18:人形の話①
この話の元ネタは、洒落怖スレの「渦.人.形」です。
今日、オカ研の先輩から「渦人形」っていう話を教えてもらったんだけど……、教えてもらって頭を抱えたよ。
その話に出てきた人形そっくりなのというか、たぶん同じ人形にその話と同じような目にあったことがあるんだよ、俺。
同じ種類の人形だとは思うけど、同じ人形ではないわ。
少なくとも先輩が話してた話が事実なら、その話の人形も俺が見た人形も壊して解決してるから。
うん、もちろんぶっ壊したのは羽柴です。
気持ちよく粉砕してました。
その人形に関わったの修学旅行中でさー、嫌な意味で忘れられない思い出になったわ。
修学旅行で泊まった旅館の近くにお土産屋がいっぱいあってさ、自由時間はそこでお土産を買いに行っても良かったから友達と買いに行ってたんだ。
で、旅館から3軒先くらいの土産屋を見てから次行こうと店を出た時、俺、肌にピリッと嫌な感じがしたんだ。
あ、ヤバイのがいるって思って、そのヤバそうなのに気づかれないように、目とかが合わないように俺は周りは見ずに、友達とひたすら喋ってそこから離れようとするんだけど、友達の一人がいきなり悲鳴を上げたんだよ。
こいつと波長が合って見えたか!? と思って焦ったけど、友達は土産屋の向かいの家の窓に人がいると思って、びっくりして声が出ただけだった。
そんで、友達が見たのは空き家の二階の窓辺に置かれた日本人形だったというオチ……なら良かったよ。
この時点ではそうとしか思ってなかったけど、それがたぶん「渦人形」と同種の人形。
俺は人形があのヤバイ空気の正体だとは気づいてなかったけど、その家からヤバイ感じがしてたから、もうこの時点で友達に帰ろうって言って旅館に帰ったよ。
霊感に目覚めて霊ホイホイになった俺に、昔と変わらない付き合いをしてくれるあいつらはマジでいい奴ら。
俺の様子に全部を察して、そのまま一緒に帰ってくれたよ。
ついでに羽柴を探してくれて、何かに取り憑かれてないかを確認してくれと頼んでくれた。
これはたぶん、自分らも怖かったからだろうけど。
羽柴が言うにはあの空き家はヤバイけど、今のところ向こうはこっちに気づいてないから、あそこに近づかず関わらなければ問題ないって言われて、ホッとしたな。
友達もそうだったから、就寝時間が近くなって部屋で雑談してた時のネタにしてたくらい、もうその頃には恐怖も危機感も無くなってた。
……同室のアホ3人が、その空き家に忍び込んでみようとか言い出すまではな。
俺らの部屋は大部屋で10人は寝れる部屋だから、班も幾つか合同で10人一緒にさせられてたんだ。
だから、全然仲が良くないそいつらとも同じ部屋で、そいつらは俺らをビビりとか言って笑って囃し立てて、ビビりじゃねーならそこに行ってみろよとか言い出してた。
まぁ、そんな挑発に乗って痛い目を見て羽柴に迷惑かけたのはもう数えきれなかったから、さすがに俺のスルースキルは上がってて、キレる友達をなだめながらそいつらの言うことは無視してたんだ。
でも友達が、「ビビってるのはお前らだろ! お前らこそ行って来いよ!!」とか言い出したんだよ。
売り言葉に買い言葉で、アホ達は「いいぞ、行ってやるよ! 俺らはビビってないからな!!」とか啖呵切ったあたりで、先生らに早く寝ろって怒鳴られて、電気消されたんだ。
だから、勢いで言っただけだろう、朝には忘れてるだろうと思って、俺はそのまま寝た。友達も同じように寝た。
でも、あのアホはマジでアホのくせに行動力だけはあった。
夜中にバタバタと足音が廊下からして、俺は目が覚めたんだ。
でまだ半分夢の中な状態で、廊下の先生達の話を聞いたよ。
あのアホ達が脱走した。手分けして探そうって話を聞いた瞬間、頭の中も目が覚めたわ。
そんで、まさかの一番危ない時間帯に脱走しやがった! ってキレながら、俺は先生達が廊下から去っていくのを待って、俺も脱走してあの空き家に行ったんだ。
……言うなよ。俺の方がアホでバカだって言うなよ。
わかってるよ! 羽柴ならともかく、ホイホイの俺が行っても、事態が悪化するだけだって!
