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23:七不思議の話②

 うちの学校には、雨の日に黄色い雨合羽をきた幼稚園児くらいの男の子の霊が現れるって七不思議があるんだよ。


 で、実際に現れるんだ。

 フードを目深にかぶってるから顔はよくわからないんだけど、長靴が昔の戦隊モノのキャラものだから、たぶん男の子で間違いない。


 その子は傘をなくしてしまって、ずっとその傘を探しているんだとさ。

 で、その子に話しかけたら傘を探してって言われるんだけど、ここから先が人によって話が全然違うんだよ。


 断ったら素直に去って行くって言う人もいれば、家までついてくるって言う人もいるし、探しても見つかるまで帰さないとか、探しているうちに地獄に連れて行かれるとか、事故にあうとか、自分の傘をその子にあげれば助かるとか、もう噂が枝分かれして何が本当なのかわからなくなってた。


 それで、俺はとりあえずその霊には関わらない、近づかない、見ないようにしてた。

 悪霊なのかそうでないのかすらわかってなかったけど、俺にはできることないし、羽柴に心配も迷惑もかけたくないから、無視を貫こうとしてた。


 部長から、錯綜した話の一番正確だと思える話を聞くまで。


 男の子がなくした傘は、自分の傘じゃなくて中学生のお兄ちゃんの傘で、男の子は大好きなお兄ちゃんに傘を届けに行ったんだけど、中学校にたどり着く直前に事故で死んでしまい、お兄ちゃんの傘はその時に紛失してしまった。


 男の子は自分が死んだことに気づいてなくて、ずっとお兄ちゃんの傘を探してるんだ。

 傘がないとお兄ちゃんが濡れちゃうから。

 せっかくお兄ちゃんに頼まれたのに、持っていけないのは嫌だから。


 これがおそらく、あの雨の男の子の話の原型だって、OBやOGに聞きまくって調べた部長がドヤ顔で言ってた。


 少なくとも、傘を持ってきた男の子が事故で死んだのは相当前だけど実際にあったらしい。


 中学校に幼稚園児が傘を探すって何だよとか思ってた疑問が色々と解けて、すっきりしたよ。その話を聞いた直後は。

 その後から、なんかモヤモヤがずっと胸の中に溜まってたんだ。

 たぶん今は梅雨で、雨続きで、意識してなくても校庭とかでチラチラとその男の子が、視界に入ったからだと思う。


 関わっちゃダメなのはわかってる。

 でも俺は、音楽室の女の子を思い出すとその子も放っておけなかった。


 あの女の子は、話を聞いてやって、そこから何気なく思ったことを言ったことで、ここに留まることをやめた。

 笑って、大好きなお父さんの所にいくって言ってた。


 何か出来るんじゃないかって、思っちゃったんだ。

 だから俺、掃除の時に窓のちょうど下、花壇の所にその子がいるのを見つけて、傘を持って行っちゃったんだ。


 傘を持って行って、その傘を差さずに俺は中庭に出て、その子に自分の傘を差し出したよ。

 お兄ちゃんの傘じゃないけど、これを使え。

 絶対に喜んでくれるから、傘が違うなんて文句を言う兄ちゃんなら俺が怒ってやるから、これを持っていけって言った。


 それで納得して、満足して、成仏するとは思わなかったけど、もうとっくに卒業したであろうここじゃなくて、その子が家に帰れるきっかけになればいいと思ったんだ。

 少しくらい、救いになると思い上がったんだ。


 男の子は俺の話を俯いて聞いてた。

 全然、頷きも受け取ってもくれなかったから、俺はその場にかがんでダメかな? って言ってみた。


 俺が自分の手が届く範囲に来ることを、待っていたんだ。その子……いや、そいつは。


 目線を合わせた瞬間、背筋に悪寒が全力疾走して目の前の霊が関わっちゃいけないタイプだって、この時やっと気づいたよ。

 気づくと同時に、そいつは俺の首に手を伸ばして力一杯に締め上げた。


 その手は、幼児の手なんかじゃなかった。


 シワだらけで乾燥して骨っぽい、老人の手だった。

 そして、顔も。


 やっと上げた顔は、いつもはフードで隠れてる顔は幼児じゃなくて、ミイラのようにシワだらけのじーさんで、そいつは血走った目で俺を睨みけてひたすら死ね死ねって呟いてた。


 何が何だかわからなくて、何とか首を絞める手を外そうと抵抗するけど全然外れなくて、俺の視界がぼやけてきたとき、グエッ! っていう蛙が潰れるような声と同時に、俺の首を絞めてた手が緩んで外れたよ。


