2:出会いの話
羽柴と俺が出会った時の話ってしたっけ?
まぁ、いいや。今日は特に話すネタないし。
出会いって言っても普通に5年前の小3の頃、同じクラスになったからでしかないけどな。
羽柴はその頃から、人形みたいに綺麗だったなー。同い年の女子を可愛いって思っても、綺麗だと思ったのは羽柴だけだったな。
……まぁ、羽柴の場合、綺麗すぎて怖いと思われるレベルだけどな。
リアルな人形って、どんなに綺麗な顔立ちでもなんか怖いじゃん。
羽柴も、そんな感じ。
実際に俺、親しくなる前はたまに羽柴を見て「なんでこんなところに超リアルな日本人形が!?」とか思って、びびることがあったし。
俺以外の生徒、たまに先生とかも羽柴の方見てビクッとしてたから、みんな同じこと思ってたんだろうなぁ……
で、羽柴はその頃から霊感バリバリで、そのせいで普通の人から見たら奇行にしか思えないことばっかやる変人で有名だったんだよ。
でも、あいつは自分から霊感があるとか言わないし、奇行って言っても何もない空間に消臭剤をぶっかけたり蹴りを入れる動作するくらいで、普段はこれまた人形みたいに無口で大人しい真面目な優等生だから、「ちょっと変わってるけど、大人しい良い子」くらいにしか思われてなかったな。
何が言いたいかっていうと、猿のように騒がしいアホ男子の典型だった俺と羽柴は、同じクラスという以外、接点なんかなかった。
だから、俺と羽柴の出会いと言うべき日は小3の始業式じゃなくて、その年のゴールデンウイーク明けなんだろうな。
そう。
俺が霊感なんてモンに目覚めた頃だ。
この話もしたことないよな。
ゴールデンウイークに田舎のじーちゃんの家に行って、ちょっとボケが始まってたひーじーちゃんに俺は「面白いもんを見せてやる」って言われて、山の中に連れ出されたんだよ。
あの時のひーじーちゃんが何を見せたかったのは、今でもわかんね。
多分、ひーじーちゃんもわかんねーだろうな。ボケてたし。
で、ボケたじーさんとサルのような小3が山の中に入って無事ですむわけがなく、当然、俺らは迷った。
ただ、俺はGPS付きのキッズケータイを持たされてたから、迷ったことに気付いても焦ってなかった気がする。
ひーじーちゃんはボケてたから現状をわかってなかったし、そのまま探検を続行してたな。
その危機感のないアホ丸出しな行動の罰が当たったのか、見つけちゃったんだよなー。
腐ってハエの餌場になったぐちゃぐちゃの死体を。
俺が覚えてるのは、ハエまみれのくっさいゴミかと思ってたものが人の死体だって気づいた瞬間、絶叫したとこまで。
後のことは知らん。
今も元気にここにいるってことは、悲鳴を上げた後に気絶して、その後に探しに来た親か警察とかに保護されたんだろうな。
とにかく、悲鳴の次に覚えているのは白い天井で、俺は病院のベッドに寝かされていたことだ。
警察に少しだけ話を聞かれたけど、死体は腐り切ってるし、発見者は子供の俺とボケたじーちゃんだから、別に何も疑ってはなかったな。本当に、ただの確認って感じ。
親には泣かれるわ、叱られたかと思ったら謝られるわで、ひーじーちゃんも自分がやったことの何が悪いかはわかってないみたいだけど、ひ孫に怖い思いをさせたってことは理解してたみたいで、めっちゃ謝られたわ。
そんな感じで終わって、俺が病院に搬送されたのも気絶してたからと精神的ショックが強すぎただろうから、念のため一日入院でしかなかったはずなんだけど……、俺は霊感なんていう厄介なものが目覚めてたをだよなぁ。
「あいつらはお前を疑ってる。お前を人殺しのとんでもない狂ったガキだと思ってるんだ」
「お前が帰ってきたことにムカついてるんだよ。捨てるつもりだったのに、いらないのに帰ってきやがってと思ってるぜ」
警察のおっさんや親がなんか言うたびに、そういう「ねぇよ」ってことばっかり囁くおっさんが見えるようになってたんだよ。
しかも、普通のおっさんじゃねぇ。
おっさんの顔したハエが俺の周りを飛び回って、そういうことばっかり囁くんだ。
腐り切ってたからわからねーけどたぶん死体のおっさんだなーと思って、俺はバカ素直に親や医者に、おっさんの顔したハエが変なことばっかり言う!って泣きながら訴えたんだ。
うん、もちろん信じてもらえるわけなくて、俺の退院延期が決定。
俺の気が狂ったって判断されたんだよなぁ。
まぁ、今思えば当然の判断で、見たものが見たものだったから、そういう幻覚や幻聴が起こってもおかしくないと思われたのか、扱いは優しかったな。
でも、俺からしたら事実なのに、誰も信じてくれないことに絶望したなー。
そんな俺に、ハエのおっさんが言うんだ
「誰もお前を信じないだろ?
