24:ネトオクの服にまつわる小ネタの話
ついに、オカ研で羽柴の除霊を目の当たりにした人が出たよ。
風守先輩と部長だけど。
まぁ、羽柴にしてはめちゃくちゃ穏便に済ませた方だった。
風守先輩がさ、ネトオクで超好みの柄の浴衣を見つけて落札したんだけど、届いた浴衣はどう見ても五百円で買えるようなものじゃなかったらしい。
先輩はちょっとびっくりしたけど、ばーちゃんの形見分けとかでもらったけど価値がわからなかったからネトオクで叩き売りされちゃったとかしか思わなかったそうだ。
で、もうちょっとで夏祭りだし、凄い気に入った柄だから着物用のハンガーみたいなので飾るみたいに自分の部屋に掛けてたんだって。
それで、夜中になんか物音がしてふと目がさめたら、その浴衣の袖から細い腕だけがスルスルと伸びて、床を這いながら自分の元まで来ているのが見えて悲鳴を上げて、次の日に羽柴に泣きついてきた。
羽柴は相手に非がない限り頼まれたら除霊は断らないから、もちろん今回の件は普通に了承して、風守先輩の家にその浴衣を見に行って、部長も便乗してついて行ったそうだ。
羽柴、浴衣を見てすぐに袖に手を突っ込んでごそごそ探って腕を掴んで引っ張り出して、風守先輩をビビらせ、部長を喜ばせたってさ。
腕はなんか、取れ立ての魚みたいにもぞもぞビチビチと羽柴から逃れようと動きまくっていたけど、羽柴はそれを無視して「ただの九十九神みたい。大事に適切な扱いさえしてたら、害はないです。むしろ、ちょっとしたことからは、守ってくれる」と断言した後、「でもビビらせてムカついたらなら今、指の一本でも折っておきます?」とか言って、腕を風守先輩にずいっと差し出したそうだ。
……先輩、なんつーか、なんかすみません。
もちろん、先輩は拒否。
で、気に入った柄だし害もないってことで迷ったけど、安物だから今年一回着れたらいいや程度で買ったから、適切な扱いってのができなさそうなので、マジで指を咥えて超欲しそうにしてた部長に、その場で落札価格の五百円で売ったそうだ。
部長ん家は割と金持ちでなおかつ部長の母親が和服好きらしいので、保存や扱いに問題はなさそうだし、害はないので守護霊さん止めなかったそうだから、その浴衣と九十九神さんは部長の家で大事にされるだろうと、とりあえず一件落着を今日、風守先輩から聞かされた。
同時にものすごく同情した目で、「何ていうか、日生くんはすごいね」とも言われた。
何故、羽柴ではなく俺がすごいと言われているのか、そしてすごいと言われているのに同情されているかは、考えないでおこうと思ってる。
それにしても、ネトオクって怖いよな。
普通、良いものが異様に安いと警戒するけど、あそこじゃそれが普通だったりするからな。
うちもオカンがヤバいのを見つけて気付かず落札して、俺に着せちゃったことあるんだよなー。
小3の時にオカンが、いい子供用のダウンジャケットを見つけて、落札したんだよ。
確かそれも、五百円くらいで落とせたらしい。
で、届いたのは新品同然のダウンでオカンはラッキーとしか思ってなかったんだけど、俺はそのダウンからやな感じをビンビンに感じてた。
その頃は霊体験には慣れてはきたけど、どんな感じがした時がヤバいかとかはまだよくわかってなかったし、物に何かが宿ったり憑いたりするとは思ってなかったから、やな感じを微妙な違和感としか思わないでそれ着て学校に行ったんだ。
その日はちょうど二学期の終業式で明日から冬休みだから、ランドセルじゃなくて筆記用具だけ入れた手提げ鞄を持って出たのが、今思えば幸運。
で、それ着て学校に行く途中にある交差点で普通に信号待ちをしてたら、いきなり俺は腕を引かれて、道路に放り出されたんだ。
俺の腕を引いたのは、女の右腕だった。マニキュアを塗った長い爪が、腕に少し食い込んで痛かったのを覚えてる。
腕だけが浮かんでというか、腕の付け根に行くに従って霧みたいにぼやけて形になってなかったのが、俺の腕を引いて車が走りまくってる道路に投げたしたんだ。
けど、俺は車に轢かれることなく、近くにいた大人が即座に引き戻してくれて助かった。
ちょっとだけ注意されたけど、その大人の目にも俺が自分から飛び出したんじゃなくて、誰かに腕を引かれたみたいだったから気味悪そうだったな。
そんでまたあの腕が出てくるんじゃないかってビクビクしながら学校に行って教室に入った瞬間、羽柴にいきなりダウン脱がされて、そのダウンを羽柴は工作バサミでズタズタに切り裂いた。
いきなりなんのイジメ!? って周りも俺も思ってボーゼンとしてたら、ダウンの中身が露わになって全員、絶句。
羽毛に混じって、大量の縫い針とカッターの刃が入ってたんだよ、そのダウン。
ついでに一枚、真っ赤な字で「呪」って書いた紙も入ってた。
マジであの日が終業式で良かったわ。
普通にランドセルを背負ってたら、ランドセルの重みでダウンが潰れて背中に密着して、中身の針やカッターの刃が刺さりまくるところだった。
俺はその後何もしてないけど、オカンらはイタズラってレベルじゃない悪質さだったから普通に警察に被害届を出して、出品主は同じような細工をしたダウンをネトオクに出しまくって、大怪我をした被害者もいたらしいから、大晦日前に捕まってたな。
何でも交通事故で子供を亡くして、自分の子供が死んだのに同い年くらいの子供がのうのうと生きているのが許せなくってやったそうだ。
子供のことは普通に同情するけど、どうしてそこに思考が行くのかまったくわからん。
ちなみに犯人は警察に捕まる時に抵抗して、逃げようとして自分から階段から落ちて、大怪我を負ったらしい。
……たった二段を踏み外しただけで、右手が解放骨折したのはあの日、羽柴がダウンから出てきた紙を、「折れろ」と呟いて握りつぶしたことは関係ないと俺は信じたい。
あぁ、こんなこともあったな。
小5の頃だったかな?
