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29:夏休みの思い出の話

 もーいーくつねーるとー、なーつやーすーみ!

 あー、あと一週間で夏休みだよ!

 夏休みっていってもなーんの予定もないけどな!

 宿題がクソ多いけどな!

 でも、夏休みってだけでテンション上がるー!


 何が良いかって、夜更かし朝寝坊が出来るのがいいんだよ!

 特に今年は、中学に上がったからラジオ体操が強制じゃねーのがいい!

 いや、小学校の時も強制じゃなかったけど、なんか行かないといけない空気だったんだよなー。

 暗黙の了解ってやつ?


 っていうか、何で夏休みといえば、早朝ラジオ体操なんだろうな?

 あれ、そんなに楽しいものか? 体にそんなにいいものなのか?


 なんか知らんじーさんやらおばさんが混ざってくるのはまだいいんだけど、幽霊もちょくちょく混ざってくるのは何で?

 死んでどこを鍛えてどう健康になる気って、見るたびに訊きたくてウズウズするんだけど。


 まー、大抵は自分が死んだって自覚がないから、生前やってたことを繰り返してるだけらしいけど。

 羽柴がそう言ってたし、じーさんばーさんの霊によく羽柴は体操の合間に、「あなたはもう死んでますよ」って教えたら、割と素直に自覚して納得して成仏も少なくなかったしな。


 ……今思うと、羽柴は何言ってんだ?

 お前はどこの世紀末覇者だよ。


 ちなみに納得しないで逆ギレする霊はもちろん、羽柴の物理除霊が炸裂してました。

 ラジオ体操なのに、羽柴一人がテコンドーとかカポエラみたいな動きをしてるのを、他の奴ら全員はスルーして体操続行。

 それがうちの町内のラジオ体操のお決まりかつ、名物です。


 まぁ、そんな名物も今年からなくなるのか。

 羽柴も学校がある日より早起きしなくてすむって言ってたから、自主的にラジオ体操には出ないつもりみたいだし。


 あー、でもプール開放がないのはちょっと残念だな。

 小学校なら、学年ごとに曜日と時間が指定されてるけど、自由に入って遊んでいい日があったんだよ。

 市民プールとかと違って、金がかからないからいい遊び場だったのになー。


 ……そういやそのプール開放で遊んでたら、全身真っ黒の人間がよろよろとやってきたこともあったわ。

 全身に墨を塗ったというより、あれは全身が炭だった。

 焼死体の霊だったわ。


 ぶすぶすと体から煙が上がってて、よろよろと今にも倒れそうになりながらもその霊は、「水……、水……」って呟いてるのが聞こえてさ、俺は怖いやらかわいそうだわでどうしようかオロオロしてたら、……羽柴の奴、何したと思う?


 水道の蛇口を最大まで開けて、ホースで水量Maxをその霊にぶちかましてた。


 そしてある意味一番恐ろしいことにあいつはこれを、強制除霊じゃなくて純粋に善意でやってた。

 水みずって言ってるし、体もまだくすぶってるから水をぶっかけて欲しいのかなと思ったらしい。

 そうだとしても、水量Maxにする必要はなかったと俺は思うんだが。


 たぶんあれは飲み物欲しいって意味だと思いますよ、羽柴さん! って俺が突っ込むと、「その発想はなかった!」と言わんばかりの顔してから、スポドリをその霊にあげてたから、やっぱり純粋に善意だったんだよなぁ、あの放水。

 ……どうしてあいつは、善意もバイオレンス風味なんだよ。


 あ、でも物理除霊しなかったこともあった!

 ちょっといい話で終わるエピソードもあった!


 小4ぐらいの時に、ラジオ体操の帰りにセミを拾ったことがあったんだよ。

 なんか羽化に失敗したのか、羽がシワシワで飛べないセミを。


 せっかく幼虫からセミになったのにかわいそうだなーと思って、俺はそのセミを虫かごに入れてしばらく飼ってたんだ。

 飛べなくても、せめて寿命まで生かせてやりたいなーと思って。


 でも結局、そのセミは3日くらいで死んじゃったけどな。

 カブトムシ用のゼリーもほとんど食べた形跡もなくて鳴きも全然しないで死んじゃって、俺はそのセミを庭に埋めた。

 それだけで終わると思ったら、まさかのそのセミが幽霊化して俺に取り憑きましたよ。


 生きてた頃はほとんど鳴かなかったのに、霊になったら鳴きまくる、そして飛びまくる。

 朝も夜も鳴きまくるわ俺の周りを飛びまくるわで、俺が寝不足になって目の下に特大のクマを作って、羽柴が心配してそのセミの霊を見てくれたんだ。


 俺の部屋の壁に止まってミンミン鳴きまくるセミを、羽柴はしばらく見上げてウンウン頷いてたと思ったら、俺の部屋の椅子に登ってそのセミをひょいっと捕まえてた。

 で、そのセミになんか言ったと思ったら、セミを離したんだよ。

 セミは俺の周りを一回ぐるっと一周してから窓をすり抜けて、そのまま空まで飛んで行って見えなくなった。


 あんまりにもあっさりした解決で、あのセミは俺に何がしたかったんだよ? って思ってたら、椅子から降りた羽柴が教えてくれたんだ。

 あのセミは少しでも生かそうとしてくれた、世界を見せてくれた俺に感謝して、ずっと礼を言ってたんだって。


 羽柴がセミに言ったのは、「気持ちはわかるけど言葉が通じてないから、ソーキさんは迷惑してる。ちゃんと飛べるところを見せて、もう逝くべきところに逝きなさい」だってさ。


 恩返しにはなってなかったけど、正直言ってかなり迷惑では確かにあったけど、それでもあれはしんみりしたなー。

 これは夏休みの、そんで羽柴とのいい思い出って言ってもいいな。



 * * *



『ちょっと待って。スルーしてるけど、れんげちゃん、セミと会話してるから!!

 なんか除霊物理よりも実はすごいことしてるから!!』


 次回はほのぼの系です。

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