよ!」とか、唇尖らせてプンプン怒るんだけど、いや、その反応こそ誰だ!? なんすけど。
羽柴は自分のことアタシなんて言わないし、あいつの表情筋は基本凍ってるし。
もう俺はなんか一周回って冷静になって、羽柴なわけないって部分をその偽羽柴に教えてやったよ。
いや、見た目だけは羽柴そっくりに化けれる正体不明の奴を、無視しないで自分から関わってる時点で実は割とパニくってたのかも。
幸いなことに、その偽羽柴はタチの悪い悪霊とかじゃなかった。
ウカノミタマていう女神の部下にあたる狐が、その偽羽柴の正体。
名前は椚で、俺が今時珍しい霊感と霊ホイホイ体質の持ち主だからからかってやろうと思ったんだと。
なんでそこまで分かったかというと、俺が本物の羽柴ならありえないところを教えたらそいつは、「えー、そうなのー。せっかく、上手く化けれたと思ったのにー」とかむくれながら、自分から自己紹介してきたから。
で、その狐は羽柴の顔のままヘラヘラ笑ってこんなことを言い出しやがった。
「お前、置いてかれたんだろ? 俺、見てたから知ってる。
お前の好きな女に化けててやるから、祭りに連れてってくれよー。ついでに俺、人間の金ないからなんか買ってくれ」
図々しいわって一回頭叩いて羽柴や先輩たちを探そうとしたら、椚は俺にしがみついて「遊んでくれないと化かして道に迷わせたり、泥だんご食わせるぞー!」とか言ってくるから、迷うのはもちろん泥だんご食わされんのはマジ勘弁だったから、屋台一周だけって約束で一緒に回ってやったよ。
……正直、羽柴の姿だから言うこと聞いてやった節が強い。
だって、中身別人どころか妖怪ってわかってても、天真爛漫に笑う羽柴は可愛かったから!
スマホ忘れて、写真や動画が撮れなかったことが悔しいぐらいに可愛かったから!
中身は狐でしかも男だけど!!
……まぁ、そんな理由で俺はねだられるがままに買ってしまいましたよ。
イカ焼きやら、フライドポテトやら、綿菓子を。
もうあの狐、完全にわかっててもねだってきてたよ。
羽柴の顔で可愛くねだられたら、少ない小遣いからでも俺はおごってしまうことを完璧理解してた。
それでそろそろ一周するなーってところで、そいつ、椚は俺に礼を言ったんだ。
「俺のワガママを聞いてくれてありがとうなー。礼に、お前の霊感なくしてやろうか?」って。
あいつ、ノリはめちゃくちゃ軽くて俺より年下の子供みたいな態度と口調だったんだけど、あれでも一応、神様直属の部下だから結構高位の存在らしい。
だから、俺の霊感を消すというか、霊が見えなくなるようにしてやることができるからしてやろうかって言い出してきた。
それはそれで魅力的な提案だったけど、断ったよ。
そしたらあいつ、羽柴の顔でポカンとしてたわ。
あー、マジでスマホ忘れたのが悔しい。
俺さ、霊が見えて嫌なことはいっぱいあったし後悔だらけだけど、今更見えなくなるのも嫌なんだよ。
だってさ、見えるようになったのと同じような事故的なもので見えなくなるならまだしも、こんなちょっとイカ焼きやら綿あめおごっただけで霊感を消してもらうって、なんか逃げてるみたいじゃん。
……羽柴は生まれつき俺以上のものを見てきてるのに、あいつは逃げずにいつもとんでもないやり方だけど、向き合ったり戦ったりしてるのに、男の俺が逃げるなんて最高にカッコ悪いじゃん。
それにさ、なんだかんだで俺は自分の霊感が割と好きなんだ。
人間に化けた狐と一緒に遊ぶなんて昔話みたいなことができたのも、俺が霊感持ちだったからだし。
だから、いらないって断ったよ。
俺が霊感を消さなくていいって理由を聞いたら、椚のやつ、何故か腹を抱えて笑いだしたんだよなー。
