25:呪い(笑)の話
なんか最近さ、廊下を歩いてたらわざとぶつかってこられたり、教室で友達とダベってたら知らん奴らが教室までやって来て、俺を指差してコソコソ話したり笑ったりしてくることがちょくちょくあったんだ。
どっちも男で、しかも2年生。先輩なんだけど全然知らん奴で、腹が立つより意味がわらかなかったわ。
まぁそれは今日、謎も解けたし解決もしたけど。
話が変わるし戻るけど、一週間くらい前に神社の神主さんが朝っぱらから俺に、電話をかけてきたんだ。
何かおかしなことは起こってないか、体の調子はどうだとか、そういうことを訊いてきて、俺は首を傾げながら相変わらず霊ホイホイですけど、問題なく元気っすよーって答えて、電話してきた理由を聞き返してみたよ。
神主さんは少し迷ってから、教えてくれただけど……。
神社の木に、俺の名前が書かれたわら人形が刺さってたんだとさ。
ただそれは作法も何もかもメチャクチャで、前にあった犬神以上に素人がやったの丸わかり、呪いとして成立するわけないものだから、大丈夫だと思うけど一応ってことで連絡をくれたらしい。
聴いたのは俺だけど、隠し通して欲しかったなー。そういうことは。
呪いとして成立しないと言われても、そう言われて成立してしまった実例を見たことあるし、あそこまで言われたら逆に俺に気を使った嘘だろと思うわ。
まぁ、結果を言えば嘘じゃなくてマジで成立するようなもんじゃなかったけど。
少なくとも、どう頑張ってもあれで俺は呪えねーよ。
で、一応ということで俺は持ち歩くお守りを増やしてしばらく過ごしていたんだけど、その頃から俺に何かとちょっかいをかけてくる2年の内の一人、たぶん率先して俺に嫌がらせしてくるリーダー格の首に、白い蛇に巻かれてるが見えるようになったんだ。
はじめは白い紐を巻いてるのかなと思うくらい、細い蛇。
たぶん俺の親指より太いかなってくらいで、蛇だって気付いた時はビックリしたけど放っておいた。
だって俺に嫌がらせしてくる知らん先輩にワザワザ、蛇が憑いてますよなんていう義理ねーじゃん。
第一、その蛇は全然嫌な感じがしない、むしろ何かホッとするようなあったかさを感じてたから、たまたま俺と波長の合う守護霊だろうと思ってたんだよ。
だから、憑いてても良いことはあっても悪いことはないって思ってたんだけど、その先輩、日が経つにつれて顔色が悪くなっていったんだ。
同時に俺に絡むことも多くなって、それがもう完全にいちゃもんになってきてたな。
階段でぶつかってきて「何ぶつかってんだよ!!」って怒鳴るわ、空のペットボトルを投げつけてくるわってマジムカつく。
ムカつくけど霊関係でスルースキルが上がってた俺は、一応担任とかに面識のない先輩に嫌がらせをされてるって何度か報告するくらいで、自分からそのアホ達に関わらないようにしてた。
そしたら今日の昼休み、取り巻きつれて俺の教室に来て、ちょっと付き合えよとか言い出してきた。
だから嫌っすって断わって弁当食べるのを続行したら、鳩が豆鉄砲をくらったような顔してた。
何であいつら、自分が嫌がらせをした相手が素直に自分の言うこと聞くと思ってんの?
数秒くらい豆鉄砲食らった顔して固まってたけど、俺が無視して弁当食ってたらそいつら喚くこと喚くこと。
リーダー格はお前何様なんだよとか、俺の親は大企業の幹部だとか、それがどーしたってことを言ってくるし、取り巻きはひたすらそいつに謝れって喚くし、教室にいる奴らはそいつら以外全員、白けてたわ。
で、ほっといても周りの迷惑だし、俺も嫌がらせの理由が知りたかったから、弁当食べるのを止めて訊いてみたよ。
そしたらやっと俺が反応したからか、そいつはニヤニヤ笑って、「嫌がらせなんかしてねーよ。霊感があるとか痛いことを言ってるから、ついに妄想と現実がわからなくなったか?」ってバカにしてきやがった。
さすがに俺もだいぶムカついたけど、俺よりも一緒に飯を食ってた友達が先にキレてくれた。
そのこと自体は嬉しいんだけど、何故かあいつらは俺の霊感がマジだってことを熱弁しだしたんだ。
いや、そこはどうでもいいよ。むしろ信じられても困ることが多いからやめてとは、庇ってもらってる立場上さすがに言えなかった。
で、そのまま何故か俺を置いてけぼりで友達と2年の舌戦がヒートアップしていって、リーダーが本当ならどこにどんな霊がいるかを言ってみろって言い出したんだ。
だから俺は前々から気になってたから、あんたの首に白蛇が巻きついてますよって教えたら、その瞬間そいつの顔は真っ青。
俺も友達も取り巻きもぽっかーんとそいつを見てたら、突然そいつは俺につかみかかってきて、俺は椅子から転がり落ちた。
床に倒れる俺にその白蛇を巻きつかせたリーダーは馬乗りになって、俺の胸ぐらを掴んでガクガク揺さぶってきやがったんだ。
「やっぱりあの夢はお前の仕業か!
毎晩夢の中で蛇が説教してくんのも、その蛇が首を絞めるのも、お前にかかわった後、必ず転んだりドアに指を挟んだり、落ちてくるはずないものが落ちてくるのもお前のせいか!