羽柴に連絡しなかったのは、片思い男子の無駄な意地ですよーだ!!
つーか、パニクってたのもあるな。たぶん。
自分でもなんで俺だけ単独で行ったのかはよくわかんねーけど、とにかく俺はあの空き家に向かったよ。
先生達は夜だったから良く見えなかったのと、空き家なんて面白みのないもんに忍び込むわけないと思ったのか、無理やりこじ開けられてる入り口をスルーしてて、まだ開いてる居酒屋とか海の方を探して回ってたから、良いのか悪いのかよくわからんが俺もすんなり入れたんだ。
入った瞬間、全身が寒くなるし肌はピリピリとずっと痛むし、これは霊感ある無し関係なくヤバイ場所だってわかった。
よっぽど鈍感じゃない限り入ってすぐ回れ右したくなるほどだから、あいつらはやっぱりここに来てないんじゃないか? 入り口だけで逃げたんじゃないか? とか思ったけど、家の二階から声がしてきて、俺が逃げる言い訳は否定されたよ。
二階から、笑い声が聞こえたんだ。
俺をビビりとバカにしてた奴らのリーダー格の爆笑と、「ホホホ、ホホホ」っていう、子供が女くらいの、高いけど無機質な笑い声が。
なんかもうさ、この時の俺は完全にヤケクソになって、アホども何やってんだボケー!! さっさと逃げろバカー!! とか叫びながら階段を駆け上がったわ。
で、俺の声が聞こえてたからかアホ2人はぐっちゃぐちゃに泣きながら、階段の方に来て俺を盾にして後ろに隠れやがった。
リーダーはどうしたんだよ!? って俺が訊いても、あいつらは人形が、人形がとかしか言わなくて、とりあえずこいつらだけでも外に連れ出そうとしたら、リーダーの方も奥の部屋、たぶん外から見て人形があった部屋から転がり出てきたんだ。
笑いながら、涙と鼻水とよだれを垂れ流してどう見ても恐怖に歪んだ顔で、それでもゲラゲラ笑いながら出てきたよ。
それを見て、2人は絶叫をあげて逃げていったな。人望ねーな、あいつ。
俺も逃げ出したかったけど、ゲラゲラと笑う合間にめちゃくちゃ苦しそうにあいつは「助けて」って言うからさ、見捨てたら目覚め悪いじゃん。
でも、俺の霊感がこれ以上近付くなって全力で訴えてたから、階段の所で、早く来い! 待っててやるから、ここまで来たら担いででも連れて行ってやるから、ここまで来い! って、手を伸ばすのが精一杯だった。
笑いながらそいつはふらふらとだけど俺の方まで来て、あと1メートルって所らへんで俺は見ちゃった。
そいつが出てきた部屋から、おかっぱ頭の白い顔が覗き込んでることに。
あれが元凶だ。あれからとにかく離れなくっちゃと思って、俺はもう待たずに一歩前に出て、アホの腕を掴んだよ。
その一歩分の距離が、あの人形の射程距離みたいなもんの範囲外だったんだろうな。
俺が一歩踏み出した瞬間、人形は俺が入り口で聞いた「ホホホ、ホホホ、ホホホ」って笑い声をあげて、俺に向かってきたんだよ。
走ってでも、飛んででもない、頭だけが俺の方に来た。
あの人形は、ろくろっ首みたいに、首を伸ばして俺の方に笑いながら襲いかかってきたんだ。
やたらと超スピードで首を伸ばして来て、俺はとっさにアホを後ろにやることしかできなくて、俺はあと一歩の範囲外に逃げることができなかった。
どうなるのか、何が起こるのか、俺もあいつみたいに笑いが止まらなくなるのか、それだけで済むのかとか、いろんな不安が浮かんでは消えたけど、俺の不安はどれも無意味だった。
あのアホを後ろにやった一瞬後くらいに、ヒュンって俺の耳の横を何かに通り過ぎたんだ。
その通り過ぎた何かは、人形の顔にクリーンヒット。
カツンって硬い、いい音がしてた。
自分に何かにがぶつかって、人形は勢いを殺されたのか一瞬、首を伸ばすのをやめて止まったよ。
その隙を、修学旅行でも消臭剤のボトルを手放さないあいつが見逃す訳はねーよな。
階段を下からボトルを投げて、見事命中させただけでも神業なのに、羽柴は階段を駆け上がってそのまま弾丸のような勢いで飛び出して、一閃!
