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3:俺が羽柴を好きになったきっかけの話

 後味悪い系の話です。

 あー、頼む! 愚痴らせてくれ!

 めっちゃ後味悪いと言うか、気分悪くなるもん見つけちゃったんだよ!


 ほら、これ。この鬱ツイートしか書いてない、ツイッター。こいつ、たぶん小4の頃の担任なんだよ。

 こいつの被害者ぶったツイートはどうでもいいけど、こいつの変わってなさがマジ気分悪りぃよ。


 こいつさー、小学校では一番人気の先生だったんだよな。

 まだ20代の美人でいつもニコニコ笑ってる優しい先生だったから。

 俺も、昔は好きだったよ。あの先生のクラスがいいなーって思ってた。

 ……霊感に目覚める前まではな。


 そいつ、腰にいつもぐちゃぐちゃのミンチみたいになった、手のひらぐらいの肉の塊をまとわりつかせていたんだ。

 しかも、四つも。


 はじめは焼く前のハンバーグかなって思ったよ。

 それぐらい、元は何の生き物だったのかわかんないくらいにぐちゃぐちゃ。

 そんな俺がはじめて見た死体と同レベルで気持ち悪いものって思うのが、普通だよな。


 ……俺さ、それらを見た時、かわいそうって思ったんだよ。

 気持ち悪いも、怖いもなかった。

 ただ、無性にその肉の塊がかわいそうで仕方なかった。


 同時に、肉の塊をまとわりつかせてる先生が大嫌いになった。

 気持ち悪いものに取り憑かれてるからじゃない。

 ただなんとなく、理由は何もわからないけど、あの先生を許せない、嫌いだって思うようになったんだ。


 それは、羽柴も同じだったんだ。

 つーか、羽柴は俺よりもあからさまに先生を嫌ってた。

 担任になる前から、あの先生に近づかない、話さない、先生が羽柴に触れようとしたら、思いっきり距離を取るとかやらかしてた。


 その行動であいつも見えてるんだな、俺と同じものを感じてるだなと思って、俺は羽柴に何度か訊いたんだよ。

 あの肉の塊はなんなのかを。


 羽柴の方が霊感が強くて、俺と見えてるものが違ったり、俺にはわからないことを羽柴はわかるってことが多かったから、羽柴ならわかるだろうと思って、何度も訊いた。

 何度訊いても、答えは同じだった。


「知らない方がいい」


 そう答える羽柴の顔が、ほんのわずかだけど辛そうで、苦しそうで、悲しんでいたことに気づいていたのに、俺は無神経に何度も訊いたんだ。


 で、俺と羽柴のクラスの担任にその先生がなったんだけど、担任になっても羽柴の態度は変わらない。

 授業の邪魔とか無視とかはしないんだけど、先生に触るのはもちろん、話すのも嫌って態度丸出しだった。


 その態度が先生の気に障ったんだろうな。

 今思えば、先生からしたらなんで嫌われてるのかさっぱりわからんのに、めちゃくちゃ嫌う羽柴にムカつくのは、当たり前と言えば当たり前だ。


 でも、俺は絶対にあの先生を許さない。


 羽柴の音読を、読み間違いなんかしてないのにしたって言い張って、国語の時間中ずっと立たせていたことも。


 羽柴の大人みたいに綺麗な字を、変な字とか言って笑ったことも。


 羽柴だけ、給食のデザートを食べさせなかったことも。


 全部、絶対に許さない。


 羽柴はそんな嫌がらせをされても、やっぱり淡々としてた。

 自分にムカつくのは当たり前と言ったのも、羽柴自身だったよ。


 じゃあ、なんであんなあからさまに嫌うんだよ!?