 俺が咳き込みながらも幼稚園児の姿をした老人の霊を見てみたら、じーさんの胸に昆虫標本のピンみたいに、傘が突き刺さっていた。

 え? 何で? と思っていたら、今度は肩の方に上から落ちてきたんじゃなくて、豪速球でぶん投げたであろう箒がぶっ刺さった。


 どうやらこのじーさんは、俺が降りてくる間に俺の教室の真下から、隣の教室の真下に移動してたらしい。

 上の階で羽柴が窓を開けて、下のじーさんに傘や箒を投げつけてぶっ刺してた。


 5本くらい刺したところで、羽柴が弾切れだからか掃除ロッカーを落とそうとし始めて、流石にそれは死んでてもやばいと思って思わず俺や羽柴のクラスメイトが羽柴を止めてる隙に、じーさんは消えてた。


 じーさんが消えたから俺は傘と箒を回収して戻ろうとしたら、校舎に入ったところでタオルを持ってきてくれた羽柴とかち合った。

 羽柴は、何も言わずに俺の髪を拭いてくれたんだ。


 俺がまた羽柴の忠告を守れなかったって謝っても、羽柴は「部長の話を聞いたら、ソーキさんが放っておかないことくらい予想しておくべきだった。本当のことを教えなかった、ソーキさんが関わる前に始末しておかなかった私が悪い」って言って、やっぱり俺を責めないんだ。


 ……羽柴はさ、普段は空気なんか全然読めてないのに、部長の話に関しては空気を読んで言わなかったんだよ。

 お兄ちゃん思いの弟の話だと思って、しんみりしてる空気を壊しちゃダメだと思って、言わなかったんだ。


 あれは弟の霊じゃなくて、その祖父の霊だってことを。


 幼稚園児の弟は、一人でお兄ちゃんに傘を届けに行ったわけじゃなかった。

 おじいちゃんと一緒に届けに行って、事故にあったんだ。


 そして、お兄ちゃんは中学生じゃなくて小学生だった。

 ここにあの霊が出るのは、お兄ちゃんの学校だからじゃない。


 孫が死んだ事故っていうのは、車じゃなくて自転車の事故。

 傘を忘れた中学生が、少しでも濡れないようにと猛スピードで自転車に乗って走って幼稚園児を撥ねて、頭の打ち所が悪くてその子は死んだ。


 じーさんがここに出るのは、ここは孫を殺した中学生の学校だからだったんだ。


 あのじーさんは、孫の復讐をしてたんだ。

 もうとっくに、それこそ自分が死んだ頃には卒業してここに犯人がいないこともわからなくなるほど、その姿のじーさんに話しかける奴は、子供を心配してくれてる奴だってことに気づけないぐらいに憎んで恨んで呪って悪霊になってたことを、オカ研メンバーは見えてないし、俺は関わらないようにしてたから大丈夫だと思って、言わなかったんだ。


 それを聞いたら、余計に自分が情けなくなったよ。

 羽柴がせっかくしんみりした話で終わらせようとしてくれてたのに、俺が勝手に思い上がって、なんとかできると思った結果が、スブ濡れになって、首絞められて、羽柴に迷惑かけて、後味悪い思いをしただけ。


 自分の役立たずさに、無意味さに笑えてくるよ。


 そんな俺に、羽柴はがしがさとタオルで髪を拭きながら言ったよ。


「ソーキさんは、騙しがいのある人だよね。

 ソーキさん、優しさだけじゃ生きていけないよ」


 あーあ、羽柴にもついに呆れられたかって思った。

 今まで、俺の自業自得を見捨てられなかったのが奇跡だと思ってたから、覚悟はしてた。


 なのに、羽柴は続けて言ってきた。


「でも、優しさがなければ生きてる意味もないよ」


 羽柴がほんのわずかだけど、確かに笑ったのはこの時が始めてだった。



 * * *



『意味はあるよ。

 あんたがそんなんだから、私もれんげちゃんも守りたいっていう意味が』


 作中の羽柴のセリフは、この話を書くきっかけというかこんな話が書きたいと思い目標としている高橋葉介という漫画家の「学校怪談」という作品から。


 元ネタでは「生きている価値がない」でしたが、羽柴がソーキを助けることとソーキがいくらひどい目にあってもやめない理由の答えとして、言葉がさらに重くなりました。


 次回は羽柴さんの瞬殺集です。

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