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26:友達の話

 今日さ、葬式があったんだ。

 小1の時のクラスメイトの葬式が。


 ……友達っていうほど、親しくなかったと思う。

 クラスが一緒だったのもその小1の時だけだし、とにかく騒がしくて走り回ってるサルガキだった俺と違ってそいつは、女の子みたいに細くて大人しくて本をいつも読んでる子だったから、接点なんかほとんどなかった。


 俺、おせっかいだったから、遠足の班決めとかで恥ずかしがり屋で他の奴らに話しかけれないそいつを自分の班に誘ったり、他の奴らに入れてやってーとか言ったりした程度の付き合いだ。


 そんなんだったのに、親から見たら仲のいい友達に見えてたみたいだな。

 そいつの親から俺の親に連絡があって、オカンが昨日教えてくれたよ。

 ……自殺だってことも。


 そいつ、頭が良かったから私立に行ったんだよ。

 俺、そういやそいつがうちの中学にいなかったことすら、気づかなかったんだよなぁ。

 で、その私立でもトップクラスに良かったらしいけど、あいつ、人見知りで口下手な所は変わってなかったんだ。


 いじめられてたんだって。

 詳しいことはオカンも聞けなかったからわからないけど、遺書もなかったし、学校側は全然認めないけど、毎日体のどこかを怪我してたり、制服や鞄が汚れてたり破られてたりしてたんだって。


 それで、一昨日くらいに学校の最寄駅のホームから線路に飛び込んで、急行の電車に撥ねられて……


 出来れば葬儀に出てやってくれって頼まれて、それで土曜で学校もなかったから行ったよ。

 あいつの家に行く前に、遠回りどころではないけどあいつが死んだ駅に寄ってから。


 幽霊見えるくせに、人って死ぬんだなとか何で人が死んだのにここの駅は閉鎖とかしないでいつも通り電車が通るんだよって、無茶苦茶なことを考えてた。


 そしたらさ、ふっと肩が重くなったんだよ。

 誰かがおぶさったような重さが肩にのしかかってくると同時に、頭がグラグラするのに手足は指一本動かない金縛りにかかったんだ。

 いつもなら、げっ!? ウザいのがきやがった! って思うんだけど、……もしかしたら今日の俺はそれを待ってたのかもしれない。


 後ろから、ぐちゃぐちゃに潰れた顔が俺の顔を覗き込んできたよ。

 俺にしがみつく左手は千切れかけ。足は二本ともなかった。

 顔もろくに覚えてなかったし、そんな状態だったからそれが誰なんてわからなかった。


 無駄に経験してきたことで培った感覚がなければ。

 死んでどのくらいの霊かわかるようになっていなかったらな。


 それは明らかに、まだ死んで一週間もたってないぐらい新しい霊。

 一昨日死んだ、そいつだってことがわかったよ。


 俺は心の中で、俺を連れて行く気かって訊いてみたけど、そいつは俺の後ろで何かボソボソというけど聞き取れなかった。

 顔面が潰れて、顎も粉々っぽいから何を言っても俺にはうめき声にしか聞こえなかった。


 そもそも、俺はあいつが「そうだ」って答えたらどうする気だったんだろうな。

 何故か、あの時は死んでもいいかなとか思ってた。

 他の悪霊に道連れにされるぐらいなら、こいつに連れて行かれてもいいやとか、急行の列車がスピードを緩めずに走ってくるのを見ながら思ってた。


 まぁ、何ともなかったんだけどな。

 急行電車が通り過ぎて、俺が乗る電車が来たら金縛りは解けたし。

 そのまま俺はその電車に乗ったんだけど、そいつは俺にしがみついたままだった。


 てっきり地縛霊化してると思ってたら移動できることにビックリして、俺は小声で移動できるのなら親の元にいてやれよとか、もっと他に会いたいやつとかいるだろっていうんだけど、そいつは俺から離れないで、やっぱりボソボソ何かを言っていた。


 見えるだけ、聞こえるだけのこの役立たずな霊感に嫌気がさすなぁとか思いながら、そのままそいつの葬式に行こうとしたんだけど、その途中でばったり羽柴に会ったんだ。


 羽柴は俺に気づくと同時に、俺の背中にしがみつくあいつにももちろん気づくから、無言無表情でツカツカと早足で俺の方に近づいてきてビビったよ。


 俺がまたしなくていい同情して霊を拾ってきたと思って、いつも通りの物理除霊をかまされる! と思って俺は慌てて、待って待って! 羽柴待って! こいつは俺の……って所で、言葉が出てこなかった。


 友達って言って良かったのか、わからなかった。

 小1の時だけ同じクラスで、互いの連絡先どころか俺はあいつの名前すらうろ覚えだったのに……、あいつがいじめられてることの相談なんかもちろんされてなくて、何にもできなかった……死んでからも、見えてるのに何にもできない俺が、あいつの友達なのか? って思ったら、もう何も言えなかった。


 そしたらさ、羽柴は俺のすぐ側までやってきて、ちょっと拗ねたみたいに唇を尖らせて言ったよ。

「ソーキさん、私は霊を全部、問答無用で殴るとおもってない?」って。


 ごめん、羽柴。

 思ってた。


 さすがに正直にそう言うわけにはいかんから、いやそんなことないけどってテキトーにごまかしてたら、羽柴が俺の背中のあいつの顔に、ぐちゃぐちゃに潰れてる顔に手を当てて言ったんだ。