 あんなに嫌うんなら、その理由を言ってやればいいじゃん!って、俺は何度か羽柴に言ったんだけど、羽柴はまた辛そうで、苦しそうで、悲しんでる顔で答えるんだ。


「私にはわからない事情があるのかもしれないから」って。


 当時の俺では、羽柴の言う意味がわからなかった。

 その言葉を、先生の腰にまとわりつく、四つの肉の塊に結びつけることはできなかったんだ。


 俺がやっと理解できたのは、夏休み明けだった。

 二学期の始業式のホームルームで、先生が教室に入ってきた瞬間、絶句したよ。

 先生の腰にまとわりつく肉の塊が、五つに増えてたから。


 増えていることに気づいてすぐ、羽柴の方を見たのは無意識だった。

 羽柴が先生を嫌う理由は、あの肉の塊である事だけは、初めから分かっていたから、だから、羽柴が心配だったんだ。


 肉の塊に気が付いた羽柴は、見たことのない顔をしていた。

 普段から血の気のない顔だけど、あの時はまさに紙みたいに真っ白になって、目を見開いて、ボロボロ涙をこぼし始めたんだ。


 羽柴がいきなり泣き出したことに、他の生徒や先生が気づいて、この時ばかりは羽柴を嫌ってた先生も本気で焦ったのか、羽柴に「どうしたの?大丈夫?」って言いながら、手を伸ばしたんだ。


 その手を払いのけて、羽柴は大絶叫。

 どんなグロい幽霊を見ても、無表情で消臭剤をぶっかけたり、蹴りをかます羽柴が悲鳴を上げて、泣きながらうずくまったんだ。


 泣きながら、頭を抱えて、見たものをふるい落とそうとするみたいに頭を振って、叫んだんだ。


「もう赤ちゃんを殺さないで!」


 ……羽柴がそう叫んだ時の、先生の顔は人のものなんかじゃなかった。

 俺を殺そうとする幽霊が、羽柴に邪魔された時に見せるキレた時の顔と同じ顔。

 般若みたいな顔で、あいつは泣きじゃくる羽柴を睨みつけてた。


 あの顔を見て、これ以上羽柴をあいつの側にいさせたらダメだと思って、俺は保健委員でもないのに、羽柴を無理やり保健室に連れて行ったよ。

 ……保健室に行くまでの道のりで、羽柴は泣きじゃくりながら、教えてくれたんだ。

 あの、肉の塊の正体を。


 ……あれは、先生の子供だったんだ。

 生まれてくる前に死んでしまった、赤ちゃんの霊。水子ってやつだったんだ。


 でも、ただの水子じゃなかった。

 ただの、生まれてくる前に病気とか事故とかで死んじゃった赤ちゃんの霊じゃない。それなら、あんな元が人間かどうかもわからない肉の塊になんかならない。


 ……あの子達はみんな、生まれてくる前に殺された子供。

 お腹の中にいる状態で、あんな風にぐちゃぐちゃに潰されて、殺されて、捨てられた子供だったんだ。


 羽柴は言ってた。

 あんな状態でも、あんな風に殺されたのに、あの子達は先生を、母親を恨んでなんかない。

 取り憑いているのは、母親が憎いからじゃなくて、ただ傍にいたいから。

 それ以外、何も望んでいない。


 そう言って、泣いた。


 ……泣く羽柴を見て、俺は思ったんだ。

 俺は、この子が好きだって。

 場違いなことだけど、そう思った。


 たぶん、もうずっと前から羽柴のことが好きだったんだけど、俺はずっと羽柴に守られて、庇われてばっかりで、羽柴は俺よりも強いって思ってた。

 俺よりも強い羽柴が、俺のことを好きになってくれるわけがないって、諦めてた。


 でも、泣きじゃくる羽柴を見て、羽柴は同い年の普通の女の子だって思えた。

 羽柴はきっと、誰だって助けられると思っていたけど、羽柴にだって守れないもの、どうしようもできないものがあるって知った。

 こんな風に、泣くしか出来ないことがあるんだと知った。


 俺は、そういうものから羽柴を守ろうって決めたんだ。


 だから、俺はホームルームも始業式もサボって、保健室でずっと羽柴を慰めたよ。

 泣き疲れて眠るまで、ずっと羽柴に、お前は悪くないって言い続けた。

 それ以外、バカな俺には気の利いた言葉が思い浮かばなかったから、ただそれだけを言い続けたよ。


 羽柴の寝顔が、少しだけ安心したみたいだったから、少しくらい意味があったと思う。

 そのことにちょっと嬉しく思えていたら、その気持ちを台無しにするクソが来たんだ。


 そうだよ。元凶の人殺し。

 担任が来たんだ。


 あいつは、顔だけはいつものニコニコ優しい笑顔を取り繕っていたけど、声音は柔らかくて優しかったけど、言ってる内容は羽柴はおかしい、羽柴なんかと友達だと、俺までおかしくなるってことだった。