お前は嫌われてるんだ。お前なんか、いなくなれ、死ねばいいって思われてるんだ」とか、そんな感じのことを。
今ならうるせーなとぐらいにしか思わないたわごとだけど、誰も自分の言うことを信じてくれないから、少しずつ本当にそうなんじゃないかとか、おっさんの言葉を信じてしまいそうなくらい追い詰められた時、あいつが病院に来たんだ。
これが俺と羽柴の出会いだ。
羽柴は俺に、授業のノートやプリント、クラスの奴らが折ってくれた千羽鶴を持ってきてくれたんだ。
この頃は全然まったく親しくなくて、互いに顔と名前を知ってるくらいだったんだけど、初めの方で言った通り、俺はアホ男子の典型だった。
そんな俺の友達がノートをちゃんと取ってるわけもなく、千羽鶴を汚さず潰さずに持っていけるわけがないと判断されて、出席番号が俺の一つ前である羽柴が担任に持っていけと言われて、持ってきたらしい。
で、親しくないわけだし、俺はまだ面会謝絶ではなかったけどだいぶ精神が参ってて、人を信じられなくなりかけてたから、俺は何も話さないで羽柴だけ「これ、ノートのコピー。これ、なんとかのプリント」とか言って、机に持ってきたもの置いてたよ。
そんな羽柴の淡々とした対応にも、「おい、この面倒臭そうな顔を見ろよ。お前が死んでることを期待したのに、死んでなくてガッカリしてるんだ」って、ハエのおっさんは無茶苦茶な言いがかりをつけて、俺を追い詰めた。
俺はもう無条件に、あぁ、きっとそうなんだ。俺なんか、生きていたらダメなんだ、とか思ってたよ。
そう思ったタイミングで、羽柴は言ったんだ。
「そんなわけない」って。
俺がビックリして顔をあげたら、羽柴はやっぱり面倒臭そうにも見える無表情で、淡々と千羽鶴を飾ってた。
ハエのおっさんもビックリしてたけど、その様子で自分の声が聞こえたわけじゃない、聞き間違いだと思ったのか、ニヤニヤした顔で俺に言ったよ。
「お前は誰にも必要とされていない。誰にも愛されてなんかいない。
みんなお前なんか死ねばいいと思ってる。お前さえいなければ……」
「うるさい」
おっさんの言葉は、羽柴の一言で途中からぶった切られてた。
羽柴は千羽鶴を飾った後、まっすぐに俺の方を見てた。
いや、正確にはおっさんを見てた。
俺にしか見えないはずのハエのおっさんが見えてることは、ハッキリとわかった。
だって、おっさんの飛び回る動きに合わせて、目線が動いていたから。
羽柴がおっさんに目を向けたままおっさんの方に近づいた時、おっさんは目をむいて叫んでたよ。
「お前、俺が見えるのか!?」
パァァァンッ!!
これぐらいの速度で、いい音鳴らして叩き潰したんだよ。
羽柴はおっさんの質問というか叫びに答えず、マジで文字通り叩き潰した。
もう本当にそのまんま、普通のハエを潰すみたいに、両手で叩いて、挟んで、潰してた。
もう唖然とするしかない俺に、羽柴はやっぱりいつもの無表情で、俺に言ったよ。
「もう、大丈夫。静かになったよ」
それだけ言ってもう自分がするべきことは終わったと言わんばかりに、さっさと帰り支度を始めてた。
部屋の出入り口に立って「早く良くなってね」って言われてやっと、俺は羽柴のやらかしたことを理解して、思ったことを訊けたよ。
「お前は大丈夫なのか!? あんなもん潰して!」って言えた。
心配もするだろ! 人間の顔してしゃべるハエだぞ!
普通につぶせるものだとは思わなかったし、潰していいもんだとも思わねーよ!
なのに、それを普通に潰した羽柴のやつは、俺に言われて自分の両手を見つめてから、こう言ったんだ。
「そうだね。さすがにハエを潰すのは気持ち悪いや。
手、洗って帰る」
言って、病室に備え付けてある水道で手を洗って、あいつは帰っていったよ。
羽柴が帰って、一人病室に残されてから、俺は呟くのがやっとだったなぁ……
気にすんのは、そこじゃねぇよ……って。
* * *
『……れんげちゃんは本当に、昔から変わらないわねぇ』
羽柴の霊能力は、知識や特定の神などからの加護ではなくて、とにかく物理でチート。
高橋葉介作品の霊能力者達、夢幻とか九鬼子先生とか、そういう人たちをイメージしてます。
というか、この作品自体が高橋葉介作品を文章化ってイメージで書いてます。
次回は、ちょっと後味悪い系です。