日本人形のような美少女が、おかっぱの日本人形の頭を縦に真っ二つに叩き割った。
ステンレス製の、30センチ定規で。
何でだ。
羽柴曰く、薄くて軽くて丈夫でリーチもそれなりにある、何よりバットや木刀と違って隠して持ち歩ける、武器として最適らしいけど、俺が聞きたいのはなんで武器に定規を選んだかじゃねぇよ。
つーか、定規をあんな名刀みたいに勇ましく扱う女どころか人類、初めて見たわ。
初めてにして唯一だろうけど。
勢いよく飛び出した羽柴が人形をいきなりぶっ壊して、その時の俺とアホは状況が理解できずにフリーズしてたわ。
そういや、アホの笑いがもうこの時には止まってたな。
……止まった理由は、人形が壊れたからか羽柴のインパクトが人形の呪い以上だったのか。
頼むから前者であってほしい。
んで、羽柴は人形を壊した後、投げたボトルを拾って俺たちの方に歩いて来て、まずはアホの頭をボトルで殴って説教開始。
説教というか、いつもの無表情にいつもより低い声で、「バカならせめて人に迷惑かけないように死んで。次、ソーキさんを巻き込んだり、バカにしたら、地獄に落とす」だから、どちらかというと要望と宣言だな。
その宣言が終わると今度は俺に向き直って、ちょっとだけ怒ったように唇を尖らせて言ってきたんだ。
「ソーキさん。連絡するなら私が行くまで待って。一人で勝手に行っちゃダメ」
羽柴の言葉に俺は何のこと? って首を傾げたら、羽柴も首を傾げてスマホに「空き家にアホが行ったから俺も行く」ってメールが来たから、自分も慌てて来たらしい。
羽柴の答えに俺はさらに首を傾げたよ。
羽柴にメールする余裕なんて、あの時のパニクった俺にはなかったからな。
まぁ、それを深く気にする余裕もなくなったよ。
頭割られて終わりと思っていた人形がまた「ホホホ」って笑い声を上げて、痙攣するように動いたからな。
アホは俺の腕にしがみついて悲鳴をあげて俺もビビったんだけど、羽柴は持ってたボトルを投げつけて「うるさい」と一蹴。
そのまま、あいつは人形の伸びた首を踏んでぼきぼき折りながら、奥の部屋に入って行ったよ。
羽柴さん、それ、踏み折っていいものなの?
なんかお経か呪文みたいなものが、びっしりと書いてあるんですけど?
そんな心のツッコミが届くわけもなく、部屋の奥からはバキボキメキと何かを粉砕しまくる音の合間に、羽柴の「ソーキさん、先にそのバカ連れて帰ってー」という声が聞こえて、その言葉に従って帰ることにした。
アホに「あいつは置いていっていいのか?」って訊かれたけど、逆に「今さら心配出来るか?」と訊き返したら激しく首を横に振ってたなぁ。
その後、俺はアホ3人組と一緒に正座で先生に説教されてたら、羽柴が原型を留めないほどに破壊し尽くした人形の胴体と頭を持って帰ってきた。
あれはまた別の意味で修羅場だった。
……何で持って帰ってきたんだよ。未だに謎だ。
* * *
『もはや人形に同情するのは、私だけ?』
この元ネタのタイトルを、「禍人形」と読んだ人、恥ずかしくないから手をあげましょう。
私もです。素で「渦」ではなく、「禍」と間違えて検索しました。
次回は、よくある怪談をホラークラッシュします。