 自分の子供を五人も殺しておいて、羽柴をいじめておいて、それでも自分は何もかも綺麗で、間違ったことはしていない、正しい人間のフリをしてるあいつが、今まで見てきたどんな幽霊よりも、気持ち悪く感じた。


 だから俺は、言ってやった。

 羽柴が、何か事情があるかもと言って、言わなかった言葉を。

 性教育を受けた、今でも思う。

 どんな事情があっても、もう五人という時点であいつに同情する余地はない。

 あいつは、ただの人殺しだ。


 五人も自分の子供を殺したお前が言うな。


 俺がそう言った瞬間は、言葉の意味が理解出来てなかったのか、ポカンとしてたけど、すぐに般若の顔になって、あいつは俺の首を絞めてしやがった。


「なんで知ってる!? お前もあいつも!! どこで知った!?」とか叫んで首を絞めるから、寝てた羽柴が飛び起きて、そのまま、幽霊相手に鍛えた飛び蹴りが炸裂したなぁ。

 羽柴、あの時は寝ぼけてたから素で、先生を悪霊と勘違いしてたらしい。


 で、あのクソ女は羽柴の方も襲いかかってくるわ、羽柴はまだ悪霊だと思い込んで応戦するわという修羅場は、他の先生とかが来るまで続いたよ。

 先生が来て、錯乱してる担任を抑えつけて、とりあえず俺らは帰されたな。


 羽柴は何で担任が、自分じゃなくて俺を襲っていたかをわかってなかったのが救い。

 理由を知ったら、羽柴は赤ちゃんのことを俺に教えたことを後悔して、自分を責めるから。


 守るって決めたから、俺はその事情を隠し通したかった。

 そしてもちろん、担任からも羽柴を守りたかったから、ターゲットが俺に移るのは好都合だけど、隠し通せるかなーと不安だったけど、その不安は無意味だった。


 担任はそれから学校に来なくなって、一月後、学校を辞めたと聞かされたから。

 あれはホッとするより、拍子抜けした。

 辞めた原因は俺や羽柴だろうとは思ったけど、なんでまずは一月休んで辞めたんだろうと思ったけど、……今日、偶然見つけたツイッターでよくわかったよ。


 あいつ、あの日以来なんか霊障が起こりまくってるらしいわ。

 ポルターガイスト、ラップ音は当たり前、子供の泣き声やら、窓に子供の手形がつくとか、そういう怪奇現象連発で、精神参って辞めたらしい。


 今ではだいぶ、霊障は治ってるらしいけど、このツイッター、超ムカつく!

 こいつ、堕胎したってこと書かずに流産ってことにしてやがる!

 自分で殺しておいて、赤ちゃんかわいそうって何様だよ!

 捨てアカでフォロワーになって、暴露してやろうか!!


 ……あー、言いたいこと言って、ちょっとすっきりした。

 ごめんな、愚痴の相手させて。


 ついでに、ちょっとだけ不思議な話もあるんだ。

 羽柴にもこのツイッター見せたんだけど、羽柴が言うにはあの水子達は、霊障を起こすタイプじゃないらしい。

 霊として弱いし、傍にいるだけで満足してたから、悪意はもちろん、気づいて欲しいからって理由でも、霊障は起こさないタイプっぽいらしい。


 なら、この霊障はなんなんだろうな?

 他に幽霊の恨みでも買ってんのか、あいつは。



 * * *



『……私が仕返しにやったの、辞めるまでの一ヶ月くらいよね?

 それ以降は、あいつの気のせいよね?』


 次回は、ただひたすらバカな話です。

 ホラークラッシュですらありません。

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