クラスが分かれて疎遠になってた友達に、相談を受けたんだ。
妹が別人になったって。
そいつの話によると、そいつの親がネトオクで女の子の服が大量にセットで激安だったから落札して、その服を幼稚園児の妹に着せてたんだけど、その落札した服を着てる時の妹の言動が、普段の妹と別人だったらしい。
結構ワガママな子だったのが、その服を着てるとやたらと素直だなーとしか思ってなかったそうだけど、ある日、その子が自分のことを「あやめ」っていう本名にかすりもしない名前を名乗ってから、落札した服を着てるか着てないかで、明確に性格が違うことに気づいたとさ。
もちろん親に相談したけど、共働きで妹の世話はその友達に任せっぱなしの両親は性格の変化に気づかない、違う名前を名乗るのもアニメかなんかのキャラになりきってるんだろうぐらいにしか思わないで信じてくれず、俺から羽柴になんとかしてくれって頼んでくれと泣きつかれたよ。
それで、羽柴に頼んでとりあえず妹を見てみようってことになって、そいつの家に羽柴と俺もついでに行ったんだ。
で、そいつの妹の顔を見てびっくりしたわ。
俺の記憶にあるそいつの妹の顔とは、別人だったからな。
友達とかなり良く似た顔だったから、さほどちゃんと会ったり構ったりしたことがなくても記憶は確かで、まるっきり別人の女の子の顔になってることを元の顔なんで知らない羽柴に教えたら、羽柴は少しだけ難しそうな顔で、「取り憑かれてるというより、乗っ取られてるね」とか言い出してたな。
羽柴のセリフでシスコン気味の友達は、涙目で妹は大丈夫なのか!? って質問するんだけど、羽柴は無視して、「ちょっと手荒に追い出してもいい?」って聞いてた。
とにかく妹を助けたいそいつは、妹に怪我とかはさせたくないけどそれしか方法がないのならやってくれと答えたけど、羽柴は「怪我はしないよ」と答えてそのまま妹の方に歩いて行ってた。
で、別の部屋で大人しく人形遊びをしてたその子のひょいと抱き上げたかと思ったら、いきなり逆さまにして、足首掴んで上下に軽くブンブンと振った。
もちろん床に頭をぶつけない高さまで持ち上げてやってたけど、いきなりの虐待に友達唖然。
そして俺は、別の意味で唖然。
羽柴がブンブンと妹を振ったら、すぽんとその妹と同い年くらいの女の子が出てきて、床に転がったのが俺には見えたから。
で、その子が出てきたら妹の顔は俺も見覚えのある顔に戻ってて、床に転がった子はさっきまでの妹の顔をしてた。
逆さ吊りになってる妹も床に転がってる女の子も、何が何だかわからんって顔をしてるのを無視して羽柴は妹を丁寧に下ろして、女の子の方は起こしてそのまま手を引いて俺たちの方に連れてきて、「で、この子どうする?」と訊いてきた。
知らねえよ。まずはその子誰だよ? と俺が突っ込んだことは言うまでもない。
結果として、その子は落札した服の元の持ち主。
事故で死んじゃった女の子で、服は捨てるのは辛いけど側に置いておくのはもっと辛いからってことで、家族がネトオクに出したものだったみたい。
そんでその子、あやめちゃんは友達の妹に成り代わろうとか体を乗っ取ろうとしたわけでもなく、というか他人の体を乗っ取っている自覚以前に、自分が死んだ自覚もなかった。
そんな事情で悪意なんか全くなかった子供だから、羽柴もしばいて除霊はさすがにできず、だからといって説得してもやっと会話らしい会話が成立する程度の小さい子だから、あやめちゃんは自分が死んだということがどうも理解出来なかった。
そんなわけで羽柴も俺もあやめちゃんの除霊は諦めて、あやめちゃんが勝手に成仏するまでとりあえず暫定の居場所として、あやめちゃんの服をリメイクして人形の服にして、人形にあやめちゃんは取り憑いてもらうことにした。
その人形は今でも羽柴の家にあって、1日1回、着せ替えをしなくちゃ羽柴の後をついて回ったり、いつの間にかカバンの中に忍び込んでたりという、事情を知ってれば可愛いけど知らんかったらただの呪いの人形同然のことをしてる。
あと、あやめちゃんは人見知りだから、知らない人が急にやって来ると腕を振り回して「出て行ってー」と言うらしい。
それを利用して、羽柴はあやめちゃん入りの人形を玄関に置いて、セコムと言い張ってる。
* * *
『確かに、泥棒はもちろんセールスにも有効そうなセコムだけど……』
小ネタ集だけど、今回の羽柴さんは大人しめ。
何でも物理でいつも解決させるわけじゃないですよ。ただ少し彼女は、面倒くさがりなだけ。
次回は、緩いコメディです。