羽柴とちょっと仲が良いからって調子にのりやがって! さっさと呪いを解け! 化け物!」
俺を揺さぶりながらそんなことを叫んできて、俺は意味わからんわ揺さぶられて気持ち悪いわ、友達は俺を助けようとしてくれるけど取り巻きに邪魔されるわと、カオスな状態。
で、いきなり取り乱したそのリーダーは「何とか言えよ!!」って無茶振りを叫んで、俺に殴りにかかろうとしたけど、ちょうど拳を振り上げたタイミングで「ソーキさんから離れろ! 地獄に落とすぞ!」と、羽柴が叫んで後頭部にハイキックを決めました。
何か、クラスメイトが先生より頼りになるからって、羽柴を呼んできたらしい。
確かに頼りにはなるが、余計にカオスになるだろ、あいつじゃ。
そんで、蹴り倒してそいつを俺からどかせて心配してくれたのは嬉しいけど、羽柴はそいつを完璧に無視。
頭蹴られた悶絶からようやく回復したそいつが、「羽柴!」って呼ぶんだけど、羽柴は振り返りもせずに「誰? 知らない。消えろ」とか言い出した。
そういや俺を揺さぶってた時も羽柴の名前を出してたなと思って、俺も面識マジでないのか羽柴に確認したら、羽柴は少し考えてから、そういえばこの間告白されて振ったということを思い出して、ついでに暴露してた。
その暴露で、今までの俺への嫌がらせと今日のいちゃもんづけの理由がわかって、俺は力が抜けたし、クラスのみんなは失笑。
あーハイハイ。割と羽柴と仲がいい異性の友達である俺に、何か勘違いしてたのね。
それを恥かかされたと思ったのか、アホは俺を指さして、「こんな呪いをかけてくる根暗な化け物の何がいいんだよ!?」とか言ってきて、俺は何の言いがかり? とか思って首を傾げたよ。
そいつが言うには、一週間程前から夢に白い蛇が出てきて、自分の首を絞める。それと、俺にちょっかいをかけた後は必ず変な音が聞こえたり、大したことではないけどありえない事故り方をするんだと。
それを俺からの呪いだ! って言い張るんだけど、俺からしたらやっぱり何の話? 状態。
で、喚くそいつがうるさかったからか、羽柴がウザそうにようやくちゃんと振った相手を見て、この時に羽柴は初めてそいつの首の白蛇に気づいたみたいだな。目を見開いてたよ。
んで、そのまま走る勢いで「ソーキさんを呪ったのはお前かー!」って叫んで、鳩尾に蹴りを決めた。
この時には神社のわら人形なんかすっかり忘れてたから、俺自身は、は? 呪い? 状態。
そんでまた俺本人置いてけぼりにして、えづくアホの前に仁王立ちになって羽柴はそいつに言ってた。
「お前のやった呪いは作法がめちゃくちゃで、何一つ発動なんかしていない。
お前に憑いてる白蛇はあの神社が祀る神の眷属で、御神木じゃないとはいえ神社の木を傷つけたことや、ゴミをポイ捨てしていったことに怒ってる。
ソーキさんが呪ってるんじゃなくて、神罰だ。その程度で済んでることを、幸運に思え。
何より私は、告白も一人で出来ない、素直に好きとも言えないで取り巻きに良いとこアピールしてもらって付き合ってやるという上から目線のくせに、その良いとこアピールは家が金持ちであるところしかない奴なんか、興味は一切合切ない。
お前なんか、自業自得で死ね。
次、私やソーキさんに関わったら問答無用で地獄に落とす」
長々とそんなこと言って、真っ白に燃え尽きたそいつを取り巻きに回収して持って帰れと命じて、ようやく俺に嫌がらせしてた連中は出て行ったよ。
で、その後羽柴が俺に自分のせいで迷惑かけたって謝るんだよ。
俺が今までかけた迷惑と比べたら、全然たいしたことじゃないから気にするなって言っても、申し訳なさそうでさ。
それが気まずいから話を変えようと思って、何でわら人形のことを知ってたのかを聞いたよ。
神主さん、念のため羽柴にも連絡を取って、何か起こらないか注意しておいてくれって頼んでたらしい。
頼まれてたのに気付くのも助けるのも遅くなったって、また羽柴が凹まなくてもいいのに凹むから、俺は必死で羽柴は悪くないってフォローしまくったわ。
で、フォローのつもりで、呪いが絶対に成立しないってわかってたんだろって言ったらさ、羽柴が生徒手帳取り出して、字を書きながら教えてくれたよ。
作法が正しくても、あいつがやった呪いは俺には無意味だってこと。
羽柴が油断してしまうくらいに呪いは成立しないって確信する理由をな。
わら人形に貼り付けてあった紙には、こう書かれていたらしい。
「日生ソーキ」
……うん。成立しないわ、これ。
呪うくらいなら、もう少し俺のことちゃんと調べろよ。
俺の名前、カタカナじゃなくてちゃんと漢字ある以前に、ソーキは本名じゃないし。
* * *
『でもあんた、たまに本名で呼ばれたら反応が遅れるときあるわよ』
何気に開示してない設定の多いソーキ。
彼の謎は50話、99話、100話あたりで色々と判明させる予定。
それまで気長にお待ちしていただきたい。
次回はツイッターのフォロワーさんの実体験を元にしたお話。
なので、次回の話はかなり真面目です。
元ネタが元ネタだったので、いつものノリで書くと大変失礼な話になるところでした。