真面目に答えたのにその反応はちょっとムカついたわ。羽柴の顔だったから許したけど。
で、そいつは爆笑しながら、「あー、お前は本当に面白いな! じゃあ、別の礼をやる!」って言って、近くの屋台からりんご飴を二つ買ってた。
おい、お前、人間の金はなかっんじゃねーのかよ! って俺が突っ込むと、「あれ嘘」と実に可愛らしく、テヘペロしてくれましたよ。
羽柴の顔でもむかついたから、ふざけんなー、金返せーとか言いながら追いかけたけどな。
あいつ、本性が狐だからかすばしっこくってさー、人波の中をするする走っていくから、一瞬で見失ったけど。
で、何処だよあのバカ。礼をするんじゃなかったのかよって考えながら探してたら、なんかチャラいにーちゃんに絡まれてる羽柴を発見したんだ。
羽柴は美人だけど、雰囲気がものすごく近寄りがたいからナンパってほとんどされないんだけど、中身が椚ならノリが軽いからナンパしやすかったんだろうなーと思ってさ、俺、そのナンパされてる羽柴を抱き寄せて、すみませーん、この子俺の彼女でーす、ちょーかわいいでしょ? とか言っちゃったんだよ。
ナンパしてたにーちゃんは、見た目はちょっと怖かったけど俺に絡んだりしないで、「あー、そうなんだ。ごめんねー、お詫びにこれあげるよ」とか言って、俺と羽柴にりんご飴をくれて去って行って、俺が何やってんだよ椚って声をかけようとしたら、無表情真顔で言われたよ。
「私はいつ、ソーキさんの彼女になったの?」って。
……本物でした。
羽柴に化けた椚じゃなくて、本物の羽柴でした。
ああぁぁぁぁっ!!
今すぐ穴掘って埋まりたい!!
椚だと思ったから抱き寄せられたし、あんなこと言えたのに!
まさかの本人に告白すっ飛ばして、彼女扱いしちゃった! しかも、超チャラく!!
さ、幸いなことに羽柴は、俺のパニクって支離滅裂な言い訳でも、ナンパを追い払う方便で言ったってことは理解してくれた。
っていうか羽柴が言うには羽柴をナンパしてた奴、ナンパなんかしてなかったらしい。
つーか、俺がもう少しで来るって教えてくれた狐だったってさ。
……あれもお前かー! クソ狐ーっ!
羽柴の説明でいきなり叫んだ俺で、羽柴の方も俺に何があったのかだいたい察したのか、「狐は悪戯好きが基本だからね」とか言って、俺に椚からもらったりんご飴を一個渡してくれたよ。
で、渡すときに羽柴が俺の頭に葉っぱがくっついてるのに気づいて、ついでに取ってくれたんだ。
そんで、その葉っぱをしばらく眺めたらそれも俺に渡してきた。
それは葉っぱじゃなくて、あいつからの手紙だったんだ。
「今日はマジでたのしかったぜー。ありがとなー。
またあの女に化けてやるから、今度も遊ぼうなー」
葉っぱにはそんなことが書かれてて、もう俺は祭りどころじゃなかったよ。
羽柴に化けてやるからってところ、本人に読まれちゃったよ!
羽柴! 頼むから、そこを気にしないでくれ!
あー、明日から夏休みで楽しみだけど羽柴に会う機会が激減って思ったら残念だったけど、今はそれが救いだ。
あの後、先輩たちと合流した後も羽柴とはなんか気まずくて顔を合わせられなかったから、また明日から学校で会うなら、マジで会わす顔ないよ。
* * *
『あんたはなんつーか、本当に鈍いというか運が悪いというか……。
彼女発言した時、抱き寄せたれんげちゃんの顔を見れてたらどうしてたのかしらね?』
自分で書いてて、天真爛漫に笑う羽柴の想像がつきません。
あと、椚が何気に気に入ってます。たぶんあと一回くらい出てくると思います。
次から夏休み編で、次回は何か笑える霊体験スレが元ネタの、緩いコメディです。