 俺じゃなくて、あいつに。


「そんな姿じゃダメ。怖いし、あなたも不便でしょ? 言いたいこともちゃんと言えないし」


 羽柴がそう言ってあいつの顔を撫でたら、羽柴の掌が右から左に移動した時には、潰れた顔が綺麗な、女の子みたいな、小1の頃の面影を残したあいつの顔になってた。


 あいつ自身もビックリして、千切れかけてた手で自分の顔を触ってたよ。

 もちろん、手も足も普通に繋がっていた。

 半透明でさえなかったら、そいつは生きた普通の人間にしか見えない姿に戻ったんだ。


 俺は、羽柴が霊能力者みたいなことしてる! ってぽっかーんとしてたら、あいつの方が現状を理解するのも、受け入れるのも早かった。


 あいつは、ボロボロ泣きながら、羽柴にありがとう、ありがとうって言ってた。

 それで、俺は思ったんだ。


 あぁ、あいつは生前の姿に戻りたかったんだ。

 あの姿で、親の元に戻りたくなかった。会いたい人に会いに行けなかった。

 見えてないだろうけど、万が一見えた場合、あの姿だとそれは傷を抉る再会になるから。


 羽柴に会えて良かったよ。

 俺じゃ姿を戻してやるどころか、あいつが何を言ってるかも理解してやれなかったから。


 ……それなのに、あいつは言ったんだ。

 羽柴に礼を言った後、俺に向かって、何にもできなかった俺に、何にもしなかった俺に向かって泣きながらなのにやたらと嬉しそうに、自殺したなんて信じられない笑顔であいつは言ったんだ。


「日生くん。

 会いに来てくれて、ありがとう」


 そう、言ったんだ。

 それだけ言って、あいつは消えた。


 この時の俺は、家にでも戻ったんだろうと思ってたよ。

 でも、いなかったんだ。


 葬式やってたあいつの家に焼香しに行ったけど、あいつの家に、あいつの親の側に、あいつはいなかった。

 あいつの気配は全くなかった。


 ……あいつの葬式は、親戚さえもほとんど呼ばない密葬って奴だった。

 死体は損傷が激しかったから葬式前に焼いて、棺桶の代わりに骨壺が置かれてた。

 その骨壷の前で、あいつの親から聞かされたよ。


 あいつは俺のおせっかいを大袈裟なくらいに感謝してて、喜んでたって。

 小学校でクラス替えのたびに俺と同じクラスになれなかったことに落ち込んで、中学受験も嫌がってたらしい。

 俺と同じ中学にいきたいって理由で。


 あいつの両親は、俺なんかとっくに忘れてる。たぶん、初めから友達だとは思ってないとか言って、説得して、あいつの良さを生かそうとして私立に行かせたんだってさ。


 その結果がアレで、……だからせめて、せめて俺だけは来て欲しかったんだと。

 あいつに酷いことを言って、追い詰めて、俺に対しても身勝手なことを言ってるとわかってるけどって、泣きながら俺に頼んできたよ。


 どうかあの子を、友達として見送ってくれ。

 友達として、覚えておいてくれって。


 焼香と話を終わらせて、外に出たら羽柴が待ってたよ。

 密葬だから入るのを遠慮して、短い話じゃなかったのにずっと待っててくれたし、帰り道、俺の話を聞いてくれたんだ。

 あいつとの、少なすぎる思い出を。


 羽柴は、自分の家の方には行かなかった。

 何故か途中で駅の方に行こうとして、どこかに行く途中だったのかなと思ったら、あいつはあの駅に、あいつが自殺した駅に行くって言い出したんだ。

 あそこに居座る、落ち込んでる奴の心の隙間とか弱い部分に付け入って自殺を誘引する霊を消しに行くって言って、改札の通り抜けたんだ。


 俺は、バカだ。

 俺は、何にも気づいてなかった。


 あいつが、俺と同じ中学に進学してなかったことも。


 あいつの自殺は、誘導されて無理やりやらされたようなものだってことも。


 俺も、あの駅でその影響を受けてたことも。


 あの駅のホームでもろに影響を受けて、あの急行に飛び込もうとか思ってたのに飛び込まなかったのは……金縛りにあってたからだってことにも、気づいてなかった。


 俺を守ってくれていたことにすら、気づいてなかったのに俺は、言っていいのか?


 あいつの友達だって。



 * * *



『言わなくったって、友達よ。

 付け入られる隙になるほど、その子が死んだこことが悲しくて、寂しかったのでしょう?』

 ツイッターのフォロワーさんの実話が元ネタの話です。

 もちろん、ご本人から許可は頂いております。


 そして、当たり前ですがだいぶ話を変えています。

 今までとは別の意味で、間に受けないでくださいね。


 そろそろネタに困ってきているので、もし「自分のトラウマをクラッシュしてくれ!」という方がいらっしゃいましたら、実体験でもどっかで聞いた怪談でも自分が見た夢でもなんでもいいので、ネタ提供&リクエストをお願いします。


 出来る限りお応えするつもりですが、あくまでこの話はソーキと羽柴の「霊体験」話なので、「生きた人間が一番怖い」的なオチの話や、前提条件が中学生には不可能なことをやっている話などは、申し訳ありませんがお応えできない可能性が高いです。


 細かいことは活動報告に書きますので、ネタ提供&リクエストをしてくださる方はそちらをご確認ください。


 次回、羽柴さんの瞬殺集です。

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